キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第7章 迷宮都市編

目覚めの朝と、ブレイザーの朝食

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夜明け前、森を包む霧がゆっくりとほどけていく。
ブレイザー号の外装は、朝露をまとい、薄い金色に輝いていた。

《起床シーケンス開始。照度二〇パーセント。マスター、睡眠時間七時間十二分を確認》

穏やかな声が車内に流れ、柔らかな照明が点灯する。
翔は寝ぼけ眼をこすりながら身を起こした。隣で、忍がシーツの中で小さく寝返りをうつ。
二人の個室は、ダブルベッドの奥にシャワー・浴槽・トイレを備えた、快適なプライベートルームだった。

「……おはよう、翔くん」
「おはよ……もう朝か」
《おはようございます。外気温摂氏十五度、湿度五十六パーセント。朝靄に微弱な魔力粒子を検知》
「観測が細かいな、ブレイザー。湯は出るか?」
《シャワー三十八度、浴槽四十一度。どちらも使用可能です》

忍が髪をまとめて立ち上がる。
「じゃあ、先にシャワー借りるね」
「どうぞ」

浴室のドアが閉まり、水音がやわらかく響いた。
翔はあくびを噛み殺しながら伸びをし、天井を見上げる。
カーテン越しの光が、森の葉を金色に照らしていた。

――その頃、他の個室でも朝が始まっていた。

《おはようございます、ガルド様。睡眠時間六時間二十一分を確認》
「んぁ……悪くねぇ。なあブレイザー、ビール冷えてるか?」
《冷却ユニット稼働中。温度摂氏三度、いつでも提供可能です》
「上等だ。朝の一杯がなきゃ始まらねぇ」
《了解。ジョッキを冷却モードで提供します》
ガルドは大きく伸びをして、渡されたジョッキを受け取ると、そのまま一気に飲み干した。
「ぷはっ……よし、今日もいい日になりそうだ」

一方、ヨアヒムの部屋では、柔らかな薬草の香りが漂っていた。
小瓶を並べ、液体の色を確かめながら、まだ少し眠たげにノートへ記録を書き込んでいる。
「……リュミナ草の抽出液、順調。魔力残留も安定してる」
《おはようございます、ヨアヒム様。体温三十六度一分、平常範囲内。服薬時間まで十五分》
「ありがとう。朝食後に飲むよ」
《承知しました》

――そのころ、翔と忍の部屋。

シャワーを終えた忍が、濡れた髪をタオルで押さえながら出てきた。
「お風呂、最高だったわ。湯気の香りまで整ってるのね」
「調香モードだな。森の樹液の香りを再現してるらしい」
忍が微笑む。「あなたも浴びてきたら? 顔がまだ寝てる」
「……うるせぇ」翔は笑いながらシャワールームへ向かった。

照明が灯り、湯が滑らかに流れ出す。
《マスター専用設定を適用。香気:ヒノキ。目覚め補助モード起動》

湯が肌を打つたび、眠気がすっと抜けていく。
「……やっぱ最高だな。文明の極みだ」
《ありがとうございます。人間の朝は、清潔から始まります》

シャワーを終えた翔が髪を拭きながら出てくると、忍がカップを手に微笑んだ。
「ようやく目が覚めたみたいね」
「まあな。で、飯は?」

《調理シーケンス起動。個別メニュー構成:
 マスター=和食、
 忍様=洋食、
 ガルド様=高たんぱく食、
 ヨアヒム様=薬草栄養食。
 加熱ユニット稼働開始》

《朝食の準備が整いました。リビングへどうぞ》

翔と忍が連れ立ってリビングへ向かうと、ガルドとヨアヒムがすでに席についていた。
擬人化したブレイザーが姿を現し、優雅に一礼する。
「おはようございます、皆さま。本日の朝食をお持ちいたします」

テーブルには、それぞれの朝が並んでいた。

翔の前には──ご飯大盛り、納豆、シャケの塩焼き、半熟の目玉焼き。そして香ばしい緑茶。
忍の皿には──トースト、スクランブルエッグ、ウインナー、サラダ。やわらかな香りのミルクティー。
ガルドには──干し肉と温かな根菜スープ。そして、キンと冷えたビール。朝日を受けて泡がきらめく。
ヨアヒムには──薬草入りのシリアルボウル。蜂蜜とナッツ、刻んだリュミナ草の香りとともに、果実100%のミックスジュースが淡く光っていた。

「この香り……リュミナ草ですね。消化を助ける作用があります」
「はい、ヨアヒム様の体調に合わせて調整いたしました。朝は軽めに、とのご要望でしたので」
「……完璧です」ヨアヒムが穏やかに微笑む。

ガルドはジョッキを片手に笑いながら言った。
「朝っぱらからビールってのは最高だな! こうでなくっちゃ生きてる気がしねぇ」
「飲みすぎて動けなくならなきゃいいけどね」忍が苦笑する。

翔がシャケを一口食べてうなずいた。
「うん、塩加減も炭の香りも完璧だ」
《焼成アルゴリズム最適化成功。風味強度一一%向上》
「お前、料理でも進化すんのか」
「努力は進化の源でございます、マスター」

食事を終え、食卓には湯気の消えかけたカップと空の皿が残った。
忍がミルクティーのカップを手に取り、微笑みながら言う。
「ブレイザー、ミルクティーのおかわりお願いできる?」
「かしこまりま──」

その瞬間、ブレイザーの指先が淡く光った。
「……マスター、魔力波を感知しました」
《外部魔力反応、北西方位三百十二メートル先。波動周期、十秒間隔》

場の空気が一変する。
翔と忍が顔を見合わせ、ガルドがジョッキを置く。
ヨアヒムの表情にわずかな緊張が走った。

「人工的な魔力……この辺に他のキャンプなんてないよな」翔が言う。
「ええ。行ってみましょう」忍が立ち上がる。

ブレイザーは一礼した。
「かしこまりました。朝の運動には、ほどよい距離でございます」
《安全ルート計算中。推定移動時間、十八分》

ドアが開き、冷たい朝の空気が流れ込む。
森の香りと鳥の声が混じり合う。

《外部干渉レベル上昇──未知の信号、同調率十二パーセント》
ブレイザーが静かに呟く。
「……この波動、どこか懐かしい感触です」

風が、森の奥から冷たく吹き抜けた。
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