弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃

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始話・平凡なパーティー結成談 前編

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 彼をはじめて見た時、神はなんて不公平なんだろう、と思った。

 ざんばらに切られているが、それでも美しさを損なわない、金に煌めく髪。不満げに細められているが、それでも透き通る美しさを隠しとおせない、空色の瞳。それになにより、薄汚れていたが全く損なわれない整った顔立ち。
 いわゆる、絶世の美少年。
 美しさを司る神が、自分を模して人間界に降ろした人物だと言われても、誰も否定できないだろう彼が、自分の探し人であるなんて、夢であって欲しかった。

「……。なに。あんた、オレに何の用?」

 不機嫌そうな声は、若干高い。
 それで、自分よりも年下だというのは確信できた。
 が、その美貌に有体に言えばビビッてしまい、言葉がうまくでてこない。

「あ、あの、お、おれ、リウ、と言います。えっと、君が、トルシア、さん? ですか」

 自分と同じくらいの身長の、自分より年下の彼に、どうやって接したらいいのかわからないし、ここは冒険者ギルドの依頼看板の前、という世間話をするのに向いていない場所だ。

 受付嬢に尋ね人を聞いたら、後ろ姿の彼を指さされて、何も考えずに声をかけてしまったのが、裏目に出てしまった。

 彼は、ああ?と、その天使のような貌からは想像もつかないような、ガラの悪い返答を返してきた。

「だから、用件を言えっていってんだろ。オレ忙しいんだけど。なに、アンタもオレを買いたいってやつ? 自分の顔見て言ったら」

 はん、と鼻で笑われ、言われのない嘲笑を受け、流石のオレもカチンときた。

「ち、違うっ。ハシ村の事で、お礼が言いたくて来たんだ」

 ムッとして言い返すと、彼はハッとした顔をした後、マジマジと不思議そうにオレを見た。
 はじめて目が合って、ちょっと、いやコレは仕方ないと思うんだけど、ドキッとした。それぐらい、彼は美しいのだ。

「あんた、ハシ村の事、知ってんの?」

 そして、次の言葉は若干の興味と、少しだけ嬉しそうな含みがあった。

「あ、えっと、うん。オレ、そこの出身で……」
「マジで? ほんとに? 全滅したって聞いたから、諦めてたのに。あんた、何て名前? ちょっと、あっちで話聞かせてよ」
「え? え、ちょ、ちょっと、ええぇ」

 オレが頷くと、途端に嬉しそうな顔になり、びっくりするほど口数が多くなって、半ば強引にギルドに併設されている酒場兼食堂のテーブルに引っ張られた。






 まわりがザワザワとしているが、これはオレ達がどうこうというより、ここがいつも騒がしいからだった。
 冒険者なんて、結局ならず者や社会に馴染めなかった者、一攫千金を狙っている奴など、とうてい普通や真面目とはいいがたい人種ばかりだから、こういった冒険者が集まる場所は、いつもうるさかった。

 とりあえず、酒が飲めないので軽食を二人分頼み、椅子に向い合せに座る。



 よくよく見なくても美しい顔立ちだが、その顔は痩せており、苦労が見て取れた。
 オレも、苦労はしている。
 病気の母さんの為に、薬代を稼がなければいけない。だけど、俺のような低ランクの冒険者には金になる仕事はなかなか回ってこず、なんとかやりくりしている日々だった。
 だけど、彼はおそらくオレ以上に苦労しているようだった。

「あの、とりあえず、これだけ言わせてくれ。ハシ村の事、有難う。君が、あそこの魔物を駆逐してくれたって聞いた」

 食事が来る前だったが、ペコリと居ずまいを正して頭を下げる。
 目の前の彼が、そこまで強いのかわからないが、噂ではそうだった。



 この間、依頼の清算に来た時に、新しく登録した冒険者の中に、年若く見た事も無いくらいカッコいい男の子がいる、と受付嬢たちがキャッキャと話していた。
 そして、その子が2回目に来た時に、大量に魔物の素材を換金していったのだと。
 これはどこで狩ったのか聞くと、ハシ村跡という聞いた事もないダンジョンの名前で、思わず場所を調べたがすごく山奥だった、やはりイケメンは能力も高いこれからもぜひウチに来て欲しい、と。
 あれは完全にみんな惚れた目だった。

 だから、彼女達の噂が本当か、何人かその魔物の素材を換金した時に居たであろう人に話を聞いて、ようやく確信をもって、話しかけた、というわけだった。



 反応が無く、何かあったのかと頭を上げると、凄く、なんというか表現しにくい微妙な顔をしていた。
 その形の良い眉を顰め、口は何か言いたげに開かれている。
 自分がしたら間抜け意外の何物でもない表情を、この美少年がするとそれでも絵画のようにしてしまうらしい。ただ、何の感情かは全くわからなかった。

 そうして二人して固まっている内に、軽食がきたので、なんとなく食べ始めた。



 しばらく、無言でお互い食事をする。
 オレも、ちゃんとした食事のマナーなんて母さんに教わった事以外知らないけど、それでも彼の食べ方は酷かった。
 ナイフもフォークもいらないようで、手づかみで食べている。
 ……オレは、この食べ方を知っている。
 貧民層や奴隷層の、子供の食べ方だ。
 親や周りの大人が教えてくれない、もしくは大人も知らない環境にいると、子供の食べ方もそうなる。
 そして、彼らはそれで困らないのだ。困るのは、食べるもの自体が無い事なので、マナーや人前でどう食べるか、どう見られるかまで、気が回らない。そんな、食べ方。

 オレは、それに気づいて途端に胸がグッと詰まってしまった。

 オレは、記憶がある。
 ハシ村で、父さんと母さんと普通に暮らしていた、記憶が。
 そして今も、母さんが病気ではあるが一緒に居てくれる。
 でも、彼は、村が大量の魔物に襲われた時、小さかったのだ。そして多分、その後そのまま孤児になって……。

 悲しい想像が出来てしまい、オレは、ついお節介を焼いてしまった。

「えっと、トルシア君、だよね。これフォーク、これで食べた方が熱くないよ。こうやって使うと、便利だし」

 オレの言葉に、最初はきょとんと首を傾げていたが、素直に目の前にあった、使われていないフォークを手に取り、オレと同じように持って、プルプル震える手先で、芋の揚げたものを差した。
 そして、口にたどたどしく運ぶ。
 口に入れると熱かったようだが、美味しそうに咀嚼しはじめた。

 オレはなんだか、弟でもできたような気持ちになって、それから少しだけ、ナイフとフォークの練習につきあった。

 彼は頭も良いらしく、オレが言った事はどんどんできるようになって、食事が終わる頃には、まだぎこちないが幼児くらいには使えるようになっていた。
 凄いな。
 純粋に、驚いた。

「どう? 熱くないし、便利じゃない? 手も汚れないし」

 食べ終わり、最初の手づかみの時に大量に口の周りについた食べカスを、何気なくハンカチで拭ってやると、拒否もせず素直に受け入れ、ニコッと笑った。
 か、かわいいっ。
 弟のようだと思うと、より可愛らしみえてしまい、一瞬目を閉じてしまった。眩しい。

「ああ、みんなが、なんでコレ使ってるのか、ようやくわかった。ありがとな、えっと、名前なんだっけ?」

 完全に警戒を解いてくれたようだ。野良猫を餌付けしたような感じになってしまった。
 苦笑してしまったが、改めて自己紹介をする。

「オレは、メルク・リウ。この町で冒険者をしてる。低ランクだけど」

 手を差し出すと、今度は素直に握ってくれた。
 こんなに素直だと、逆に心配だ。まあ、だから最初会った時あんなにツンケンしていたのかもしれない。

「オレは、アレス。アレス・トルシア。ついこの間、冒険者になったばっかりだ。ってことは、あんたの方が先輩なんだな。よろしくな、先輩」

 先輩。その聞きなれない、だけどどこかソワソワしてしまう呼び方に、照れる。

「いや、先輩って程、経験があるわけじゃないよ。だから、オレの事はメルクって呼んでくれ。オレも、アレスって呼んでいいか?」
「ああ、もちろんだ。それで、メルクは……言いにくいな。メルって呼んでいい?」

 いきなり距離を詰められたような気がするが、アレスはキョトンとしている。
 オレの愛称は、母さんしか今はもう呼ぶ人がいない。
 同郷のよしみだ、弟みたいな感じだし、良いか。
 いつもは承諾しないのだが、この、天使のような彼には、つい承諾してしまった。

「ああ、いいよ」

 苦笑しながら頷くと、嬉しそうにパッと笑顔になった。
 うぅ、耐性が、耐性が足りない。
 自分の平凡な顔を見慣れていると、この美に対する耐性が足りなさすぎる。目を閉じてしまう。

「ありがと。どうしたの、メル」
「い、いや、あんまり名前呼ばれる事ないから、ちょっと照れちゃって」
「ふぅん? メルも、家族、いないのか?」

 ふっと聞かれたその言葉に、申し訳ない気持ちになる。

「いや……母さんがいるよ。何とか、二人だけ逃げられたんだ」
「そうだったんだ。大変だったな」
「アレスこそ!」

 おそらく、オレのただの妄想だが、アレスは近しい家族を亡くしている。
 大変だったのは、アレスだろうに。
 でも、そういうの聞かれるの、嫌だよな。
 オレは、気を利かせて話題を変える事にした。

「アレスは、村の事どんな事覚えてる? オレは、あの村はずれの滝が好きだったんだ」
「滝……? ああ、なんとなく覚えてる。確か、細長い魚が獲れるんだよな、銀色だったかよく覚えてないけど」
「そうそう。魚獲ったりもしてたなあ。暑い日は涼しくて、水に入って遊んだりしてさ」
「滝といえば、あれもあったよな。石をぴょんぴょんって飛んで、川渡るやつ」
「あったあった。でも、あれはもうちょっと大きくなってからって父さんに怒られて……結局、やらずじまいだったな」

 ふと、もうあまり思い出せなくなっていた、父さんとの会話を思い出した。遠い思い出だ。ぼんやりとしか覚えてなかったけど、ちょっと涙ぐんでしまった。

「大丈夫? メル」

 アレスが心配そうにオレを覗き込む。
 アレスの方が辛いだろうに。やっぱり、あの時小っちゃかったから、そこまで思い出というのが、薄いのかな。

「うん、大丈夫。ごめん」
「良かった」

 ニッコリ笑うと、やっぱり年相応に幼く見える。

 オレは、この同郷の、弟のような存在を守らねばと、密かに胸に誓ったのだった。
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