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迎えに来た影
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人を乗せて夜の都内を走るようになって、
もう何年経つのか覚えていない。
怖い思いもした。
忘れられない客もいた。
それでも俺は、タクシーを降りるつもりはなかった。
……あの夜までは。
その日も、いつものように深夜の幹線道路を流していた。
無線も鳴らず、街は静かだった。
信号待ちでふとルームミラーを見ると、
誰も乗せていないはずの後部座席に、
黒い影が座っていた。
心臓が一瞬止まったような感覚。
ミラー越しに目を凝らすと、そいつはただじっとこちらを見ていた。
口が動く。
「……おつかれさま……」
低い声が、車内に響く。
ハンドルを握る手が震えた。
「……もう、いいでしょう……」
誰かが耳元で囁いた。
次の瞬間、赤信号が青に変わった。
アクセルを踏むつもりが、足が動かない。
黒い影が、ゆっくりと前の席ににじんでくる。
「――迎えに来ました。」
後部座席のドアが、内側から開く音がした。
遠くでクラクションが鳴った。
街灯が滲んで、目の前が真っ白になった。
それから先の記憶はない。
気がついたとき、俺は営業所の休憩室で寝ていた。
同僚が言うには、車は無人で路肩に停まっていたらしい。
シートの上には、誰も触ったことのない
黒い手形が、後部座席から助手席までつながっていた。
――タクシーの客は尽きない。
生きていても、死んでいても。
そして、いつかは俺自身も、
誰かを迎えに行くのかもしれない。
もう何年経つのか覚えていない。
怖い思いもした。
忘れられない客もいた。
それでも俺は、タクシーを降りるつもりはなかった。
……あの夜までは。
その日も、いつものように深夜の幹線道路を流していた。
無線も鳴らず、街は静かだった。
信号待ちでふとルームミラーを見ると、
誰も乗せていないはずの後部座席に、
黒い影が座っていた。
心臓が一瞬止まったような感覚。
ミラー越しに目を凝らすと、そいつはただじっとこちらを見ていた。
口が動く。
「……おつかれさま……」
低い声が、車内に響く。
ハンドルを握る手が震えた。
「……もう、いいでしょう……」
誰かが耳元で囁いた。
次の瞬間、赤信号が青に変わった。
アクセルを踏むつもりが、足が動かない。
黒い影が、ゆっくりと前の席ににじんでくる。
「――迎えに来ました。」
後部座席のドアが、内側から開く音がした。
遠くでクラクションが鳴った。
街灯が滲んで、目の前が真っ白になった。
それから先の記憶はない。
気がついたとき、俺は営業所の休憩室で寝ていた。
同僚が言うには、車は無人で路肩に停まっていたらしい。
シートの上には、誰も触ったことのない
黒い手形が、後部座席から助手席までつながっていた。
――タクシーの客は尽きない。
生きていても、死んでいても。
そして、いつかは俺自身も、
誰かを迎えに行くのかもしれない。
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