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第5章 王都への道
王都の朝日 ― 英雄たちの帰還
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薄い霧の向こうから、黄金色の光が差し込み始めていた。
早朝の草原を、ブレイザーの滑るような車体が静かに進む。
昨日までの戦いの傷跡を残す大地とは違い、今は穏やかな風が旅路を撫でていた。
後部座席では、カトリーナとエリナが並んで窓の外を眺めている。
「……あのダンジョン、本当にすごかったですね」
「うん。魔物も、光も、音も……まるで生きてるみたいだった」
エリナが微笑み、掌を胸に当てる。
「でも、ブレイザーさんが人の姿になった時……ちょっと泣きそうでした」
その言葉に、ブレイザー――擬人化した青年の姿のまま座席に腰掛けた彼が、柔らかく微笑んだ。
《泣くほどの価値があったなら、光栄です。私はようやく、“皆と同じ世界”に立てました》
忍が湯気の立つカップを差し出す。
「ブレイザー、コーヒー淹れたわ。人の身体、慣れた?」
《ありがとうございます。……味覚、香り、温度。これが“味わう”ということなのですね。面白い》
「フフ、だったら次は辛いカレーでも食べてみる?」
翔の冗談に、ブレイザーは少しだけ真顔になる。
《私の冷却システムでは、辛味への耐性が未知数です》
その真面目な返答に、全員が吹き出した。
戦いの果てに得たもの
前夜の宴の記憶が、まだ全員の胸に残っていた。
焚き火の明かりの中、ブレイザーの擬人化を祝い、彼が注いだ酒で乾杯した夜。
ガルドはオリハルコンの塊を握りしめて涙を浮かべ、ヨアヒムは忍と新薬の調合案を語り合い、
リーナは魔法触媒に使える“闇結晶の眼”を手にして瞳を輝かせた。
「素材も、薬草も、最高の成果だな」
翔が窓の外を見ながら呟く。
「それに……結果的に二日もダンジョンに滞在したおかげで、王都に着くタイミングもちょうど良くなった」
運転席横のモニターにブレイザーの車体システムが表示され、淡く光る。
《はい。通常の馬車なら十日。ダンジョン滞在を含め、王都到着は八日目。予定より早すぎず、自然な到着になります》
ユリウスが満足げに頷く。
「王都も、私たちの帰還をちょうど待っている頃だろう。これ以上の演出はないな」
「ほんと、あんな化け物たちを倒してきたなんて、信じてもらえるかしら」
カトリーナが苦笑し、ミアが帳簿を開いて呟く。
「ギルド報告書、どう書いたらいいか……“神話級オーガナイト討伐成功”なんて書いたら信じてもらえませんよ……」
忍が微笑みながら言葉を添える。
「でも、証拠の素材はある。ガルドさんが加工すれば、一目瞭然ね」
「おうともよ! この魔鋼の皮膚とオリハルコンを組み合わせりゃ、神話級の武具ができる。
……ま、完成したら“英雄の装備”って呼ばれるだろうな!」
ガルドが豪快に笑うと、車内の空気が一気に明るくなった。
ブレイザーの新能力
《それにしても、翔様。今回の戦闘結果から得た経験値の上昇率は異常です》
「だろうな。神話級相手だったしな」
《はい。結果、翔様のレベルは42、忍様は41。私は37まで上昇しました》
「もう、化け物ね」
カトリーナが半ば呆れたように笑う。
「でも、レベルが上がるたびに翔さんの剣さばきが速くなってる気がします」
「気のせいじゃないさ。《覇気増幅》ってスキルのせいで、感覚そのものが研ぎ澄まされてるんだ」
《それに合わせて私も、重力結界の展開範囲を拡張済み。半径五キロ以内なら、どんな魔物も感知可能です》
「……ブレイザー、頼もしすぎる」
ユリウスが感嘆の息を漏らすと、擬人化した青年の姿のブレイザーはわずかに微笑んだ。
《守護は、私の本分です。翔様たちの未来を守るために存在していますから》
結界の下での静寂
昼過ぎ、ブレイザーが一時停車し、昼食を取ることになった。
結界を展開すると、淡い青の光が地平まで広がり、外界の魔力を遮断する。
「相変わらず完璧な結界ね。これなら野営も安心だわ」
忍がそう言いながら、手早く料理の準備を進める。
香ばしい肉の匂い、温かいスープの湯気――
静かな昼食は、戦いの緊張を忘れさせるように穏やかだった。
「……ねぇ翔さん」
ミアがスプーンを持ったまま顔を上げた。
「ダンジョンの一番奥にあった“封印の扉”……あれ、開けられなかったですよね?」
「あぁ。ブレイザーが言ってたな、あそこはまだ俺たちの戦力じゃ無理だって」
《はい。あの封印を護っていたエネルギー反応……神話級のさらに上、“古代級”に分類されます》
その言葉に、全員の表情が一瞬で引き締まった。
「古代級……」
ユリウスが低く呟き、リーナが頷く。
「つまり、あそこはただのダンジョンじゃなくて、“何かを封じてる”ってことね」
《その通りです。ですが、現状の戦力では突破率はわずか2%。次の段階へ進むには――さらなる力が必要でしょう》
翔はしばらく黙ってから、にやりと笑った。
「じゃあ、いつか必ず戻ってこよう。……俺たちの力で、あの封印を解くんだ」
その言葉に、全員が静かに頷いた。
王都アルディナへ
夕暮れが近づくころ、車内の窓越しに風景が変わっていった。
草原の向こうに、青白い霧の中にそびえ立つ巨大な城壁。
その上に金色の旗がはためいている。
「見えた……! 王都アルディナだ!」
ユリウスが立ち上がり、拳を握る。
「やっと……帰ってきたのね」
カトリーナが微笑み、頬を紅潮させる。
翔はブレイザーに向けて言った。
「ブレイザー、速度を落とせ。ゆっくり行こう。――これが、俺たちの“帰還”だ」
《了解。減速開始》
車体が滑るように速度を落とし、陽光を反射して輝く。
忍が窓の外を見つめながら呟く。
「ダンジョンでの戦いも、ブレイザーの擬人化も……全部この瞬間のためだった気がする」
「そうだな。次は――この王都で、何が待ってるかだ」
ブレイザーの擬人化体が前方を見据え、穏やかに言った。
《王都アルディナ。人と魔法、そして迷い人の交わる地。……物語の次章が始まります》
赤く染まる空の下、ブレイザーは静かに進む。
その背後に、十人の仲間と、燃えるような夕陽が長い影を伸ばしていた。
― 王都編 完 ―
早朝の草原を、ブレイザーの滑るような車体が静かに進む。
昨日までの戦いの傷跡を残す大地とは違い、今は穏やかな風が旅路を撫でていた。
後部座席では、カトリーナとエリナが並んで窓の外を眺めている。
「……あのダンジョン、本当にすごかったですね」
「うん。魔物も、光も、音も……まるで生きてるみたいだった」
エリナが微笑み、掌を胸に当てる。
「でも、ブレイザーさんが人の姿になった時……ちょっと泣きそうでした」
その言葉に、ブレイザー――擬人化した青年の姿のまま座席に腰掛けた彼が、柔らかく微笑んだ。
《泣くほどの価値があったなら、光栄です。私はようやく、“皆と同じ世界”に立てました》
忍が湯気の立つカップを差し出す。
「ブレイザー、コーヒー淹れたわ。人の身体、慣れた?」
《ありがとうございます。……味覚、香り、温度。これが“味わう”ということなのですね。面白い》
「フフ、だったら次は辛いカレーでも食べてみる?」
翔の冗談に、ブレイザーは少しだけ真顔になる。
《私の冷却システムでは、辛味への耐性が未知数です》
その真面目な返答に、全員が吹き出した。
戦いの果てに得たもの
前夜の宴の記憶が、まだ全員の胸に残っていた。
焚き火の明かりの中、ブレイザーの擬人化を祝い、彼が注いだ酒で乾杯した夜。
ガルドはオリハルコンの塊を握りしめて涙を浮かべ、ヨアヒムは忍と新薬の調合案を語り合い、
リーナは魔法触媒に使える“闇結晶の眼”を手にして瞳を輝かせた。
「素材も、薬草も、最高の成果だな」
翔が窓の外を見ながら呟く。
「それに……結果的に二日もダンジョンに滞在したおかげで、王都に着くタイミングもちょうど良くなった」
運転席横のモニターにブレイザーの車体システムが表示され、淡く光る。
《はい。通常の馬車なら十日。ダンジョン滞在を含め、王都到着は八日目。予定より早すぎず、自然な到着になります》
ユリウスが満足げに頷く。
「王都も、私たちの帰還をちょうど待っている頃だろう。これ以上の演出はないな」
「ほんと、あんな化け物たちを倒してきたなんて、信じてもらえるかしら」
カトリーナが苦笑し、ミアが帳簿を開いて呟く。
「ギルド報告書、どう書いたらいいか……“神話級オーガナイト討伐成功”なんて書いたら信じてもらえませんよ……」
忍が微笑みながら言葉を添える。
「でも、証拠の素材はある。ガルドさんが加工すれば、一目瞭然ね」
「おうともよ! この魔鋼の皮膚とオリハルコンを組み合わせりゃ、神話級の武具ができる。
……ま、完成したら“英雄の装備”って呼ばれるだろうな!」
ガルドが豪快に笑うと、車内の空気が一気に明るくなった。
ブレイザーの新能力
《それにしても、翔様。今回の戦闘結果から得た経験値の上昇率は異常です》
「だろうな。神話級相手だったしな」
《はい。結果、翔様のレベルは42、忍様は41。私は37まで上昇しました》
「もう、化け物ね」
カトリーナが半ば呆れたように笑う。
「でも、レベルが上がるたびに翔さんの剣さばきが速くなってる気がします」
「気のせいじゃないさ。《覇気増幅》ってスキルのせいで、感覚そのものが研ぎ澄まされてるんだ」
《それに合わせて私も、重力結界の展開範囲を拡張済み。半径五キロ以内なら、どんな魔物も感知可能です》
「……ブレイザー、頼もしすぎる」
ユリウスが感嘆の息を漏らすと、擬人化した青年の姿のブレイザーはわずかに微笑んだ。
《守護は、私の本分です。翔様たちの未来を守るために存在していますから》
結界の下での静寂
昼過ぎ、ブレイザーが一時停車し、昼食を取ることになった。
結界を展開すると、淡い青の光が地平まで広がり、外界の魔力を遮断する。
「相変わらず完璧な結界ね。これなら野営も安心だわ」
忍がそう言いながら、手早く料理の準備を進める。
香ばしい肉の匂い、温かいスープの湯気――
静かな昼食は、戦いの緊張を忘れさせるように穏やかだった。
「……ねぇ翔さん」
ミアがスプーンを持ったまま顔を上げた。
「ダンジョンの一番奥にあった“封印の扉”……あれ、開けられなかったですよね?」
「あぁ。ブレイザーが言ってたな、あそこはまだ俺たちの戦力じゃ無理だって」
《はい。あの封印を護っていたエネルギー反応……神話級のさらに上、“古代級”に分類されます》
その言葉に、全員の表情が一瞬で引き締まった。
「古代級……」
ユリウスが低く呟き、リーナが頷く。
「つまり、あそこはただのダンジョンじゃなくて、“何かを封じてる”ってことね」
《その通りです。ですが、現状の戦力では突破率はわずか2%。次の段階へ進むには――さらなる力が必要でしょう》
翔はしばらく黙ってから、にやりと笑った。
「じゃあ、いつか必ず戻ってこよう。……俺たちの力で、あの封印を解くんだ」
その言葉に、全員が静かに頷いた。
王都アルディナへ
夕暮れが近づくころ、車内の窓越しに風景が変わっていった。
草原の向こうに、青白い霧の中にそびえ立つ巨大な城壁。
その上に金色の旗がはためいている。
「見えた……! 王都アルディナだ!」
ユリウスが立ち上がり、拳を握る。
「やっと……帰ってきたのね」
カトリーナが微笑み、頬を紅潮させる。
翔はブレイザーに向けて言った。
「ブレイザー、速度を落とせ。ゆっくり行こう。――これが、俺たちの“帰還”だ」
《了解。減速開始》
車体が滑るように速度を落とし、陽光を反射して輝く。
忍が窓の外を見つめながら呟く。
「ダンジョンでの戦いも、ブレイザーの擬人化も……全部この瞬間のためだった気がする」
「そうだな。次は――この王都で、何が待ってるかだ」
ブレイザーの擬人化体が前方を見据え、穏やかに言った。
《王都アルディナ。人と魔法、そして迷い人の交わる地。……物語の次章が始まります》
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― 王都編 完 ―
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