氷の王子と秘密の観察日記

藤森瑠璃香

文字の大きさ
21 / 41

第21話:恋人の特権と、甘い時間

しおりを挟む
 十一月に入り、木々の葉が赤や黄色に色づき始めると、星陵高校には、少しずつ冬の気配が漂い始めた。
 私と怜くんの関係は、あの挑戦的な後輩、彩花さんの登場によって、逆に、より確かなものへと変わっていった。

「陽菜、これ、飲むか?」
 休み時間、怜くんが、当たり前のように私の机にミルクティーを置いてくれる。それは、私が一番好きな、少し甘めのやつだ。
「え、いいの? ありがとう!」
「……別に。自販機で、間違えて二本買っただけだ」
 そんな、バレバレの嘘をつきながら、彼は自分の席に戻っていく。その不器用な優しさが、たまらなく愛おしい。

 クラスメイトたちも、私たちのそんなやり取りを、もはや日常の風景として、温かく見守ってくれている。
「怜のやつ、陽菜にだけは、とことん甘いよなー」
 悠斗が、呆れたように、でも、どこか嬉しそうに笑う。

 その日の放課後、私は、バスケ部の練習を、体育館のギャラリーから見学していた。
 以前は、彼の秘密を探るための「取材」だったこの時間も、今では、彼の「彼女」としての、大切な時間になっていた。

 練習の合間、彩花さんが、また怜くんに甲高い声で話しかけている。
「怜せんぱーい! この後、自主練付き合ってくださいよー!」
「断る。用がある」
「えー、つれないなー。彼女さんとデートですかぁ?」
 その、あからさまな嫌味。以前の私なら、胸がちりりと痛んだかもしれない。でも、今の私は、もう違う。

 練習が終わり、怜くんが、汗を拭いながら、まっすぐに私の元へとやってきた。
「……悪い、待たせたな」
「ううん、お疲れ様! 今日も、すっごくかっこよかったよ」
 私が笑顔でそう言うと、彼は、少しだけ照れたように、でも、とても嬉しそうな顔をした。

「……さっきの、気にするな」
「え?」
「松本のことだ。あいつが何を言っても、俺は、陽菜しか見てないから」
 彼の、あまりにもストレートな、愛情の言葉。
 私の心臓が、大きく、大きく、跳ね上がる。
「……うん。わかってる」
 私は、彼の言葉を、その温かい気持ちを、しっかりと受け止めた。

 体育館を出て、二人で並んで、夕日に染まる道を歩く。
「ねえ、怜くん」
「なんだ」
「恋人の特権って、すごいね」
「……は?」
「だって、怜くんのかっこいいところも、可愛いところも、優しいところも、全部、一番近くで見ていられるんだもん」
 私がそう言うと、彼は、観念したように、大きなため息をついた。

 そして、彼は、私の前に回り込むと、少しだけ屈んで、私の瞳を、真っ直ぐに見つめた。
「……それは、俺のセリフだ」
「え?」
「陽菜の、笑顔も、ドジなところも、俺のことばっかり見てる顔も……。全部、一番近くで見ていられるのは、俺だけの特権だろ」

 その、あまりにも甘い、不意打ちの言葉。
 私の顔に、一気に熱が集まる。何も言えなくなってしまった私を見て、彼は、満足そうに、ふっと笑った。
 そして、ごく自然に、私の手を握る。

「帰るぞ、陽菜」

 繋がれた手から伝わる、彼の確かな温もり。
 ライバルの存在なんて、もう、気にならない。
 だって、彼の「特別」が、私だけだということを、私は、誰よりも、知っているのだから。

 私たちの恋の物語は、甘くて、温かくて、そして、少しだけ、意地悪な彼の優しさに満ちていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎ 清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。 膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。 さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。 社交は上品に、恋心は必死に隠したい。 なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——! むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。 清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。

《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―

月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。 その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、 人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。 そして、今――再びその年が巡ってきた。 王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。 彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。 そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。 無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。 けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、 25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。 それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや

静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。 朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。 「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。 この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか? 甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!

密会~合コン相手はドS社長~

日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。

私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない

朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。 止まっていた時が。 再び、動き出す―――。 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦* 衣川遥稀(いがわ はるき) 好きな人に素直になることができない 松尾聖志(まつお さとし) イケメンで人気者 *◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*

私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)

星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。 団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。 副団長「彼女のご飯は軍事物資です」 私「えっ重い」 胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!? ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。 (月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)

〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー

i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆ 最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡ バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。 数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)

処理中です...