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第28話:過去からの亡霊
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初戦を突破した安堵と興奮で、体育館からの帰り道は、いつもよりずっと賑やかだった。
「陽菜のお守り、効果絶大だったな!」
「怜の最後のフリースロー、マジで神だった!」
悠斗と美咲が、今日の試合のハイライトを、何度も楽しそうに繰り返す。その隣で、怜くんは、少し照れくさそうに、でも、確かに嬉しそうな顔で、黙って聞いていた。
試合のプレッシャーから解放された彼の横顔は、穏やかで、優しい。
その、幸せな空気を、打ち破ったのは、唐突だった。
「よぉ、霧島じゃん。久しぶり」
体育館の出口で、私たちを待ち構えていたかのように、他校の制服を着た男子生徒のグループが、ニヤニヤと意地悪く笑いながら、私たちの前に立ちはだかった。
その中の一人は、さっきまで怜くんたちが戦っていた、相手校の選手だった。
「お前、すっかり見違えたな。中学ん時と、別人みたいじゃん。……痩せたんだな」
その、ねっとりとした、嘲笑を含んだ声。
「マジ? こいつが、あのデブの霧島? うっそだろ!」
その言葉が、まるで呪いのように、怜くんに突き刺さる。
さっきまでの、自信に満ちたエースの顔が、嘘のように消え去った。彼の顔から、すうっと血の気が引き、完璧な「氷の王子」の仮面が、音を立てて砕け散る。
そこにいたのは、あの卒業アルバムの写真の中で、所在なさげに俯いていた、一人の、傷ついた少年だった。
「てめぇら、何の用だ」
悠斗が、怜くんを庇うように、一歩前に出る。
でも、それよりも速く、動いた人間がいた。
私だった。
胸の奥で、燃えるような、激しい怒りが、込み上げてくる。
許せない。
この人たちが、怜くんの心を、ずっと縛り付けてきた、過去の亡霊だ。
彼が、血の滲むような努力で乗り越えようとしている、その過去を、面白半分で、踏みにじろうとしている。
私は、震える怜くんの前に、すっと立った。まるで、彼を守る、盾になるみたいに。
そして、顔に、とびっきりの笑顔を貼り付けて、彼らに向かって言った。
「わあ! 怜くんの、昔のお友達ですか? はじめまして! 私、佐伯陽菜って言います。怜くんの、彼女です」
私の、あまりにも堂々とした、予想外の自己紹介に、男子生徒たちは、一瞬、虚を突かれたように、言葉を失う。
私は、その隙を逃さなかった。
「そうなんです! 怜くん、すっごく変わったでしょう? 才能のある人が、努力をすると、こんなにも輝けるんだって、私も、毎日、びっくりしてるんです」
私は、自慢の彼氏を紹介するように、誇らしげに、胸を張った。
「今日も、彼、エースとして、チームを勝利に導いたんですよ。特に、最後のフリースローは、圧巻でした! さすが、私が好きになった人だなって!」
私の、一切のてらいのない言葉。それは、彼らが嘲笑の的にしようとした、怜くんの「過去」を、輝かしい「今」で、完全に塗り替えるための、反撃の言葉だった。
「……というわけで、これから、私たちは、祝勝会に行かなくちゃいけないので。昔話の相手をしている時間はないんです」
最後に、私は、笑顔のまま、でも、瞳の奥に、絶対零度の光を宿して、彼らを、一瞥した。
「過去に囚われているなんて、……可哀想ですね」
そう言い放つと、私は、まだ呆然としている怜くんの手を、ぎゅっと握った。
「行こう、怜くん!」
そして、固まっている男子生徒たちの横を、悠然と、通り過ぎた。
しばらく歩いて、角を曲がったところで、怜くんが、ぴたりと足を止めた。
私は、振り返ると、心配になって、彼の顔を覗き込んだ。
「……ごめん。私、でしゃばりすぎた、かな……」
すると、彼は、何も言わずに、私の頬に、そっと、手を伸ばした。
そして、私の髪にかかった、一枚の落ち葉を、優しく、取り払ってくれた。
その瞳は、驚きと、感動と、そして、今まで見たことのないくらい、深い、深い愛情の色で、潤んでいた。
「……陽菜」
彼は、掠れた声で、私の名前を呼んだ。
「お前って、ほんと、……すごいな」
その、心の底からの、賞賛の言葉。
私はもう、ただの「彼女」じゃない。
彼の弱さも、過去も、全部、一緒に背負って、戦うことができる。
彼の、たった一人の、「パートナー」なのだ。
そう、確信した。
「陽菜のお守り、効果絶大だったな!」
「怜の最後のフリースロー、マジで神だった!」
悠斗と美咲が、今日の試合のハイライトを、何度も楽しそうに繰り返す。その隣で、怜くんは、少し照れくさそうに、でも、確かに嬉しそうな顔で、黙って聞いていた。
試合のプレッシャーから解放された彼の横顔は、穏やかで、優しい。
その、幸せな空気を、打ち破ったのは、唐突だった。
「よぉ、霧島じゃん。久しぶり」
体育館の出口で、私たちを待ち構えていたかのように、他校の制服を着た男子生徒のグループが、ニヤニヤと意地悪く笑いながら、私たちの前に立ちはだかった。
その中の一人は、さっきまで怜くんたちが戦っていた、相手校の選手だった。
「お前、すっかり見違えたな。中学ん時と、別人みたいじゃん。……痩せたんだな」
その、ねっとりとした、嘲笑を含んだ声。
「マジ? こいつが、あのデブの霧島? うっそだろ!」
その言葉が、まるで呪いのように、怜くんに突き刺さる。
さっきまでの、自信に満ちたエースの顔が、嘘のように消え去った。彼の顔から、すうっと血の気が引き、完璧な「氷の王子」の仮面が、音を立てて砕け散る。
そこにいたのは、あの卒業アルバムの写真の中で、所在なさげに俯いていた、一人の、傷ついた少年だった。
「てめぇら、何の用だ」
悠斗が、怜くんを庇うように、一歩前に出る。
でも、それよりも速く、動いた人間がいた。
私だった。
胸の奥で、燃えるような、激しい怒りが、込み上げてくる。
許せない。
この人たちが、怜くんの心を、ずっと縛り付けてきた、過去の亡霊だ。
彼が、血の滲むような努力で乗り越えようとしている、その過去を、面白半分で、踏みにじろうとしている。
私は、震える怜くんの前に、すっと立った。まるで、彼を守る、盾になるみたいに。
そして、顔に、とびっきりの笑顔を貼り付けて、彼らに向かって言った。
「わあ! 怜くんの、昔のお友達ですか? はじめまして! 私、佐伯陽菜って言います。怜くんの、彼女です」
私の、あまりにも堂々とした、予想外の自己紹介に、男子生徒たちは、一瞬、虚を突かれたように、言葉を失う。
私は、その隙を逃さなかった。
「そうなんです! 怜くん、すっごく変わったでしょう? 才能のある人が、努力をすると、こんなにも輝けるんだって、私も、毎日、びっくりしてるんです」
私は、自慢の彼氏を紹介するように、誇らしげに、胸を張った。
「今日も、彼、エースとして、チームを勝利に導いたんですよ。特に、最後のフリースローは、圧巻でした! さすが、私が好きになった人だなって!」
私の、一切のてらいのない言葉。それは、彼らが嘲笑の的にしようとした、怜くんの「過去」を、輝かしい「今」で、完全に塗り替えるための、反撃の言葉だった。
「……というわけで、これから、私たちは、祝勝会に行かなくちゃいけないので。昔話の相手をしている時間はないんです」
最後に、私は、笑顔のまま、でも、瞳の奥に、絶対零度の光を宿して、彼らを、一瞥した。
「過去に囚われているなんて、……可哀想ですね」
そう言い放つと、私は、まだ呆然としている怜くんの手を、ぎゅっと握った。
「行こう、怜くん!」
そして、固まっている男子生徒たちの横を、悠然と、通り過ぎた。
しばらく歩いて、角を曲がったところで、怜くんが、ぴたりと足を止めた。
私は、振り返ると、心配になって、彼の顔を覗き込んだ。
「……ごめん。私、でしゃばりすぎた、かな……」
すると、彼は、何も言わずに、私の頬に、そっと、手を伸ばした。
そして、私の髪にかかった、一枚の落ち葉を、優しく、取り払ってくれた。
その瞳は、驚きと、感動と、そして、今まで見たことのないくらい、深い、深い愛情の色で、潤んでいた。
「……陽菜」
彼は、掠れた声で、私の名前を呼んだ。
「お前って、ほんと、……すごいな」
その、心の底からの、賞賛の言葉。
私はもう、ただの「彼女」じゃない。
彼の弱さも、過去も、全部、一緒に背負って、戦うことができる。
彼の、たった一人の、「パートナー」なのだ。
そう、確信した。
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