キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第4章 新たな波紋

ギルマス室にて

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ギルマス室 ― 報告と驚愕の名乗り

 重厚な扉が閉まると、部屋の空気が一気に張り詰めた。
 壁には冒険者の歴代功績が飾られ、奥の机にはギルドマスターが腕を組んで座っている。隣にはミアが控え、緊張した面持ちで翔たちを見ていた。

「……まずは報告を聞こうか。清水翔、松田忍。昨日の朝、お前たちは討伐依頼を受けてこの街を発った。帰還は確認したが……どうやら一行だけではないようだな」

 ギルマスの視線が翔と忍の背後に注がれる。そこには、豪奢な衣服を纏った一団が静かに佇んでいた。

 翔は軽く頷き、一歩前に出る。
「はい。報告します。オーク集落討伐の任を受けて出立し、昨日より討伐を開始しました。途中、オークナイト十体と、オークキングを討伐。その過程で、オークに囚われていた人々三十二名を救出しました」

 ミアが息を呑み、ギルマスは眉を跳ね上げた。
「なに……キング、だと……? しかも囚われ人を三十二名……!」

 翔は小さく頷き、続ける。
「そのうち七名は今ここに。残り二十五名はブレイザーに待機させ、ギルドの保護をお願いしました」

 ミアがすぐに深く頷き、胸に手を当てる。
「すでに保護しております。ご安心ください」

「……そうか」
 ギルマスは息を吐き、今度は翔たちの後ろへと目をやる。
「だが……その後ろの者たち。どう見てもただの避難者ではないな。彼らは……一体何者だ?」

 部屋に重い沈黙が落ちる。
 その静けさを破ったのは、若き青年だった。

 ユリウスが一歩進み、胸元から輝く印籠を取り出す。
「我が名はユリウス・アルベルト。この国の王族、第二王子だ」

 その言葉と同時に、部屋の空気が凍りついた。
 ミアは膝を折りかけ、ギルマスでさえ目を見開いて立ち上がった。

「な……王子……だと……!?」

 カトリーナも一歩進み出て、深く会釈しながら印籠を掲げる。
「わたくしは、カトリーナ・フォン・エルンスト。辺境伯エルンスト家の令嬢にして、王都聖女候補の一人でございます」

 その名乗りに、ミアは口元を押さえ、震える声を漏らした。
「聖女候補……伯爵令嬢まで……!」

 ギルマスは額に手を当て、深い吐息をついた。
「……まさか。行方不明とされていた王子殿下と令嬢が、オークの囚われ人の中に……。貴様ら……いや、清水翔、松田忍。お前たちは一体、どれだけのことをしてきたのだ」

 翔は静かに息を整え、短く答える。
「俺たちはただ……依頼を果たしただけです」

 その言葉に、ギルマスもミアも、そして部屋にいる全員が言葉を失った。



英雄達の名乗り

 静まり返るギルドマスター室。その空気を切り裂くように、一人の壮年の男が一歩前に出た。
 肩幅広く、鍛え抜かれた体格。どこか戦場の匂いを纏うその男は、ゆっくりと名乗りを上げた。

「ブルーノ・ヴァイス……元冒険者だ」

 低く響く声に、ギルマスの瞳が大きく見開かれた。
「な……“剛腕のブルーノ”……!? Sランク昇格目前で姿を消した、お前が……ここに!」

 ミアも衝撃に口を押さえる。
「Sランク……!? あの王都でも片手で数えるほどしかいないという……」

 ブルーノは苦笑を浮かべ、頭を掻いた。
「……大げさに言うな。俺はただ、守るべき者を守れなかった。だから姿を消しただけだ」

 室内にどよめきが広がる。避難してきた若者たちも、まさか自分たちを護っていたのがそんな伝説級の冒険者だったとは知らず、口々に驚きの声を漏らした。



 次に、フードを外した青年が一歩進み出る。
 透き通るような銀髪、鋭い眼差し。その気配にギルマスは再び息を呑んだ。

「ガルド・ハイン。ハーフドワーフの鍛冶師だ」

 その名を聞いた瞬間、ミアがはっと声を上げた。
「まさか……“千鋼の名工”と呼ばれた、あの……!」

 ガルドはバーボンのグラスを軽く掲げ、にやりと笑った。
「名工だなんだと騒がれるのは性に合わんが……この酒を飲ませてくれるなら、俺は何でも打ってやるぞ」

 豪胆な言葉に、ギルマスも思わず苦笑し、場の緊張が一瞬だけ和らいだ。



 続けて、一人の女性が前に出る。
 深紅のローブを纏い、気品と迫力を兼ね備えた瞳が輝く。

「リーナ・マルセル。王宮直属の宮廷魔法指南役にして、“紅蓮のリーナ”と呼ばれていた者です」

 ギルマスは椅子から思わず立ち上がった。
「紅蓮のリーナ……!? 宮廷魔術師の中でも最年少にして上級魔法を極めたと噂されていた……!」

 その名を聞いた若い冒険者が息を呑み、思わず漏らす。
「なんでそんな人が……ここに……!」

 リーナは微笑み、視線をユリウス王子へと向けた。
「殿下の指南役として、この身を賭して護るために」



 次に前に出たのは、白衣を模したローブを羽織る青年。落ち着いた佇まいの奥に、確かな誇りが覗く。

「ヨアヒム・クライン。王宮お抱え薬士として、“万薬のヨアヒム”と呼ばれていた」

 ギルマスの表情が凍り付く。
「……地方の大疫病を、たった一人で鎮めたという、あの……!」

 ヨアヒムは静かに頷き、しかし瞳には影が宿る。
「多くを救ったが、すべてではなかった。それゆえに……今度こそ、殿下を護り抜くと決めている」



 最後に、細身の老人が杖をつきながら前に進む。
 皺だらけの顔に宿る瞳は、今なお知の炎を燃やし続けていた。

「ヘルマン・シュライバー。元王都魔導学院の学者だ。“叡智のヘルマン”と呼ばれていた」

 その名を聞いた瞬間、ギルマスの声が裏返った。
「ま、まさか……数十年に渡り魔導理論を築き上げてきた、そのご本人が……!」

 ヘルマンは笑いながら首を振る。
「名ばかりのものさ。だが、迷い人の出現を前に、再び知識を尽くすべき時が来たのだろう」


ギルマス室に静寂が訪れた。
積み上げられた魔石の山と、報告を終えた翔と忍、そしてその背後に並ぶ名だたる人物たち。その空気の重みを受けて、ギルマス・バルガスは深く頷いた。

「……この街にとっても、いや、この領地にとって計り知れぬ功績だ。翔殿、忍殿、そして――」
視線を背後に移し、王族と令嬢に頭を下げる。
「ユリウス殿下、カトリーナ令嬢。さらに皆々様。ここにお集まりいただいたこと、まさに奇跡と呼ぶべきでしょうな」

ミアも両手を胸の前で握りしめ、感極まった声を上げる。
「本当に……ありがとうございます。皆さまが無事にここに戻られたこと、それだけで……!」

沈黙が続き、やがてギルマスは重々しく口を開いた。
「――諸君にもご同行願いたい。領主館へ参ろう」

その一言に場の空気が動いた。
ユリウスが軽く頷き、毅然とした声で答える。
「承知した。俺たちも真実をしかと伝えるべきだ」

カトリーナも柔らかく微笑みながら言葉を添える。
「領主様には、私たちの口からもきちんと報告いたします」

翔は隣の忍と視線を交わし、深く息を吐いた。
「……よし、これで次は領主館だな」
忍も頷き、静かに微笑む。

こうして一行は、ギルマスと共に領主館へ向かう決意を固め、重い扉を開いた。



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