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第16話:教室のハロウィンパーティー
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彼のブレザーに包まれた、あの屋上での午後から、私の心は、ずっと霧島怜くんへの「好き」という気持ちで満たされていた。
「観察日記」を開くたびに、彼のドジな一面を書き留めたメモの隣に、私自身の高鳴る心臓の音が、文字になって溢れていく。
そして迎えた、十月の終わり。
放課後の教室は、カボチャの飾りとオレンジ色のリボンで彩られ、クラスメイトたちの賑やかな笑い声に包まれていた。今日は、私たちが準備してきた、ハロウィンパーティーの当日だ。
「陽菜、魔女の仮装、めっちゃ似合うじゃん!」
猫耳をつけた美咲が、私の尖った帽子を指さして笑う。
「それより見てよ、怜くん……。次元が違うんだけど」
美咲の視線の先には、黒いマントを翻す、ヴァンパイア姿の怜くんがいた。白い肌に、黒い衣装が映える。少しだけ前髪を長く下ろしたその姿は、本物の闇の貴族みたいで、女子生徒たちがうっとりと溜息を漏らしていた。
私の心臓も、彼の非現実的なまでの格好良さに、ぎゅっと鷲掴みにされる。
パーティーが始まり、お菓子を食べたり、写真を撮ったり、教室は最高潮の盛り上がりを見せていた。
私は、そんな喧騒の中心にいる怜くんを、少し離れた場所から見つめていた。
(やっぱり、すごいな……)
彼がそこにいるだけで、空気が華やぐ。でも、私は知っている。彼が、こういう状況を、本当は苦手としていることを。
その時だった。
怜くんが、テーブルに置かれたジュースを取ろうとして、近くにあったカボチャの置物に、ほんの少しだけ足を引っ掛けた。
「……っ」
誰にも気づかれないくらい、小さく、彼は体勢を崩す。そして、何事もなかったかのようにすっと立ち直すと、完璧なポーカーフェイスでジュースを手に取った。
でも、その一瞬の焦りと、必死で平静を装う姿を、私だけは見逃さなかった。
(可愛い……)
面白い、という気持ちよりも先に、愛おしい、という感情がこみ上げてくる。これが、恋なんだ。
そんな彼の元へ、一人の女子生徒が近づいていく。
西川玲奈さんだった。彼女は、妖艶な黒猫の仮装で、怜くんに妖しく微笑みかけた。
「怜くん、ヴァンパイアの仮装、すごく素敵ね。記念に、ヴァンパイアの王様と一枚、写真を撮ってくださらない?」
その、あまりにも堂々としたアプローチに、クラス中の視線が二人に集まる。
私の胸が、ちくりと痛んだ。
怜くんは、その注目に、少しだけうんざりしたように眉をひそめた。彼は、ぐるりと教室を見渡し、そして、その視線が、私の上で、ぴたりと止まった。
心配そうに見つめる私と、目が合う。
すると、彼は、玲奈さんに向かって、静かに、でも、はっきりと告げた。
「……悪い。写真の気分じゃないんだ」
きっぱりとした、拒絶の言葉。
そして、彼は玲奈さんに背を向けると、まっすぐに、私の元へと歩いてきたのだ。
「……ここ、うるさい。少し、外の空気、吸いに行かないか?」
それは、クラス中の注目を振り切って、彼が、私だけを選んでくれた、紛れもない証だった。
私たちは、パーティーの喧騒を抜け出し、少しだけひんやりとした夜の廊下に出た。
「大丈夫? ああいうの、苦手でしょ」
私がそう尋ねると、彼は、少しだけ驚いたように私を見た。
「……なんで、わかるんだ」
「それは、私が、怜くんの専属記者だから、かな」
私が悪戯っぽく笑うと、彼は、ふっと、息を漏らすように笑った。
そして、彼は、私の魔女の仮装を、まじまじと見つめた。
「……その帽子。似合ってるな。……なんていうか、その……可愛い」
可愛い。
彼が、私のことを、初めて、そう言ってくれた。
私の顔に、一気に熱が集まる。何も言えなくなってしまった私を見て、彼も、自分が言った言葉の重大さに気づいたのだろう。みるみるうちに、顔を真っ赤に染め上げて、慌てて、ぷいっと顔を背けてしまった。
静かな廊下に、二人分の、ドキドキと高鳴る心臓の音だけが、響いていた。
私の、秘密の観察から始まった物語は、今、確かに、二人で紡ぐ、恋の物語へと、その姿を変えようとしていた。
「観察日記」を開くたびに、彼のドジな一面を書き留めたメモの隣に、私自身の高鳴る心臓の音が、文字になって溢れていく。
そして迎えた、十月の終わり。
放課後の教室は、カボチャの飾りとオレンジ色のリボンで彩られ、クラスメイトたちの賑やかな笑い声に包まれていた。今日は、私たちが準備してきた、ハロウィンパーティーの当日だ。
「陽菜、魔女の仮装、めっちゃ似合うじゃん!」
猫耳をつけた美咲が、私の尖った帽子を指さして笑う。
「それより見てよ、怜くん……。次元が違うんだけど」
美咲の視線の先には、黒いマントを翻す、ヴァンパイア姿の怜くんがいた。白い肌に、黒い衣装が映える。少しだけ前髪を長く下ろしたその姿は、本物の闇の貴族みたいで、女子生徒たちがうっとりと溜息を漏らしていた。
私の心臓も、彼の非現実的なまでの格好良さに、ぎゅっと鷲掴みにされる。
パーティーが始まり、お菓子を食べたり、写真を撮ったり、教室は最高潮の盛り上がりを見せていた。
私は、そんな喧騒の中心にいる怜くんを、少し離れた場所から見つめていた。
(やっぱり、すごいな……)
彼がそこにいるだけで、空気が華やぐ。でも、私は知っている。彼が、こういう状況を、本当は苦手としていることを。
その時だった。
怜くんが、テーブルに置かれたジュースを取ろうとして、近くにあったカボチャの置物に、ほんの少しだけ足を引っ掛けた。
「……っ」
誰にも気づかれないくらい、小さく、彼は体勢を崩す。そして、何事もなかったかのようにすっと立ち直すと、完璧なポーカーフェイスでジュースを手に取った。
でも、その一瞬の焦りと、必死で平静を装う姿を、私だけは見逃さなかった。
(可愛い……)
面白い、という気持ちよりも先に、愛おしい、という感情がこみ上げてくる。これが、恋なんだ。
そんな彼の元へ、一人の女子生徒が近づいていく。
西川玲奈さんだった。彼女は、妖艶な黒猫の仮装で、怜くんに妖しく微笑みかけた。
「怜くん、ヴァンパイアの仮装、すごく素敵ね。記念に、ヴァンパイアの王様と一枚、写真を撮ってくださらない?」
その、あまりにも堂々としたアプローチに、クラス中の視線が二人に集まる。
私の胸が、ちくりと痛んだ。
怜くんは、その注目に、少しだけうんざりしたように眉をひそめた。彼は、ぐるりと教室を見渡し、そして、その視線が、私の上で、ぴたりと止まった。
心配そうに見つめる私と、目が合う。
すると、彼は、玲奈さんに向かって、静かに、でも、はっきりと告げた。
「……悪い。写真の気分じゃないんだ」
きっぱりとした、拒絶の言葉。
そして、彼は玲奈さんに背を向けると、まっすぐに、私の元へと歩いてきたのだ。
「……ここ、うるさい。少し、外の空気、吸いに行かないか?」
それは、クラス中の注目を振り切って、彼が、私だけを選んでくれた、紛れもない証だった。
私たちは、パーティーの喧騒を抜け出し、少しだけひんやりとした夜の廊下に出た。
「大丈夫? ああいうの、苦手でしょ」
私がそう尋ねると、彼は、少しだけ驚いたように私を見た。
「……なんで、わかるんだ」
「それは、私が、怜くんの専属記者だから、かな」
私が悪戯っぽく笑うと、彼は、ふっと、息を漏らすように笑った。
そして、彼は、私の魔女の仮装を、まじまじと見つめた。
「……その帽子。似合ってるな。……なんていうか、その……可愛い」
可愛い。
彼が、私のことを、初めて、そう言ってくれた。
私の顔に、一気に熱が集まる。何も言えなくなってしまった私を見て、彼も、自分が言った言葉の重大さに気づいたのだろう。みるみるうちに、顔を真っ赤に染め上げて、慌てて、ぷいっと顔を背けてしまった。
静かな廊下に、二人分の、ドキドキと高鳴る心臓の音だけが、響いていた。
私の、秘密の観察から始まった物語は、今、確かに、二人で紡ぐ、恋の物語へと、その姿を変えようとしていた。
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