22 / 41
第22話:深まる秋と、恋人たちの時間
しおりを挟む
十一月も半ばを過ぎ、星陵高校の木々は、赤や黄色の葉をはらはらと散らし始めていた。
マフラーや手袋をした生徒たちが増え、吐く息が白くなる季節。私と怜くんの関係は、そんな冬の訪れと共に、より一層、穏やかで、温かいものへと深まっていた。
「陽菜、手、冷たい」
放課後、一緒に帰る道すがら、怜くんが、私の手を自分のコートのポケットに、そっと引き入れた。
ポケットの中で、彼の大きな手が、私の手を、優しく包み込む。その温かさが、じんわりと、心の中まで広がっていく。
「……怜くんの手、あったかいね」
「別に。普通だろ」
そんな、素っ気ない返事をしながらも、彼は、決してその手を離そうとはしなかった。
私たちの関係は、クラスメイトたちにとっても、すっかり微笑ましい日常の一部になっていた。
「佐伯、また霧島のこと見て、にやけてるぞ」
「陽菜、あんたのその顔、もう隠す気ないでしょ!」
美咲と悠斗にからかわれるたびに、私たちは顔を見合わせて、照れくさく笑う。
でも、そんな穏やかな時間の中で、私は、少しだけ、焦りを感じ始めていた。
恋人になって、手を繋いだり、一緒に帰ったり、そんな幸せな時間は増えたけれど、私たちは、まだ一度も、ちゃんとした「デート」というものをしたことがなかったのだ。
(怜くん、誘ってくれないかな……)
そんな、淡い期待を抱きながらも、バスケの練習で忙しい彼に、我儘を言うことはできなかった。
その日の昼休み、私は屋上で、一人、ため息をついていた。
「どうした、陽菜。また数学で赤点でも取ったのか」
いつの間にか隣にいた怜くんが、私の顔を覗き込んで、意地悪く笑う。
「違うよ! ……ただ、ちょっと、考え事してただけ」
「ふーん」
彼は、それ以上は何も聞かずに、私の隣に座り、静かに空を眺めている。その、何も言わなくても、隣にいてくれる優しさが、嬉しかった。
「……陽菜」
しばらくして、彼が、ぽつりと私の名前を呼んだ。
「今度の日曜、空いてるか」
「え?」
予想もしていなかった言葉に、私は、思わず間抜けな声を出してしまった。
「……新人戦が終わって、久しぶりに休みになったんだ。だから、その……もし、お前がよければ、だけど」
彼は、少しだけ視線を逸らしながら、続ける。
「映画でも、見に行かないか」
それは、彼の、初めての、デートのお誘いだった。
嬉しくて、胸がいっぱいで、言葉が出てこない。私は、何度も、何度も、力強く頷いた。
私の反応を見て、彼は、心の底からホッとしたように、柔らかく、優しく微笑んだ。
その笑顔は、今まで見た、どんな彼の顔よりも、ずっとずっと、素敵だった。
「じゃあ、決まりだな」
彼は、そう言うと、少しだけ照れたように、立ち上がった。
「……楽しみにしてる」
そう言い残して、彼は屋上から去っていく。その大きな背中が、なんだか、いつもより、ずっとずっと、頼もしく見えた。
一人、屋上に残された私は、まだドキドキと鳴りやまない心臓を押さえながら、空を見上げた。
澄み切った秋の空が、どこまでも、どこまでも、青く広がっている。
私の恋の物語は、また、新しい、キラキラとしたページを開こうとしていた。
初めての、恋人としての、デート。
その響きだけで、私の世界は、幸せな色に染まっていくようだった。
マフラーや手袋をした生徒たちが増え、吐く息が白くなる季節。私と怜くんの関係は、そんな冬の訪れと共に、より一層、穏やかで、温かいものへと深まっていた。
「陽菜、手、冷たい」
放課後、一緒に帰る道すがら、怜くんが、私の手を自分のコートのポケットに、そっと引き入れた。
ポケットの中で、彼の大きな手が、私の手を、優しく包み込む。その温かさが、じんわりと、心の中まで広がっていく。
「……怜くんの手、あったかいね」
「別に。普通だろ」
そんな、素っ気ない返事をしながらも、彼は、決してその手を離そうとはしなかった。
私たちの関係は、クラスメイトたちにとっても、すっかり微笑ましい日常の一部になっていた。
「佐伯、また霧島のこと見て、にやけてるぞ」
「陽菜、あんたのその顔、もう隠す気ないでしょ!」
美咲と悠斗にからかわれるたびに、私たちは顔を見合わせて、照れくさく笑う。
でも、そんな穏やかな時間の中で、私は、少しだけ、焦りを感じ始めていた。
恋人になって、手を繋いだり、一緒に帰ったり、そんな幸せな時間は増えたけれど、私たちは、まだ一度も、ちゃんとした「デート」というものをしたことがなかったのだ。
(怜くん、誘ってくれないかな……)
そんな、淡い期待を抱きながらも、バスケの練習で忙しい彼に、我儘を言うことはできなかった。
その日の昼休み、私は屋上で、一人、ため息をついていた。
「どうした、陽菜。また数学で赤点でも取ったのか」
いつの間にか隣にいた怜くんが、私の顔を覗き込んで、意地悪く笑う。
「違うよ! ……ただ、ちょっと、考え事してただけ」
「ふーん」
彼は、それ以上は何も聞かずに、私の隣に座り、静かに空を眺めている。その、何も言わなくても、隣にいてくれる優しさが、嬉しかった。
「……陽菜」
しばらくして、彼が、ぽつりと私の名前を呼んだ。
「今度の日曜、空いてるか」
「え?」
予想もしていなかった言葉に、私は、思わず間抜けな声を出してしまった。
「……新人戦が終わって、久しぶりに休みになったんだ。だから、その……もし、お前がよければ、だけど」
彼は、少しだけ視線を逸らしながら、続ける。
「映画でも、見に行かないか」
それは、彼の、初めての、デートのお誘いだった。
嬉しくて、胸がいっぱいで、言葉が出てこない。私は、何度も、何度も、力強く頷いた。
私の反応を見て、彼は、心の底からホッとしたように、柔らかく、優しく微笑んだ。
その笑顔は、今まで見た、どんな彼の顔よりも、ずっとずっと、素敵だった。
「じゃあ、決まりだな」
彼は、そう言うと、少しだけ照れたように、立ち上がった。
「……楽しみにしてる」
そう言い残して、彼は屋上から去っていく。その大きな背中が、なんだか、いつもより、ずっとずっと、頼もしく見えた。
一人、屋上に残された私は、まだドキドキと鳴りやまない心臓を押さえながら、空を見上げた。
澄み切った秋の空が、どこまでも、どこまでも、青く広がっている。
私の恋の物語は、また、新しい、キラキラとしたページを開こうとしていた。
初めての、恋人としての、デート。
その響きだけで、私の世界は、幸せな色に染まっていくようだった。
0
あなたにおすすめの小説
清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎
清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。
膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。
さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。
社交は上品に、恋心は必死に隠したい。
なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——!
むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。
清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。
《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―
月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。
その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、
人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。
そして、今――再びその年が巡ってきた。
王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。
彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。
そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。
無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。
けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、
25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。
それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)
星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。
団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。
副団長「彼女のご飯は軍事物資です」
私「えっ重い」
胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!?
ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。
(月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる