氷の王子と秘密の観察日記

藤森瑠璃香

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第14話:ハロウィンの買い出しデート

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「――陽菜がいたから、楽しかった」

 あの日の夜、怜くんに言われた言葉が、魔法みたいにずっと私の心の中でリフレインしていた。
 週明けの月曜日。教室で彼と目が合うと、お互い、少しだけ照れくさく微笑んでしまう。そんな、甘酸っぱい空気が、私たちの間に流れ始めていた。

 ホームルームで、担任の先生が声を弾ませる。
「さて、みんな! 十月の終わりといえば、ハロウィンだ! うちのクラスでも、パーティーを企画しようと思う!」
 その一言で、教室は一気に文化祭前のような熱気に包まれた。
「じゃあ、買い出し係が必要だな。一番しっかりしてそうな……よし、霧島と佐伯、頼んだぞ!」
 先生の鶴の一声(というより、美咲と悠斗が裏で手を回したに違いない)で、私と怜くんは、放課後、二人きりでパーティーの買い出しに行くことになったのだ。

 駅前の、大きな雑貨店。店内はオレンジと黒のハロウィングッズで溢れ、賑やかな音楽が流れている。
「すごいね! あれもこれも、可愛い!」
 私がはしゃぐのを、怜くんは少し呆れたような、でも、どこか楽しそうな顔で眺めていた。

「とりあえず、リストにあるものから買うぞ」
 そう言って、彼はごく自然に、私が持っていた買い物カゴを自分の手に取った。
 混雑する通路を歩く時も、彼はさりげなく、私が人波にぶつからないように、外側を歩いてくれる。
(……紳士、だ)
 そんな、彼のさりげない優しさに、私の心臓はいちいち、大きく跳ねるのだ。

「あ、あれ、取れるかな……」
 一番上の棚に置かれた、カボチャのガーランド。私が背伸びをして手を伸ばしても、指先がかすりもしない。
 すると、ふわり、と彼の匂いが私を包んだ。
 ひょい、と、私の頭上から伸びてきた彼の長い腕が、いとも簡単にガーランドを掴み取る。その腕が、私の頬に触れそうなくらい近くて、私は息をすることも忘れて、固まってしまった。

「……陽菜?」
「な、なんでもない! ありがとう!」
 私は、真っ赤になった顔を隠すように、足早に次のコーナーへと向かう。彼の、あの不意打ちは、本当に心臓に悪い。

 お菓子のコーナーで、私は、彼のまた新しい一面を発見した。
 棚の隅っこにあった、おばけの形をした、可愛らしいクッキー。怜くんが、そのクッキーを、ほんの一瞬だけ、じっと見つめていたのを、私の目は見逃さなかった。
(やっぱり、甘いもの、好きなんだ……!)

 私は、いたずらっぽく笑いながら、そのクッキーをカゴに入れた。
「これも、パーティーに必要だよね?」
「……リストには、なかったはずだが」
「いいの、いいの! 私からの、いつも取材に協力してくれる王子様への、特別サービス!」
 私がそう言うと、彼は「……好きにしろ」とだけ言って、ぷいっと顔を背けてしまった。その耳が、また、ほんのりと赤く染まっている。

 買い物を終え、夕日に染まる道を、二人で並んで歩く。
 荷物のほとんどを、彼が持ってくれていた。
「怜くん、半分持つよ」
「いい。お前が持ったら、どうせ全部落とすだろ」
 その言い方は、相変わらずぶっきらぼうだ。でも、その言葉の裏にある、彼の不器用な優しさを、私はもう、ちゃんと知っている。
「ありがとう、怜くん」
 私が素直にそう言うと、彼は、夕日を浴びて、ほんの少しだけ、柔らかく微笑んだ気がした。

 この、奇妙な「秘密協定」から始まった、私たちの関係。
 それは、いつの間にか、ただの「取材」という名目だけでは収まりきらないくらい、温かくて、キラキラしたものに変わっていた。
 これはもう、デート、だ。
 そう認めてしまうと、私の胸は、幸せな気持ちで、はちきれそうだった。
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