キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第4章 新たな波紋

バルドまでの道のり 【中編】

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水辺の脅威 ― ジャイアントクロコダイル群

 ブレイザーは静かに自動操縦で進み続けていた。
 車内ではティータイムが続き、窓の外の緑はしだいに水辺へと変わっていく。陽光を反射する川面が広がり、涼やかな風が吹き込んできた。

 そのとき、ブレイザーの低い声が響いた。
《警告。前方および左右水域に多数の反応を確認。推定――ジャイアントクロコダイル、十体》

 車内の空気が一気に緊張へと変わった。

「ジャイアント……クロコダイル……?」
 カトリーナが青ざめ、思わず忍の袖をつかむ。

 ユリウス王子が顔を強張らせた。
「一体で軍のAランク討伐依頼に匹敵すると聞く魔物だ。それが……群れだと……」

 学者ヘルマンも深刻な面持ちで頷いた。
「水辺の覇者……地を歩くだけでなく、水の中からの奇襲も得意とする。普通の隊では壊滅必至だ」



 窓の外、水面が不気味に波打つ。
 その下から、ブレイザーほどもある巨体が次々と姿を現した。
 鱗は黒鉄のように硬く、眼光は血のように赤く輝いている。口を開けば、鋭い牙が幾重にも並び、地面を噛み砕く音が響く。

「ひっ……!」
 避難民の子供たちが悲鳴をあげ、大人たちも息を飲む。



《戦闘開始。ドローン展開》

 ブレイザーの天井から、黒い影が次々と飛び出す。
 二十機のドローンが一斉に翼を広げ、空を舞った。
 次の瞬間、ミサイルのロックオン音が低く響く。

 ――ドゴォォォォォン!!

 轟音とともに水柱が上がり、最前列のクロコダイルが爆散する。
 残りの群れも次々に牙をむくが、ブレイザーの結界に触れた瞬間、まるで透明な壁に弾かれるように止まった。

「動じない……! 本当にびくともしないんだ……」
 ユリウス王子が呆然と呟く。

「まるで……城塞ごと動いているみたいだ」
 リーナが震えた声を漏らした。





 クロコダイルたちは怒り狂い、尾で地面を叩き、咆哮を上げる。
 だがその頭上に――一斉射撃の嵐が降り注ぐ。
 機関銃の弾丸と追尾ミサイルが正確に鱗の隙間を貫き、次々と巨体を倒していく。

「す……すごい……! Aランク相当の魔物が、まるで雑魚のように……」
 ヨアヒムが呟き、手にしていたハーブティを忘れて立ち上がった。

「ドローンだけで、これほどの……」
 ヘルマンが唸る。



 やがて、最後の一体が倒れ、水辺は静寂を取り戻した。

《討伐完了。魔石および素材、全回収済み》

 ブレイザーの冷静な声が響くと同時に、翔と忍の前に青白いウィンドウが浮かび上がった。



【清水翔 LV23 → LV26】
・盾術(中級) → 盾術(上級)
・新スキル獲得:水耐性(初級)
・火炎斬撃(初級) → 火炎斬撃(中級)

【松田忍 LV23 → LV26】
・治癒魔法(上級) → 聖域治癒(範囲・小)
・新スキル獲得:水中呼吸(補助魔法)
・魔力強化矢(中級) → 魔力強化矢(上級)

【ブレイザー LV18 → LV21】
・ドローン数増加:20機 → 30機
・範囲結界拡張:半径50m → 半径100m
・新機能:水陸両用走行モード



 翔は驚きの声を漏らす。
「水辺の魔物を倒して、水耐性を覚えるってか……この世界、本当にRPGみたいだな」

 忍も目を見開いた。
「私まで……範囲治癒……! これなら、一度に大勢を救える……」

 ブレイザーの声が重々しく響く。
《守護能力、さらに向上。水辺での戦闘も完全対応可能》



 ガルドが素材を手に取り、瞳を輝かせた。
「こ、これは……! クロコダイルの鱗、鋼鉄をも凌ぐ強度だ! 防具にすれば、竜の爪すら防ぐかもしれん……!」

 彼は思わずバーボンをぐいと飲み干し、叫んだ。
「くそっ、最高の素材に最高の酒……! 俺に生涯最高の仕事をさせる気か!」

 その言葉に、避難民たちの顔に笑みが広がった。
 恐怖に支配されていた空気は、次第に希望と興奮へと塗り替えられていく。



災害級の影 ― ジャイアントサーベルタイガーの群れ

 ブレイザーの低い電子音が、車内に重く響いた。
《警告。前方二百メートル先、複数の大型魔物を感知。数、十……いや十二。推定体長、八メートル級》

 飲み物を手にくつろいでいた一同の空気が、一瞬にして凍りついた。
 翔はアイスコーヒーのグラスをそっとテーブルに置き、眉をひそめる。

「……八メートル級? 馬鹿でけぇな」

 ガルドはバーボンを飲んでいた手を止め、顔をしかめた。
「ブレイザー殿、その形状は分かるか?」

《牙、四本。長さ二メートル以上。脚部筋肉発達。高速接近能力あり》

 窓の外、森の木々を押し分けるようにして、巨大な影が現れる。
 月光を受けて煌めく、二本の長大な牙。
 猫科特有のしなやかな体躯に、分厚い筋肉。
 そして赤黒い瞳が、まっすぐブレイザーを射抜いた。

「っ……あれは……!」
 ヘルマンが蒼白になり、声を震わせる。
「まさか、ジャイアントサーベルタイガー……!」

 ユリウス王子が立ち上がり、拳を握った。
「馬鹿な……あれは軍でも滅多に遭遇せぬ、災害級の魔物だぞ! 一体で五千の街を一晩で壊滅させたと伝わる……それが、十体以上……!」

 カトリーナが小さな悲鳴を上げ、隣のエリナにしがみついた。
「十体なんて……そんなの、誰が……!」

 避難民の子供たちも怯え、泣き声が広がる。
 車内の空気は、一気に絶望に支配されかけていた。

 だが、翔は深く息を吐き、ゆっくりと立ち上がる。
「……なるほどな。災害級ってわけか」
 アイスコーヒーを一口含み、グラスを置くと、鋭い眼光で窓外を睨んだ。

「だが安心しろ。俺たちは――二人と守護車だ」

 忍もクロスボウを構え、静かに頷く。
「翔さん。ドローンを展開しましょう。彼らの恐怖を、希望に変えるために」

 ブレイザーの重低音が響いた。
《了解。ドローン三十機、武装展開》

 天井のハッチが次々と開き、鋼鉄の翼を持つ機影が飛び立つ。
 三十の赤いセンサーが闇夜に灯り、空気が振動するほどの羽音が響き渡った。

《全機ロック完了。目標、十二体。火線集中――殲滅を開始する》

 ブレイザーの宣告と同時に、三十機のドローンから一斉に弾丸の豪雨が放たれた。
 夜空を裂く光と轟音が重なり合い、ジャイアントサーベルタイガーの咆哮が断末魔へと変わっていった。

災害級の影 ― ジャイアントサーベルタイガーの群れ

 三十機のドローンが放つ銃弾とミサイルが、夜の森を昼のように照らし出した。
 轟音と閃光が重なり、巨体のジャイアントサーベルタイガーたちがのたうち回る。

 だが彼らは災害級。致命傷を負ってなお、狂ったようにブレイザーへ突進してくる。
 その迫力に、車内の避難民たちは悲鳴をあげた。

「き、来る! 結界が破られる!」
「無理だ、あんなの……!」

 ユリウス王子が拳を握りしめ、声を震わせる。
「本来なら軍一個師団が動員される敵だ……それを、今……」

 しかし、ブレイザーの結界はびくともしない。
 赤黒い瞳の魔獣たちが体当たりするたびに、透明な膜が波紋のように光り、弾き返していった。

《結界安定。侵入不可能》

 冷静なブレイザーの声が響く。

「な……」
 エリナが息をのむ。
「本当に、守ってくれてる……」

 ドローンは攻撃の手を緩めない。
 一機が敵の眼を正確に撃ち抜き、別の一機が喉元に弾丸を叩き込む。
 数の暴力と精密な射撃が融合し、災害級と恐れられた魔物の群れは次々と倒れていった。

 やがて――最後の一体が咆哮を残し、地面に沈む。

《敵勢力、完全殲滅。安全を確認》

 車内には、しばし信じられない沈黙が広がった。

「……勝った?」
「嘘だろ……あんな怪物を……」

 ブルーノが額を押さえ、乾いた笑いを漏らした。
「信じられん……軍ですら壊滅しかねん相手を……三十の機械で撃ち落とすとは」

 ガルドは震える手でバーボンを口に運び、喉を鳴らした。
「……これほどの力を持つ守護車か……。いや、迷い人の力……まさに災害を超える存在だな」

 子供たちは泣きじゃくりながらも、翔と忍を見上げた。
「ありがとう……ありがとう……」
「もう、怖くない……」

 翔は軽く肩を竦め、忍と視線を交わす。
「……災害級だろうが、俺たちの敵じゃない」
「ええ。ブレイザーと三十機のドローンがいれば、誰も傷つけさせません」

 その時――青白いウィンドウが次々と浮かび上がった。

レベルアップ通知

【清水翔 LV26 → LV29】
・盾術(上級) → 盾術(極)
・新スキル獲得:雷撃魔法(中級)
・火炎魔法(上級) → 火炎魔法(極)

【松田忍 LV26 → LV29】
・狙撃(上級) → 狙撃(極)
・新スキル獲得:支援魔法《集中強化(小範囲)》
・氷結魔法(初級) → 氷結魔法(中級)

【ブレイザー LV21 → LV24】
・ドローン数増加:30機 → 40機
・新機能:自動追尾ミサイル(短距離)
・範囲結界強化:物理・魔法双方の耐久値向上





 ガルドが戦場跡に視線を送り、深く息を吐く。
「……これほどの殲滅力、信じられん。まさに伝説の兵器……」
 彼は震える手でバーボンを口にし、呟いた。
「こんな酒を飲ませてもらえるなら……俺は、どんな武具でも作ってやろう」

 避難民の瞳には、もはや恐怖ではなく――希望の光が宿っていた
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