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番外編:とある騎士末弟の、観察日誌
語り手:ガレス
俺の兄貴、ガウェインは、昔から、とにかく、強くて、すごくて、ちょっとだけ、怖い人だった。
太陽の騎士。円卓の騎士。キャメロット最強。
そんな、すごい肩書を持つ兄貴は、俺たち弟にとっては、誇りであり、同時に、絶対に逆らえない、絶対的な存在だった。
――そう。あの、お義姉様、レディ・ミツキが、現れるまでは。
「兄貴、邪魔! そこ、どいて!」
「む……。だが、俺は、妻の護衛を……」
「薪を運ぶのに、護衛はいりません! それより、その薪に、火をつけてください!」
「おお、心得た!」
今日、俺とガヘリス兄上は、二人の、新居である、あの、丘の上の館に、遊びに来ていた。
そして、今、目の前で、繰り広げられているのは、信じがたい光景だった。
お義姉様が、夕食の、シチューを作る、と、言い出したのだ。
なんでも、彼女の故郷の、懐かしい味らしい。
そして、その「お手伝い」を、買って出た、我が、最強の兄上が、台所で、見事に、お荷物と化している。
「ガウェインさん、卵を割るのは、そうじゃありません! 殻が入ります!」
「う、うむ……。難しいな、卵とは」
「野菜を切るのは……ああ、もう結構です! あなたが持つと、包丁が、戦斧に見えます! 私がやりますから、あなたは、そこで、味見でもしていてください」
お義姉様は、てきぱきと、兄貴から、調理器具を取り上げると、代わりに、一切れの、パンを、その口に、放り込んだ。
あの、ガウェインが。
あの、アーサー王の命令でさえ、時には、不満を漏らす、我が兄が。
たった一人の女性に、まるで、大きな、子犬のように、大人しく、従っている。
そして、パンを、もぐもぐと、咀嚼しながら、彼女が、料理をする、その、美しい横顔を、心の底から、幸せそうな、とろけた顔で、見つめているのだ。
俺は、隣に立つ、ガヘリス兄上に、肘で、つついた。
「……兄上。俺、見てはいけないものを、見ている気分です」
「……静かにな、ガレス。兄上が、幸せそうで、何よりではないか」
ガヘリス兄上は、真面目な顔で、そう言うが、その肩は、笑いを堪えるように、ぷるぷると、震えていた。
やがて、ことことと、音を立てる、鍋から、今まで、嗅いだこともないような、クリーミーで、優しい匂いが、立ち上ってくる。
その匂いにつられて、兄貴が、ふらふらと、鍋に、近づいていった。
「ミツキ、いい匂いだな。ちょっと、味見を……」
「ダメです。まだ、煮込んでいる最中です」
お義姉様が、ぴしゃりと言うと、兄貴は、「むう」と、拗ねた子供のように、唇を尖らせた。
その光景が、あまりにも、面白くて、俺は、もう、耐えきれずに、噴き出してしまった。
その夜、俺たちは、生まれて初めて、食べる、温かくて、優しい味の、白いシチューを、囲んだ。
「どうだ、美味いだろう!」
兄貴が、自分が作ったわけでもないのに、世界一、自慢げな顔で、胸を張る。
その隣で、お義姉様が、「あなた、少し、焦がしてしまったところも、あるんですよ?」と、楽しそうに、笑っている。
その光景を見て、俺は、思った。
ああ、この人は、本当に、すごい人だ、と。
この、キャメロット最強で、一番、不器用で、どうしようもない、俺の兄貴を、世界で、一番、幸せな男に、してくれたのだから。
俺は、そんな、新しい、姉であり、国の英雄であり、そして、偉大な「猛獣使い」でもある、お義姉様に、心からの、敬意を込めて、にっと、笑いかけてみせた。
俺の兄貴、ガウェインは、昔から、とにかく、強くて、すごくて、ちょっとだけ、怖い人だった。
太陽の騎士。円卓の騎士。キャメロット最強。
そんな、すごい肩書を持つ兄貴は、俺たち弟にとっては、誇りであり、同時に、絶対に逆らえない、絶対的な存在だった。
――そう。あの、お義姉様、レディ・ミツキが、現れるまでは。
「兄貴、邪魔! そこ、どいて!」
「む……。だが、俺は、妻の護衛を……」
「薪を運ぶのに、護衛はいりません! それより、その薪に、火をつけてください!」
「おお、心得た!」
今日、俺とガヘリス兄上は、二人の、新居である、あの、丘の上の館に、遊びに来ていた。
そして、今、目の前で、繰り広げられているのは、信じがたい光景だった。
お義姉様が、夕食の、シチューを作る、と、言い出したのだ。
なんでも、彼女の故郷の、懐かしい味らしい。
そして、その「お手伝い」を、買って出た、我が、最強の兄上が、台所で、見事に、お荷物と化している。
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お義姉様は、てきぱきと、兄貴から、調理器具を取り上げると、代わりに、一切れの、パンを、その口に、放り込んだ。
あの、ガウェインが。
あの、アーサー王の命令でさえ、時には、不満を漏らす、我が兄が。
たった一人の女性に、まるで、大きな、子犬のように、大人しく、従っている。
そして、パンを、もぐもぐと、咀嚼しながら、彼女が、料理をする、その、美しい横顔を、心の底から、幸せそうな、とろけた顔で、見つめているのだ。
俺は、隣に立つ、ガヘリス兄上に、肘で、つついた。
「……兄上。俺、見てはいけないものを、見ている気分です」
「……静かにな、ガレス。兄上が、幸せそうで、何よりではないか」
ガヘリス兄上は、真面目な顔で、そう言うが、その肩は、笑いを堪えるように、ぷるぷると、震えていた。
やがて、ことことと、音を立てる、鍋から、今まで、嗅いだこともないような、クリーミーで、優しい匂いが、立ち上ってくる。
その匂いにつられて、兄貴が、ふらふらと、鍋に、近づいていった。
「ミツキ、いい匂いだな。ちょっと、味見を……」
「ダメです。まだ、煮込んでいる最中です」
お義姉様が、ぴしゃりと言うと、兄貴は、「むう」と、拗ねた子供のように、唇を尖らせた。
その光景が、あまりにも、面白くて、俺は、もう、耐えきれずに、噴き出してしまった。
その夜、俺たちは、生まれて初めて、食べる、温かくて、優しい味の、白いシチューを、囲んだ。
「どうだ、美味いだろう!」
兄貴が、自分が作ったわけでもないのに、世界一、自慢げな顔で、胸を張る。
その隣で、お義姉様が、「あなた、少し、焦がしてしまったところも、あるんですよ?」と、楽しそうに、笑っている。
その光景を見て、俺は、思った。
ああ、この人は、本当に、すごい人だ、と。
この、キャメロット最強で、一番、不器用で、どうしようもない、俺の兄貴を、世界で、一番、幸せな男に、してくれたのだから。
俺は、そんな、新しい、姉であり、国の英雄であり、そして、偉大な「猛獣使い」でもある、お義姉様に、心からの、敬意を込めて、にっと、笑いかけてみせた。
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