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第一章:九条カケル、世界の終わりにマイホームを買う。
第1話「おめでとうございます、明日から無職ですね」
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「九条くん、本当に今日で最後なんだって? まあ……寂しくなるよ」
とりあえずそう言っておけば良いという態度の上司・永井の言葉を、俺は苦笑いで受け流した。
「ええ、お世話になりました」
乾いた笑みを貼り付けながらも、背中では書類が詰まったダンボールを抱えている。俺のいた部署は、要するに“何でも屋”だった。エンジニアの肩書きで入社したはずが、気づけば社内サポート、コーディング、サイト更新、果ては営業資料の作成まで丸投げされるようになった。
文句はなかった。むしろ、それだけやれることがあるのは嫌いじゃなかった。だが、ある日ふと思ったのだ。
「……これ、俺じゃなくても良くね?」
それが全てだった。
“俺”である必要がない場所で、時間と精神を削りながら、金だけを得て、趣味の時間すら眠気で潰される毎日。
それでも月曜の朝には出勤し、毎週金曜の夜にため息をつく。
俺が辞めようと決めたのは、そういう“普通”に、飽きたからだ。
席を立ち、最後の挨拶も終え、名刺の束をゴミ箱に捨てて、俺はそのまま会社を出た。誰にも惜しまれず、誰にも見送られず、雨上がりの夜道を一人歩く。
最寄りの東中野駅に着いたのは、夜の11時過ぎ。終電前のざわついた空気の中、俺は小さく深呼吸をしてから、駅前の不動産屋に入った。
「本当に……マイホーム、買うんですか?」
店内のテーブル席で、営業の小田が書類を並べながら俺を見ていた。
「25歳で、独身で……しかも無職になるって聞きましたよ?」
「無職“になる”んじゃなくて、もうなったよ。3時間前に」
「いや、笑えねぇッスよそれ……」
彼は引きつった笑いを浮かべたが、俺は真面目だった。
――そう、本気で“家を買う”つもりだった。
もちろん、バカな買い物じゃない。しっかり下調べはしている。ネットで調べ尽くし、内見も6回行き、ファイナンシャルプランナーにも相談した。
資産価値、立地、将来性、賃貸運用の可能性まで踏まえて、ここだと決めた。
そして、何より――
「“帰ってくる場所”が、どうしても欲しかったんだよ」
その一言に、小田はしばらく黙っていた。
「……なるほどね。そういうことか。なら、話は早いです。俺、実はあの物件――」
そうして話は、あっという間に契約へと進んでいった。
とりあえずそう言っておけば良いという態度の上司・永井の言葉を、俺は苦笑いで受け流した。
「ええ、お世話になりました」
乾いた笑みを貼り付けながらも、背中では書類が詰まったダンボールを抱えている。俺のいた部署は、要するに“何でも屋”だった。エンジニアの肩書きで入社したはずが、気づけば社内サポート、コーディング、サイト更新、果ては営業資料の作成まで丸投げされるようになった。
文句はなかった。むしろ、それだけやれることがあるのは嫌いじゃなかった。だが、ある日ふと思ったのだ。
「……これ、俺じゃなくても良くね?」
それが全てだった。
“俺”である必要がない場所で、時間と精神を削りながら、金だけを得て、趣味の時間すら眠気で潰される毎日。
それでも月曜の朝には出勤し、毎週金曜の夜にため息をつく。
俺が辞めようと決めたのは、そういう“普通”に、飽きたからだ。
席を立ち、最後の挨拶も終え、名刺の束をゴミ箱に捨てて、俺はそのまま会社を出た。誰にも惜しまれず、誰にも見送られず、雨上がりの夜道を一人歩く。
最寄りの東中野駅に着いたのは、夜の11時過ぎ。終電前のざわついた空気の中、俺は小さく深呼吸をしてから、駅前の不動産屋に入った。
「本当に……マイホーム、買うんですか?」
店内のテーブル席で、営業の小田が書類を並べながら俺を見ていた。
「25歳で、独身で……しかも無職になるって聞きましたよ?」
「無職“になる”んじゃなくて、もうなったよ。3時間前に」
「いや、笑えねぇッスよそれ……」
彼は引きつった笑いを浮かべたが、俺は真面目だった。
――そう、本気で“家を買う”つもりだった。
もちろん、バカな買い物じゃない。しっかり下調べはしている。ネットで調べ尽くし、内見も6回行き、ファイナンシャルプランナーにも相談した。
資産価値、立地、将来性、賃貸運用の可能性まで踏まえて、ここだと決めた。
そして、何より――
「“帰ってくる場所”が、どうしても欲しかったんだよ」
その一言に、小田はしばらく黙っていた。
「……なるほどね。そういうことか。なら、話は早いです。俺、実はあの物件――」
そうして話は、あっという間に契約へと進んでいった。
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