キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第5章 王都への道

ブレイザー体験界 後編

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◆ キッチンエリア 

ブレイザーの扉が開き、案内されたのは光に包まれた清潔な厨房だった。
光沢を放つ箱、透明な扉のついた箱、そして平らな鉄板。

「……これは……厨房、なのか?」
バルド男爵が眉をひそめる。
「いや……見たこともない器具ばかりだ……」

ブレイザーの声が響く。
《説明しよう。冷蔵庫――食材を腐らせず保存する魔導庫。電子レンジ――食材を温め、調理を瞬時に行う器具。オーブン――高温で焼き上げる調理器具》

「腐らせず……保存だと……!?」
バルガスが目を剥いた。
「保存庫はどれも塩漬けや燻製が限界だぞ……! まさか生のまま……!」

翔が笑い、冷蔵庫から赤々とした魚と新鮮な野菜を取り出す。
「昨日獲れた素材を、そのままここに入れておいたんだ。見ろ、腐ってない」

バルド男爵は手を伸ばし、魚の目を見て息を呑む。
「……澄んでいる……生きていた頃と同じ輝きだ……! 腐敗の気配が全くない……」

バルガスは思わず椅子に手をつき、呻く。
「……街の食糧庫よりも、遥かに効率的……! この一つで冬を越せるではないか……!」

◆ 実演1:ポップコーン

翔が鍋に小さな粒を入れる。
やがて――パチッ! パパッ! 破裂音と共に白い花が弾けた。

「な、なんだこの音は!? 鍋が爆ぜているのか!?」
男爵が思わず立ち上がる。

翔が皿に盛って差し出す。
「食ってみろ」

バルド男爵は恐る恐る口に運び――目を丸くした。
「……軽い……香ばしい……! これは……酒に合うぞ……!」

バルガスもむさぼるように食べ、笑い声を上げた。
「止まらん! これは宴の革命だ!」

◆ 実演2:天ぷら

忍が野菜とエビを衣にくぐらせ、油へ落とす。
ジュワァァッ! 雷鳴のような音が響き、黄金色の衣が膨らんでいく。

「ぬ……ぬおおっ!? 油でこんな音が……!」
バルガスが椅子ごと身をのけぞる。

揚げたての天ぷらを塩で添えて差し出す。
「どうぞ。揚げたてを」

バルド男爵がかじり――サクッ。
「……! 衣は軽いのに、中は甘く瑞々しい……! これが……これが料理か……!」

バルガスも食らい、拳を握った。
「エビが……ぷりぷりだ……! 油料理は重いものばかりと思っていたが……これは別次元だ!」

◆ 実演3:寿司

忍が白米を握り、魚をのせて並べる。
赤と白が美しく並び、場の空気が張り詰めた。

「魚を……生で……!?」
バルド男爵が蒼白になる。

だが一口食べた瞬間、目を見開き、次に深く頷いた。
「……臭みがない……酢で整えられて、口の中でとろける……! 魚が宝石になるとは……!」

バルガスも黙って食し、額に汗をにじませた。
「握るだけで……この品格……。料理の概念が……覆される……!」

◆ 実演4:味噌汁と日本酒

翔が湯気を立てる椀を配った。
「味噌汁だ。体が温まる」

男爵がすすると、目を細めた。
「……ほう……塩気が柔らかく、出汁の旨味が身体に染み渡る……心がほどける……」

続いて酒瓶を掲げる。
「日本酒だ」

バルガスが一口含み、瞳を見開く。
「……甘い……だが喉を焼く……! 祝いの席にこれ以上のものはない……!」

バルド男爵は深く息を吐き、椅子に沈み込んだ。
「……我が領に数百の料理人を集めても、今日の一食に勝てぬだろう……」

◆ ベッドエリア 

キッチンの衝撃冷めやらぬまま、一行は最後の部屋へと案内された。
扉を開けた瞬間、ふわりと柔らかな空気が漂う。
そこには真白な布に覆われた大きなベッドが並び、優しい間接照明が淡く灯っていた。

「……な、なんだこの柔らかな光は……蝋燭でもない……魔石灯の類でもない……」
領主バルド男爵が思わず天井を仰ぐ。

ブレイザーの声が静かに説明する。
《LED照明。魔力を消費せず、長時間柔らかい光を放つ装置。読書も安眠も妨げない》

「魔力を……使わないだと……?」
ギルマス・バルガスは目を剥き、額を押さえた。
「……常識が次々と壊れていく……」

翔がベッドを軽く叩くと、ふわりと沈み込む。
「これが“マットレス”だ。横になってみろ」

バルド男爵は半信半疑で腰を下ろした瞬間――
「ぬ、ぬおおお……!? 体が沈む……だが押し返す……! これは……雲か!? 雲に寝ているのか!?」

そのまま背を預け、掛け布団を引き上げた。
「……軽い……! 羽毛でもここまで柔らかくはならん……。しかも温かい……! これは魔法か!? いや……魔法以上だ……!」

バルガスも震える手で横たわる。
リクライニング機能を翔が操作すると、ベッドの角度が変わり、バルガスの上体がゆっくりと起き上がった。

「ぬあああっ!? ベッドが……勝手に……角度を変えおった……!」
「本を読む姿勢に……仮眠の姿勢に……自在に変えられる」

バルガスはそのまま天井を見つめ、口を開けたまま言葉を失った。
やがて呻くように声を絞り出す。
「……こんな寝床を与えられたら……二度と藁の寝床には戻れぬ……!」

翔が笑い、壁際のスイッチを押す。
灯りが柔らかく消え、枕元に小さな光が灯った。

「これは“間接照明”だ。眠りにつく前に好きなだけ調整できる」

バルド男爵は完全に腰を抜かし、ベッドに転がりながら呟いた。
「……魔王の玉座より……いや、王国の王座すら……この寝床には敵わぬ……」

ギルマスも同じく、頭を抱えたまま呻く。
「迷い人の伝承……常識を覆す者……その通りだ……我らが今、証人となってしまった……!」

部屋を出るとき、二人は足元がふらつき、侍従に支えられていた。
その背を見ながらユリウス王子が小声で呟く。

「……やはり俺たちは、とんでもない存在と旅をすることになったのだな」

カトリーナが微笑んで頷いた。
「ええ。ですが……これ以上に頼もしい旅路はありませんわ」
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