キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第4章 新たな波紋

領主館での報告

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領主館での報告

 広間を抜け、案内された執務室。そこには重厚な机と椅子が据えられ、領主バルド男爵と数人の側近たちが待ち構えていた。
 翔と忍、そして後ろに控えるユリウス王子ら七人が静かに並ぶ。部屋の空気は重く、誰も軽口を叩こうとはしなかった。

「――よく戻られた。まずは聞こう。討伐の結果は?」
 領主の低い声に、翔が頷き、腰に提げた袋を机の上へ置いた。

「オーク集落は壊滅させました。囚われていた人々――総勢三十二名も無事救出済みです。ギルドにて保護をお願いしてあります」

「三十二名……!」
 側近の一人が息を呑み、慌てて記録を取る。

 翔は袋を開き、中身を取り出し始めた。黒紫に光る魔石が、ひとつ、ふたつ……次々と机の上に積み上げられていく。

「これは雑魚のオークから手に入れた魔石。全部で百二十個以上あります」

 ざわ、と執務室の空気が揺れる。
「ひ、百二十……! 単体でもCランクに位置づけられる魔物だぞ。それがこの数……」
「街に流れ込んでいれば、被害は計り知れなかったでしょうな……」

 動揺する声を背に、翔はさらに袋から大きな魔石を取り出した。
「こちらが――オークナイト、十体分です」

 机の上に並べられた漆黒の魔石は、明らかに先ほどのものとは質も輝きも違う。
側近の一人が青ざめた顔で立ち上がり、震える声をあげた。
「こ、これほどの数のオークナイトが……!? 一体でも討伐依頼はAランクに相当するはず。それが十……!」

「……信じがたい。もし街に押し寄せていれば……」
「間違いなくバルドは滅んでおりましたな……」

 重苦しい声が次々と重なり、執務室に緊張が走る。

 そして、翔は最後の魔石をゆっくりと取り出した。
「……これが、オークキングの魔石です」

 どよめきでは済まされない。空気そのものが震えるような衝撃が、部屋を支配した。
「オークキング……! 伝承に語られる、群れを統べる王……!」
「討伐されたなど、聞いたことがないぞ……!」

 領主バルドは目を見開いたまま、机に両手をつき、絞り出すように言った。
「……恐ろしい。清水殿、松田殿。もし貴殿らが動かなければ、この街は……いや、この領全体が、オークの王とその眷属に蹂躙されていたやもしれん」

 言葉を失った側近たちも、ただ頷くしかなかった。

 その間、ユリウス王子、カトリーナ令嬢ら七人は一言も発さず、ただ静かに成り行きを見守っていた。彼らの沈黙は、この場の重みをさらに増していた。

 やがて、領主が深く息を吐き、椅子の背に身を預けた。
「……この街を救ったのは、間違いなく諸君だ。街を挙げて、盛大な祝宴を開かねばならん」

 別の側近が強く頷き、声を上げる。
「そうです! この異常なまでの魔物の動きは、市井の者も気づいております。英雄たちの帰還と討伐の報を広め、街に安心を取り戻すべきです!」


領主館での報告 ― 追加の報告

 執務室に重苦しい余韻が残る中、ギルドマスター・バルガスが一歩前に出た。
「領主様……実は、もう一つ重大な報告がございます」

 領主バルドが目を細め、バルガスに視線を向ける。
「……なんだ?」

 バルガスは深く頭を垂れたあと、翔と忍の背後に静かに佇む七人に目をやった。
「彼らは、オークの集落から救い出された者たちの中でも――特に重要な存在です」

 執務室に緊張が走る。側近たちも顔を見合わせ、ざわめきを抑えられない。

 ユリウスが一歩前に出ると、懐から小さなペンダント型の印籠を取り出した。
「王都より派遣された、アルベルト王家の次男――ユリウス・アルベルトだ」

 ざわっ……!
 側近たちの間にどよめきが広がった。
「お、王子殿下……!」
「まさか、行方不明とされていた……」

 ユリウスの隣で、栗色の髪の少女が胸を張って進み出る。
「わたくしは、辺境伯エルンスト家の長女、カトリーナ・フォン・エルンストです。殿下の婚約者として同行しておりましたが……護衛を失い、囚われの身となっておりました」

 今度は側近たちがさらに青ざめる。
「辺境伯令嬢まで……!」
「これほどの大事が……もしお二人を失っていれば、国家の一大事だった……!」

 続いて、他の護衛役たちも名乗りを上げた。

「ガルド・ハイン。ハーフドワーフの鍛冶師にして、王都お抱えの武具職人だ」
 ごつい腕を組むその姿に、側近の一人が目を剥いた。
「まさか、伝説級の武具を打ったという“鍛冶の二つ名持ち”……!」

「リーナ・マルセル。宮廷魔法指南役の一人。魔法使いとして殿下の側に仕えておりました」
「宮廷魔導師が……! オークどもに捕まっていたとは……」

「ヨアヒム・クライン。王宮薬士として仕えておりました。今は命を救っていただいた身、再び職務に戻れることを感謝いたします」
「王宮お抱えの薬士まで……!」

「ブルーノ・ヴァイス。元冒険者で、殿下の護衛を務めていた」
「ブルーノ……! Sランク昇格目前と噂されていた男ではないか……!」

 最後に、白髪の老学者が静かに進み出た。
「ヘルマン・シュライバー。王都魔導学院にて教鞭を執っておったが……今は殿下の指南役として仕えておる」
「魔導学院の……! 殿下を導いていた方までも……!」

 側近たちのざわめきは収まらず、領主自身も深い息を吐き、額に手を当てた。

「……なんということだ。国の未来を担う王族と、その婚約者、そして国の柱たる人材までもが……オークどもに囚われていたとは……」

 静まり返る室内。ユリウスは強い眼差しで翔と忍を振り返る。
「だが、俺たちはこうして救われた。君たちがいなければ、ここに立ってはいない」

 バルド男爵は深々と頭を下げた。
「清水殿、松田殿……そして、この七名を救ってくださったこと。領主として、心から感謝申し上げる」



「……これほどの大功績、そして王子殿下ご一行のご無事。街全体に知らせねばなるまい。いや、それだけでは足りぬ。バルドの街をあげて祝宴を催すべきだ!」

 バルガスの言葉に、執務室が一気にざわめいた。
 側近の一人が顔を強ばらせて口を挟む。
「で、ですが領主様……祝宴となれば食材や飲み物の確保が難しいかと。街の備蓄だけでは到底……」

 その声に、翔がゆっくりと前に出る。
「心配いらない。オークを百二十体、まるごと仕留めてある。肉ならいくらでもあるさ」

 側近たちが一斉にどよめき、驚愕の声を上げる。
「ひ、百二十体……!」
「街一つを飢えから救える量ではないか!」

 忍も一歩進み、柔らかな笑みを浮かべた。
「飲み物はブレイザーで用意できます。ただ、グラスの数までは足りませんから……皆さんに各自持参していただければ、どんな飲み物でも注いで差し上げます」

 場の空気が一気に熱を帯び、側近たちが慌ただしく動き出す。
「急ぎ広場に知らせを!」
「料理人を総出で呼べ! 大釜を準備だ!」
「街中に伝令を走らせろ! 英雄の帰還だ!」

 執務室は、祝宴の始まりを告げる熱気に包まれた。



 祝宴の準備の話で盛り上がる執務室の空気が、一度落ち着きを取り戻した。
 領主バルガスは深く椅子に腰掛け、真剣な表情でユリウスたち七人を見やった。

「……しかし、一つ大きな問題が残っている」
 低く放たれた声に、室内の熱気が一瞬にして張り詰める。
「王子殿下とカトリーナ嬢をはじめとする一行を、この街でどう扱うべきか……。王都からは護衛を伴って派遣されたはずが、彼らはすべて失われた。これ以上危険を冒させるわけにはいかぬ」

 ユリウスは唇を噛みしめ、拳を膝の上で握りしめる。
「……ごもっともです。ですが、我らだけで王都まで戻るのは不可能でしょう」

 沈黙が支配する中、翔が一歩前に出た。
「なら、俺たちが送ろうか」

 忍も隣でうなずき、穏やかに続ける。
「私たちならブレイザーもありますし、魔物との戦闘も問題ありません。王都までお届けするのが一番安全かと」

 バルガスは目を見開き、やがて深く頷いた。
「……なるほど、迷い人殿とその守護車ならば確かに。それに、すでにこの街を救った英雄だ。託すに十分な資格がある」

 ユリウスは驚きと感謝の入り混じった瞳で翔と忍を見つめる。
「……本当に、そこまでしてくださるのか」

 翔は口の端を上げ、短く答えた。
「決まってるだろ。見捨てられるわけがない」

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