キャンピングカーで、異世界キャンプ旅

風来坊

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第9章 理の紋章編

会議と決断

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 封印の書庫を出たあと、王たちは急ぎ王城上階の作戦室へと向かった。
 大理石の床には細かなひびが走り、天井のシャンデリアがかすかに揺れている。
 遠くで雷鳴のような地鳴りが響き、この世界の理が軋みを上げているのを感じた。

《警告。地盤変動を継続検知。震源は王都北西――約二百八十キロ地点。》
 ブレイザーの報告に、翔は険しい表情で頷いた。
「……間違いない。光龍の封印域が、動き出している。」

 亮は静かに息を吸い、王と王妃を見据える。
「放置すれば、この大陸そのものが崩れます。
 地脈の循環が限界に達しつつある。時間は――多く見積もっても数ヶ月です。」

 王は短く頷き、決意を宿した目で言った。
「すぐに会議を開こう。翔殿、忍殿、そして理の半神・高坂亮殿も同席を。」

 ――王城作戦会議室。

 重厚な扉が閉まり、外界の喧騒が遠ざかる。
 円卓の中央には魔力による立体地図が浮かび、
 王都を中心に幾つもの光点が大陸を埋めていた。

 王と王妃、亮、翔、忍、そしてホログラムのブレイザーが並ぶ。

 王が杖で地図を叩くと、光の粒がいくつも輝いた。
「これが、我が国が把握している主要都市だ。
 王都を中心に、北にドワーフの街〈グランツ〉、南にエルフの街〈シルフィア〉、
 西に交易都市〈ベレナ〉、東に学術都市〈リュミエール〉――いずれも十万人規模。
 さらに地方に五万人都市が十。総人口は……およそ百八十万に達する。」

 翔は一歩進み、真剣な声で口を開いた。
「陛下――その件で、ひとつ報告があります。」

 王が顔を上げる。
「……なんだ。」

「迷宮都市エルグラードは、すでに崩壊しました。」

 その一言に、会議室の空気が一瞬で張り詰めた。
 王妃が目を見開き、声を失う。
「……崩壊……?」

 翔は静かに頷いた。
「風の核石を回収した際、ガルーダとの戦闘で地盤が耐えきれず、
 都市全体が崩れ落ちました。住民たちはすでにアルカディア・ネクサスへ避難し、
 今はブレイザーの亜空間で生活しています。」

 重い沈黙。
 王はゆっくりと椅子に腰を下ろし、拳を握った。
「……そうか。あの誇り高き都市が……」

 亮が立ち上がり、地図上に手をかざした。
「これは警告です。光龍の封印が緩み始めている。
 今後、同様の崩壊が他都市にも波及するでしょう。」

《補足報告。現在、アルカディア・ネクサスの収容上限は百万人。
 しかし、王都だけで五十万。残りの都市を合わせれば、百八十万人近くに達します。
 現時点では、全員を収容することは不可能です。》

 王妃が不安に満ちた声で問う。
「……では、どうすれば……」

「希望はあります。」亮がはっきりと告げた。
「光龍が眠る地に残された“光のダンジョンコア”を取り込めば、
 アルカディアを二百万人規模へ拡張できる。
 だがそれまでは、一人でも多く避難させるために計画的な転送が必要です。」

 翔が立体地図を見据え、ブレイザーに指示を出す。
「ブレイザー、各都市へのドローン派遣を。」

《了解。
 10万人都市には各10機、5万人都市には各5機。
 合計125機を割り当て、避難誘導とゲート展開を担当。
 迷宮都市配属の5機は再編成し、光龍封印地の結界解析に転用します。》

 王が頷いた。
「ならば、王都から順に避難を始めよう。
 翔殿、ブレイザー、民の誘導を頼めるか。」

 翔は真剣な眼差しで応えた。
「はい。王都には50機のドローンを配置し、主要街路と中央広場に転送ゲートを展開します。」

《ゲート初期展開開始――安定化率30%、50%、……完了。
 転送準備、整いました。》

 立体地図上、王都の模型の上空に光の円環が現れた。
 ブレイザーの映像には、街の人々が列を成して歩く姿が映る。
 母親が子を抱き、老人が手を引かれ、騎士たちが周囲を守っていた。

 忍は静かに胸に手を当てた。
「……あの光の輪が、人々の希望の道なのね。」

 王妃が涙を拭い、微笑んだ。
「ええ……そしてあなたたちが、その光を導いてくれたのね。」

《王都第一波転送完了。三万五千名の避難成功。
 通信安定、全ルート開放中。》

 翔が息を整え、亮を見る。
「――準備は完了です。」

 亮が頷き、重く静かな声で告げた。
「次は光龍のもとへ。最後の理を取り戻す。」

 王は立ち上がり、三人に視線を向けた。
「風の半神・翔、水の半神・忍、理の半神・高坂亮。
 この世界の命を、お前たちに託す。」

 翔は拳を胸に当て、深く頭を下げた。
「必ず、この世界を流れのある地に戻してみせます。」

 忍は微笑み、柔らかに頷いた。
「ええ、陛下。今度こそ、終わらせます。」

 亮が最後に言葉を継ぐ。
「すべての理を、正すために。」

 三人の胸の紋章が淡く輝き、
 立体地図の上空に三色の光柱が立ち上る。

 その輝きは、崩壊の始まった大地を貫き、
 世界に“希望”という名の流れを、もう一度呼び起こしていた。
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