キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第9章 理の紋章編

理の紋章の行方と星を見守る三つの魂

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 氷の洞窟は、まるで星の胎内のように静まり返っていた。
 翔と忍は、無言で蒼い結晶を見つめていた。
 それは“理の紋章”――この世界の創世に関わる最後の鍵。

《警告。魔力密度が極限値に到達。空間歪曲を確認。》
 ブレイザーの報告が届く。

 次の瞬間、蒼い光が弾け、洞窟の天井が裂けた。
 圧倒的な光が流れ込み、翔と忍の身体が浮き上がる。
 視界が白に染まり、全身が空気ごと引き抜かれるような感覚。

 気づけば、二人は空にいた。
 青く広がる海。水平線の向こうに、巨大な龍がいた。

 その翼が動くたび、空が震え、世界が脈打つ。

  “風の半神、清水翔。水の半神、松田忍。理の半神、高坂亮。
 お前たちは、かつて私――光龍と共に、この星を見守っていた。”

 空気が凍りつくような声だったが、不思議と懐かしかった。
 翔と忍の胸が痛いほど熱くなり、頭の奥で、古い記憶が目を覚ます。

 風が歌い、水が踊る。
 そして、金色の光がその中心で輝いていた。
 ――三つの魂。風、水、理。

「……俺たちが……?」翔の声が震える。
「地球を……見守っていた?」忍が呟く。

  “そうだ。
 風は流れを、水は循環を、理は均衡を。
 お前たちは、生命と世界の秩序を保つために生まれた三柱の半神。
 私はその守護者――“理を束ねる龍”。
 そして、星そのもの。”

 映像が空に浮かび上がる。
 緑に輝く地球。豊かな海と森。
 だが、それは徐々に黒く染まっていった。
 煙、汚染、争い。
 理が乱れ、風は濁り、水は死に始めた。

  “人は理を忘れ、奪い、壊し続けた。
 星は悲鳴を上げ、私は決断した。”

 龍の翼が大地を裂く。
 太平洋の中央が光を放ち、巨大な大陸が浮上していく。
 それが、この異世界の始まり。

  “星の魔力が最も濃い場所――北太平洋の中心を切り離した。
 理を守るため、もうひとつの世界を創ったのだ。”

 翔と忍の胸が激しく脈打つ。
 風と水の力が反応している。
 彼らは確かに、その時“見ていた”。

  “だが、三つの魂は離れた。
 風と水は共に流れたが、理の魂――高坂亮だけは、
 時間の歪みに飲み込まれ、他の二つよりも数百年早くこの世界に来た。”

「……だから亮は、俺たちが来る前にいたのか……。」
「一人で……何百年も……」忍の声が震えた。

  “彼は封印された。理の均衡を維持するために。
 だが、今こそ三つの理が再び一つになる時が来た。”

 光龍の瞳が、深い慈しみで二人を見つめる。

  “風と水が揃い、理が目覚める時、星の裂け目は閉じる。
 その時こそ、“原初門”が開かれ、
 お前たちの故郷――地球へ帰る道が現れる。”

 翔の胸の奥で、何かが光った。
 心臓の鼓動と同時に、空気が脈を打つ。
 忍もまた、目を閉じてその波動を感じていた。
 風と水、二つの力がひとつの旋律を奏でる。

「……俺たちがこの世界に来たのは、偶然じゃなかったんだな。」
「うん。星が呼んだのね――理を戻すために。」

  “その通りだ。
 だが、まだ終わりではない。
 理の紋章の奥には、星の“核”がある。
 それを手にしろ。お前たちの新たな世界の礎となる。”

 光龍が翼を広げた瞬間、海の底が裂けた。
 轟音とともに、眩い光が噴き上がる。
 翔と忍は反射的に目を覆った。

《魔力反応上昇。未知のコア構造体を確認!》

 波が割れ、巨大な球体――透明な結晶のようなダンジョンコアが浮上する。
 直径は五十メートル以上。内部に無数の光が脈動していた。

 翔が目を見開く。
「これが……理のダンジョンコア……!」

  “その核を取り込め。
 それは“失われた北半球の記憶”を持つ。
 かつて切り離された地を、再び創り出す力だ。”

 ブレイザーの声が響く。
《コア取り込みシーケンスを開始します。安全距離を確保してください。》

 空間が震え、光の渦が走る。
 ブレイザーの機体が淡く光り、無数のドローンが展開された。
 それぞれの機体が金色の帯を伸ばし、コアの周囲を包み込んでいく。

《転送開始――アルカディア・ネクサス中枢へ。》

 翔と忍の視界に、アルカディアの映像が浮かぶ。
 街が輝き、水路が広がり、空に巨大な虹が架かる。
 そして、中心の塔――“生命中枢”が眩く光った。

《転送完了。アルカディアに理のダンジョンコアを統合。》
《亜空間領域、北半球規模に拡張開始――推定収容可能人口:50万人。》

 地面が震え、アルカディアの周囲に新たな大地が形成されていく。
 山が生まれ、森が広がり、海が満ちていく。
 空には鳥が舞い、光の粒が降り注いだ。

「……本当に……一つの星みたいだ。」
 翔が息を呑む。忍が笑った。
「これが“再誕”なのね。」

  “風と水の理が流れ、理の均衡が宿った。
 星は再び生きている。
 この地を“新たなる理の大地”として守れ。”

 光龍の姿が徐々に淡くなっていく。
 その最後の声が、風のように響いた。

  “私の役目はここまでだ。
 だが、お前たち三人の旅は、まだ続く。
 風よ、水よ、理よ――この星を導け。”

 光が散り、静寂が訪れた。
 翔と忍は手を取り合い、空を見上げた。
 その胸の奥で、確かに亮の魂の鼓動が聞こえた気がした。

《アルカディア・ネクサス、理層拡張完了。環境再生率100%。》
《これより、新たな大地を“アルカディア第二領域”として登録します。》

 ブレイザーの声が静かに響いた。
 風が吹き抜け、水が歌う。
 彼らが立つ世界は、確かに“星”だった。

「……亮。次は、お前を迎えに行く。」
 翔が空に向かって呟いた。
 その言葉に応えるように、空の彼方で微かな光が瞬いた。

 それはまるで、星の理そのものが――彼らの帰還を待っているかのように。
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