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11.胸を焦がす病
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「オレが、アレスを捨てるゥ?! なんだよそれ」
オレもつい大声を出してしまった。アレスは、今度はむくれたように唇をとんがらせた。
「だって、そうだろ。オレ、メルに捨てられないように、愛想つかされないように頑張って、勇者にだってなったのに! メルは、オレがどれだけ強くなったら満足なんだよ!」
今日は、オレの人生における驚きランキング一位が目まぐるしく変わる日らしい。オレの心臓は、大丈夫だろうか。ドキドキ、ドキドキ、動悸が痛い程だ。
というか、アレスがそんな事を考えていたなんて、全くもって気づかなかった。
オレだけが、アレスにお荷物だ役立たずだって、捨てられないだろうかと、怯えていたのだと思っていた。
「ア、レス、それって、どういう……」
「メルが言ったんだぞ! 覚えてないのか? 勇者の話題が出た時に、勇者なんて本当に凄い、もし本当になれる奴が居たら、一生憧れるって! だから他の奴がなる前に、オレがなったのに!」
顔が、真っ赤になった筈の頬や額が、さらに赤く熱くなっていくのを、感じていた。唇が緩みそうになるのを、ぐっと堪える。
ほんの、世間話だと思っていた。軽い言葉だった。
それなのに、この、世界で一番強くなる奴が、体格も顔も良い高ランクまでやすやすと昇っていった才能の塊のような男が、オレなんかの言葉をそこまで強く覚えていたなんて、誰が思うよ。
嘘だろ、と音にするより先に、アレスが、叫んだ。
「メルがもう、勇者になんの魅力も感じないというなら、勇者なんて辞めてやる! これでまた一緒に居られるんだろ!」
さっきも思ったのだが、
「勇者をそんな簡単に辞められるわけないだろ!」
こいつには、勇者という称号が背負う重みが、わからないのだろうか。……もしかして、マジでわからないのか?本当に、オレの関心を引く為に勇者にまでなったというのか?
「でもっ、勇者辞めないと、メルは一緒に居てくれないんだろっ。そういう事だよな? それともなにかもっと別の……ああ、あの三人を押し付けられたのが気になるのか。それなら、三人まとめてけ」
「おいおいおい、何言ってんだよっ」
急に物騒な事を言いだすアレスに、思わず突っ込んだ。仄かな友情を感じていた三人の危機は、救えただろうか。
「じゃあ、どうしたら良いんだよっ。どうしたら、メルはオレの側に居てくれるんだ? どうやったら、お前を繋ぎ止めておけるんだよ。金? 地位? 名誉? メルが欲しい物なら、なんでもあげる。オレがお前にあげられるもの、全部あげる。だから……オレを捨てないでよ、メル」
おそるおそるという風に、改めて抱きしめられた。今度はオレも、抵抗と言う抵抗が、できなかった。
アレスの声が、肩が、震えていたから。
オレの肺や唇も、震えはじめていた。
……何故かは、わからないけれど、ここまでオレを大事に、オレを必要としてくれるのは、アレスしかいない。
これは前も思った事だが、オレの勘違いやうぬぼれでは、無いようだ。
それが今確信となり、歓喜となり、オレの心に降り注いでいた。
この気持ちが、お前の迷惑にならないと、思って良いのか。お前に、打ち明けても、本当に良いのか。
「アレス……」
ほぼ無意識に、オレの目の前にあるアレスの腕を、両手でそっと抱き締めた。
ぎゅっと目を閉じて、オレは俯いた。
「オレ、お前のこと、好きだよ。だから、何もいらない。お前が居てくれたら、オレもそれで良かった。……だけど、お前はどんどん強くなるし、まわりの期待も大きくなって、オレは、お前についていけなくなった。お前に、役立たずだって思われたくなくて、一生懸命頑張ったけど、やっぱり駄目で。凡人のオレじゃ、お前のお荷物にしかならなかった」
「メルっ」
口を挟もうとするアレスを制し、声が震えるを必死にこらえ、腹に力を込めて続けた。そうじゃないと、まともに言葉なんて、出てきそうになかった。
「だから、オレのせいで、オレの大事な奴が死んじゃったらどうしようって、ずっと、ずっと怖かったんだ。お前の側にいて、辛いことも怖い事もいっぱいあったけど、それが、一番怖かった。だから、お前から離れた。嫌いになったわけじゃない。ましてや、捨てたわけでもない。お前が何より大事だから、なにより愛おしいから、だから、オレはお前と、一緒に居られないんだよ」
わかってくれるよな、アレス。
一言一言、優しく諭すように、かみ砕くように、アレスに伝えて行く。
オレも、お前が一番大事だって事、伝わっただろうか。
お前が大好きだから、身を引きたいんだって、オレはどうなっても良いから、大事なお前さえ生きていてくれればいいんだって、伝わっただろうか。
言いたい事を言いきって、少し落ち着いた。
ふと息を吐き――アレスから反応が無い事に気づいた。
まさか、嫌われてしまったのだろうか。
怖くなっておそるおそる目を開いたら、そこには。
「あ……うぇ……えっ」
見た事もないくらい、顔を、真っ赤にしたアレスが、いた。
オレもつい大声を出してしまった。アレスは、今度はむくれたように唇をとんがらせた。
「だって、そうだろ。オレ、メルに捨てられないように、愛想つかされないように頑張って、勇者にだってなったのに! メルは、オレがどれだけ強くなったら満足なんだよ!」
今日は、オレの人生における驚きランキング一位が目まぐるしく変わる日らしい。オレの心臓は、大丈夫だろうか。ドキドキ、ドキドキ、動悸が痛い程だ。
というか、アレスがそんな事を考えていたなんて、全くもって気づかなかった。
オレだけが、アレスにお荷物だ役立たずだって、捨てられないだろうかと、怯えていたのだと思っていた。
「ア、レス、それって、どういう……」
「メルが言ったんだぞ! 覚えてないのか? 勇者の話題が出た時に、勇者なんて本当に凄い、もし本当になれる奴が居たら、一生憧れるって! だから他の奴がなる前に、オレがなったのに!」
顔が、真っ赤になった筈の頬や額が、さらに赤く熱くなっていくのを、感じていた。唇が緩みそうになるのを、ぐっと堪える。
ほんの、世間話だと思っていた。軽い言葉だった。
それなのに、この、世界で一番強くなる奴が、体格も顔も良い高ランクまでやすやすと昇っていった才能の塊のような男が、オレなんかの言葉をそこまで強く覚えていたなんて、誰が思うよ。
嘘だろ、と音にするより先に、アレスが、叫んだ。
「メルがもう、勇者になんの魅力も感じないというなら、勇者なんて辞めてやる! これでまた一緒に居られるんだろ!」
さっきも思ったのだが、
「勇者をそんな簡単に辞められるわけないだろ!」
こいつには、勇者という称号が背負う重みが、わからないのだろうか。……もしかして、マジでわからないのか?本当に、オレの関心を引く為に勇者にまでなったというのか?
「でもっ、勇者辞めないと、メルは一緒に居てくれないんだろっ。そういう事だよな? それともなにかもっと別の……ああ、あの三人を押し付けられたのが気になるのか。それなら、三人まとめてけ」
「おいおいおい、何言ってんだよっ」
急に物騒な事を言いだすアレスに、思わず突っ込んだ。仄かな友情を感じていた三人の危機は、救えただろうか。
「じゃあ、どうしたら良いんだよっ。どうしたら、メルはオレの側に居てくれるんだ? どうやったら、お前を繋ぎ止めておけるんだよ。金? 地位? 名誉? メルが欲しい物なら、なんでもあげる。オレがお前にあげられるもの、全部あげる。だから……オレを捨てないでよ、メル」
おそるおそるという風に、改めて抱きしめられた。今度はオレも、抵抗と言う抵抗が、できなかった。
アレスの声が、肩が、震えていたから。
オレの肺や唇も、震えはじめていた。
……何故かは、わからないけれど、ここまでオレを大事に、オレを必要としてくれるのは、アレスしかいない。
これは前も思った事だが、オレの勘違いやうぬぼれでは、無いようだ。
それが今確信となり、歓喜となり、オレの心に降り注いでいた。
この気持ちが、お前の迷惑にならないと、思って良いのか。お前に、打ち明けても、本当に良いのか。
「アレス……」
ほぼ無意識に、オレの目の前にあるアレスの腕を、両手でそっと抱き締めた。
ぎゅっと目を閉じて、オレは俯いた。
「オレ、お前のこと、好きだよ。だから、何もいらない。お前が居てくれたら、オレもそれで良かった。……だけど、お前はどんどん強くなるし、まわりの期待も大きくなって、オレは、お前についていけなくなった。お前に、役立たずだって思われたくなくて、一生懸命頑張ったけど、やっぱり駄目で。凡人のオレじゃ、お前のお荷物にしかならなかった」
「メルっ」
口を挟もうとするアレスを制し、声が震えるを必死にこらえ、腹に力を込めて続けた。そうじゃないと、まともに言葉なんて、出てきそうになかった。
「だから、オレのせいで、オレの大事な奴が死んじゃったらどうしようって、ずっと、ずっと怖かったんだ。お前の側にいて、辛いことも怖い事もいっぱいあったけど、それが、一番怖かった。だから、お前から離れた。嫌いになったわけじゃない。ましてや、捨てたわけでもない。お前が何より大事だから、なにより愛おしいから、だから、オレはお前と、一緒に居られないんだよ」
わかってくれるよな、アレス。
一言一言、優しく諭すように、かみ砕くように、アレスに伝えて行く。
オレも、お前が一番大事だって事、伝わっただろうか。
お前が大好きだから、身を引きたいんだって、オレはどうなっても良いから、大事なお前さえ生きていてくれればいいんだって、伝わっただろうか。
言いたい事を言いきって、少し落ち着いた。
ふと息を吐き――アレスから反応が無い事に気づいた。
まさか、嫌われてしまったのだろうか。
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「あ……うぇ……えっ」
見た事もないくらい、顔を、真っ赤にしたアレスが、いた。
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