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やっと婚約解消ができるのかなぁ?
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冷たいものが頬に当たる。
緑色の大きな瞳を空に向けると白いものがチラチラと降ってきていた。
なごり雪。
冬の終わりを告げている。
また今年も望みは叶わなかった。
だが、次は叶うかもしれない。
宮殿から王立薬草研究所に向かう道。ここは、別部門に通じている主要な通路。
そこを薄い茶色の長い髪を後ろで一つ括りにした知的な印象を与える女性が歩いていた。
「あら、いらっしゃったわよ」
背後から女性の声が聞こえ、複数の足音が近付いてくる。
薄い茶色の髪をした女性は、歩く速度を鈍らせた。
「ああ、またか」という思いと共に。
「エリーゼ・クロスフォード子爵令嬢、お待ちになって!」
ご指名ですよ! と、甲高い声が響く。
「何でしょうか?」
引き留められたエリーゼは、心の中でごちた。
面倒くさい、またかと。
それでなくてもこの連中、いや、身分が上の令嬢軍団なので、この方たちと表するべきか……、どうであれこのところ連日、「お願い!」という名目の嫌がらせをされていた。
まあ今日の突撃場所は、薬草の知識を乞われて手伝いにきている王立薬草研究所の大切な植物を育てている畑の中でないのでいいが。
「おわかりでしょう。私の願いが」
振り返るや先頭を速足で近付いてきている令嬢が唸る。
イラート・グリラナ公爵令嬢だ。
黄金の長い巻き毛に緑の瞳。この国でも五本の指に入る美人。所作も令嬢としては最上級なのに速足に大きな声とらしからぬことをしている。
その原因をエリーゼは分かっていたが。
「はぁ、何度もお伝えしていますが、それは私の一存では……」
ため息混じりに振り返る。
「あら、クラウス様はあなたにはもったいないお方だと私は何度あなたにご説明すればいいのでしょうか?」
こう言い、周りに集まるお友達というか取り巻き令嬢たちに同意を求める。
すると集まった令嬢たちももったいないと言う解説を始めた。
「まあ、今日のお召し物、相変わらずですわね」
上から下まで呆れたような視線を向けてくる。
「仕事中ですので」
植物の世話をしているので作業着でもあり制服だった。生成りのシンプルな。
「髪もねぇ、髪留めぐらいすればいいのに」
綺麗に結ってない。無動作に一括り。飾りすらない。貴族令嬢には耐えられない姿。
「クラウス様は、バラのような甘い香りがお好きでしたわよね。エリーゼ様からは、自然の臭いが」
「自然臭ですか?」
これはゆゆしきことと、思わず右手の袖に鼻を押し付ける。
汗臭いのか、もしかするとさっき畑に撒いた肥料の残り香でもするのだろうか? 植物栽培をしている自分たちでもあの臭いはあまりいいものではなかった。
「本当、紳士のクラウス様がお可哀そう」
この令嬢らしからぬ行動にまた非難の声が上がる。
「紳士ですか……」
「違うでしょう」こうエリーゼは即座に否定したかった。
紳士とはこの令嬢たちの間ではどんなものなのかも訊きたい。
一般的には、思いやりがあり相手の立場に立てる思慮深い男性なのではと。これは、エリーゼの認識だったが。この令嬢たちとは価値観が違うのだと思うことにした。
だが、これだけは譲れない。
紳士というものは堂々と浮気をしない。相手のことを思いせめて隠すぐらいはしてくれる。
まあ、相手との縁を切る気だとそうではないだろうけど。
「ええ、クラウス様はお優しいです。それに気づかいができる方ですわ」
「そうですか?」
疑問形だが頷いた。
下手に反論などしようものならば、団体でせめてくる。自分たちの意見が通るまで。
仕事中なので、時間が惜しい。
「あ!」
引きつった笑みを浮かべ、今日のお願い隊、イラートの取り巻き令嬢を見た時、あまり関りになりたくない令嬢の姿があった。
バレリレイト・エルファス公爵令嬢だ。
誤解というか、噂好きな誰かが流したもののせいで、ただいま絶賛睨まれ中という状態だった。
「父には話しました。クラウス様が私との婚約解消を望んでおられるらしいと」
エリーゼもこの婚約は解消されることを暗に願っていた。
家のため仕方なくの婚約だった。
「なので、正式にクロスフォード家への打診をお待ちしております。私はこれ以上のことはできないので」
さっさとお引き取りいただきたいとイラートたちのお願いに善処していることを告げる。
エリーゼはまだクラウス本人から聞いてなかった。
言いにくければ、クラウスの家、トラエル家から打診してくれればいいのにそれもなかった。
「ですから、あなたの家のご商売がクラウス様のお父様のお仕事に絡むのからでしょう」
トラエル家から言い出しにくい状況だからエリーゼから願えと暗に示していた。
家の商売、エリーゼの家は薬草栽培や薬の販売をしていた。
薬草に関しては、配合や新種を危険な場所に探しに行ったりしていて、家独自の希少なものを数種保有している。
クラウスの父は、宮廷医で次期医長予定の人物で、エリーゼの家とのつながりを重要視していた。
そのため身分差をちらつかせに婚約話をもってきた。
「そうなのですか? 家の商談のことなどは感知していないもので」
そうだとしても身分差でこちらから解消はできない。クラウスによほどの瑕疵が無い限り。
が、今の状況はそれなのだが。
「あなたが、婚約を解消してくださいと切におっしゃればすぐに進みますわ」
「はぁ」
もうやっている。
緑色の大きな瞳を空に向けると白いものがチラチラと降ってきていた。
なごり雪。
冬の終わりを告げている。
また今年も望みは叶わなかった。
だが、次は叶うかもしれない。
宮殿から王立薬草研究所に向かう道。ここは、別部門に通じている主要な通路。
そこを薄い茶色の長い髪を後ろで一つ括りにした知的な印象を与える女性が歩いていた。
「あら、いらっしゃったわよ」
背後から女性の声が聞こえ、複数の足音が近付いてくる。
薄い茶色の髪をした女性は、歩く速度を鈍らせた。
「ああ、またか」という思いと共に。
「エリーゼ・クロスフォード子爵令嬢、お待ちになって!」
ご指名ですよ! と、甲高い声が響く。
「何でしょうか?」
引き留められたエリーゼは、心の中でごちた。
面倒くさい、またかと。
それでなくてもこの連中、いや、身分が上の令嬢軍団なので、この方たちと表するべきか……、どうであれこのところ連日、「お願い!」という名目の嫌がらせをされていた。
まあ今日の突撃場所は、薬草の知識を乞われて手伝いにきている王立薬草研究所の大切な植物を育てている畑の中でないのでいいが。
「おわかりでしょう。私の願いが」
振り返るや先頭を速足で近付いてきている令嬢が唸る。
イラート・グリラナ公爵令嬢だ。
黄金の長い巻き毛に緑の瞳。この国でも五本の指に入る美人。所作も令嬢としては最上級なのに速足に大きな声とらしからぬことをしている。
その原因をエリーゼは分かっていたが。
「はぁ、何度もお伝えしていますが、それは私の一存では……」
ため息混じりに振り返る。
「あら、クラウス様はあなたにはもったいないお方だと私は何度あなたにご説明すればいいのでしょうか?」
こう言い、周りに集まるお友達というか取り巻き令嬢たちに同意を求める。
すると集まった令嬢たちももったいないと言う解説を始めた。
「まあ、今日のお召し物、相変わらずですわね」
上から下まで呆れたような視線を向けてくる。
「仕事中ですので」
植物の世話をしているので作業着でもあり制服だった。生成りのシンプルな。
「髪もねぇ、髪留めぐらいすればいいのに」
綺麗に結ってない。無動作に一括り。飾りすらない。貴族令嬢には耐えられない姿。
「クラウス様は、バラのような甘い香りがお好きでしたわよね。エリーゼ様からは、自然の臭いが」
「自然臭ですか?」
これはゆゆしきことと、思わず右手の袖に鼻を押し付ける。
汗臭いのか、もしかするとさっき畑に撒いた肥料の残り香でもするのだろうか? 植物栽培をしている自分たちでもあの臭いはあまりいいものではなかった。
「本当、紳士のクラウス様がお可哀そう」
この令嬢らしからぬ行動にまた非難の声が上がる。
「紳士ですか……」
「違うでしょう」こうエリーゼは即座に否定したかった。
紳士とはこの令嬢たちの間ではどんなものなのかも訊きたい。
一般的には、思いやりがあり相手の立場に立てる思慮深い男性なのではと。これは、エリーゼの認識だったが。この令嬢たちとは価値観が違うのだと思うことにした。
だが、これだけは譲れない。
紳士というものは堂々と浮気をしない。相手のことを思いせめて隠すぐらいはしてくれる。
まあ、相手との縁を切る気だとそうではないだろうけど。
「ええ、クラウス様はお優しいです。それに気づかいができる方ですわ」
「そうですか?」
疑問形だが頷いた。
下手に反論などしようものならば、団体でせめてくる。自分たちの意見が通るまで。
仕事中なので、時間が惜しい。
「あ!」
引きつった笑みを浮かべ、今日のお願い隊、イラートの取り巻き令嬢を見た時、あまり関りになりたくない令嬢の姿があった。
バレリレイト・エルファス公爵令嬢だ。
誤解というか、噂好きな誰かが流したもののせいで、ただいま絶賛睨まれ中という状態だった。
「父には話しました。クラウス様が私との婚約解消を望んでおられるらしいと」
エリーゼもこの婚約は解消されることを暗に願っていた。
家のため仕方なくの婚約だった。
「なので、正式にクロスフォード家への打診をお待ちしております。私はこれ以上のことはできないので」
さっさとお引き取りいただきたいとイラートたちのお願いに善処していることを告げる。
エリーゼはまだクラウス本人から聞いてなかった。
言いにくければ、クラウスの家、トラエル家から打診してくれればいいのにそれもなかった。
「ですから、あなたの家のご商売がクラウス様のお父様のお仕事に絡むのからでしょう」
トラエル家から言い出しにくい状況だからエリーゼから願えと暗に示していた。
家の商売、エリーゼの家は薬草栽培や薬の販売をしていた。
薬草に関しては、配合や新種を危険な場所に探しに行ったりしていて、家独自の希少なものを数種保有している。
クラウスの父は、宮廷医で次期医長予定の人物で、エリーゼの家とのつながりを重要視していた。
そのため身分差をちらつかせに婚約話をもってきた。
「そうなのですか? 家の商談のことなどは感知していないもので」
そうだとしても身分差でこちらから解消はできない。クラウスによほどの瑕疵が無い限り。
が、今の状況はそれなのだが。
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