キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第4章 新たな波紋

迷い人の伝承と今後の誓い

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自己紹介が一通り済み、ブレイザーの車内に静かな間が訪れた。
 食卓にはまだ湯気の立つスープや焼き立てのパンが残り、子供たちは満ち足りた顔で寄り添っている。だが、大人たちの目には、深い影が残っていた。

「……護衛を、あんなにも失ってしまうなんて……」
 カトリーナが膝の上で両手をぎゅっと握りしめる。その瞳には涙が浮かんでいた。
「次に襲われたら……わたくしたち、きっともう……」

 その隣でユリウス王子も唇をかみしめた。
「俺たちの護衛も、世話役も……皆、命を落とした。残った者たちだけで次を乗り切れるとは、とても思えない」

 場に重苦しい空気が漂う。
 そのとき、ヘルマンがゆっくりと口を開いた。

「……失礼ながら、お二人に尋ねたい。清水殿、松田殿。あなた方……まさか、迷い人ではないか?」

 静まり返った車内に、忍が小さく息を吸った。
「……翔さん。私たち自身を《鑑定》してみましょう。真実を確かめるために」

 翔は一瞬だけ眉をひそめ、それから頷いた。
「……ああ、やってみてくれ」

 忍は両手を胸の前で組み、そっと呟く。
「――《鑑定》」

 青白い光が忍の瞳に宿り、次の瞬間、彼女の目にだけ情報の奔流が流れ込んだ。だが今回は、翔に合図を送り、そのまま声に出して読み上げる。



【清水翔 LV20】
称号:迷い人
スキル:
• 打撃武器適性(小)
• 威圧(小)
• 戦闘直感(初級)
• 強打(中級)
• 身体強化(中級)
• 火球(中級)
• 火炎魔法(上級)
• 雷撃魔法(初級)
• 盾術(初級)
• 挑発(初級)
• 突撃(初級)



【松田忍 LV20】
称号:迷い人
スキル:
• 鑑定(極)
• 錬金(中級)
• 狙撃(上級)
• 治癒魔法(上級)
• 魔力感知(初級)
• 敏捷強化魔法(初級)
• 魔力強化矢(初級)
• 氷結魔法(初級)



【ブレイザー LV15】
称号:迷い人の守護車
機能:
• 自動分解/素材再構築
• 自動素材分解(拡張範囲)
• 魔力循環炉(効率化)
• 自動回収範囲拡張
• 室内拡張(最大収容50名)
• 支援クロスボウ(自動連射)
• 火炎放射(短距離制圧)
• ドローン型戦闘兵器(10機)
• 弾薬生成
• 範囲結界(半径20m・敵対者遮断)
• 多連装ロケットランチャー

 読み上げが終わると、車内にどよめきが広がった。

「やはり……迷い人……!」
「災いを呼ぶ存在だと伝承に……」
「いや、違う! 迷い人が現れるたび、町や国は発展を遂げたとも伝わっている!」

 人々の間で意見が割れる。
 ヘルマンが重々しく頷いた。

「伝承には二面性がある。迷い人は“魔物の活性化を呼ぶ存在”と恐れられる一方で、“訪れた地に繁栄をもたらす”とも記されているのだ」

 その言葉に子供の一人が、勇気を出して声を上げた。
「じゃあ……お兄ちゃんたちは悪い人じゃないの?」

 翔は一瞬言葉を探し、それから強い目で皆を見渡した。
「……俺は、悪い人間じゃない。けど、迷い人である以上、魔物を呼び寄せるかもしれねぇ」
 場がざわめき、緊張が走る。だが翔は続けた。
「だがな。もしそうなら――だからこそ、俺たちが戦う。俺と忍とブレイザーで、絶対に守る。二度と、大切な人を失わせはしない」

 沈黙のあと、子供たちが泣きながら叫んだ。
「お兄ちゃんたち、守ってくれるんだね!」
「もう怖くない!」

 カトリーナもユリウスも目を見開き、そして深く頷いた。
「……信じます。あなた方が迷い人でも、わたくしたちはすでに命を救われている」
「そうだ。たとえ迷い人でも……いや、だからこそ、あなたたちの力を頼らせてもらう」

 重苦しかった空気は、次第に希望の色を帯びていく。
 ヘルマンは長い髭を撫でながら、かすかに笑った。
「……迷い人よ。ならば、この地に繁栄をもたらしてくれることを期待しよう」

 翔はランスを背に立ち上がり、力強く頷いた。
「決まりだ。俺たちが、この場にいる全員を守り抜く」

 その瞬間、ブレイザーの低い声が車内に響いた。
《了解だ、翔。俺も共にある。迷い人の守護車として》

 静寂が破れ、安堵の吐息と共に新たな決意が満ちていった。

 翔の誓い、ブレイザーの声に包まれた車内には、ようやく張り詰めていた空気が解けはじめた。
 だが、それと同時に新たな現実が突き付けられる。

「……ですが、翔様」
 カトリーナが震える声を押さえながら言った。
「わたくしたちは、どこへ向かえばいいのでしょう。このまま森の中をさまようわけにも……」

 ユリウスも頷く。
「俺も同じ意見だ。まずは生き残った者たちを、安全に街へ戻すべきだと思う」

「そうだな……」
 翔は腕を組み、深く息を吐いた。
「いくら俺たちでも、ここにいる全員を背負ったまま旅を続けるわけにはいかねぇ。まずは最寄りの街――バルドに戻るのが筋だろう」

 避難民たちの間から「そうだ」「街に戻りたい」と安堵の声がもれる。
 だが、ヘルマンが重々しく手を上げた。

「無論、街へ戻すのは正しい。だが同時に考えねばならん。迷い人が現れたことで、魔物は必ず活性化しておる。森の奥には、まだ脅威が眠っているやもしれん」

 その言葉に人々は再びざわめいた。

「魔物が……」
「また襲ってくるのか……?」
「街も危険にさらされるのでは……」

 忍が前に出て、静かに言葉を重ねた。
「ですが、伝承にはこうもあります。――迷い人は訪れた地に新たな発展をもたらす、と。ならば翔さんと私、そしてブレイザーがここに居合わせたのも、何かの巡り合わせでしょう」

 カトリーナが小さく目を潤ませる。
「……迷い人様が、私たちを救ってくれたように?」

 忍はうなずいた。
「ええ。私たちは迷い人として、あなた方を見捨てません」

 翔も言葉を続ける。
「俺たちの目的は、元の世界に戻る方法を探すことだ。だが……それまでに出会った人を守り、できることをやっていく。それが俺たちの選んだ道だ」

 しばし沈黙のあと、ユリウスがゆっくり立ち上がった。
「……ならば、まずはバルドへ戻りましょう。そこなら領主もギルドもある。今後の話は、それからでも遅くはない」

「賛成ですわ」
 カトリーナも続く。
「伯爵家の名にかけても、皆さまの安全を最優先に」

 人々の間から次々に「バルドへ」「街なら安心だ」と賛同の声が広がっていく。

 翔はその光景を見渡し、力強く頷いた。
「よし……決まりだ。俺たちは皆を無事にバルドの街へ送り届ける。そこまでが、まず最初の仕事だ」

 その言葉に子供たちが歓声をあげ、肩を抱き合って笑った。
 ブレイザーの車内には、ようやく未来へ進むための灯がともったのだった。
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