15 / 41
第15話:名前のない気持ち
しおりを挟む
あの買い出しデートからというもの、私の「観察日記」は、その様相をすっかり変えていた。
怜くんのドジな一面や、意外な好物を書き連ねる客観的な記録欄の隣に、『私の気持ち』という新しい項目が作られていたからだ。
『彼が荷物を持ってくれた時、心臓がうるさかった』
『夕日に照らされた横顔が、綺麗で、ずっと見ていたかった』
それはもう、新聞部員の取材記録なんかじゃない。ただの、恋する乙女の日記だった。
教室での私たちを見る、周りの目も、心なしか生温かいものに変わってきている。
「陽菜、あんた、最近、怜くんのこと、ただのスクープ対象として見てないでしょ」
美咲が、私の心を見透かしたように、ニヤリと笑う。
「ち、違うってば!」
「ふーん。まあ、頑張りなさいよ、新聞部員さん?」
その応援が、今の私には、何よりも心強かった。
怜くんも、私に対する態度が、明らかに変わってきていた。
私が他の男子と少しでも楽しそうに話していると、どこからか、じっと、静かな視線を感じる。振り返ると、彼は、いつも何でもないような顔で、ぷいっと顔を背けてしまうけれど。
(もしかして、少しは、私のこと……)
そんな、甘い期待が、胸の中でむくむくと育っていく。
その日の昼休み、私は、屋上で一人、お弁当を食べていた。
秋の風が、少しだけ肌寒い。
「……ここ、いたのか」
低い声に振り返ると、怜くんが、少しだけ息を切らして立っていた。私を探してくれたのだろうか。そう思うだけで、胸がきゅん、と鳴る。
彼は、私の隣に、当たり前のように腰を下ろした。二人だけの、静かな時間。
「……陽菜」
「ん?」
「さっき、高木と、何話してたんだ」
「え? ああ、悠斗? 次のバスケの試合のことだよ。新聞で特集組もうと思って」
「……ふーん」
彼の、少しだけ不機嫌そうな相槌。その理由に、私は、気づいてしまった。
(もしかして……やきもち、焼いてくれてる?)
その可能性に、顔が一気に熱くなる。心臓が、ドキドキと、早鐘を打つ。
秋風が、ひゅう、と私たちの間を吹き抜けた。私が、思わず「さむっ」と肩をすくめた、その瞬間。
ふわり、と、肩に温かい重みがかかった。
見ると、怜くんが、自分の着ていたブレザーを、私の肩にかけてくれていたのだ。
それは、あまりにも自然で、優しくて、そして、どうしようもなく、恋人みたいな仕草だった。
ブレザーから、彼の匂いがする。少しだけ大きくて、温かい。
「……風邪ひくだろ、馬鹿」
彼は、屋上のフェンスの向こうの空を見つめたまま、ぶっきらぼうにそう言った。でも、その耳は、真っ赤に染まっている。
もう、ごまかせない。
私のこの気持ちは、ただの好奇心なんかじゃない。
面白いスクープ対象だと思っていただけじゃない。
完璧な仮面の下に、不器用で、優しくて、どうしようもなく愛おしい心を隠している、彼のことが。
私は、どうしようもなく、好きだ。
その、あまりにも単純で、でも、どうしようもなく確かな答えに、私はようやく、たどり着いたのだ。
「……ありがとう、怜くん」
彼のブレザーを、私は、ぎゅっと握りしめた。
私の声が、少しだけ震えていたことに、彼は、気づいてくれただろうか。
怜くんのドジな一面や、意外な好物を書き連ねる客観的な記録欄の隣に、『私の気持ち』という新しい項目が作られていたからだ。
『彼が荷物を持ってくれた時、心臓がうるさかった』
『夕日に照らされた横顔が、綺麗で、ずっと見ていたかった』
それはもう、新聞部員の取材記録なんかじゃない。ただの、恋する乙女の日記だった。
教室での私たちを見る、周りの目も、心なしか生温かいものに変わってきている。
「陽菜、あんた、最近、怜くんのこと、ただのスクープ対象として見てないでしょ」
美咲が、私の心を見透かしたように、ニヤリと笑う。
「ち、違うってば!」
「ふーん。まあ、頑張りなさいよ、新聞部員さん?」
その応援が、今の私には、何よりも心強かった。
怜くんも、私に対する態度が、明らかに変わってきていた。
私が他の男子と少しでも楽しそうに話していると、どこからか、じっと、静かな視線を感じる。振り返ると、彼は、いつも何でもないような顔で、ぷいっと顔を背けてしまうけれど。
(もしかして、少しは、私のこと……)
そんな、甘い期待が、胸の中でむくむくと育っていく。
その日の昼休み、私は、屋上で一人、お弁当を食べていた。
秋の風が、少しだけ肌寒い。
「……ここ、いたのか」
低い声に振り返ると、怜くんが、少しだけ息を切らして立っていた。私を探してくれたのだろうか。そう思うだけで、胸がきゅん、と鳴る。
彼は、私の隣に、当たり前のように腰を下ろした。二人だけの、静かな時間。
「……陽菜」
「ん?」
「さっき、高木と、何話してたんだ」
「え? ああ、悠斗? 次のバスケの試合のことだよ。新聞で特集組もうと思って」
「……ふーん」
彼の、少しだけ不機嫌そうな相槌。その理由に、私は、気づいてしまった。
(もしかして……やきもち、焼いてくれてる?)
その可能性に、顔が一気に熱くなる。心臓が、ドキドキと、早鐘を打つ。
秋風が、ひゅう、と私たちの間を吹き抜けた。私が、思わず「さむっ」と肩をすくめた、その瞬間。
ふわり、と、肩に温かい重みがかかった。
見ると、怜くんが、自分の着ていたブレザーを、私の肩にかけてくれていたのだ。
それは、あまりにも自然で、優しくて、そして、どうしようもなく、恋人みたいな仕草だった。
ブレザーから、彼の匂いがする。少しだけ大きくて、温かい。
「……風邪ひくだろ、馬鹿」
彼は、屋上のフェンスの向こうの空を見つめたまま、ぶっきらぼうにそう言った。でも、その耳は、真っ赤に染まっている。
もう、ごまかせない。
私のこの気持ちは、ただの好奇心なんかじゃない。
面白いスクープ対象だと思っていただけじゃない。
完璧な仮面の下に、不器用で、優しくて、どうしようもなく愛おしい心を隠している、彼のことが。
私は、どうしようもなく、好きだ。
その、あまりにも単純で、でも、どうしようもなく確かな答えに、私はようやく、たどり着いたのだ。
「……ありがとう、怜くん」
彼のブレザーを、私は、ぎゅっと握りしめた。
私の声が、少しだけ震えていたことに、彼は、気づいてくれただろうか。
10
あなたにおすすめの小説
清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎
清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。
膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。
さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。
社交は上品に、恋心は必死に隠したい。
なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——!
むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。
清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。
《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―
月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。
その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、
人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。
そして、今――再びその年が巡ってきた。
王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。
彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。
そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。
無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。
けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、
25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。
それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)
星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。
団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。
副団長「彼女のご飯は軍事物資です」
私「えっ重い」
胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!?
ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。
(月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる