キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第4章 新たな波紋

バルドまでの道のり 【後編】

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魔石鑑定と素材の価値

 戦闘が終わり、ブレイザーの自動回収システムが作動。
 次々と床下から搬入用のコンベアが伸び、討伐した魔物の魔石や素材がきちんと分類され、テーブルの上に並んでいった。

 透き通るような輝きを放つ宝玉――高純度魔石。
 それはただの魔石ではなく、核が濁らず純粋な魔力だけを封じ込めた、最高級の品。

 並べられた数を見て、誰もが息を呑んだ。

「……こ、これは……三十三個もあるのか!?」
 ヘルマンが震える声で叫ぶ。

 ガルドもバーボンのグラスをテーブルに置き、目を見開いた。
「馬鹿な……これだけの数、一国を傾ける財宝だぞ。しかも全部高純度……武器でも防具でも、伝説級の品を量産できる……!」

 ユリウス王子も拳を握りしめる。
「三十三……オークキングの魔石まで含めてか……! 災害級を三種、すべて撃破した証でもある……」

 翔がグラスの氷をカランと鳴らしながら、ため息をついた。
「そりゃあ命懸けで戦った成果だな。けど、こんなに手に入るとは思わなかった」

 忍は鑑定の光を目に宿し、確認を続ける。
「はい、全部が高純度……しかも、強さによって微妙に質が違います。ジャイアントサーベルタイガーの魔石は、他よりも魔力濃度が高いです」

 その言葉にブレイザーが低く告げた。
《提案。素材の加工は段階的に行う。高級魔石三十三個は保存。翔・忍の武具強化を第一に。余剰は随時防具へ》

「三十三個……」とカトリーナが呟き、信じられないというように唇を押さえる。
「それだけでも、王都で競りにかければ莫大な富になるでしょう……」

 ヘルマンがうなずき、遠い目をする。
「これまで高純度魔石が同時に三つ揃った例すら、百年に一度あるかどうか。それを三十三……迷い人殿たちがいかに規格外か、誰の目にも明らかだな」

 場の空気が重く、しかしどこか高揚を帯びていった。
 ガルドは顔を赤らめながら、拳をテーブルに叩きつけた。
「……よし! こんな素材を前に黙ってられるか! どんな無茶な注文でもいい、これを使わせてくれ! 俺の手で伝説を作ってやる!」

 その声に子供たちが目を輝かせ、大人たちもざわめき立つ。

 翔はにやりと笑い、肩をすくめた。
「だったら、しばらくは素材に困らねぇな。ブレイザーの擬人化に必要なのは百個だったな?」

《肯定。目標まで残り六十七》

「……まだまだ先は長ぇな」
 翔が呟くと、車内に緊張と期待が入り混じった笑いが広がった。



素材鑑定と意見交換

 高純度魔石三十三個の輝きに目を奪われた後も、ブレイザーの自動収集は止まらなかった。
 テーブルの横の収納口から、次々と討伐した魔物の素材が整然と運び出され、並べられていく。

 厚みのある鱗、鋭く湾曲した牙、黄金に光る羽根、漆黒の毛皮――どれも一級品だった。

「こ、これは……ジャイアントクロコダイルの皮!」
 ガルドが目を見開き、手でなぞった。
「見ろ、この厚み……普通の鎧なら二十枚重ねても通らない防御力だぞ! 加工すれば、竜鱗級の防具に匹敵する!」

 翔が腕を組んで笑う。
「だったら盾に仕立てればいいな。俺のバールランスと組み合わせれば、城門だってぶち破れるだろう」

「……想像しただけで背筋が寒くなります」
 カトリーナが呆然と呟き、隣のユリウス王子も深く頷いた。

 今度はロックバードの巨大な羽が広げられる。
 虹色に輝くその羽根は、魔力を帯びて風を揺らす。

「こ、これは……!」
 リーナが思わず前に出た。
「風の魔法と共鳴しています……魔力伝導率が異常に高い。魔道具に加工すれば、空を飛ぶ船にすら利用できるでしょう!」

 子供たちが歓声を上げ、羽根に触れようと手を伸ばすが、忍が優しく制して微笑む。
「これは貴重すぎて、遊び道具にはできませんよ」

 次に運び込まれたのは、ジャイアントサーベルタイガーの二メートル級の牙。
 ヘルマンがそれを見た途端、目を血走らせる。
「……まさか実物を見る日が来るとは……! 伝承では一本が王国の財政を一年潤すほどの価値があると……それが二十四本も……!」

 ヨアヒムが驚きで声を上げた。
「牙だけじゃありません。この毛皮……触ってみてください、体温を逃がさず魔力まで保護する。寒冷地の軍装備を一新できます!」

 エリナは神妙に毛皮を撫で、呟いた。
「……これを聖堂に献上すれば、神聖遺物として扱われるかもしれません」

 場は騒然となり、大人も子供も口々に意見を出し始める。

「食料もすごいぞ!」
 ブルーノが両腕に抱えきれないほどの肉塊を掲げた。
「クロコダイルの肉、ロックバードの肉、サーベルタイガーの肉……どれも高級食材だ! 街で売れば銀貨が雨のように降ってくる!」

 忍が笑みを浮かべ、鑑定結果を告げた。
「はい、すべて上質、いえ超高級品です。保存加工すれば、旅の食料にも十分使えます」

 その言葉に避難民の子供たちが歓声を上げる。
「お肉いっぱい! もうお腹すかないんだね!」

 ガルドは大きく腕を広げ、声を張り上げた。
「武具は俺に任せろ! クロコダイルの皮で盾や鎧を作り、サーベルタイガーの牙で槍や刃を打ち直す! 伝説に残る一式を仕立ててやる!」

 リーナも負けじと声を上げる。
「魔道具は私が! ロックバードの羽と魔石を組み合わせれば、飛行も夢ではないわ!」

 ヘルマンが眼鏡を押し上げ、深くうなずいた。
「これだけの素材を一度に得た例など、王国史にも存在しない。バルドの街に戻れば、ただの帰還報告では済まぬぞ……歴史に名が刻まれる」

 翔と忍は視線を交わし、そして笑った。
「……面白くなってきたな、忍」
「ええ。二人と守護車の旅……これからが本当の始まりですね」



素材の行方と未来への相談

 ブレイザーの広いテーブルの上に並んだ魔物の素材を前に、全員が真剣な面持ちで座っていた。
 ロックバードの虹色の羽が光を反射し、ジャイアントクロコダイルの皮は鋼鉄のように鈍く輝き、サーベルタイガーの牙は刃のように鋭さを放っている。

 翔が氷を鳴らしたアイスコーヒーを一口飲み、視線を皆に巡らせた。
「さて……これだけの素材が揃った以上、どう使うかを決めないといけないな」

 ガルドが真っ先に手を挙げる。
「俺はもちろん武具だ。翔殿、あんたの盾と鎧は、クロコダイルの皮で作るのが最適だろう。牙も槍に打ち直せば、竜種にすら通る一撃になる」

「へぇ……竜に通る槍か」
 翔は笑い、バールランスを軽く撫でる。
「それは心強いな」

 リーナが身を乗り出す。
「私は羽と魔石を組み合わせて、魔道具を作りたい。特にロックバードの羽は、風属性に強く反応するの。飛行具や結界強化にも使えるわ」

「飛行具!?」
 子供たちが一斉に身を乗り出す。
「空飛べるの? 鳥みたいに!?」
「遊びじゃないわよ、実用よ」
 リーナが苦笑するが、その目は確かに輝いていた。

 ヨアヒムが羽を撫でながら口を開く。
「羽の繊維は薬にも使える。粉末にすれば魔力回復薬の触媒になる。さらにサーベルタイガーの血は、強力な滋養剤になるだろう」

 ブルーノは豪快に笑いながらビールを一気にあおる。
「食い物の話を忘れちゃ困るぜ! クロコダイルの肉は煮ても焼いてもいけるし、ロックバードの肉は柔らかくて香りもいい! サーベルタイガーは……焼き肉で頼む!」

 子供たちが「焼き肉!」と真似して叫び、車内は笑いに包まれた。

 しかし、ヘルマンは一歩引いた冷静な声を上げる。
「問題は……これをどう扱うかだ。どれも王宮に献上すれば莫大な価値を持つ。だが同時に、余計な権力を呼び寄せることにもなる」

 その言葉に場が少し静まった。
 翔が顎に手を当て、ゆっくりと答える。
「……だからこそ、必要な分は俺たちで使い、残りはしかるべき形で処理する。無闇に富を誇っても、身を滅ぼすだけだ」

 忍が頷き、冷えたフルーツアイスティーを傾ける。
「鑑定の結果、どの素材も保存加工が効きます。急いで処分する必要はありません。必要になったとき、必要な場所に渡せばいいのです」

「……ふむ。賢明なお考えですな」
 ヘルマンが深く頷いた。

 ユリウス王子が真剣な眼差しを向ける。
「翔殿、忍殿。あなた方の力と、この守護車ブレイザーがあれば、王国の戦力すら凌駕するだろう。だが……我々はどうか。残された者たちのために、この素材をどう活かすべきか」

 その問いに翔は少し笑みを浮かべる。
「決まってるさ。まずは、生き延びるために使う。武具、食料、薬……そして仲間を守るために」

 ガルドがバーボンを掲げて笑う。
「よし! そうと決まれば、まずは翔殿の武具からだな! 飲ませてもらったこの酒の味を忘れん限り、最高の品を打ってみせる!」

 子供たちは再び「やったー!」と声を上げ、車内は賑やかな笑い声で満たされた。
 ブレイザーの静かなエンジン音が、その和やかな時間を包み込んでいた。
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