40 / 41
第40話:氷の王子と、私の恋物語
しおりを挟む
あれから、いくつもの、季節が巡った。
私は、大学のキャンパスにある、見晴らしの良いベンチに座り、一冊の、古くなったスクラップブックを、そっと開いた。
『私たちの、未来予想図』
高校生の、拙い文字で書かれたタイトルの下には、色褪せた写真や、雑誌の切り抜きが、楽しそうに並んでいる。
カリフォルニアの、青い空。日本の、新聞社の、ロゴマーク。
遠い、遠い、夢の欠片たち。
ページをめくるたびに、鮮やかに、記憶が蘇る。
高校の卒業式の日。
第二ボタンを差し出す彼に、「そんなの、いらない」と、私が笑いながら言ったこと。
「代わりに、怜くんの未来を、私に、予約させて」
そう言って、泣きながら、彼の胸を叩いた私を、彼は、困ったように、でも、優しく、抱きしめてくれた。
遠距離恋愛が、始まった日。
慣れない時差に、眠い目をこすりながら、モニター越しに、毎日、顔を見て、話したこと。
「頑張れ」と、私が送ったメッセージ。
「お前もな」と、返ってくる、短いけれど、温かい、彼の言葉。
その一つ一つが、私の、お守りだった。
夏休みに、彼の住む、カリフォルニアまで、会いに行ったこと。
太陽の下で、バスケットボールに打ち込む彼は、高校の頃より、ずっと、ずっと、大きくて、たくましく見えた。
久しぶりに繋いだ手は、少しだけ、大人びた感触がした。
めくり終えた、最後のページ。
そこには、何も貼られていない、真っ白な余白が、広がっている。
私は、そっと、スクラップブックを閉じると、立ち上がった。
向かう先は、空港の、国際線到着ロビー。
電光掲示板に、『到着』の文字が灯る。
ガラスの向こうから、たくさんの人が、姿を現す。私の心臓は、高校生の頃みたいに、ドキドキと、大きく、高鳴っていた。
そして、見つけた。
人混みの中でも、一瞬で、分かる。
背が高くて、少しだけ、日焼けした、私の、大好きな人。
彼は、キョロキョロと、辺りを見渡し、そして、私を見つけると、今まで見たこともないくらい、満開の笑顔で、駆け寄ってきた。
スーツケースを、その場に放り出して、彼は、私の体を、力強く、抱きしめた。
懐かしい、彼の匂い。
「……ただいま、陽菜」
耳元で、囁かれた、世界で一番、聞きたかった声。
「……おかえり、怜くん」
私は、彼の胸に顔をうずめたまま、子供みたいに、わんわんと、泣いた。
空港の、賑やかな喧騒の中を、私たちは、手を繋いで、歩く。
何年も離れていたのが、嘘みたいに、彼の隣は、しっくりと、馴染んだ。
「ねえ、怜くん」
「ん?」
「もう、誰も、あなたのこと、『氷の王子様』なんて、呼ばないね」
私が、いたずらっぽくそう言うと、彼は、楽しそうに、声を上げて、笑った。
「当たり前だろ。俺の、たった一人の、優秀な記者さんが、全部、氷を、溶かしちゃったんだから」
そして、彼は、立ち止まると、愛おしいものを見るような、優しい瞳で、私を見つめた。
「俺の物語は」
彼が、そう、切り出す。
私は、にっこりと笑って、その言葉を、引き継いだ。
「ううん。『私たちの物語』は、」
彼の唇が、そっと、私の唇に、重なる。
長くて、優しくて、そして、永遠を誓う、キス。
私の、秘密の観察から始まった、スクープ探し。
それは、いつの間にか、世界で一番、温かくて、キラキラした、最高の恋の物語に、なっていた。
そして、その物語の、新しいページは、今、始まったばかりなのだ。
私は、大学のキャンパスにある、見晴らしの良いベンチに座り、一冊の、古くなったスクラップブックを、そっと開いた。
『私たちの、未来予想図』
高校生の、拙い文字で書かれたタイトルの下には、色褪せた写真や、雑誌の切り抜きが、楽しそうに並んでいる。
カリフォルニアの、青い空。日本の、新聞社の、ロゴマーク。
遠い、遠い、夢の欠片たち。
ページをめくるたびに、鮮やかに、記憶が蘇る。
高校の卒業式の日。
第二ボタンを差し出す彼に、「そんなの、いらない」と、私が笑いながら言ったこと。
「代わりに、怜くんの未来を、私に、予約させて」
そう言って、泣きながら、彼の胸を叩いた私を、彼は、困ったように、でも、優しく、抱きしめてくれた。
遠距離恋愛が、始まった日。
慣れない時差に、眠い目をこすりながら、モニター越しに、毎日、顔を見て、話したこと。
「頑張れ」と、私が送ったメッセージ。
「お前もな」と、返ってくる、短いけれど、温かい、彼の言葉。
その一つ一つが、私の、お守りだった。
夏休みに、彼の住む、カリフォルニアまで、会いに行ったこと。
太陽の下で、バスケットボールに打ち込む彼は、高校の頃より、ずっと、ずっと、大きくて、たくましく見えた。
久しぶりに繋いだ手は、少しだけ、大人びた感触がした。
めくり終えた、最後のページ。
そこには、何も貼られていない、真っ白な余白が、広がっている。
私は、そっと、スクラップブックを閉じると、立ち上がった。
向かう先は、空港の、国際線到着ロビー。
電光掲示板に、『到着』の文字が灯る。
ガラスの向こうから、たくさんの人が、姿を現す。私の心臓は、高校生の頃みたいに、ドキドキと、大きく、高鳴っていた。
そして、見つけた。
人混みの中でも、一瞬で、分かる。
背が高くて、少しだけ、日焼けした、私の、大好きな人。
彼は、キョロキョロと、辺りを見渡し、そして、私を見つけると、今まで見たこともないくらい、満開の笑顔で、駆け寄ってきた。
スーツケースを、その場に放り出して、彼は、私の体を、力強く、抱きしめた。
懐かしい、彼の匂い。
「……ただいま、陽菜」
耳元で、囁かれた、世界で一番、聞きたかった声。
「……おかえり、怜くん」
私は、彼の胸に顔をうずめたまま、子供みたいに、わんわんと、泣いた。
空港の、賑やかな喧騒の中を、私たちは、手を繋いで、歩く。
何年も離れていたのが、嘘みたいに、彼の隣は、しっくりと、馴染んだ。
「ねえ、怜くん」
「ん?」
「もう、誰も、あなたのこと、『氷の王子様』なんて、呼ばないね」
私が、いたずらっぽくそう言うと、彼は、楽しそうに、声を上げて、笑った。
「当たり前だろ。俺の、たった一人の、優秀な記者さんが、全部、氷を、溶かしちゃったんだから」
そして、彼は、立ち止まると、愛おしいものを見るような、優しい瞳で、私を見つめた。
「俺の物語は」
彼が、そう、切り出す。
私は、にっこりと笑って、その言葉を、引き継いだ。
「ううん。『私たちの物語』は、」
彼の唇が、そっと、私の唇に、重なる。
長くて、優しくて、そして、永遠を誓う、キス。
私の、秘密の観察から始まった、スクープ探し。
それは、いつの間にか、世界で一番、温かくて、キラキラした、最高の恋の物語に、なっていた。
そして、その物語の、新しいページは、今、始まったばかりなのだ。
0
あなたにおすすめの小説
清楚な執事長、常駐位置が“お嬢様の隣”に確定しました
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話・後日談12話⭐︎
清楚で完璧、屋敷の秩序そのもの——そんな執事長ユリウスの“常駐位置”が、なぜか私の隣に確定しました。
膝掛けは標準装備、角砂糖は二つ、そして「隣にいます」が口癖に。
さらに恐ろしいことに、私が小声で“要求”すると、清楚な笑顔で「承知しました」と甘く返事をしてくるのです。
社交は上品に、恋心は必死に隠したい。
なのに執事長は、恋を“業務改善”みたいに制度化して逃がしてくれない——!
むっつり令嬢の乙女心臓が限界を迎える、甘々コメディ恋愛譚。
清楚な顔の執事長が、あなたの心臓まで囲い込みにきます。
《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―
月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。
その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、
人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。
そして、今――再びその年が巡ってきた。
王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。
彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。
そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。
無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。
けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、
25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。
それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
密会~合コン相手はドS社長~
日下奈緒
恋愛
デザイナーとして働く冬佳は、社長である綾斗にこっぴどくしばかれる毎日。そんな中、合コンに行った冬佳の前の席に座ったのは、誰でもない綾斗。誰かどうにかして。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
私の作るおにぎりが、騎士団の士気を異常に上げています(犯人は副団長)
星乃和花
恋愛
おにぎりを配っただけで、騎士団の士気が異常値になりました。
団長は警戒、監察部は呪術検査、国まで動きかけるのに――副団長だけが平然と断言。
副団長「彼女のご飯は軍事物資です」
私「えっ重い」
胃袋で落ちた策略家副団長の“最適化溺愛”に巻き込まれ、気づけば専属補給係(=婚約)寸前!?
ほのぼの爆笑&甘々の騎士団ラブコメです。
(月水金21:00更新ー本編16話+後日談6話)
〜仕事も恋愛もハードモード!?〜 ON/OFF♡オフィスワーカー
i.q
恋愛
切り替えギャップ鬼上司に翻弄されちゃうオフィスラブ☆
最悪な失恋をした主人公とONとOFFの切り替えが激しい鬼上司のオフィスラブストーリー♡
バリバリのキャリアウーマン街道一直線の爽やか属性女子【川瀬 陸】。そんな陸は突然彼氏から呼び出される。出向いた先には……彼氏と見知らぬ女が!? 酷い失恋をした陸。しかし、同じ職場の鬼課長の【榊】は失恋なんてお構いなし。傷が乾かぬうちに仕事はスーパーハードモード。その上、この鬼課長は————。
数年前に執筆して他サイトに投稿してあったお話(別タイトル。本文軽い修正あり)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる