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第2章 初めての異世界
迷い人を知る者
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コン、コン。
静かな夜を破る扉の音。
翔は即座に身を起こし、腰のバールを握った。忍に「下がれ」と目で合図し、慎重に扉を開ける。
そこに立っていたのは外套を羽織った男だった。
三十代半ばほどの鋭い目。
腰には装飾のない細身の剣が下がっているが、構える様子はなく、あくまで護身用のように見える。
「夜分にすまない。私はこの町の“記録院”に属する者だ」
男は低い声で名乗った。
「噂を耳にした――迷い人が現れた、と」
忍は小さく息を呑み、すぐさま手をかざす。
「……《簡易鑑定》」
青白いウィンドウが浮かび上がる。
【カイル・レンドル 年齢:34
職業:記録院所属書記官
レベル:15
スキル:古代文字解読/記録魔術
備考:剣は護身用。戦闘職ではない。迷い人に強い関心を抱いている】
忍は小声で囁いた。
「……翔さん、この人、学者です。戦う人じゃありません」
翔はバールを握る手の力を少し緩めた。
カイルと名乗った男は懐から古びた書物を取り出す。
革表紙には「異界来訪者録」と刻まれている。
「この大陸には古くから“迷い人”の記録が残っている。
空から落ちてきたり、海の彼方から流れ着いたり……数は少ないが、確かに存在した。
そして彼らは――繁栄か災厄をもたらす者として語り継がれている」
翔は目を細めて低く言う。
「それで? 俺たちをどうするつもりだ」
「監視も拘束もする気はない。ただ、記録し、見守る義務がある」
カイルは書物を閉じ、少し声を潜めた。
「だが一つ忠告をしておこう。過去の迷い人の中には王国を救った者もいれば、国を滅ぼした者もいた。
お前たちがどちらになるかは、まだ分からない」
忍は不安げに翔を見た。
だが翔は挑むように口角を上げた。
「なら勝手に見守ってろよ。俺たちは俺たちのやり方で進む」
カイルはしばし沈黙した後、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……強い目だ。ならば生きるための道を一つ示そう」
「道?」
「この町の北には“冒険者ギルド”がある。冒険者たちが集い、依頼をこなし、力を磨く場所だ。
冒険者は依頼を受けて報酬を得ることで生計を立てる。魔物討伐や護衛、遺跡の探索、時には農村の手伝いまで、その内容は実に多岐にわたる」
翔と忍は顔を見合わせる。
カイルはさらに続けた。
「ギルドに登録すれば、“冒険者登録書”が発行される。
それは単なる依頼を受けるための証ではない。町や国によっては、正式な身分証明として扱われる。
宿屋の宿泊、店での買い物、他領への移動――すべて登録書があれば問題なく通る。
逆に言えば、冒険者でない者は長く町に滞在できない。迷い人の仮滞在証など、一か月もすれば効力を失う」
忍はその説明に目を見開いた。
「……つまり、冒険者になれば、この世界で堂々と活動できる、ということですね」
「その通りだ。滞在証を更新できる者は限られるが、冒険者登録を済ませた者は違う。国や町にとって“役に立つ人材”だからな」
翔は深く息を吐き、腕を組む。
「社会的な立場を得るための免許証、ってわけか……」
「わかりやすい例えだ」
カイルは口元に笑みを浮かべ、外套を翻す。
「詳しいことは訓練場兼ギルドで聞け。迷い人であろうと、冒険者であれば受け入れられる。――いずれまた会おう」
扉が閉まり、部屋に静寂が戻る。
忍は窓の外の二つの月を見上げながら呟いた。
「……翔さん。私たち、本当に“冒険者”として生きていくことになるんですね」
翔はベッドに腰を下ろし、バールを見つめた。
「旅をするなら、どのみち力がいる。立場もいる。……だったら冒険者ってのも悪くない」
――次なる目的地は、町の北にある冒険者ギルド。
迷い人として、そして冒険者として。
翔と忍の異世界キャンプ旅は、新しい局面へと踏み出そうとしていた。
静かな夜を破る扉の音。
翔は即座に身を起こし、腰のバールを握った。忍に「下がれ」と目で合図し、慎重に扉を開ける。
そこに立っていたのは外套を羽織った男だった。
三十代半ばほどの鋭い目。
腰には装飾のない細身の剣が下がっているが、構える様子はなく、あくまで護身用のように見える。
「夜分にすまない。私はこの町の“記録院”に属する者だ」
男は低い声で名乗った。
「噂を耳にした――迷い人が現れた、と」
忍は小さく息を呑み、すぐさま手をかざす。
「……《簡易鑑定》」
青白いウィンドウが浮かび上がる。
【カイル・レンドル 年齢:34
職業:記録院所属書記官
レベル:15
スキル:古代文字解読/記録魔術
備考:剣は護身用。戦闘職ではない。迷い人に強い関心を抱いている】
忍は小声で囁いた。
「……翔さん、この人、学者です。戦う人じゃありません」
翔はバールを握る手の力を少し緩めた。
カイルと名乗った男は懐から古びた書物を取り出す。
革表紙には「異界来訪者録」と刻まれている。
「この大陸には古くから“迷い人”の記録が残っている。
空から落ちてきたり、海の彼方から流れ着いたり……数は少ないが、確かに存在した。
そして彼らは――繁栄か災厄をもたらす者として語り継がれている」
翔は目を細めて低く言う。
「それで? 俺たちをどうするつもりだ」
「監視も拘束もする気はない。ただ、記録し、見守る義務がある」
カイルは書物を閉じ、少し声を潜めた。
「だが一つ忠告をしておこう。過去の迷い人の中には王国を救った者もいれば、国を滅ぼした者もいた。
お前たちがどちらになるかは、まだ分からない」
忍は不安げに翔を見た。
だが翔は挑むように口角を上げた。
「なら勝手に見守ってろよ。俺たちは俺たちのやり方で進む」
カイルはしばし沈黙した後、口元にわずかな笑みを浮かべた。
「……強い目だ。ならば生きるための道を一つ示そう」
「道?」
「この町の北には“冒険者ギルド”がある。冒険者たちが集い、依頼をこなし、力を磨く場所だ。
冒険者は依頼を受けて報酬を得ることで生計を立てる。魔物討伐や護衛、遺跡の探索、時には農村の手伝いまで、その内容は実に多岐にわたる」
翔と忍は顔を見合わせる。
カイルはさらに続けた。
「ギルドに登録すれば、“冒険者登録書”が発行される。
それは単なる依頼を受けるための証ではない。町や国によっては、正式な身分証明として扱われる。
宿屋の宿泊、店での買い物、他領への移動――すべて登録書があれば問題なく通る。
逆に言えば、冒険者でない者は長く町に滞在できない。迷い人の仮滞在証など、一か月もすれば効力を失う」
忍はその説明に目を見開いた。
「……つまり、冒険者になれば、この世界で堂々と活動できる、ということですね」
「その通りだ。滞在証を更新できる者は限られるが、冒険者登録を済ませた者は違う。国や町にとって“役に立つ人材”だからな」
翔は深く息を吐き、腕を組む。
「社会的な立場を得るための免許証、ってわけか……」
「わかりやすい例えだ」
カイルは口元に笑みを浮かべ、外套を翻す。
「詳しいことは訓練場兼ギルドで聞け。迷い人であろうと、冒険者であれば受け入れられる。――いずれまた会おう」
扉が閉まり、部屋に静寂が戻る。
忍は窓の外の二つの月を見上げながら呟いた。
「……翔さん。私たち、本当に“冒険者”として生きていくことになるんですね」
翔はベッドに腰を下ろし、バールを見つめた。
「旅をするなら、どのみち力がいる。立場もいる。……だったら冒険者ってのも悪くない」
――次なる目的地は、町の北にある冒険者ギルド。
迷い人として、そして冒険者として。
翔と忍の異世界キャンプ旅は、新しい局面へと踏み出そうとしていた。
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