白い花 (旧タイトル winter again 改訂版)

ななえ

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婚約解消はすんなりとは進まない

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 クロスフォード家もクラウス側から動きがあれば、すぐにでも頷くつもりだ。
 その時は有利に話しを進めるためにクラウスの浮気の証拠も集めていた。

「諦めが悪い事。あなたがイラート様に勝てるとお思いなの」

 ある噂のせいでエリーゼを目の敵にしているバレリレイトがきつく言ってきた。
 その噂はエリーゼにとって、全くもって事実無根というもの。

「諦めですか……、どうでも親同士が勝手に決め事ですので」

 諦め以前の問題だった。
 本心婚約などしたくなかった。
 身分差で強制的に親が頷かされた縁談だ。

 同じような立場に陥ることがある貴族令嬢のくせに何故分かってくれないとなる。
 悲しいかな、この国の貴族社会では男女とも恋愛で結ばれる結婚は少ない。

「ですから、問題になっている薬草を優先してトラエル家に回してとあなたがご当主様におっしゃればいいことでしょう」

 イラートが公けでは口にしてはいけないことを発する。
 問題の薬草というのは、希少でなかなか手に入らないもの。あれば必要な者たちに公平に分けるように国から指示されていた。
 高位貴族お得意の裏取引をしろと言っているようなものだ。焦っているんだろうなとエリーゼは半ば同情してしまう。

 それにトラエル家の狙いは、これからエリーゼにより生み出される薬草や薬だ。
エリーゼの薬草に関する知識や育てる腕は国でも上位にいた。
 独占は無理でも優先を目論んでいた。

「イ、 イラート。何をこんなところでしているんだ?」 

 令嬢たちの背後から男性の声がする。

「わぁ!」

 それに気づき声の方へ顔を向けるとすごい数の野次馬が集まっていることにエリーゼは驚く。
 そうここは、王宮の中の主要な通路。この先に四か所に繋がる場所へ出る人通りの多い所だった。

「あら!」

 問題の婚約者の登場にイラートは満面の笑みで迎えるが、周りの興奮度が大きくなりざわざわがよりひどくなった。
 これにエリーゼはがっくりとなり顔を下へ向けた。

 それでなくてもこの婚約者のせいで好き勝手言われているところにバレリレイトに恨まれている原因、王弟殿下との浮気疑惑があるのだ、後でまた新しい迷惑この上ない噂が流れるだろう。
 だが、令嬢同士のけんか。それも婚約者を盗られた令嬢と盗った令嬢がいる。見る側からすれば、面白いだろう。

「私がお話をさせていただくことにしましたのよ」

 息が乱れながらイラートの隣に立ったクラウスに伝えた。
 そしてこれみよがしにクラウスの腕に自分の手をかける。

「だから、順序だてないと」

 クラウスは大きなため息をつき、エリーゼを見る。
 だが、言葉はそこで止まり、見ているだけという沈黙状態が続いた。

「イラート様、クラウス様が欲しいのでしょう?」

 エリーゼが沈黙を破った。

「え、そうよ」

 意表をついた質問にイラートは一瞬言葉を詰まらせる。
 エリーゼからすればもういい加減にしてほしかった。
 親が勝手に決めた婚約。愛情はない。これから長く連れ添う相手で仲良くしなければと考えていたが、無理だ。覚悟を決めて意志を伝えたい。

「じゃあ、どうぞ」

「「「「「え!」」」」」

 周りが騒めく。

「私はいいです。婚約が解消されても」

 とっとと婚約解消をしてほしいという思いが、身分差の遠慮などを凌駕した。

「何を! 君の名誉のために色々とやっているのに」

「名誉ですか? 確かに婚約解消をされると女性側に不利なことばかり起こりますが、いいです。今これだけの方に周知されてしまったのですから」

 私の名誉だと! ならば、浮気をするな! バレたらすぐに別れろ! とエリーゼは心の中で叫んでいた。

「まだ我が家、クロスフォード家には正式にお話がないようですが、もう周りが騒ぎたてますよ。早くきっちりとさせた方がいいのでは?」

 婚約者を美人に取られた小汚い令嬢などと散々言われるのももう嫌だった。
 それに今日はついにというか、浮気相手の公爵令嬢が恥も外聞もなく直談判にきた。こんな公けの場所に。

 社交界ではすごくはしたないこと、醜聞だ。
 令嬢の思いをここで叶えてあげなければ、もっとややこしい問題がたくさん起こりそうだった。

「クラウス様、もう引けませんよ。私たちの真実の愛を通させていただきましょう」

 目撃者が多い。今までは、二人の仲の良い姿を目にするだけで恋愛関係という確たる証拠はなかったが、イラートの直談判は二人の仲を公にさらしたのだった。
 そう、クラウスはエリーゼという婚約者がいるのにイラートと恋愛関係にある、浮気をしていると。

 けれどとなる。イラートは美人で公爵令嬢。そんな女性に熱烈に思われているというのに何故全てにおいて劣った令嬢の自分との婚約を伸ばそうとしているかは疑問だった。

 薬草の利権がらみなのだろうか。

「イラート、君は!」

 クラウスの言葉は続かない。

「あなたがお困りだったので私が少しでもお力になりたくて勇気をだしましたの」

 イラートが褒めてとばかりにキラキラとした瞳でクラウスに話しかけてくる。

「こんなことをして」

 うっとり気分のイラートへクラウスは冷たい声でしか反応できなかった。
 女性の方が身分が上で、悪くは想ってない相手だったからだ。

「エリーゼはまだ私の婚約者です。それをこのような所で糾弾するなど……、穏便にすませられないではないですか」

 精一杯の苦情が出た。

「あら、私たちの友人はみな知っていますわよ。私とあなたが真実の愛により結ばれるために頑張っていることを」

 もう周りには隠しきれてないことを強調する。

「へぇ」

 笑い声と共に一人の青年が、令嬢たちの間を抜けて囲まれているエリーゼの背後に立った。

「真実の愛がお二人にあるんだ」

 黒髪に真っ青な瞳をした体格のいい青年が、エリーゼの両肩に背後から手を置き続けた。
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