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第29話:私が、君の盾になる
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「……陽菜。お前って、ほんと、……すごいな」
彼の、心の底から絞り出したような言葉が、夕暮れの空気に、静かに溶けていく。
私は、まだ高鳴り続ける心臓を抑えながら、彼の、潤んだ瞳を、ただ、見つめ返していた。
少し離れた場所で、悠斗と美咲が、心配そうに、でも、私たちの邪魔をしないように、静かに見守ってくれているのがわかった。
私たちは、近くの公園の、誰もいないベンチに、並んで腰を下ろした。
しばらく、どちらも、何も話せなかった。
先に沈黙を破ったのは、怜くんだった。
「……怖かった」
彼は、繋いだままの、私の手を見つめながら、ぽつりと、呟いた。
「あいつらを見た瞬間、まるで、中学の頃に戻ったみたいだった。何をしても馬鹿にされて、笑われて……。コートの上でも、大事な場面になると、いつも、あいつらの笑い声が、頭の中で響いてたんだ」
それは、彼が、今まで誰にも明かさなかったであろう、心の奥底の、生々しい傷跡だった。
彼は、顔を上げて、私を、真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、もう、氷の仮面はない。ただ、ありのままの、弱くて、傷ついた、一人の男の子の心が、映っていた。
「でも、さっき……。お前が、俺の前に立ってくれた時。不思議なんだ。あいつらの声が、全部、消えたんだ」
彼の声が、わずかに、震える。
「聞こえてきたのは、陽菜の声だけだった。お前が、俺のことを、『かっこいい』って、誇らしげに、言ってくれる声だけが……」
その、あまりにも切ない告白に、私の胸は、締め付けられるように、痛んだ。
でも、それ以上に、どうしようもなく、愛おしい、という気持ちが、込み上げてくる。
私は、彼の手を、ぎゅっと、握り返した。
「当たり前だよ!」
私の声に、彼は、驚いて顔を上げる。
「怜くんは、世界で一番、かっこいいんだから! 誰よりも努力家で、誰よりも優しくて、そして、誰よりも強い人なんだって、私が、一番、知ってる!」
私は、立ち上がると、彼の前に屈み込み、その瞳を、覗き込んだ。
「だから、約束する。これから先、怜くんの心を縛り付ける、過去の亡霊が現れたら、私が、何度でも、あなたの盾になる。どんな悪意の声よりも、ずっと、ずっと、大きな声で、あなたの名前を呼び続ける」
涙で、彼の顔が滲む。
「私が、あなたの過去も、今も、未来も、全部、丸ごと、肯定してあげるから!」
私の、誓いの言葉。
怜くんは、何も言わずに、ただ、黙って、私の言葉を聞いていた。
そして、次の瞬間、彼は、その大きな腕で、私の体を、壊れそうなくらい、強く、強く、抱きしめた。
私の肩に、彼の顔が、うずめられる。
ありがとう、とも、ごめん、とも違う。ただ、しゃくりあげるような、彼の、心の震えだけが、私に、伝わってきた。
遠くで、美咲が、小さく、鼻をすする音が聞こえた。
長い、長い時間が過ぎて、私たちは、ゆっくりと、体を離した。
夕日は、もうほとんど、沈みかけている。
でも、私の目の前にいる彼の表情は、今まで見た、どんな時よりも、晴れやかで、穏やかだった。
彼の瞳の奥に、ずっと、澱のように溜まっていた、暗い影が、完全に、消え去っている。
「……来週、決勝だ」
彼が、静かに、そう言った。
「うん」
「勝つよ」
その声には、もう、一切の、迷いも、恐れもなかった。
「俺たちの、ために」
私は、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、満面の笑みで、力強く、頷いた。
新人戦の決勝戦。
それはもう、彼が過去と決別するための戦いじゃない。
私と彼が、二人で、輝かしい未来を掴むための、始まりの舞台なのだ。
彼の、心の底から絞り出したような言葉が、夕暮れの空気に、静かに溶けていく。
私は、まだ高鳴り続ける心臓を抑えながら、彼の、潤んだ瞳を、ただ、見つめ返していた。
少し離れた場所で、悠斗と美咲が、心配そうに、でも、私たちの邪魔をしないように、静かに見守ってくれているのがわかった。
私たちは、近くの公園の、誰もいないベンチに、並んで腰を下ろした。
しばらく、どちらも、何も話せなかった。
先に沈黙を破ったのは、怜くんだった。
「……怖かった」
彼は、繋いだままの、私の手を見つめながら、ぽつりと、呟いた。
「あいつらを見た瞬間、まるで、中学の頃に戻ったみたいだった。何をしても馬鹿にされて、笑われて……。コートの上でも、大事な場面になると、いつも、あいつらの笑い声が、頭の中で響いてたんだ」
それは、彼が、今まで誰にも明かさなかったであろう、心の奥底の、生々しい傷跡だった。
彼は、顔を上げて、私を、真っ直ぐに見つめた。
その瞳には、もう、氷の仮面はない。ただ、ありのままの、弱くて、傷ついた、一人の男の子の心が、映っていた。
「でも、さっき……。お前が、俺の前に立ってくれた時。不思議なんだ。あいつらの声が、全部、消えたんだ」
彼の声が、わずかに、震える。
「聞こえてきたのは、陽菜の声だけだった。お前が、俺のことを、『かっこいい』って、誇らしげに、言ってくれる声だけが……」
その、あまりにも切ない告白に、私の胸は、締め付けられるように、痛んだ。
でも、それ以上に、どうしようもなく、愛おしい、という気持ちが、込み上げてくる。
私は、彼の手を、ぎゅっと、握り返した。
「当たり前だよ!」
私の声に、彼は、驚いて顔を上げる。
「怜くんは、世界で一番、かっこいいんだから! 誰よりも努力家で、誰よりも優しくて、そして、誰よりも強い人なんだって、私が、一番、知ってる!」
私は、立ち上がると、彼の前に屈み込み、その瞳を、覗き込んだ。
「だから、約束する。これから先、怜くんの心を縛り付ける、過去の亡霊が現れたら、私が、何度でも、あなたの盾になる。どんな悪意の声よりも、ずっと、ずっと、大きな声で、あなたの名前を呼び続ける」
涙で、彼の顔が滲む。
「私が、あなたの過去も、今も、未来も、全部、丸ごと、肯定してあげるから!」
私の、誓いの言葉。
怜くんは、何も言わずに、ただ、黙って、私の言葉を聞いていた。
そして、次の瞬間、彼は、その大きな腕で、私の体を、壊れそうなくらい、強く、強く、抱きしめた。
私の肩に、彼の顔が、うずめられる。
ありがとう、とも、ごめん、とも違う。ただ、しゃくりあげるような、彼の、心の震えだけが、私に、伝わってきた。
遠くで、美咲が、小さく、鼻をすする音が聞こえた。
長い、長い時間が過ぎて、私たちは、ゆっくりと、体を離した。
夕日は、もうほとんど、沈みかけている。
でも、私の目の前にいる彼の表情は、今まで見た、どんな時よりも、晴れやかで、穏やかだった。
彼の瞳の奥に、ずっと、澱のように溜まっていた、暗い影が、完全に、消え去っている。
「……来週、決勝だ」
彼が、静かに、そう言った。
「うん」
「勝つよ」
その声には、もう、一切の、迷いも、恐れもなかった。
「俺たちの、ために」
私は、涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、満面の笑みで、力強く、頷いた。
新人戦の決勝戦。
それはもう、彼が過去と決別するための戦いじゃない。
私と彼が、二人で、輝かしい未来を掴むための、始まりの舞台なのだ。
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