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第30話:決勝戦と、君の本当の笑顔
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新人戦、決勝戦の当日。
体育館は、立ち見が出るほどの観客で埋め尽くされ、異様なほどの熱気に包まれていた。
私は、観客席の最前列で、祈るように、ぎゅっと手を握りしめていた。でも、私の心は、不思議と、穏やかだった。
(大丈夫。今の怜くんなら、絶対に、大丈夫)
試合が始まる直前、怜くんが、私の元へとやってきた。
チームメイトたちの喧騒から離れた、廊下の隅で。
彼は、もう、緊張した顔はしていなかった。ただ、静かで、強い決意を秘めた瞳で、私を見つめている。
「行ってくる」
「うん」
「……見ててくれ」
それは、助けを求める言葉じゃない。自分の、最高の姿を見届けてほしい、という、自信に満ちた、約束の言葉だった。
私は、満面の笑みで、力強く頷いた。
「もちろん。ずっと、見てるよ」
決勝戦の相手は、優勝候補の強豪校。
試合は、開始直後から、息もつかせぬほどの激しい点の取り合いになった。
コートの中の怜くんは、まるで、水を得た魚のようだった。いや、空を舞う、一羽の鷹のようだった。
コート全体を見渡し、的確なパスで仲間を生かし、時には、自ら、稲妻のような速さでゴールへと切り込んでいく。
でも、何よりも違ったのは、彼の表情だった。
もう、そこには、孤独な「氷の王子」の姿はない。
悠斗と、息の合った連携プレイが決まれば、心の底から嬉しそうにハイタッチを交わし、難しいシュートを決めれば、少年のような、無邪気な笑顔を見せる。
彼は、勝つためだけに、戦っているんじゃない。
バスケットボールというスポーツを、仲間と共にプレイすることを、心から、楽しんでいた。
私は、ファインダー越しに、その、一つ一つの、新しい表情を、夢中で追いかけた。
これが、彼の、本当の姿。私が、ずっと、見たかった、彼の、素顔。
そして、運命の、第四クォーター、残り時間、三秒。
スコアは、一点差で、星陵高校が負けている。
最後のボールは、怜くんに託された。
体育館中の、全ての人間が、息を呑む。
あの、中学最後の試合と、同じシチュエーション。
でも、彼は、もう、観客席にいる私を探したりはしなかった。彼はもう、大丈夫なのだ。私の存在が、彼の心の中で、揺るぎないお守りとして、輝いていることを、信じているから。
彼は、静かに、ドリブルをつく。
そして、放たれたボールは。
全ての願いを乗せて、スローモーションのように、空中を舞い――
ブザーと同時に、ゴールネットを、美しく、揺らした。
わあああああ!
地鳴りのような、大歓声。
チームメイトたちが、怜くんの元へと駆け寄り、彼を、何度も、何度も、宙に放り投げる。
その輪の中心で、彼は、今まで、私が見たこともないような、くしゃくしゃの、最高の笑顔で、笑っていた。
やがて、彼は、仲間たちの肩から降ろされると、まっすぐに、私の元へと、歩いてきた。
熱狂する観客も、祝福するチームメイトも、もう、彼の目には、入っていない。
私の目の前で、立ち止まる。まだ、汗が光るその顔は、勝利の興奮で、紅潮している。
「……陽菜」
「おめでとう、怜くん! 本当に、すごかった……!」
涙で、声が震える。
すると、彼は、手に持っていた、優勝記念の、金色のメダルを、そっと、私の首にかけてくれた。
「……俺たち、勝ったな」
その、「俺たち」という言葉に、全ての想いが、込められていた。
そして、彼は、周りの視線も、何もかも、気にすることなく、その大きな腕で、私を、優しく、抱きしめた。
「ありがとう、陽菜。お前が、いてくれたからだ」
体育館の、熱狂の真ん中で。
私は、彼の胸に顔をうずめながら、確信する。
氷の王子様は、もう、どこにもいない。
私の目の前にいるのは、過去の痛みを乗り越え、最高の笑顔を手に入れた、たった一人の、私の、ヒーローだ。
体育館は、立ち見が出るほどの観客で埋め尽くされ、異様なほどの熱気に包まれていた。
私は、観客席の最前列で、祈るように、ぎゅっと手を握りしめていた。でも、私の心は、不思議と、穏やかだった。
(大丈夫。今の怜くんなら、絶対に、大丈夫)
試合が始まる直前、怜くんが、私の元へとやってきた。
チームメイトたちの喧騒から離れた、廊下の隅で。
彼は、もう、緊張した顔はしていなかった。ただ、静かで、強い決意を秘めた瞳で、私を見つめている。
「行ってくる」
「うん」
「……見ててくれ」
それは、助けを求める言葉じゃない。自分の、最高の姿を見届けてほしい、という、自信に満ちた、約束の言葉だった。
私は、満面の笑みで、力強く頷いた。
「もちろん。ずっと、見てるよ」
決勝戦の相手は、優勝候補の強豪校。
試合は、開始直後から、息もつかせぬほどの激しい点の取り合いになった。
コートの中の怜くんは、まるで、水を得た魚のようだった。いや、空を舞う、一羽の鷹のようだった。
コート全体を見渡し、的確なパスで仲間を生かし、時には、自ら、稲妻のような速さでゴールへと切り込んでいく。
でも、何よりも違ったのは、彼の表情だった。
もう、そこには、孤独な「氷の王子」の姿はない。
悠斗と、息の合った連携プレイが決まれば、心の底から嬉しそうにハイタッチを交わし、難しいシュートを決めれば、少年のような、無邪気な笑顔を見せる。
彼は、勝つためだけに、戦っているんじゃない。
バスケットボールというスポーツを、仲間と共にプレイすることを、心から、楽しんでいた。
私は、ファインダー越しに、その、一つ一つの、新しい表情を、夢中で追いかけた。
これが、彼の、本当の姿。私が、ずっと、見たかった、彼の、素顔。
そして、運命の、第四クォーター、残り時間、三秒。
スコアは、一点差で、星陵高校が負けている。
最後のボールは、怜くんに託された。
体育館中の、全ての人間が、息を呑む。
あの、中学最後の試合と、同じシチュエーション。
でも、彼は、もう、観客席にいる私を探したりはしなかった。彼はもう、大丈夫なのだ。私の存在が、彼の心の中で、揺るぎないお守りとして、輝いていることを、信じているから。
彼は、静かに、ドリブルをつく。
そして、放たれたボールは。
全ての願いを乗せて、スローモーションのように、空中を舞い――
ブザーと同時に、ゴールネットを、美しく、揺らした。
わあああああ!
地鳴りのような、大歓声。
チームメイトたちが、怜くんの元へと駆け寄り、彼を、何度も、何度も、宙に放り投げる。
その輪の中心で、彼は、今まで、私が見たこともないような、くしゃくしゃの、最高の笑顔で、笑っていた。
やがて、彼は、仲間たちの肩から降ろされると、まっすぐに、私の元へと、歩いてきた。
熱狂する観客も、祝福するチームメイトも、もう、彼の目には、入っていない。
私の目の前で、立ち止まる。まだ、汗が光るその顔は、勝利の興奮で、紅潮している。
「……陽菜」
「おめでとう、怜くん! 本当に、すごかった……!」
涙で、声が震える。
すると、彼は、手に持っていた、優勝記念の、金色のメダルを、そっと、私の首にかけてくれた。
「……俺たち、勝ったな」
その、「俺たち」という言葉に、全ての想いが、込められていた。
そして、彼は、周りの視線も、何もかも、気にすることなく、その大きな腕で、私を、優しく、抱きしめた。
「ありがとう、陽菜。お前が、いてくれたからだ」
体育館の、熱狂の真ん中で。
私は、彼の胸に顔をうずめながら、確信する。
氷の王子様は、もう、どこにもいない。
私の目の前にいるのは、過去の痛みを乗り越え、最高の笑顔を手に入れた、たった一人の、私の、ヒーローだ。
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