氷の王子と秘密の観察日記

藤森瑠璃香

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第22話:深まる秋と、恋人たちの時間

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 十一月も半ばを過ぎ、星陵高校の木々は、赤や黄色の葉をはらはらと散らし始めていた。
 マフラーや手袋をした生徒たちが増え、吐く息が白くなる季節。私と怜くんの関係は、そんな冬の訪れと共に、より一層、穏やかで、温かいものへと深まっていた。

「陽菜、手、冷たい」
 放課後、一緒に帰る道すがら、怜くんが、私の手を自分のコートのポケットに、そっと引き入れた。
 ポケットの中で、彼の大きな手が、私の手を、優しく包み込む。その温かさが、じんわりと、心の中まで広がっていく。
「……怜くんの手、あったかいね」
「別に。普通だろ」
 そんな、素っ気ない返事をしながらも、彼は、決してその手を離そうとはしなかった。

 私たちの関係は、クラスメイトたちにとっても、すっかり微笑ましい日常の一部になっていた。
「佐伯、また霧島のこと見て、にやけてるぞ」
「陽菜、あんたのその顔、もう隠す気ないでしょ!」
 美咲と悠斗にからかわれるたびに、私たちは顔を見合わせて、照れくさく笑う。

 でも、そんな穏やかな時間の中で、私は、少しだけ、焦りを感じ始めていた。
 恋人になって、手を繋いだり、一緒に帰ったり、そんな幸せな時間は増えたけれど、私たちは、まだ一度も、ちゃんとした「デート」というものをしたことがなかったのだ。

(怜くん、誘ってくれないかな……)
 そんな、淡い期待を抱きながらも、バスケの練習で忙しい彼に、我儘を言うことはできなかった。

 その日の昼休み、私は屋上で、一人、ため息をついていた。
「どうした、陽菜。また数学で赤点でも取ったのか」
 いつの間にか隣にいた怜くんが、私の顔を覗き込んで、意地悪く笑う。
「違うよ! ……ただ、ちょっと、考え事してただけ」
「ふーん」
 彼は、それ以上は何も聞かずに、私の隣に座り、静かに空を眺めている。その、何も言わなくても、隣にいてくれる優しさが、嬉しかった。

「……陽菜」
 しばらくして、彼が、ぽつりと私の名前を呼んだ。
「今度の日曜、空いてるか」
「え?」
 予想もしていなかった言葉に、私は、思わず間抜けな声を出してしまった。
「……新人戦が終わって、久しぶりに休みになったんだ。だから、その……もし、お前がよければ、だけど」
 彼は、少しだけ視線を逸らしながら、続ける。
「映画でも、見に行かないか」

 それは、彼の、初めての、デートのお誘いだった。
 嬉しくて、胸がいっぱいで、言葉が出てこない。私は、何度も、何度も、力強く頷いた。
 私の反応を見て、彼は、心の底からホッとしたように、柔らかく、優しく微笑んだ。
 その笑顔は、今まで見た、どんな彼の顔よりも、ずっとずっと、素敵だった。

「じゃあ、決まりだな」
 彼は、そう言うと、少しだけ照れたように、立ち上がった。
「……楽しみにしてる」
 そう言い残して、彼は屋上から去っていく。その大きな背中が、なんだか、いつもより、ずっとずっと、頼もしく見えた。

 一人、屋上に残された私は、まだドキドキと鳴りやまない心臓を押さえながら、空を見上げた。
 澄み切った秋の空が、どこまでも、どこまでも、青く広がっている。
 私の恋の物語は、また、新しい、キラキラとしたページを開こうとしていた。
 初めての、恋人としての、デート。
 その響きだけで、私の世界は、幸せな色に染まっていくようだった。
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