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第一章:九条カケル、世界の終わりにマイホームを買う。
第12話「商店街の影と、異世界の波動」
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「カケル様。……私、この世界を、もっと知りたいのです」
日曜の朝、リビングで紅茶を口にしながら、リュシアはまっすぐに俺を見た。
その瞳は、好奇心と少しの決意を帯びていた。
「昨日の買い物、すごく刺激的でした。私の知らない物ばかりで、驚きと発見の連続で……。この世界には、まだまだ知らない文化や生活がたくさんあるのだと、強く思いました」
「そっか。なら、今日もどっか行ってみるか?」
「はい。ただ、“商店街”というものを見てみたいのです」
「商店街?」
俺は少し考えた。あえて今時のショッピングモールじゃなく、あえて“商店街”を選ぶあたり、彼女の関心は単なる買い物じゃない。
たしか昨日、俺が「昔ながらの商店が集まってる場所」と言ったのを覚えていたらしい。
「そうだな。あそこなら、大型店とは違う“庶民の生活”がよく見えるかもな」
「庶民の生活……。この世界の一般市民が、どのように日々を送っているのか……それは我が国の統治にも必ず役立ちます。ぜひ、見聞しておきたいのです」
なんだか、視察か研修旅行みたいな口ぶりだが……リュシアは本気だ。
異世界から来た王女が、日本の下町を歩く。冷静に考えるとヤバい光景だけど、好奇心と真面目さが入り混じったリュシアの目を見てたら、断る理由なんてなかった。
「よし、行こう。ちょうどいい商店街が駅の裏にある」
昼下がり。アーケードの下に広がる、昭和の香りを残す商店街。
リュシアはあちこちの店に目を丸くしていた。
「これは……“豆腐屋”? この大きな白い塊が食品なのですね……」
「うん。大豆から作ってるんだ。健康食品」
「そしてあれは……金物屋? 鍋や包丁、すべてが美しく並んでいます」
「生活用品の専門店だな。スーパーとはまた違う雰囲気だろ?」
花屋の前で足を止める。リュシアは、鉢植えのミニバラをそっと撫でた。
「どの店も、個性があって面白いですね……」
そのときだった。背後から「いたぞ!」という声が響いた。
振り向けば、スーツ姿の男たち。さらにその後ろに女子高生たち。スマホを構えて追いかけてくる。
「やばっ、また追ってきた!」
「結婚発言の美女、発見!」「カケル様マジで存在した!?」
「走るぞ、リュシア!」
俺はリュシアの手を取って商店街の裏路地へと駆け出した。
「ま、またですかっ!?」
雑多な通りを抜け、たこ焼き屋の横を曲がる。その瞬間、裏手から小柄な初老の男が顔を出した。
「こっちだ! 逃げ道ある!」
男は俺たちを手招きすると、何も聞かずに店の奥の通路へ通した。
裏道を抜けたところに、花屋のおばちゃんと八百屋の若い兄ちゃんが立っていた。
「この辺で追われてるなら、早めに通しておいた方がいいって話になってね」
「芸能人か何か知らんけど、迷惑な連中多いからさ」
「うちは静かな町内でいたいのよ」
彼らは名前も聞かないし、何かを詮索する素振りも見せなかった。
ただ、“この町の空気を乱されたくない”という無言の意思だけが伝わってきた。
リュシアがぺこりと頭を下げる。「ありがとうございます……なぜ私たちに、ここまで……」
「困ってる様子だったからさ」
「商店街は、昔からそういうとこなんだよ」
そんなやりとりを交わしながら、裏手の古びた印刷屋の前に出たとき――
空気が変わった。
ピリ、と肌が逆立つような感覚。
リュシアが立ち止まり、息を呑んだ。
「……魔力です。この先から、波動が……!」
俺も無意識に一歩後ずさる。目の前のシャッターは錆びついていて、何年も開いていないように見えた。だが、そこから漏れてくる、淡い紫の光。
そのとき、八百屋の兄ちゃんが静かに言った。
「そこ……もう何年も誰も使ってねぇんだけどよ。最近、夜になると“ギィィ”とか“ゴトッ”とか、変な音が聞こえてくんだよな。……あんたら、入るなら気ィつけな」
「……ありがとう」
俺は一礼し、リュシアと並んで古びたシャッターの前に立つ。
静まり返った裏通り。現代と異世界が、また交錯する予感がした。
日曜の朝、リビングで紅茶を口にしながら、リュシアはまっすぐに俺を見た。
その瞳は、好奇心と少しの決意を帯びていた。
「昨日の買い物、すごく刺激的でした。私の知らない物ばかりで、驚きと発見の連続で……。この世界には、まだまだ知らない文化や生活がたくさんあるのだと、強く思いました」
「そっか。なら、今日もどっか行ってみるか?」
「はい。ただ、“商店街”というものを見てみたいのです」
「商店街?」
俺は少し考えた。あえて今時のショッピングモールじゃなく、あえて“商店街”を選ぶあたり、彼女の関心は単なる買い物じゃない。
たしか昨日、俺が「昔ながらの商店が集まってる場所」と言ったのを覚えていたらしい。
「そうだな。あそこなら、大型店とは違う“庶民の生活”がよく見えるかもな」
「庶民の生活……。この世界の一般市民が、どのように日々を送っているのか……それは我が国の統治にも必ず役立ちます。ぜひ、見聞しておきたいのです」
なんだか、視察か研修旅行みたいな口ぶりだが……リュシアは本気だ。
異世界から来た王女が、日本の下町を歩く。冷静に考えるとヤバい光景だけど、好奇心と真面目さが入り混じったリュシアの目を見てたら、断る理由なんてなかった。
「よし、行こう。ちょうどいい商店街が駅の裏にある」
昼下がり。アーケードの下に広がる、昭和の香りを残す商店街。
リュシアはあちこちの店に目を丸くしていた。
「これは……“豆腐屋”? この大きな白い塊が食品なのですね……」
「うん。大豆から作ってるんだ。健康食品」
「そしてあれは……金物屋? 鍋や包丁、すべてが美しく並んでいます」
「生活用品の専門店だな。スーパーとはまた違う雰囲気だろ?」
花屋の前で足を止める。リュシアは、鉢植えのミニバラをそっと撫でた。
「どの店も、個性があって面白いですね……」
そのときだった。背後から「いたぞ!」という声が響いた。
振り向けば、スーツ姿の男たち。さらにその後ろに女子高生たち。スマホを構えて追いかけてくる。
「やばっ、また追ってきた!」
「結婚発言の美女、発見!」「カケル様マジで存在した!?」
「走るぞ、リュシア!」
俺はリュシアの手を取って商店街の裏路地へと駆け出した。
「ま、またですかっ!?」
雑多な通りを抜け、たこ焼き屋の横を曲がる。その瞬間、裏手から小柄な初老の男が顔を出した。
「こっちだ! 逃げ道ある!」
男は俺たちを手招きすると、何も聞かずに店の奥の通路へ通した。
裏道を抜けたところに、花屋のおばちゃんと八百屋の若い兄ちゃんが立っていた。
「この辺で追われてるなら、早めに通しておいた方がいいって話になってね」
「芸能人か何か知らんけど、迷惑な連中多いからさ」
「うちは静かな町内でいたいのよ」
彼らは名前も聞かないし、何かを詮索する素振りも見せなかった。
ただ、“この町の空気を乱されたくない”という無言の意思だけが伝わってきた。
リュシアがぺこりと頭を下げる。「ありがとうございます……なぜ私たちに、ここまで……」
「困ってる様子だったからさ」
「商店街は、昔からそういうとこなんだよ」
そんなやりとりを交わしながら、裏手の古びた印刷屋の前に出たとき――
空気が変わった。
ピリ、と肌が逆立つような感覚。
リュシアが立ち止まり、息を呑んだ。
「……魔力です。この先から、波動が……!」
俺も無意識に一歩後ずさる。目の前のシャッターは錆びついていて、何年も開いていないように見えた。だが、そこから漏れてくる、淡い紫の光。
そのとき、八百屋の兄ちゃんが静かに言った。
「そこ……もう何年も誰も使ってねぇんだけどよ。最近、夜になると“ギィィ”とか“ゴトッ”とか、変な音が聞こえてくんだよな。……あんたら、入るなら気ィつけな」
「……ありがとう」
俺は一礼し、リュシアと並んで古びたシャッターの前に立つ。
静まり返った裏通り。現代と異世界が、また交錯する予感がした。
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