キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

第4章 新たな波紋

ギルド館での帰還報告

ギルド館、帰還の報告

　バルドの夕暮れ。街の喧騒に包まれながら、翔と忍は堂々とギルド館の扉を押し開けた。
　その後ろには、オークの皮で仕立てられた豪奢な衣装を纏った一行が連なり、館内に入った瞬間、その異様な雰囲気が冒険者たちの視線を一斉に集めた。

「なんだあの集団は……」
「衣装が……貴族どころか、どこの国の使節団だ？」
「しかも先頭にいるのは……昨日、オーク討伐に出た冒険者じゃないか？」

　ざわめきが広がる。
　だがその中、カウンターの奥にいたミアだけは固まったように立ち上がった。
　潤んだ瞳が、ゆっくりと翔と忍に向けられる。

「……翔さん……忍さん……！」

　声が震え、思わず口元を押さえる。
　次の瞬間、堰を切ったように駆け寄ってきた。

「本当に……本当に無事で……！」
　ミアは涙を堪えきれず、目尻を濡らした。
「依頼に出たきり戻らないから……ずっと不安で……！　ギルドの誰に聞かれても笑って平気な顔をしてましたけど、内心は……心臓が張り裂けそうで……」

　翔は気恥ずかしそうに後頭部をかき、忍は柔らかく微笑んだ。
「心配かけたな。けど――ちゃんと帰ってきた」
「ただいま戻りました、ミアさん」

　その言葉に、ミアの頬を涙が伝った。
　彼女は慌てて袖で拭い、必死に笑顔を作る。
「……はいっ。おかえりなさい……！」

　周囲の冒険者たちは、しんと静まり返っていた。
　そして誰からともなく、低く驚き混じりの声が上がる。

「……あの二人、無事に戻ったのか」
「いや待て、オーク討伐で……それだけじゃないだろ？　後ろの集団は……」
「まさか、討伐依頼のついでに人質を……!?」

　騒めく声が次々に広がり、ギルド館は一気に熱を帯びた。



ギルド館、報告と魔石の提示

　涙を拭ったミアは、必死に笑顔を取り戻すと、翔と忍に深く頭を下げた。
「……それで、依頼の報告をお願いします」

　翔は軽く頷き、ギルドカウンターに歩み寄る。
「昨日、オーク集落討伐の依頼で出発した俺たちだが――無事に討伐完了した。証拠を持ってきた」

　その声に、館内の冒険者たちが一斉に耳を傾けた。
　翔はブレイザーの収納から、ずしりと重い袋を取り出し、カウンターに置く。
　どすん、と木製の台がきしむほどの重さ。

　そして――袋を開くと、中から光を放つ石がざらざらと零れ出した。

「ま、魔石……！」
「すげぇ……数が多すぎる！」

　冒険者たちが思わず声を上げる。
　翔は一つを手に取り、机に置いた。
「まずは、雑魚オーク百二十体分の魔石だ」

　館内がどよめきに包まれる。

「ひ、百二十体!?」
「一体でもCランク相当の魔物だぞ!?」
「そ、それを……たった二人で……！」

　驚愕の声に、忍が淡々と補足する。
「正確には、二人と――ブレイザーです」

　その名を出した瞬間、館内の空気が一層ざわついた。
「鉄の馬車のことか……」
「いや、守護車って噂も……」

　翔は動じることなく、次の魔石を取り出す。
　ひときわ強い光を放つ十個の魔石が、机に並べられる。

「次に――オークナイト十体の魔石」

　その瞬間、館内は爆発するようなどよめきに包まれた。

「オークナイト!?」
「嘘だろ、あれは小隊でも全滅しかける相手だぞ！」
「十体も……！」

　冒険者たちが息を呑み、顔を見合わせる。

　そして翔は、最後に一つ――両手で持つほど巨大な魔石を取り出した。
　紫黒に煌めき、空気を震わせるその存在感に、館内の誰もが息を呑む。

「そして……これがオークキングの魔石だ」

　沈黙。
　次の瞬間、嵐のようなどよめきが館内を揺らした。

「オークキング……！　本当に……!?」
「伝説の……災害級が現れたってのか……！」
「まさか、討伐したのか……！」

　興奮と恐怖が入り混じった声が飛び交う。
　誰もが信じられないという顔で、翔と忍、そして後ろに控える豪奢な衣装の一行を見つめていた。

　ミアは震える手で魔石を一つひとつ確認しながら、声を震わせた。
「……間違いありません……！　確かにこれは……！」

　翔は深く息を吐き、皆を見渡した。
「報告は以上だ。詳しい経緯については、領主館でも説明することになるだろう。だがまずは――ここに証拠を示した」

　その言葉に、館内の空気は張り詰めたまま、熱を帯び続けていた。



ギルド館のざわめき

　机に並べられた魔石を見て、館内の冒険者たちは誰もが言葉を失っていた。
　だが沈黙は長く続かなかった。

「……ありえねぇ……」
「オーク百体以上……ナイト十体……キングまで……」
「にわかには信じがたいが……魔石が証拠だ……」

　ひそひそ声が飛び交い、やがて冒険者の一人がぽつりと呟く。
「なぁ……後ろの連中、ただの同行者じゃねぇよな……？」

　その声に注目が集まる。
　翔と忍の背後には、王族ユリウス、辺境伯令嬢カトリーナ、名工ガルド、宮廷魔法指南役リーナ、宮廷薬士ヨアヒム、学者ヘルマン、聖女候補エリナ――一目で高貴さを感じさせる面々が並んでいた。
　しかも彼らが纏っている衣装は、オークの皮を加工し鮮やかに着色された、豪華かつ特注としか言いようのない仕立てだった。

「おい……まるで使節団だぞ……」
「どこの国の一行だ……？」
「いや、あの少年……どこかで……」

　目の鋭い冒険者が、ユリウス王子をじっと見つめて小さく息を呑む。
だが、すぐに首を横に振った。
「……いや、まさかな。庶民が王族の顔なんざ覚えてるわけねぇか……」

　周囲の注目を浴びている中、忍が前に出る。
「ここにいる皆さんは、オークの集落で捕らわれていた方々です。わたしたちが救出し、今は保護しています」

　その言葉に、館内が再びどよめく。

「捕虜……救出だと？」
「それでこの人数か……！」
「まさか、囚われてたのが……あんな立派な人物ばかりだったなんて……」

　翔は振り返り、仲間たちに短く視線を送った。
ユリウスが一歩前に出ようとしたが、翔が軽く手を上げて制する。
「ここでは余計な騒ぎになる。名乗るのは領主館でだ」

　ユリウスは唇を結び、静かに頷いた。


ギルド館・広間

　ざわめく広間の中で、ミアは翔たちが差し出した魔石を布袋に収め、震える手で握りしめた。
「……翔さん、忍さん。本当に……お二人は、この街にとって命の恩人です。これほどの討伐と救出劇……すぐに領主館へ報告しなければなりません」

　翔は頷き、言葉を返す。
「わかってる。だがその前に頼みがある。ブレイザーに残してきた二十五人の人々の保護を、ギルドでお願いしたい。捕まっていた彼らは、まだ疲れ切ってる」

　ミアは真剣な表情で深くうなずいた。
「もちろんです！　ギルドの名にかけてお守りします」

　忍が小さく微笑み、翔に囁く。
「……よかったですね。これで、彼らも安心できます」

　翔も笑みを浮かべ、ミアにもう一度頭を下げた。
「感謝する。じゃあ、領主館には俺たち――二人と、この仲間たちで向かう」

　ミアの目に決意が宿る。
「その前に……ギルドマスターにも、この件を直接報告していただきたいのです。どうぞ、二階の執務室へご一緒に」