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灯璃

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後日談 一緒に住もうよ 中編

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「……ええと、その、職場のおばちゃ、同僚に、言われた事が、引っかかっちゃって」
「何言われたの?! いじめ? 大丈夫だった、慧くん。君の上司に今すぐ連絡入れるから待ってて」
「ちっ、違うんです!」

 バッと椅子を立ち上がった龍士郎を、必死に止める慧。

「何が違うの? 何か酷いこと言われて、思い悩んだから、遅れたんだろう。せっかくの慧くんとの時間を邪魔したなんて、極刑に値するでしょ」
「極刑って……ふふっ。龍士郎さまって、そういう冗談言うんですね」

 ふっと噴きだした慧に、思わず龍士郎は止まった。その笑った顔が、あまりにも魅力的で。今すぐキスしたい衝動に襲われたが、我慢する。今は、それどころではなかった。

「あの、本当に、違うんです、龍士郎さま。その……カラーは、いつ送られるのかって、はやし立てられちゃって。おれつい考えこんじゃって、遅れてしまいました。本当に、申し訳ありませんっ」

 真っ赤になりながらも、申し訳なさそうに俯く慧を、龍士郎はまじまじと見てしまった。
 これは、つまり?

「慧くん、その……オレから、カラー貰ってない事を、気にしてたって事?」

 ポロリと言葉をこぼすと、慧は、もっと申し訳なさそうに頭を下げた。顔が、見えない。

「す、すみません。私なんかが」
「慧くん。ストップ」

 ピタッと、慧の口から音が止まった。はぁ~、と龍士郎が溜息を吐くと、慧の肩がビクッと揺れた。謝りたいのに、言うのを止められてしまった慧は、顔を上げる事すらできないようだった。

「慧くん、顔を上げて。オレを見て」

 慧は、恐る恐る顔を上げ、龍士郎を見た。少しだけ、目線より下を見る。

「慧くん。こっちに来て」

 ゆっくり立ち上がり、慧は龍士郎の言葉通り、龍士郎の横に来た。プレイや躾であれば、ここから床に座らせるのだが、今日は、違う。まだ、そこまでではない、と、思っていたのだが。
 龍士郎は横に来た慧に向き直り、その両手を取った。ビクッとするが、拒絶はしない。暖かい、ちゃんと仕事をして固くて荒れた手。

「慧くん。本当にオレで良いの? 今ならまだ、解消できるけど」

 わざと意地悪を言うと、今までずっと俯いていた慧が、パッと龍士郎の顔を見た。その顔は、焦りや悲しみ。

「おれ、は、あなたが……でも、ご迷惑なら……」

 そしてまた俯いた。いつまでも、自分を卑下して、肯定する事がない。自分の事も、分不相応だと思っている節がずっとある。
 つまり、それは、完全には龍士郎を信頼していない、と、いう事。
 龍士郎の中で、ふっと何かが、変わった。
 恐れていたのは、自分もなのだ。
 このsubに慣れていないsubを、本当にこれからsubとして幸せにできるのか、守ってあげられるのか。自分に自信が無かったのだ。似た者同士だったわけだ。
 龍士郎は、ぐっと慧と繋いだ手を強く握った。

「慧くん」

 慧は、顔を上げない。

「慧くん、オレは、君が好きだよ。ちゃんと、subとして好きだ。それは、信じて欲しい。君は、オレの為にsubになってくれたんだろ。でも、君のその覚悟に釣り合えるか、オレ自身が、自信が無かったんだ。オレは、卑怯な臆病者だった。でも、それも、今日で終わりにする。――慧、オレを、見ろ」

 それは、慧に対してはじめておこなう、強いコマンド。命令形の言葉に、慧はパッと龍士郎を見た。嫌がったり、怖がったりしていないようだ。これなら。
 龍士郎は慧の目を見つめながら、ゆっくり言葉を発する。

「慧くん、オレからのカラー、受け取って」
「っ、お、おれで、良い、んですか」

 慧が再び否定の言葉を発せないように、強い意思で慧を見る龍士郎。その意図を、慧も感じ取ったようだった。感極まったように瞳を潤ませて、やがて、こくんと頷いた。ずっと、鼻をすする音。

「は、はい」

 そして、肯定の言葉。
 龍士郎はにっと笑った。その雰囲気が和らいだことに気づいたのだろう、慧はまだグズグズ鼻を鳴らしながら、伺うように龍士郎を見た。

「良かった。じゃあ、慧くん、ここに座って」

 龍士郎の言葉の意味を、慧はもう理解している。素直に、龍士郎の膝の上に対面になるように座った。体重をなるべくかけないように気を遣う慧の身体をぐいっと引き寄せ、背を撫で、頭を撫でる。

「よしよし。慧くんは、これからオレに愛されてる事を、ちゃんとわかっていかないといけないね。手始めに、お揃いのカラー作りに行こうか。慧くんはどんなのが良い? 首輪とか、指輪とか、ネックレスとか色々あるよ」

 まだグズグズ音がするが、体重を預けてきた慧は、龍士郎の肩に顔を埋めていた。

「……指輪、が、良いです」
「そっか。じゃあ、とびっきり高い指輪作りに行こっか。そうしたら、オレの想いも少しは伝わるよね」
「へっ」
「慧くんが、重くて重くてしんどいって思うくらいのやつ、作ろうね」

 龍士郎が満面の笑みを浮かべているのを、慧は困惑しながら見ていた。二、三度、困惑のまま口を開こうとしたが、言葉にはならなかったようだ。バッと龍士郎に抱き着いてきた。

「な、名前入り、の、やつ」
「お、名前入れる? もちろん。なんだか、婚約指輪みたいだね」
「っ~~」

 よしよしと頭を撫でると、耳の先まで真っ赤になっているのが見えた。可愛いなあと、龍士郎の胸が満ちた。
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