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第4章 新たな波紋
夕暮れの帰還、バルドの街
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ブレイザーは一日中、魔物を討伐しながら進み続けていた。
ドローンが飛び交い、巨体のクロコダイルや翼を広げたロックバードが次々と倒れていく。
素材は自動回収され、魔石はストックボックスに積み上げられていく。
それでも戦いの合間に休憩し、飲み物や軽食を取りながら進んだことで、疲労は最小限に抑えられていた。
だが、時間は確実に過ぎていた。
太陽は西の空へと傾き、赤橙色の光が地平線を照らす。
やがて森を抜けた瞬間――
「……あっ!」
カトリーナが息をのんだ。
ユリウスも目を見開き、前方を指差す。
「見ろ……バルドの街だ!」
遠くの丘の向こうに、白い石壁と尖塔の影が浮かんでいた。
夕暮れに染まる城壁は黄金のように輝き、まるで人々を守護する灯台のように見える。
子供たちが歓声を上げ、窓に張り付く。
「ほんとだ!」「街だ!」「帰れるんだ!」
涙を浮かべる者もいれば、ただ呆然と口を開ける者もいた。
翔は腕を組んで、その光景をじっと見つめる。
「……ようやく、帰ってこれたな」
忍は隣で小さく微笑む。
「みんな、本当に頑張りましたね。ここまで辿り着けたのは……奇跡です」
ブレイザーの低い電子音が響く。
《目的地、バルド。到着予想時刻、十五分後》
その声に、車内がざわめいた。
大人たちは互いの肩を叩き合い、子供たちははしゃぎ、泣きながら笑った。
長い戦いと逃避行の果てに、ついに見えた安堵の街。
夕日が沈む頃、ブレイザーは人々を乗せ、バルドの城門へと進んでいった。
帰還の夕暮れの城門前
夕暮れ時のバルドの街。赤く染まる空の下、城門の前には行き交う人々のざわめきが広がっていた。
その喧噪の中を、ひときわ異彩を放つ鉄の巨体――ブレイザーがゆっくりと近づいてくる。
門番二人が顔を見合わせ、思わず槍を構え直した。
「おい……あれは……鉄の馬車か?」
「いや、あんな化け物みたいな代物、見たことがない……」
ブレイザーの車体が門の前で停まり、静かに開いたドアから最初に降り立ったのは翔だった。
彼は一歩前に進み、低く落ち着いた声で言った。
「昨日の朝、オーク集落討伐の依頼で街を出た冒険者だ。戻ってきた」
門番たちは目を丸くした。
「なっ……あんたらが!? たしかに、昨日出ていった……鉄の馬車の冒険者……!」
翔は頷き、続ける。
「討伐の際にオークに囚われていた人々を救出した。まだ車内にいる」
門番の顔が驚きから焦りへと変わる。
「な……囚われていた人々を……!? それは一大事だ! すぐにギルド館と領主館へ知らせを……」
彼が慌てて言葉を継ごうとしたその時、ブレイザーの車内から二つの影が姿を現した。
夕日を背に、威風堂々と歩み出るのは若き王子と辺境伯の娘。
ユリウスは胸元に手を当て、銀の細工が施された印籠を取り出すと、門番の前に掲げた。
「私はユリウス・アルベルト。王族の次男である」
夕陽に煌めいた印籠の紋章を見た瞬間、門番たちの顔色が一変した。
「こ、これは……王家の紋……!」
二人は慌てて槍を立て直し、深々と頭を下げる。
続いて、カトリーナが一歩進み出る。
彼女は胸元から金糸で装飾された印籠を取り出し、毅然とした声で告げた。
「私はカトリーナ・フォン・エルンスト。辺境伯の娘にして、聖女候補です」
その名と紋章に、門番たちは目を見開き、唾を飲んだ。
「……な、なんということだ……王族に、辺境伯令嬢まで……!」
「お、俺たちの手に余る……!」
翔が一歩前に出て、冷静に言葉を重ねる。
「安心しろ。彼らを無事に送り届けるために戻ってきた。まずはギルド館に報告する。それから領主館に向かう」
門番たちは慌てて敬礼し、仲間を呼びに走らせた。
「はっ! 至急、ギルド館と領主館に伝令を走らせます!」
こうして街はずれの喧噪は一変し、城門前は一気に緊張と驚きの渦に包まれた。
街へ ― 豪奢な一行の入城
城門をくぐると、バルドの街並みが夕暮れの光に照らされて広がっていた。
石畳の大通りには、帰宅を急ぐ人々、屋台を片付ける商人、灯りをともす子供たちの姿があり、日常の匂いがそこにあった。
「ブレイザーはここまでだな」
翔が振り返り、車体を見上げる。
《了解。馬車置き場で待機モードに移行する》
ブレイザーは短く応答すると、ゆっくりと街の脇にある馬車置き場へと進み、巨体を静かに停めた。その存在感に、近くの馬や牛が怯えた声をあげる。
「じゃあ、ここからは歩きましょう」
忍が柔らかく皆に声をかけると、王族と伯爵令嬢を先頭に、豪華な衣服をまとった一行が石畳を踏みしめて進み出した。
その姿に、周囲の視線が一斉に吸い寄せられる。
「な、なんだあの集団は……」
「衣装が……豪華すぎないか? 王都の使節団か?」
「いや……あの印章付きの首飾り……もしかして……」
ざわめきは次第に大きくなり、街の人々は道の端に避けて彼らを見送った。
その反応にカトリーナは小さく身をすくめ、ユリウスは眉をひそめる。
「まるで見世物だな……」
「仕方ないですよ、殿下。これだけ目立つ格好ですから」
忍が苦笑し、彼の肩をそっと叩いた。
一方、ブルーノは大通りに漂う香りに鼻をひくつかせる。
「おい翔。あの屋台から漂ってくるの……串焼きの匂いじゃねぇか?」
「おぉ、本当だ。タレの焦げる匂いだな」
彼はごくりと喉を鳴らし、子供のような顔になる。
それを聞いた女性陣も目を輝かせた。
「いいなぁ……美味しそう」
「でも、私たち今からギルドで報告ですし」
エリナが真面目に言うと、カトリーナが苦笑しながらも頷く。
「終わったら……ぜひ立ち寄りましょう」
そのやり取りに、翔が小さく笑った。
「よし。じゃあ報告が済んだら、全員で飲みに行こう。あそこに見える居酒屋なんて良さそうだ」
彼が指差した先には、木の扉から灯りが漏れる大衆酒場があった。中から笑い声とジョッキを打ち鳴らす音が響いてくる。
「それはいい! 街に帰ってきたんだ、腹いっぱい飲んで騒がなきゃな!」
ブルーノが豪快に笑い、ガルドはバーボンの余韻を楽しむように頷いた。
「だがまずは……ギルドだな。報告を済ませねば」
夕陽の光を背に、豪奢な一行は注目の的となりながら、大通りを進んでいく。
行き先はギルド館――、街全体がざわめきを増す中、彼らの足取りは静かに、しかし確かにそこへと向かっていた。
ドローンが飛び交い、巨体のクロコダイルや翼を広げたロックバードが次々と倒れていく。
素材は自動回収され、魔石はストックボックスに積み上げられていく。
それでも戦いの合間に休憩し、飲み物や軽食を取りながら進んだことで、疲労は最小限に抑えられていた。
だが、時間は確実に過ぎていた。
太陽は西の空へと傾き、赤橙色の光が地平線を照らす。
やがて森を抜けた瞬間――
「……あっ!」
カトリーナが息をのんだ。
ユリウスも目を見開き、前方を指差す。
「見ろ……バルドの街だ!」
遠くの丘の向こうに、白い石壁と尖塔の影が浮かんでいた。
夕暮れに染まる城壁は黄金のように輝き、まるで人々を守護する灯台のように見える。
子供たちが歓声を上げ、窓に張り付く。
「ほんとだ!」「街だ!」「帰れるんだ!」
涙を浮かべる者もいれば、ただ呆然と口を開ける者もいた。
翔は腕を組んで、その光景をじっと見つめる。
「……ようやく、帰ってこれたな」
忍は隣で小さく微笑む。
「みんな、本当に頑張りましたね。ここまで辿り着けたのは……奇跡です」
ブレイザーの低い電子音が響く。
《目的地、バルド。到着予想時刻、十五分後》
その声に、車内がざわめいた。
大人たちは互いの肩を叩き合い、子供たちははしゃぎ、泣きながら笑った。
長い戦いと逃避行の果てに、ついに見えた安堵の街。
夕日が沈む頃、ブレイザーは人々を乗せ、バルドの城門へと進んでいった。
帰還の夕暮れの城門前
夕暮れ時のバルドの街。赤く染まる空の下、城門の前には行き交う人々のざわめきが広がっていた。
その喧噪の中を、ひときわ異彩を放つ鉄の巨体――ブレイザーがゆっくりと近づいてくる。
門番二人が顔を見合わせ、思わず槍を構え直した。
「おい……あれは……鉄の馬車か?」
「いや、あんな化け物みたいな代物、見たことがない……」
ブレイザーの車体が門の前で停まり、静かに開いたドアから最初に降り立ったのは翔だった。
彼は一歩前に進み、低く落ち着いた声で言った。
「昨日の朝、オーク集落討伐の依頼で街を出た冒険者だ。戻ってきた」
門番たちは目を丸くした。
「なっ……あんたらが!? たしかに、昨日出ていった……鉄の馬車の冒険者……!」
翔は頷き、続ける。
「討伐の際にオークに囚われていた人々を救出した。まだ車内にいる」
門番の顔が驚きから焦りへと変わる。
「な……囚われていた人々を……!? それは一大事だ! すぐにギルド館と領主館へ知らせを……」
彼が慌てて言葉を継ごうとしたその時、ブレイザーの車内から二つの影が姿を現した。
夕日を背に、威風堂々と歩み出るのは若き王子と辺境伯の娘。
ユリウスは胸元に手を当て、銀の細工が施された印籠を取り出すと、門番の前に掲げた。
「私はユリウス・アルベルト。王族の次男である」
夕陽に煌めいた印籠の紋章を見た瞬間、門番たちの顔色が一変した。
「こ、これは……王家の紋……!」
二人は慌てて槍を立て直し、深々と頭を下げる。
続いて、カトリーナが一歩進み出る。
彼女は胸元から金糸で装飾された印籠を取り出し、毅然とした声で告げた。
「私はカトリーナ・フォン・エルンスト。辺境伯の娘にして、聖女候補です」
その名と紋章に、門番たちは目を見開き、唾を飲んだ。
「……な、なんということだ……王族に、辺境伯令嬢まで……!」
「お、俺たちの手に余る……!」
翔が一歩前に出て、冷静に言葉を重ねる。
「安心しろ。彼らを無事に送り届けるために戻ってきた。まずはギルド館に報告する。それから領主館に向かう」
門番たちは慌てて敬礼し、仲間を呼びに走らせた。
「はっ! 至急、ギルド館と領主館に伝令を走らせます!」
こうして街はずれの喧噪は一変し、城門前は一気に緊張と驚きの渦に包まれた。
街へ ― 豪奢な一行の入城
城門をくぐると、バルドの街並みが夕暮れの光に照らされて広がっていた。
石畳の大通りには、帰宅を急ぐ人々、屋台を片付ける商人、灯りをともす子供たちの姿があり、日常の匂いがそこにあった。
「ブレイザーはここまでだな」
翔が振り返り、車体を見上げる。
《了解。馬車置き場で待機モードに移行する》
ブレイザーは短く応答すると、ゆっくりと街の脇にある馬車置き場へと進み、巨体を静かに停めた。その存在感に、近くの馬や牛が怯えた声をあげる。
「じゃあ、ここからは歩きましょう」
忍が柔らかく皆に声をかけると、王族と伯爵令嬢を先頭に、豪華な衣服をまとった一行が石畳を踏みしめて進み出した。
その姿に、周囲の視線が一斉に吸い寄せられる。
「な、なんだあの集団は……」
「衣装が……豪華すぎないか? 王都の使節団か?」
「いや……あの印章付きの首飾り……もしかして……」
ざわめきは次第に大きくなり、街の人々は道の端に避けて彼らを見送った。
その反応にカトリーナは小さく身をすくめ、ユリウスは眉をひそめる。
「まるで見世物だな……」
「仕方ないですよ、殿下。これだけ目立つ格好ですから」
忍が苦笑し、彼の肩をそっと叩いた。
一方、ブルーノは大通りに漂う香りに鼻をひくつかせる。
「おい翔。あの屋台から漂ってくるの……串焼きの匂いじゃねぇか?」
「おぉ、本当だ。タレの焦げる匂いだな」
彼はごくりと喉を鳴らし、子供のような顔になる。
それを聞いた女性陣も目を輝かせた。
「いいなぁ……美味しそう」
「でも、私たち今からギルドで報告ですし」
エリナが真面目に言うと、カトリーナが苦笑しながらも頷く。
「終わったら……ぜひ立ち寄りましょう」
そのやり取りに、翔が小さく笑った。
「よし。じゃあ報告が済んだら、全員で飲みに行こう。あそこに見える居酒屋なんて良さそうだ」
彼が指差した先には、木の扉から灯りが漏れる大衆酒場があった。中から笑い声とジョッキを打ち鳴らす音が響いてくる。
「それはいい! 街に帰ってきたんだ、腹いっぱい飲んで騒がなきゃな!」
ブルーノが豪快に笑い、ガルドはバーボンの余韻を楽しむように頷いた。
「だがまずは……ギルドだな。報告を済ませねば」
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