キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

文字の大きさ
18 / 89
第3章:異世界キャンプの始まり

バルド入場

しおりを挟む
盗賊たちが逃げ去り、街道に静けさが戻った。
ガムテープでぐるぐる巻きにされた山賊の頭ドルガンは、護衛兵によって馬車の荷台に転がされる。

商人のレオナルトが深く頭を下げた。
「命の恩人です……! ありがとうございます、本当に……」

バルガスとキール――護衛の二人も、血に濡れた剣を拭いながら翔と忍に視線を向けた。
「だが……それよりも……」
彼らの視線の先にあるのは、黒光りする巨体――ブレイザーだった。

「……なんだ、あの鉄の塊は?」
「馬も繋がれていないのに、自走していた……魔導兵器なのか?」

レオナルトも目を見開き、恐る恐る口を開く。
「古代文明の遺物……? いえ、私も商売柄いろいろな品を見てきましたが、あんなものは初めてです」

翔は少し逡巡してから、肩を竦めた。
「……俺たちの相棒だ。それ以上でも、それ以下でもない」

忍が優しく微笑み、言葉を添える。
「迷い人は、自分の世界から一部の物を持ってこられることがあるんです。これは、その一つなんです」

三人は一瞬言葉を失い、やがて深く頷いた。
「……迷い人の持ち物、か」
「なら、納得だ……」

その目には、恐れだけでなく、どこか尊敬の色が混じっていた。



午後の日差しが傾き始めたころ、街道の先に巨大な城壁と高い門塔が姿を現した。
灰色の石を積み上げたその姿は圧倒的で、まるで要塞のようだ。

「……あれがバルドか」
翔は低く呟いた。
忍は両手を胸に組み、目を輝かせる。
「すごい……! 本当に大きい街……!」

――城門前は長蛇の列だった。
旅人や商人が順番を待ち、衛兵が身分証を確認している。

ブレイザーが列に近づくと、ざわめきが一気に広がった。
「なんだあれは……鉄の塊が動いてる!」
「馬もいないのに……自走しているぞ!」
「魔導兵器か!? 街に入れていいのか!」

衛兵が慌てて槍を構える。
「停まれ! その鉄の車、すぐに止まれ!」

翔はブレーキを踏み、窓を開けて答えた。
「俺たちは冒険者だ。身分証はある」

忍と共にカードを差し出す。
衛兵は水晶にかざし、淡い光に浮かぶ文字を確認した。

【清水翔 LV5 称号:迷い人】
【松田忍 LV4 称号:迷い人】

衛兵の表情が変わる。
「……迷い人か」

その時、レオナルトが前に出た。
「衛兵殿、このお二人は恩人です! 道中、山賊の頭ドルガン=ザルクを打ち倒し、捕らえてくださいました!」

「なに……ドルガン=ザルクだと!?」
衛兵が荷馬車の荷台を確認し、目を剥いた。
ガムテープでぐるぐる巻きにされた男は、確かに賞金首として長年手配されていたドルガンだった。

「間違いない……! これで街道の安全が守られる!」

衛兵は深く頭を下げる。
「お二人には後日、ギルドを通じて正式に報奨金が支払われます。そして――その鉄の車については“迷い人の持ち物”として扱い、特別に街への持ち込みを許可しましょう」

群衆がざわつく。
「あれが迷い人の持ち物なのか……!」
「恐ろしいが……頼もしいな」

翔は運転席に戻り、エンジンをかける。
忍は小声で囁いた。
「……ブレイザー、すごく注目されちゃいましたね」

《はっ、当然だろ。俺は迷い人の相棒様だからな》
胸元のスピーカーから聞こえる声に、忍は苦笑した。


城門を抜けると、熱気そのものが二人を包み込んだ。
石畳の大通りは人と荷馬車でごった返し、両脇には露店がぎっしり。

「安いよ安いよ! 今朝獲れた川魚だ!」
「香草はいらんか! 旅人! 疲れが取れるぞ!」
「南の港から仕入れた果実酒だ、甘くて旨いぞ!」

香ばしいパン、羊肉の串焼き、果実酒の甘い香りが混じり合い、忍の鼻をくすぐった。
「わぁ……! 本当に賑やかで、美味しそう……!」

翔は慎重にブレイザーを進めながら、周囲を観察する。
「油断すんなよ。人混みはトラブルの温床だ」

大道芸人が火を吹き、子どもが走り抜け、エルフや獣人が行き交う。
その中でブレイザーは異様な存在感を放ち、人々の視線を一身に集めていた。


やがて石造りの重厚な二階建ての建物が見えてきた。
扉の上には「冒険者ギルド」の看板が掲げられている。

扉を押し開けると、酒場のような喧騒が広がった。
木のテーブルで冒険者たちが談笑し、酒と革油の匂いが漂っている。

受付嬢が顔を上げ、微笑んだ。
「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」

レオナルトが声を張る。
「こちらのお二人は道中、盗賊団を壊滅させ、頭領ドルガン=ザルクを捕らえてくださいました! 本人は城門の衛兵に引き渡してあります!」

「ドルガンだと……!?」
冒険者たちが一斉にざわつき、奥からギルド長が現れる。

「ドルガン=ザルクを捕らえただと?」
翔は淡々と答えた。
「襲撃を受けた商隊を助けただけだ。戦って、倒して、捕まえた」

受付嬢が両手を差し出す。
「冒険者カードをお願いします」

翔と忍が手渡したカードを水晶にかざすと、光が立ち上り、新たな称号が浮かび上がる。

【清水翔 LV5 称号:迷い人/賞金首捕縛者】
【松田忍 LV4 称号:迷い人】

その隣に赤い文字が記録された。

【賞金首:ドルガン=ザルク 討伐扱い(捕縛)】
【報奨金:金貨二枚】

ギルド長は確認し、低く唸った。
「……間違いない。正式にお前たちの功績として記録された」

受付嬢がカードを返し、机に金貨二枚を置いた。
「報奨金です。そして、討伐素材の換金も承ります」

ブレイザーから取り出したホーンラビットやブラッドウルフの素材を鑑定し、銀貨二十枚が忍のカードに振り込まれる。

さらにレオナルトが小袋を差し出した。
「こちらは私からのお礼です。少量ですが、香辛料と乾燥ハーブを……」

忍は袋を抱きしめ、瞳を輝かせた。
「ありがとうございます! 絶対に美味しい料理にします!」

翔は苦笑しながらも満足げに頷いた。
「金貨二枚に銀貨二十枚、香辛料のおまけ付き……上等だ」


ギルドを出た二人は、レオナルトの勧めで宿屋《月影亭》へ。
二階建ての木造宿は清潔感があり、暖かな灯りと料理の匂いに満ちていた。

一階の食堂で出された夕食は焼き魚と野菜スープ、黒パン。
忍はスープを一口飲んで首を傾げる。
「……塩が足りないし、旨味も出てない」

翔がパンを齧ると、胸元のスピーカーが突然喋った。
《ま、俺の冷蔵庫には本物の調味料が揃ってるからな。比べちまうのも仕方ねぇ》

「今、誰か喋ったか?」
「どこから声が……?」
周囲の客が怪訝そうに首を傾げる。

翔は慌てて胸元を押さえ、苦笑した。
「……ただの魔導具だ」

忍は必死に笑いを堪えながらスープをすする。


食後、二人が案内された部屋は簡素な作りだった。
藁を詰めた簡易ベッドが二つ、小さな机と椅子がひとつ。

忍はベッドに腰を下ろし、不安げに呟いた。
「……寝れるだけありがたいですけど、やっぱりブレイザーのベッドと比べると……」

スピーカーが低く笑う。
《へっ、俺のベッドと風呂を知っちまったら、もう藁布団じゃ満足できねぇだろうよ》

「もう……声が大きいですって!」
忍が笑いながら翔の胸を小突き、翔はため息をついてスイッチを軽く叩き、声量を落とす。

窓の外からは街のざわめきが微かに届き、遠くで楽師の笛の音が響いていた。
忍はカードを手にじっと見つめる。
「……今日一日で、ずいぶん遠くに来た気がします」

翔は隣に腰を下ろし、静かに答えた。
「まだ始まったばかりだろ。これからもっと遠くまで行く」

忍は頬を赤らめて俯いた。
「……はい」


こうして二人は、異世界で初めて宿に一夜を過ごすことになった。
だが翌朝、ギルドからの呼び出しが、この旅をさらに大きく動かしていくのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

異世界転生旅日記〜生活魔法は無限大!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
 農家の四男に転生したルイ。   そんなルイは、五歳の高熱を出した闘病中に、前世の記憶を思い出し、ステータスを見れることに気付き、自分の能力を自覚した。  農家の四男には未来はないと、家族に隠れて金策を開始する。  十歳の時に行われたスキル鑑定の儀で、スキル【生活魔法 Lv.∞】と【鑑定 Lv.3】を授かったが、親父に「家の役には立たない」と、家を追い出される。   家を追い出されるきっかけとなった【生活魔法】だが、転生あるある?の思わぬ展開を迎えることになる。   ルイの安寧の地を求めた旅が、今始まる! 見切り発車。不定期更新。 カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界だろうがソロキャンだろう!? one more camp!

ちゃりネコ
ファンタジー
ソロキャン命。そして異世界で手に入れた能力は…Awazonで買い物!? 夢の大学でキャンパスライフを送るはずだった主人公、四万十 葦拿。 しかし、運悪く世界的感染症によって殆ど大学に通えず、彼女にまでフラれて鬱屈とした日々を過ごす毎日。 うまくいかないプライベートによって押し潰されそうになっていた彼を救ったのはキャンプだった。 次第にキャンプ沼へのめり込んでいった彼は、全国のキャンプ場を制覇する程のヘビーユーザーとなり、着実に経験を積み重ねていく。 そして、知らん内に異世界にすっ飛ばされたが、どっぷりハマっていたアウトドア経験を駆使して、なんだかんだ未知のフィールドを楽しむようになっていく。 遭難をソロキャンと言い張る男、四万十 葦拿の異世界キャンプ物語。 別に要らんけど異世界なんでスマホからネットショッピングする能力をゲット。 Awazonの商品は3億5371万品目以上もあるんだって! すごいよね。 ――――――――― 以前公開していた小説のセルフリメイクです。 アルファポリス様で掲載していたのは同名のリメイク前の作品となります。 基本的には同じですが、リメイクするにあたって展開をかなり変えているので御注意を。 1話2000~3000文字で毎日更新してます。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

処理中です...