キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

第2章 初めての異世界

宿屋の夜と訪問者

仮滞在証を手に入れた翔と忍は、ブレイザーを城壁内の空き地に停め、初めて異世界の町へ足を踏み入れた。
石畳の大通りには露店が並び、パンの香ばしい匂いや獣肉を焼く煙が漂っている。

「わぁ……本当に賑やかですね」
忍の瞳は輝き、翔も思わず頷く。
「物価を知らなきゃ動けないな。まずは換金からだ」

市場の一角にある買取所に入り、翔は布袋からブラッドウルフの牙を取り出す。
忍がすかさず右手をかざした。
「《簡易鑑定》」

【ブラッドウルフの牙
　品質：良好
　用途：武器素材（短剣／槍の穂先）、装飾品加工
　市場相場：銀貨3～6枚】

「……武器や装飾品になるから需要があるみたいです」
「よし、相場を踏まえて交渉するか」

商人は目を光らせて言った。
「一本で銀貨五枚だ」

翔は鑑定結果と照らし合わせ、納得して残りも全て渡す。
こうして初めての「銀貨袋」を手に入れた。

ポケットの通信石が震える。
《おお、これで人間用の飯が買えるな！　……で、俺の分は？》

翔は笑いながら袋の隅から折れた角を取り出し、路地裏で変換炉に放り込む。
ゴウンと低い音が鳴り、緑の光が吸い込まれた。

《ぷはぁ！　濃厚でジューシーな魔力！　これは揚げたてトンカツだな！》

「……お前、食レポいらねぇから」
翔が呆れ、忍は吹き出す。



銀貨を手に入れた二人は、町外れにある二階建ての宿「旅籠・月影亭」へ入った。
女将に銀貨三枚を渡すと、清潔な二人部屋を貸してもらえた。

「……やっと人らしい寝床にありつけましたね」
忍はベッドに腰を下ろし、安堵の笑みを浮かべる。
翔も頷き、窓の外に広がる夕暮れの町を見下ろした。

夕飯は大広間で出された。
シチューと焼きパンに、町の酒場特有のざわめき。
忍がスプーンを口に運び、小声で囁く。
「……これ、フォレストボアの肉ですね。鑑定で分かります」
「昨日の獲物か……妙に縁があるな」
二人は顔を見合わせ、笑い合った。



夜。
二つの月が窓から淡い光を差し込む。
布団へ潜り込む前、忍はぽつりと呟いた。
「翔さん……これから私たち、どうやって生きていけばいいんでしょう」
翔は少し考え、静かに答える。
「大丈夫だ。俺たちにはスキルもブレイザーもある。何とかなる」

忍は安心したように微笑み、布団を引き寄せた。
その穏やかな空気を破ったのは――

コン、コン。

扉を叩く小さな音。
翔は即座に身を起こし、声を潜めて問う。
「……誰だ？」

返ってきたのは、低く落ち着いた声。
「――迷い人の方ですね？　お話があります」

翔と忍は互いに顔を見合わせ、息を呑んだ。
異世界に来て初めて迎える夜は、静かな宿では終わらないらしい。