氷の王子と秘密の観察日記

藤森瑠璃香

文字の大きさ
5 / 41

第5話:核心に触れる、最初の質問

しおりを挟む
 霧島怜くんの「ドジっ子王子」な一面を発見して以来、私の観察活動は、ますます熱を帯びていた。
 彼の完璧な振る舞いの裏に隠された、小さな綻びを見つけるたび、私の「観察日記」のページは、秘密の喜びで満たされていく。

(でも、一番の謎は、やっぱりあの卒業アルバムの写真だ)
 私の好奇心は、全ての始まりであるその一点へと、どうしても回帰してしまう。
 スクープを狙う新聞部員として、このままではいられない。私はついに、彼に直接、核心に触れる質問をぶつけることを決意した。

 放課後、バスケ部の練習に向かう怜くんを、私は廊下で待ち伏せた。
「霧島くん! ちょっとだけ、新聞部の取材、いいかな?」
 できるだけ明るく、無邪気な取材者を装う。彼は、一瞬、面倒くさそうな顔をしたが、私が手に持つ「新聞部」の腕章を見ると、小さくため息をついて足を止めた。
「……手短にしろよ」

 チャンスだ。私は、あらかじめ用意していた質問を投げかけた。
「うん! まず、バスケ部の次の大会の目標は?」
「全国制覇だ」
「すごい! 怜くん個人としての目標は?」
「チームの勝利に貢献すること。それ以上でも、それ以下でもない」
 淀みない、完璧な答え。さすが氷の王子様だ。でも、本題はここから。

 私は、会話の流れの中で、まるで今、思いついたかのように、こう尋ねた。
「そっかー。やっぱり目標が高いんだね。……もしかして、中学の時も、バスケやってたの?」

 その瞬間、怜くんの周りの空気が、ぴしり、と凍りついたのがわかった。
 彼の瞳から、すっと表情が消える。いつもは落ち着き払っているその呼吸が、ほんの一瞬だけ、止まったように見えた。
 完璧な氷の仮面が、音を立てて、わずかにひび割れる。その隙間から、彼の隠していた動揺と、鋭い警戒の色が、あふれ出してくる。

(……図星だ。)
 彼の反応が、何よりの答えだった。
 あの写真は、やっぱり彼なんだ。

 すぐに、彼はいつものポーカーフェイスを取り戻した。
「……いや」
 短く、低く、彼はそう否定した。
「高校からだ」
 そして、彼は、今まで私に向けたことのない、冷たい光を宿した瞳で、私を真っ直ぐに見つめた。

「佐伯」
 その声は、私の心の奥底まで見透かすように、静かで、鋭かった。
「お前、俺の何が知りたいんだ?」

 私の視線に、彼がとっくに気づいていたことを、私はこの時、初めて知った。
「え、あ、いや……ただの、取材で……」
 彼の鋭い問い返しに、私の頭は真っ白になり、しどろもどろな言い訳しか出てこない。
「ふーん」
 彼は、意味ありげにそう呟くと、それ以上何も言わずに、私に背を向けて歩き去っていった。

 一人、廊下に取り残された私は、まだドキドキと鳴りやまない心臓を押さえた。
 彼の、あの動揺した顔。そして、全てを見透かすような、冷たい瞳。
(……少し、怖かった)
 でも、それ以上に、たまらないほどのスリルと、燃え上がるような好奇心が、私の全身を駆け巡っていた。

(面白くなってきたじゃない、霧島怜くん)

 ただの観察は、もう終わり。
 これから始まるのは、彼の秘密を巡る、私と彼との、直接対決だ。
 そう思うと、私の唇は、自然と挑戦的な笑みを浮かべていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―

月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。 その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、 人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。 そして、今――再びその年が巡ってきた。 王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。 彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。 そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。 無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。 けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、 25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。 それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。 朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。 「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。 この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか? 甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

処理中です...