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第6章 王都アルディナ編
帰還と歓迎の夜宴
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王との謁見を終えたその夜。
王城の大広間は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
天井に吊るされた百を超える燭台が輝き、光が金色の壁面を照らす。
演奏家たちが竪琴を奏で、香の煙がゆるやかに漂っていた。
「ユリウス殿下とカトリーナ令嬢の無事なる帰還、そして客人たちの勇敢な導きに祝福を!」
王レオニード三世の高らかな声が響き、拍手が鳴り渡る。
翔と忍、ブレイザー(擬人化体)は主賓席に、
その隣にはユリウス、カトリーナ、そして彼らの仲間――
エリナ、ガルド、リーナ、ヨアヒム、ブルーノ、ヘルマン、そしてギルド代表として同行していたミアの姿があった。
テーブルには煌びやかな料理が並び、甘い香りが満ちている。
焼かれた肉に濃厚なソース、黄金色に輝く果実酒。
まさに“王の宴”。
しかし――。
一口食べたユリウスとカトリーナは、どこか複雑な顔をしていた。
「どうした、殿下?」
ガルドが豪快に杯を傾けながら尋ねた。
ユリウスは少し困ったように笑う。
「うまい……確かにうまいんだ。けど……何かが違う気がしてならない」
「それ、わかります」
カトリーナがフォークを置く。
「確かにおいしいのですけど……あのとき、ブレイザー様の料理には“温かさ”がありました。
これは豪華だけれど、どこか……冷たいのです」
ミアも小さく頷いた。
「ブレイザー様の料理って、食べると胸がポカポカするんですよね。香りだけで笑顔になれる感じ……」
その言葉に、ヨアヒムが興味深そうに口を挟む。
「つまり、“香気層”が少ないんだ。素材の香りを引き出す加熱制御が違う」
リーナがワインを揺らしながら苦笑した。
「あなた、また専門的に言うわね。……でも、確かに違うわ。
ブレイザーの料理には魔力が流れてるような……そんな“生きた味”がするの」
「味に魔力? 妙なことを言う」
ブルーノが肩を竦めながら肉を噛みしめる。
「でも、たしかに俺も覚えてるぜ。あの串焼き……口に入れた瞬間に幸せになるやつだ」
「ふむ。料理に魂が宿る、というやつか」
ヘルマンが髭を撫でて笑った。
「おぬしたち、ずいぶん楽しげだな」
少し離れた席から王の声が飛ぶ。
全員が一斉に姿勢を正した。
王レオニード三世が興味深そうに微笑み、王妃エレナが隣で優しく首を傾げる。
「どうやら、我らの料理では満足できぬ様子だな?」
「い、いえ! 滅相もございません!」
ミアが慌てて立ち上がる。
だが、ユリウスが一歩前に出て頭を下げた。
「父上……正直に申し上げます。
確かに王城の料理は素晴らしい。だが、旅の途中で口にしたブレイザー殿の料理には……
何か特別なものがあったのです」
王妃が興味津々に目を輝かせた。
「特別な……味?」
カトリーナが静かに微笑む。
「香り、舌触り、温もり……そして、人の心を癒す味ですわ」
エリナが小さな声で付け加えた。
「……まるで、祈りのようでした」
王は一瞬黙り込み、そして深く笑った。
「……なるほど。料理に祈り、か。面白い。
翔殿、忍殿、ブレイザー殿――明日、そなたたちの料理をこの城で披露してはくれまいか?」
翔は驚いたように目を瞬かせた。
「俺たちが……王城で?」
「うむ。異国の味、異なる心を持つ者たちの技、ぜひ味わってみたい」
ブレイザーが優雅に一礼する。
《陛下のご厚意、光栄に存じます。明晩、“真の饗宴”をご用意いたしましょう》
翌日。
王城の厨房には、前夜以上の緊張が走っていた。
「お、おい……異国の客人たちが、料理をするんだってよ……」
「王の前で料理を? 前代未聞だ!」
そんな囁きが広がる中、翔、忍、そしてブレイザーが堂々と立っていた。
「よし、ブレイザー車から新鮮な食材を搬入。全員準備!」
《了解。自動調理補助、起動します》
ブレイザーの瞳が淡く光ると、調理台の上に整然と並ぶ食材群。
天ぷら、寿司、炊き込みご飯、味噌汁、果実酒、梅酒、日本酒、焼酎――
異世界では誰も見たことのない料理が次々と形を成していく。
リーナが香りを嗅いで目を細めた。
「……すごい、魔法のような香り……」
ヨアヒムが真剣な顔で呟く。
「これは……熱伝導がまるで違う。食材の繊維が壊れていない……」
ガルドは腕を組んで豪快に笑った。
「やっぱりこの匂いよ! あの時の飯だ! 腹が鳴るぜ!」
忍が軽やかに寿司を握り、翔が天ぷらを揚げる。
ブレイザーが手際よく盛り付け、仕上げの香草を散らす。
黄金色の湯気、パリパリの音、ほのかな甘辛い香り。
厨房全体が“食欲の魔法”に支配されていた。
夜。
王城大広間に再び長卓が並び、王と王妃、ユリウス一行、貴族たちが見守る中――
「これが、“異国の宴”です」
翔が深く一礼した。
最初の一口を王が運ぶ。
「……なんと……!」
王妃も目を見開き、手を口に当てた。
「まるで……香りが生きている……!」
貴族たちも次々に口にし、ざわめきが広がる。
「これは……料理なのか? 芸術だ!」
「舌が踊るとはこのことか!」
ミアが涙ぐみながら呟く。
「……やっぱりブレイザー様の料理は、食べる人を幸せにするんです……」
王は立ち上がり、杯を掲げた。
「見事だ! 翔殿、忍殿、ブレイザー殿――貴公らを我が王家の従者として迎えたい!」
場がどよめいた。
翔は静かに首を横に振る。
「陛下、ありがたいお言葉ですが……私たちには果たすべき使命があります」
王が目を細める。
「使命?」
忍が静かに前に出た。
「……陛下、私たちはこの世界の人間ではありません。
――私たちは“迷い人”です」
一瞬の沈黙。
王妃が手を口に当てたまま息を呑む。
「……やはり……伝承は真だったのね……」
王は深く頷き、重々しく言葉を紡ぐ。
「昔、私の祖先も迷い人に会ったと伝えられている。
だが、その詳細は王族にしか知らぬ。
“封印の書庫”に、すべての記録が眠っているのだ」
王妃が不安げに夫を見た。
「あなた、まさか……あの部屋を……」
「うむ。翔殿、忍殿。君たちにはその閲覧を許す。
過去の迷い人たちが何を為し、何を残したか……知る権利がある」
ブレイザーが静かに一礼した。
《感謝いたします、陛下。必ずや、その知識を未来に生かしましょう》
王は穏やかに笑い、杯を掲げる。
「では――新たなる時代の旅人たちに祝福を!」
拍手と歓声が広がり、黄金の夜が更けていった。
王城の大広間は、かつてないほどの熱気に包まれていた。
天井に吊るされた百を超える燭台が輝き、光が金色の壁面を照らす。
演奏家たちが竪琴を奏で、香の煙がゆるやかに漂っていた。
「ユリウス殿下とカトリーナ令嬢の無事なる帰還、そして客人たちの勇敢な導きに祝福を!」
王レオニード三世の高らかな声が響き、拍手が鳴り渡る。
翔と忍、ブレイザー(擬人化体)は主賓席に、
その隣にはユリウス、カトリーナ、そして彼らの仲間――
エリナ、ガルド、リーナ、ヨアヒム、ブルーノ、ヘルマン、そしてギルド代表として同行していたミアの姿があった。
テーブルには煌びやかな料理が並び、甘い香りが満ちている。
焼かれた肉に濃厚なソース、黄金色に輝く果実酒。
まさに“王の宴”。
しかし――。
一口食べたユリウスとカトリーナは、どこか複雑な顔をしていた。
「どうした、殿下?」
ガルドが豪快に杯を傾けながら尋ねた。
ユリウスは少し困ったように笑う。
「うまい……確かにうまいんだ。けど……何かが違う気がしてならない」
「それ、わかります」
カトリーナがフォークを置く。
「確かにおいしいのですけど……あのとき、ブレイザー様の料理には“温かさ”がありました。
これは豪華だけれど、どこか……冷たいのです」
ミアも小さく頷いた。
「ブレイザー様の料理って、食べると胸がポカポカするんですよね。香りだけで笑顔になれる感じ……」
その言葉に、ヨアヒムが興味深そうに口を挟む。
「つまり、“香気層”が少ないんだ。素材の香りを引き出す加熱制御が違う」
リーナがワインを揺らしながら苦笑した。
「あなた、また専門的に言うわね。……でも、確かに違うわ。
ブレイザーの料理には魔力が流れてるような……そんな“生きた味”がするの」
「味に魔力? 妙なことを言う」
ブルーノが肩を竦めながら肉を噛みしめる。
「でも、たしかに俺も覚えてるぜ。あの串焼き……口に入れた瞬間に幸せになるやつだ」
「ふむ。料理に魂が宿る、というやつか」
ヘルマンが髭を撫でて笑った。
「おぬしたち、ずいぶん楽しげだな」
少し離れた席から王の声が飛ぶ。
全員が一斉に姿勢を正した。
王レオニード三世が興味深そうに微笑み、王妃エレナが隣で優しく首を傾げる。
「どうやら、我らの料理では満足できぬ様子だな?」
「い、いえ! 滅相もございません!」
ミアが慌てて立ち上がる。
だが、ユリウスが一歩前に出て頭を下げた。
「父上……正直に申し上げます。
確かに王城の料理は素晴らしい。だが、旅の途中で口にしたブレイザー殿の料理には……
何か特別なものがあったのです」
王妃が興味津々に目を輝かせた。
「特別な……味?」
カトリーナが静かに微笑む。
「香り、舌触り、温もり……そして、人の心を癒す味ですわ」
エリナが小さな声で付け加えた。
「……まるで、祈りのようでした」
王は一瞬黙り込み、そして深く笑った。
「……なるほど。料理に祈り、か。面白い。
翔殿、忍殿、ブレイザー殿――明日、そなたたちの料理をこの城で披露してはくれまいか?」
翔は驚いたように目を瞬かせた。
「俺たちが……王城で?」
「うむ。異国の味、異なる心を持つ者たちの技、ぜひ味わってみたい」
ブレイザーが優雅に一礼する。
《陛下のご厚意、光栄に存じます。明晩、“真の饗宴”をご用意いたしましょう》
翌日。
王城の厨房には、前夜以上の緊張が走っていた。
「お、おい……異国の客人たちが、料理をするんだってよ……」
「王の前で料理を? 前代未聞だ!」
そんな囁きが広がる中、翔、忍、そしてブレイザーが堂々と立っていた。
「よし、ブレイザー車から新鮮な食材を搬入。全員準備!」
《了解。自動調理補助、起動します》
ブレイザーの瞳が淡く光ると、調理台の上に整然と並ぶ食材群。
天ぷら、寿司、炊き込みご飯、味噌汁、果実酒、梅酒、日本酒、焼酎――
異世界では誰も見たことのない料理が次々と形を成していく。
リーナが香りを嗅いで目を細めた。
「……すごい、魔法のような香り……」
ヨアヒムが真剣な顔で呟く。
「これは……熱伝導がまるで違う。食材の繊維が壊れていない……」
ガルドは腕を組んで豪快に笑った。
「やっぱりこの匂いよ! あの時の飯だ! 腹が鳴るぜ!」
忍が軽やかに寿司を握り、翔が天ぷらを揚げる。
ブレイザーが手際よく盛り付け、仕上げの香草を散らす。
黄金色の湯気、パリパリの音、ほのかな甘辛い香り。
厨房全体が“食欲の魔法”に支配されていた。
夜。
王城大広間に再び長卓が並び、王と王妃、ユリウス一行、貴族たちが見守る中――
「これが、“異国の宴”です」
翔が深く一礼した。
最初の一口を王が運ぶ。
「……なんと……!」
王妃も目を見開き、手を口に当てた。
「まるで……香りが生きている……!」
貴族たちも次々に口にし、ざわめきが広がる。
「これは……料理なのか? 芸術だ!」
「舌が踊るとはこのことか!」
ミアが涙ぐみながら呟く。
「……やっぱりブレイザー様の料理は、食べる人を幸せにするんです……」
王は立ち上がり、杯を掲げた。
「見事だ! 翔殿、忍殿、ブレイザー殿――貴公らを我が王家の従者として迎えたい!」
場がどよめいた。
翔は静かに首を横に振る。
「陛下、ありがたいお言葉ですが……私たちには果たすべき使命があります」
王が目を細める。
「使命?」
忍が静かに前に出た。
「……陛下、私たちはこの世界の人間ではありません。
――私たちは“迷い人”です」
一瞬の沈黙。
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「うむ。翔殿、忍殿。君たちにはその閲覧を許す。
過去の迷い人たちが何を為し、何を残したか……知る権利がある」
ブレイザーが静かに一礼した。
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