氷の王子と秘密の観察日記

藤森瑠璃香

文字の大きさ
33 / 41

第33話:十二月の風と、初めての約束

しおりを挟む
 十二月に入り、街は、まるで魔法にかけられたみたいに、きらきらと輝き始めた。
 ショーウィンドウにはクリスマスツリーが飾られ、吐く息は、白く、空に溶けていく。
 私と怜くんの関係も、そんな冬の訪れと共に、より一層、穏やかで、温かいものになっていた。

 朝、校門で待ち合わせるのが、私たちの、当たり前の習慣になった。
「陽菜、ほら」
「わ、あったかい……!」
 彼が、自販機で買ってくれた温かいミルクティーを、冷たくなった私の両手に、そっと握らせてくれる。そんな、何気ない優しさが、私の心を、じんわりと温めてくれた。

 昼休みには、屋上で二人、私たちの宝物になった「未来予想図」のノートを広げる。
『怜くんへ。カリフォルニアの大学、図書館がすごく大きいんだって!』
『陽菜へ。この記事、面白い。こういうのが書きたいのか?』
 付箋に書かれたメッセージを交換し合い、お互いの夢の欠片を、少しずつ、共有していく。その時間が、たまらなく、好きだった。

 その日の放課後。
 バスケ部の練習を終えた怜くんと、二人で並んで、帰り道を歩く。
 駅前の並木道は、無数の小さな電球で飾られ、光のトンネルみたいになっていた。

「うわぁ……綺麗」
 私が、思わず足を止めて見上げると、隣で、彼も、同じように、柔らかな光を見つめていた。
「……もう、そんな季節か」
「うん。もうすぐ、クリスマスだね」
 私は、少しだけ、勇気を出して、彼の顔を見上げた。
「……あのさ、怜くん。クリスマス・イブの日って、空いてる?」

 私の、少しだけ震えた声。
 彼は、私の問いに、驚いた顔もせず、ただ、とても、とても、優しい顔で、微笑んだ。
「……同じことを、聞こうと思ってた」

 その言葉だけで、十分だった。
 私たちの心は、いつだって、同じ場所にある。
 私たちは、イルミネーションの光の下で、初めての、恋人としてのクリスマスの約束をした。

「……なあ、陽菜」
「ん?」
「プレゼント、何か、欲しいもの、あるか?」
 彼の、少しだけ照れたような質問。
 私は、少しだけ考えて、そして、びしっと、人差し指を立てた。

「あのね、私、怜くんに、マフラーを編んであげる!」
「……は?」
「だから、プレゼントは、そのマフラーを、クリスマス・イブのデートで、ちゃんと着けてきてくれること!」
 私の、突拍子もない宣言に、彼は、一瞬、きょとんとした顔をした後、たまらない、というように、噴き出した。
 そして、一頻り笑った後、その瞳に、どうしようもなく、愛おしい、という色を浮かべて、私を見た。
「……わかった。楽しみに、してる」

 その夜、私は、自分の部屋で、生まれて初めて触る、二本の編み棒と、格闘していた。
 怜くんに似合いそうな、深い、深い、夜空みたいな色の毛糸。
 手芸屋さんの店員さんに教えてもらった通りにやってみるけれど、毛糸は絡まるばかりで、一向に形にならない。

(……本当に、間に合うのかな)
 少しだけ、不安になる。
 でも、あの時の、彼の、嬉しそうな顔を思い出すと、不思議と、力が湧いてきた。

 私の、秘密の観察から始まった物語。
 それは、いつの間にか、彼の未来を応援し、彼のために、不器用な手で、一本のマフラーを編む、そんな、温かくて、確かな愛の物語へと、姿を変えていた。
 今年のクリスマスは、きっと、今までで一番、素敵な日になる。
 そんな、幸せな予感に、私の心は、満たされていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺様御曹司は十二歳年上妻に生涯の愛を誓う

ラヴ KAZU
恋愛
藤城美希 三十八歳独身 大学卒業後入社した鏑木建設会社で16年間経理部にて勤めている。 会社では若い女性社員に囲まれて、お局様状態。 彼氏も、結婚を予定している相手もいない。 そんな美希の前に現れたのが、俺様御曹司鏑木蓮 「明日から俺の秘書な、よろしく」 経理部の美希は蓮の秘書を命じられた。     鏑木 蓮 二十六歳独身 鏑木建設会社社長 バイク事故を起こし美希に命を救われる。 親の脛をかじって生きてきた蓮はこの出来事で人生が大きく動き出す。 社長と秘書の関係のはずが、蓮は事あるごとに愛を囁き溺愛が始まる。 蓮の言うことが信じられなかった美希の気持ちに変化が......     望月 楓 二十六歳独身 蓮とは大学の時からの付き合いで、かれこれ八年になる。 密かに美希に惚れていた。 蓮と違い、奨学金で大学へ行き、実家は農家をしており苦労して育った。 蓮を忘れさせる為に麗子に近づいた。 「麗子、俺を好きになれ」 美希への気持ちが冷めぬまま麗子と結婚したが、徐々に麗子への気持ちに変化が現れる。 面倒見の良い頼れる存在である。 藤城美希は三十八歳独身。大学卒業後、入社した会社で十六年間経理部で働いている。 彼氏も、結婚を予定している相手もいない。 そんな時、俺様御曹司鏑木蓮二十六歳が現れた。 社長就任挨拶の日、美希に「明日から俺の秘書なよろしく」と告げた。 社長と秘書の関係のはずが、蓮は美希に愛を囁く 実は蓮と美希は初対面ではない、その事実に美希は気づかなかった。 そして蓮は美希に驚きの事を言う、それは......

定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました

藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。 そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。 ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。 その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。 仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。 会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。 これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。

砂漠の国でイケメン俺様CEOと秘密結婚⁉︎ 〜Romance in Abū Dhabī〜 【Alphapolis Edition】

佐倉 蘭
恋愛
都内の大手不動産会社に勤める、三浦 真珠子(まみこ)27歳。 ある日、突然の辞令によって、アブダビの新都市建設に関わるタワービル建設のプロジェクトメンバーに抜擢される。 それに伴って、海外事業本部・アブダビ新都市建設事業室に異動となり、海外赴任することになるのだが…… ——って……アブダビって、どこ⁉︎ ※作中にアラビア語が出てきますが、作者はアラビア語に不案内ですので雰囲気だけお楽しみ下さい。また、文字が反転しているかもしれませんのでお含みおき下さい。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

コーヒーとCEOの秘密🔥他

シナモン
恋愛
 § コーヒーとCEOの秘密 (完) 『今日もコーヒー飲んでなーい!』意思疎通の取れない新会長に秘書室は大わらわ。補佐役の赤石は真っ向勝負、負けてない。さっさと逃げ出すべく策を練る。氷のように冷たい仮面の下の、彼の本心とは。氷のCEOと熱い秘書。ラブロマンスになり損ねた話。  § 瀬尾くんの秘密 (完) 瀬尾くんはイケメンで癒しの存在とも言われている。しかし、彼にはある秘密があった。  § 緑川、人類の運命を背負う (完) 会長の友人緑川純大は、自称発明家。こっそり完成したマシンで早速タイムトラベルを試みる。 理論上は1日で戻ってくるはずだったが…。 会長シリーズ、あまり出番のない方々の話です。出番がないけどどこかにつながってたりします。それぞれ主人公、視点が変わります。順不同でお読みいただいても大丈夫です。 タイトル変更しました

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

俺の抱擁に溺れろ、お前の全てが欲しい、極道の一途な愛

ラヴ KAZU
恋愛
花園かすみは昼間はOL、そして夜はキャバクラで働くキャバ嬢ユリエ。 二つの顔を持つ女性である。 キャバクラで新堂組若頭、新堂健斗に指名され、はじめてを経験する。 毎日指名してくれる健斗。 ある日、春日部コーポレーションで新社長就任の挨拶があり、かすみは秘書に抜擢される。 新社長は健斗だった。 キャバ嬢のユリエのバイトは会社に内緒なのに、がっくりするかすみ。 ところが健斗も表の顔は春日部拓真、春日部コーポレーション社長である。 かすみの運命はどうなっていくのか。 そしてかすみにはもう一つ秘密が……

可愛がってあげたい、強がりなきみを。 ~国民的イケメン俳優に出会った直後から全身全霊で溺愛されてます~

泉南佳那
恋愛
※『甘やかしてあげたい、傷ついたきみを』 のヒーロー、島内亮介の兄の話です! (亮介も登場します(*^^*)) ただ、内容は独立していますので この作品のみでもお楽しみいただけます。 ****** 橋本郁美 コンサルタント 29歳 ✖️ 榊原宗介 国民的イケメン俳優 29歳 芸能界に興味のなかった郁美の前に 突然現れた、ブレイク俳優の榊原宗介。 宗介は郁美に一目惚れをし、猛アタックを開始。 「絶対、からかわれている」 そう思っていたが郁美だったが、宗介の変わらない態度や飾らない人柄に惹かれていく。 でも、相手は人気絶頂の芸能人。 そう思って、二の足を踏む郁美だったけれど…… ****** 大人な、 でもピュアなふたりの恋の行方、 どうぞお楽しみください(*^o^*)

処理中です...