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第6章 王都アルディナ編
封印の書庫 ― 迷い人の記録
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朝の光が王城の庭園を金色に染めていた。
噴水の水がきらめき、小鳥たちが枝の上で歌う。
王城の一角――庭園のテラスに、白いクロスの長卓が設けられていた。
そこに並ぶ料理は、どれも見慣れぬ品々。
焼きたてのパンと白いご飯、出汁の香る味噌汁、ふんわりとした卵焼きに、香ばしい焼き魚。
そして、香り高い紅茶と挽きたてのコーヒーが並ぶ。
「……これが“朝食”というものなのですね」
王妃エレナがスプーンを手に取り、柔らかく微笑んだ。
「はい、陛下方に合わせて少し洋風にしましたが、
本来は、私たちの世界では一日の始まりに食べる定番の食事です」
忍が丁寧に説明しながら微笑んだ。
王レオニード三世が味噌汁を口に運び、思わず目を見開く。
「……なんと優しい味だ……身体が芯から温まる……」
「塩味が控えめなのに、こんなに旨味が出るとは……」
王妃も頷きながら目を細めた。
「この“だし”というのは何から取っているのですか?」
「昆布と魚の乾物です。旨味を引き出す基本の調味ですね」
翔が笑いながら答えると、王は興味深げに頷いた。
「なるほど……“旨味”。この言葉、気に入ったぞ」
周囲ではユリウスやカトリーナたちも感嘆の声を漏らしていた。
「やっぱりブレイザーの料理は格が違うな」
「ええ……お城の厨房にも伝えたいぐらいですわ」
「……俺、もう王城の飯に戻れねぇかもしれん」
ガルドが苦笑し、ミアが吹き出す。
その穏やかな空気の中で、王が静かに声を発した。
「――さて。昨日の晩餐のあとに話した“封印の書庫”の件だが……」
場の空気が少しだけ引き締まる。
王妃が続ける。
「この王城の地下深くに、私たち王族しか知らぬ“禁断の書庫”があります。
そこには……迷い人に関するすべての記録が眠っているのです」
「迷い人……」
翔と忍が顔を見合わせた。
「行ってみたい」
翔の言葉に、王は頷いた。
「だろうと思った。だが、そこは容易には入れぬ。
今から私とエレナ、そして君たち三人だけで向かう」
「三人……?」
「うむ。ブレイザー殿も同行してもらう。書庫は機構と魔術が複雑に絡んでいる。
君たちの協力がなければ、封印を解くことすらできまい」
ブレイザーが静かに頭を下げる。
《陛下のご判断に感謝いたします》
ユリウスが立ち上がりかけたが、王が手で制した。
「ユリウス、お前たちはここで待て。
封印の書庫は、この国の根幹に関わる。王族以外に立ち入りは許されぬ」
「……わかりました、父上」
少し寂しげに頭を下げるユリウスを、カトリーナが見送る。
翔は深く息を吸い、忍と目を合わせた。
「行こう、忍。真実を確かめる時だ」
「ええ、翔くん」
王城地下 ― 禁断の書庫
王と王妃に導かれ、王城の最深部へ。
幾重もの石階段を下り、松明の灯りが届かないほどの暗闇の中を進む。
やがて、巨大な石壁の一部が淡く光り、魔法陣の形が浮かび上がった。
「ここが……隠し扉?」
忍が呟くと、王妃が小さく頷く。
「ええ。王家の血に反応する封印です。――開けます」
王と王妃が同時に手をかざす。
淡い光が走り、重厚な石扉が音もなく開いた。
その先に広がっていたのは、
古代の空気そのものが閉じ込められたような巨大空間――“封印の書庫”。
天井の高い石造りのホール。
壁一面に並ぶ古書と魔導端末。
そして、中央には透明なカプセルが鎮座していた。
中には――人が横たわっている。
翔は息を呑んだ。
「……これが……初代迷い人……?」
王が頷く。
「そうだ。千年以上前、この地に現れ、王国を築く礎を作った男だ。
彼の名は――“高坂 亮”」
忍が思わず前に出る。
「高坂……? 日本の名字……」
ブレイザーが目を光らせ、低く言う。
《解析開始。……この個体の保管データを検出。生体活動は極低温下で維持中。
――コールドスリープ状態です》
「つまり……生きてるの?」
翔の問いに、ブレイザーが肯定の音を鳴らした。
《はい。生命活動は極限まで抑制されていますが、再起動可能です》
忍が震える声で問う。
「……なぜ、こんな形で封印を……?」
王妃が静かに目を伏せる。
「彼は“科学”という力をもって国を救った。
しかし、それは同時に人々に恐れを抱かせた。
――そして彼自身が、それを封じたのです」
翔は拳を握った。
「……自ら、か」
ブレイザーが淡く光を放ち、書庫の中枢端末に接続する。
《情報解析中……完了。追加情報を確認。
高坂亮氏は、我々の現代より約三百年後の未来から来訪》
忍が目を見開く。
「未来……? じゃあ、彼の持ってる技術は――私たちより進んでる……」
《その通りです。技術体系は私の内部構造よりも高度。
吸収解析を開始します》
ブレイザーの体表が光に包まれ、幾つものコードが浮かび上がる。
《解析完了――“未来統合モード”へ進化。
通信範囲拡張、演算能力+300%、新機能《量子演算型ドローン管制》追加》
翔が苦笑した。
「……また化け物みたいになってきたな、ブレイザー」
《誉め言葉として受け取っておきます》
王が少し表情を引き締めた。
「その者を蘇らせるには、条件があると記されていた。
“再起動の鍵”と呼ばれる三つの聖遺物――
それが揃わぬ限り、封印は解けぬ」
忍がすぐに尋ねる。
「その場所はわかっているんですか?」
《解析結果:一つは“迷宮都市エルグラード”に所在。
残り二つは位置情報不明――データ損傷》
翔が深く息を吸った。
「……なら、まずはそこだな」
王妃が静かに言う。
「翔殿、忍殿……あなたたちがこの世界に現れたのは、偶然ではないのかもしれません。
“未来”から来た者が残した願いを、今のあなたたちが受け継ぐ――
それこそ、この世界が選んだ必然なのかもしれません」
忍が小さく笑みを浮かべた。
「……なら、私たちが“未来”を取り戻してみせます」
翔も頷き、ブレイザーと視線を交わす。
「よし、次の目的地は――迷宮都市エルグラードだ」
ブレイザーが軽く敬礼した。
《新たな航路を設定――出発準備を開始します》
王が微笑み、ゆっくりと告げた。
「どうか気をつけて行け。
そして、いつの日か……“封印の者”を解き放ってやってくれ」
翔たちは深く頭を下げ、
再び新たな冒険へと――静かに歩みを進めた。
噴水の水がきらめき、小鳥たちが枝の上で歌う。
王城の一角――庭園のテラスに、白いクロスの長卓が設けられていた。
そこに並ぶ料理は、どれも見慣れぬ品々。
焼きたてのパンと白いご飯、出汁の香る味噌汁、ふんわりとした卵焼きに、香ばしい焼き魚。
そして、香り高い紅茶と挽きたてのコーヒーが並ぶ。
「……これが“朝食”というものなのですね」
王妃エレナがスプーンを手に取り、柔らかく微笑んだ。
「はい、陛下方に合わせて少し洋風にしましたが、
本来は、私たちの世界では一日の始まりに食べる定番の食事です」
忍が丁寧に説明しながら微笑んだ。
王レオニード三世が味噌汁を口に運び、思わず目を見開く。
「……なんと優しい味だ……身体が芯から温まる……」
「塩味が控えめなのに、こんなに旨味が出るとは……」
王妃も頷きながら目を細めた。
「この“だし”というのは何から取っているのですか?」
「昆布と魚の乾物です。旨味を引き出す基本の調味ですね」
翔が笑いながら答えると、王は興味深げに頷いた。
「なるほど……“旨味”。この言葉、気に入ったぞ」
周囲ではユリウスやカトリーナたちも感嘆の声を漏らしていた。
「やっぱりブレイザーの料理は格が違うな」
「ええ……お城の厨房にも伝えたいぐらいですわ」
「……俺、もう王城の飯に戻れねぇかもしれん」
ガルドが苦笑し、ミアが吹き出す。
その穏やかな空気の中で、王が静かに声を発した。
「――さて。昨日の晩餐のあとに話した“封印の書庫”の件だが……」
場の空気が少しだけ引き締まる。
王妃が続ける。
「この王城の地下深くに、私たち王族しか知らぬ“禁断の書庫”があります。
そこには……迷い人に関するすべての記録が眠っているのです」
「迷い人……」
翔と忍が顔を見合わせた。
「行ってみたい」
翔の言葉に、王は頷いた。
「だろうと思った。だが、そこは容易には入れぬ。
今から私とエレナ、そして君たち三人だけで向かう」
「三人……?」
「うむ。ブレイザー殿も同行してもらう。書庫は機構と魔術が複雑に絡んでいる。
君たちの協力がなければ、封印を解くことすらできまい」
ブレイザーが静かに頭を下げる。
《陛下のご判断に感謝いたします》
ユリウスが立ち上がりかけたが、王が手で制した。
「ユリウス、お前たちはここで待て。
封印の書庫は、この国の根幹に関わる。王族以外に立ち入りは許されぬ」
「……わかりました、父上」
少し寂しげに頭を下げるユリウスを、カトリーナが見送る。
翔は深く息を吸い、忍と目を合わせた。
「行こう、忍。真実を確かめる時だ」
「ええ、翔くん」
王城地下 ― 禁断の書庫
王と王妃に導かれ、王城の最深部へ。
幾重もの石階段を下り、松明の灯りが届かないほどの暗闇の中を進む。
やがて、巨大な石壁の一部が淡く光り、魔法陣の形が浮かび上がった。
「ここが……隠し扉?」
忍が呟くと、王妃が小さく頷く。
「ええ。王家の血に反応する封印です。――開けます」
王と王妃が同時に手をかざす。
淡い光が走り、重厚な石扉が音もなく開いた。
その先に広がっていたのは、
古代の空気そのものが閉じ込められたような巨大空間――“封印の書庫”。
天井の高い石造りのホール。
壁一面に並ぶ古書と魔導端末。
そして、中央には透明なカプセルが鎮座していた。
中には――人が横たわっている。
翔は息を呑んだ。
「……これが……初代迷い人……?」
王が頷く。
「そうだ。千年以上前、この地に現れ、王国を築く礎を作った男だ。
彼の名は――“高坂 亮”」
忍が思わず前に出る。
「高坂……? 日本の名字……」
ブレイザーが目を光らせ、低く言う。
《解析開始。……この個体の保管データを検出。生体活動は極低温下で維持中。
――コールドスリープ状態です》
「つまり……生きてるの?」
翔の問いに、ブレイザーが肯定の音を鳴らした。
《はい。生命活動は極限まで抑制されていますが、再起動可能です》
忍が震える声で問う。
「……なぜ、こんな形で封印を……?」
王妃が静かに目を伏せる。
「彼は“科学”という力をもって国を救った。
しかし、それは同時に人々に恐れを抱かせた。
――そして彼自身が、それを封じたのです」
翔は拳を握った。
「……自ら、か」
ブレイザーが淡く光を放ち、書庫の中枢端末に接続する。
《情報解析中……完了。追加情報を確認。
高坂亮氏は、我々の現代より約三百年後の未来から来訪》
忍が目を見開く。
「未来……? じゃあ、彼の持ってる技術は――私たちより進んでる……」
《その通りです。技術体系は私の内部構造よりも高度。
吸収解析を開始します》
ブレイザーの体表が光に包まれ、幾つものコードが浮かび上がる。
《解析完了――“未来統合モード”へ進化。
通信範囲拡張、演算能力+300%、新機能《量子演算型ドローン管制》追加》
翔が苦笑した。
「……また化け物みたいになってきたな、ブレイザー」
《誉め言葉として受け取っておきます》
王が少し表情を引き締めた。
「その者を蘇らせるには、条件があると記されていた。
“再起動の鍵”と呼ばれる三つの聖遺物――
それが揃わぬ限り、封印は解けぬ」
忍がすぐに尋ねる。
「その場所はわかっているんですか?」
《解析結果:一つは“迷宮都市エルグラード”に所在。
残り二つは位置情報不明――データ損傷》
翔が深く息を吸った。
「……なら、まずはそこだな」
王妃が静かに言う。
「翔殿、忍殿……あなたたちがこの世界に現れたのは、偶然ではないのかもしれません。
“未来”から来た者が残した願いを、今のあなたたちが受け継ぐ――
それこそ、この世界が選んだ必然なのかもしれません」
忍が小さく笑みを浮かべた。
「……なら、私たちが“未来”を取り戻してみせます」
翔も頷き、ブレイザーと視線を交わす。
「よし、次の目的地は――迷宮都市エルグラードだ」
ブレイザーが軽く敬礼した。
《新たな航路を設定――出発準備を開始します》
王が微笑み、ゆっくりと告げた。
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