キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第9章 理の紋章編

光と影の真実

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 王城地下――禁断の書庫。
 かつて千年の時を閉ざした封印の間に、再び人の気配が戻っていた。
 翔と忍、そして王と王妃。
 四人の足音だけが、石造りの階段に静かに響く。

 前回訪れた時と違い、空気がわずかに温かかった。
 壁を這う魔力線が青く脈動し、まるでこの空間そのものが「目を覚ましている」ようだった。

「……ここまで来たね」
 忍が呟くと、翔は頷き、腰のポーチから紋章と核石を取り出した。
「今度こそ、全部揃った。」

 王妃が封印の壁に手を当てる。
 王も隣に立ち、共に血脈の印を解放する。
 光が走り、静寂が震え、重厚な扉が静かに開かれた。

 冷たい空気が流れ出し、千年分の沈黙がひとつ、息を吐いた。
 そこには、以前と同じ場所に眠る透明なカプセル――だが今は、周囲の装置が生きている。
 床の基盤には魔導回路が走り、壁面の端末には無数の光が瞬いていた。

「まるで……科学と魔法の融合ね。」
「未来の技術だ。」翔が呟く。
「高坂亮が作ったんだ。」

 翔は、理の紋章をカプセル上部のホルダーにはめた。
 続けて、風と水の核石を左右のスロットに差し込む。

 音もなく装置が動き出す。
 透明な床の下で光が螺旋を描き、青白い波紋が書庫全体に広がった。
 装置の中心――亮の眠るカプセルが淡く光を帯びる。

《封印解除シーケンス開始。理・風・水の波動を検出――対象、初代迷い人・高坂亮。》

 紋章が脈動し、光がカプセルの天頂から胸元へ流れ込む。
 霜が溶け、透明な膜の中で、男の胸がわずかに上下した。

 心臓が鼓動を取り戻す。
 次の瞬間、亮の瞼が静かに開いた。

「……長い夢を見ていた気がする。」

 王と王妃は膝をつき、深く頭を下げる。
「初代迷い人、高坂亮様――再びこの地に還られたこと、心よりお慶び申し上げます。」

 亮はゆっくりと上体を起こし、目の前の光景を見渡す。
 彼の胸元で、理の紋章が柔らかく脈動していた。

「……そうか。理が、戻ったのだな。」

 翔が一歩前へ出る。
「あなたが……“理の半神”なんですね。」

 亮は微かに笑う。
「半神というより、“理を担う者”だ。
 俺はかつて、地球からこの世界へ転移した一人の人間だった。」

 その言葉に、忍が息を呑む。
「地球……やっぱり……」

 亮は静かに頷き、語り始めた。

「千年前――この世界がまだ“地球”の一部だった頃、
 光龍は世界の理を正そうとした。
 人が自然を壊し、魔力の流れを乱した時、
 光龍は北太平洋の魔力に満ちた大地を切り離し、新しい世界を創った。
 それが――この異世界だ。」

 翔と忍は、言葉を失ったまま耳を傾ける。

「だが、完全な分離ではなかった。
 地球から切り離された魔力は“循環”を失い、淀み、歪み、やがて意思を持った。
 ――それが“魔物”として顕現したんだ。」

 忍が低く呟く。
「つまり……この世界は、魔力の残滓の上に生きてる……」

「ああ。
 このままでは、魔力の流れが限界を迎え、
 百年もしないうちにこの大地そのものが崩壊する。」

 翔が拳を握る。
「それを止める方法が……?」

「ある。」亮の声が静かに響く。
「君たちが築いた亜空間都市――アルカディア・ネクサスだ。
 あれは、魔力循環を再構築するための“新しい理の器”になる。」

 翔と忍は顔を見合わせる。

「しかし、今のままではまだ足りない。
 いまのアルカディアは、五十万人が限界だろう?」

 翔が頷く。
「……はい。先日、北極点のコアを取り込んで百万人規模に拡張しました。」

 亮はゆっくりと首を振った。
「この世界の命をすべて救うには、二〇〇万人規模が必要だ。
 それでも、全ての生命を収容できるわけではない。
 だが、最低限“再生の種”を残すことができる。」

 忍が唇を噛む。
「……そんなに多く……どうすれば……」

「残るダンジョンコアが一つある。」
 亮の瞳がわずかに光を帯びる。
「――“光龍”と共に眠っている。」

 翔の瞳が大きく見開かれた。
「……光龍と……!」

「そうだ。
 あの存在は、世界の創造者にして、最後の守護者。
 彼の眠る地には、この世界の全ての理が集約されている。
 そこにある最後のダンジョンコアを取り込めば、
 アルカディアは“永続都市”へと進化し、世界の魔力循環を完全に取り戻せるだろう。」

 亮は一歩、翔に近づき、肩に手を置いた。
「翔――風の半神。
 君と忍、水の半神。
 そして俺、“理の半神”。
 三つの力が揃った今、光龍に会う資格を得た。」

 翔は真っ直ぐに亮を見返す。
「俺たちが……行くべき場所は決まってるんですね。」

「ああ。
 光龍が眠る地――“神の座”へ。
 そこが、この世界の理の最終地点だ。」

 書庫全体に柔らかな風が流れ、
 亮の胸の紋章が三色に輝く。

《ダンジョンコアの転送を完了。アルカディア・ネクサス、収容限界拡張――百万人。
 理層システム、安定稼働を確認。》

 ブレイザーの声が静かに響く。
 亮は頷き、翔と忍を見た。

「次が最後の試練だ。
 この世界を救えるかどうか――
 その答えは、光龍の下で見つけてくれ。」

 翔は拳を握り、忍と視線を交わす。
「行こう、忍。
 ここまで来たんだ。最後まで――見届けよう。」

 忍は頷き、微笑んだ。
「ええ、翔。今度こそ、全てを終わらせましょう。」

 三人の紋章が共鳴し、光が重なる。
 世界の“理”が再び動き出す音が、静寂の中に響いていた。
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