キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第2章 初めての異世界

訓練場の試験

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冒険者ギルドの裏手には、広大な石畳の訓練場が広がっていた。
周囲の観覧席には既に何人もの冒険者が腰を下ろし、物珍しそうに翔と忍を見下ろしている。

「おい、あれが迷い人か」
「へえ……どんな腕前か、見ものだな」
「どうせ逃げ腰だろ」

好奇と侮りが入り混じった視線が二人に注がれる。

やがて中央に現れたのは、筋骨隆々の壮年の戦士だった。
灰色の髪を後ろで束ね、木製の大剣を肩に担いでいる。

「俺が試験官のバルガスだ」
低く響く声が訓練場に広がった。
「冒険者登録希望者は、まず俺と一合交えてもらう。
 倒す必要はない。だが、逃げずに立ち向かえるか、それを示せ」

翔は腰に差した鉄製の工具――バールを取り出した。
黒光りする鉄の棒に、観客たちはざわめく。

「なんだ、あの妙な形の鉄棒は……」
「武器か? いや、見たことがない」

バルガスが片眉を上げる。
「その道具、名は?」

翔は迷いなく答えた。
「バールだ」

「バール……? 聞いたこともないな。ただの鉄棒か?」

翔は軽く笑みを浮かべ、構えを取る。
「俺の世界じゃ工具だ。ドアをこじ開けたり、壁を壊したりするための道具だ。
 でも、今は俺の武器だ」

観客席がどよめく。
「工具を武器に……?」「そんな真似、聞いたことがない」

バルガスは口元を歪め、楽しそうに言った。
「面白い。ならその“バール”とやら、見せてもらおう!」

合図と同時に、木剣がうなりを上げて振り下ろされた。
翔は咄嗟にバールを横に振り上げ、甲高い音を立てて受け止める。
衝撃で腕が痺れるが、膝は折れない。

「ほう……踏ん張ったか」
バルガスの目が細められる。

翔は一歩踏み込み、バールを横薙ぎに振り抜く。
バルガスは木剣で受け止めたが、僅かに体勢を崩した。
観客席から驚きの声が上がる。

「おい、押したぞ!」
「あの鉄棒……侮れない!」

バルガスはニヤリと笑い、木剣を下ろした。
「十分だ。次は女の方だ」

忍は一歩前へ出ると、両手を胸の前で組み、小声で呟いた。
「《簡易鑑定》」

青白い光がバルガスを包み、ウィンドウが浮かぶ。

【バルガス・ロウ 年齢:46
 職業:戦士(ギルド教官)
 レベル:32
 スキル:剣術熟練/体力強化(中)
 備考:新人冒険者を潰すことはしない。むしろ導こうとしている】

忍は安堵の笑みを浮かべ、翔に囁いた。
「……大丈夫です。手加減してくれます」

そして勇気を振り絞って宣言する。
「私は攻撃はできません。でも、敵の情報を見抜けます!」

観客席から失笑が漏れる。
「情報? 戦いじゃ役に立たんだろ」
「鑑定なんて遊びだ」

だがバルガスは真剣に頷いた。
「戦いは力だけではない。敵を知る力は生存に直結する。
 ……合格だ」

忍は胸を押さえ、安堵の息をつく。
観客たちもざわめきを止め、興味深げに二人を見つめ始めた。

バルガスは宣言する。
「二人とも、冒険者として最低限の適性ありと判断する。
 ――登録を許可する」

エミリアが羊皮紙を抱えて駆け寄り、笑顔で告げた。
「おめでとうございます! これで正式に冒険者として認められました」

翔はバールを肩に担ぎ直し、忍と視線を交わす。
「……やっと第一歩だな」
「はい、翔さん」

――迷い人から冒険者へ。
異世界での本格的な旅が、ここから始まる。
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