37 / 42
036.成瀬は、あの子が好きなんでしょ?
しおりを挟む三年生の三学期となると、一月は出席するが二月は自由登校になる。
受験組の悠真と青木と中川は、学校で先生に見てもらいながら受験勉強をやって、のこりの僕らは、アルバム作成にいそしんでいた。最終的に、申込数が、五百冊を超えることになり、オンデマンド印刷ではなく、オフセット印刷に挑戦するということになった。
原稿をつくるのに四苦八苦していると、美術と音楽を兼ねた教師の向谷先生が、手伝ってくれることになった。
生徒だけでやりたいとは思っていたが、お金を預かっている以上、ちゃんと期日までにアルバム作成をすることのほうが大切だろうということで、おねがいすることになったということだ。
実際見学させてもらうと、アルバムの紙面を作るのは大変そうだった。
どうして、専用のアプリを使って、写真を加工して配置していく。
写真を加工する必要があるからということで、カメラマンの僕も、確認してほしいといわれた。
先生に加工してもらった写真は、僕が撮ったやぼったい写真とは違って、何を見てもエモい感じがする。これが僕の作品なのか問われると、少々首をひねるものの、僕としては、みんなが良いと言った形に整えるほうが、ありなんじゃないかと思う。
自分の撮った写真を仮に『作品』だとすると、僕は自分の撮った『作品』にそれほど、興味も思い入れもない。これが、僕がクリエイターではなくて、ただ、なんか写真を撮る役割を押し付けられただけの人ということなのだろう。
きっと、悠真は違うんだろうな。
そういえば、悠真は、小説のほうは順調らしい。二作品目の企画も進行中だし、新しい取引先も出来そうだという話だ。いつの間にかね悠真と会話するとき、悠真は小説の仕事の話ばかりになっていた。もちろん、僕も、その……一部の人しか垣間見ることができよないような、特別な世界を垣間見させてもらうことはうれしいし、信用もされていると思うんだけど、会話をしていても、わからないこともあるし、それをいちいち聞くのも面倒だろうと思って、なんとなくスルーしてしまう。そうすると、悠真と会話したあと、なんとなく、疲れているような感じになった。
ともかく、進学先も決まり、自由登校になった僕が、やることと言ったらアルバムづくりくらいなので、毎日登校して、アルバムづくりをやっているという状況だった。
結城は専門学校。池田は就職。藤本は、専門学校ということだった。
教室は、ここぞとばかり暖房を入れてもらって、僕らはぬくぬくと作業しているが、外を見やると、雪催いの分厚くて灰色の空が広がっている。
「なーんか、雪降りそうだね」
「そうだね」
「僕らは、早めに帰っちゃおうか。明日も雪が降ったら来ないっていうことで」
僕が提案すると「さんせーい」と結城、池田、藤本が賛成してくれた。だいたい、みんなサボる方向には意見は簡単にまとまるものだ。
「じゃ、先生に言ってこようよ」
「そうだね」
僕が立ち上がると、「あっ、私も職員室に行く!」と藤本が小走りに駆け寄ってきた。結城からの視線が痛い。結城は、藤本が好きなんだなと、今更気づく。どうせなら、付き合っちゃえばいいのに、と勝手なことを思っていたら、藤本が口を開いた。
「夏の、焚火の時、みんなで恋バナしようって言ってて、結局できなかったね」
「結城がノリノリだったような……」
「その結城君がいざとなったら『えっと、でも』とか言い出してさぁ」
察してやれよ、藤本。と僕は藤本を内心なじってみたが、一応顔には出していないつもりだ。
「……藤本さんは、やりたかったの? 恋バナ」
「そうだなあ、ちょっとやりたかったかも。ほら、私たち、ずっと一緒だし、できるだけ波風立てずに生きてきたでしょ?」
波風立てずにという言葉は果たして適切かどうかはわからないけど、確かに、そういう傾向はあると思う。
だから、僕らの中で、カップルみたいなのは成立しなかった。そして、前も感じていたけれど、カップルが成立したら、きっとこの平和でのどかで、いかにも純良で純朴な、高校生活というのは終わっていただろう。
「でもさー……、高校のラストの一か月くらい、恋人とか欲しくない?」
「気持ちはわからないでもないけど……僕は無理かなあ……」
「なんで」
と藤本は立ち止った。僕も、少し距離を話して立ち止る。藤本は、真顔で僕を見ていた。心の中を全部見透かされてしまうそうなまなざしだった。僕は、ちょっと、怖くなって、視線を外してしまう。
「東京行ったまま帰って来ないよ。……成瀬は忘れてるかもしれないけど、あの子、家庭環境悪いでしょ? 成瀬は、あの子が好きなんでしょ?」
僕は、ドキッとしたというか――ぎゅっと無造作に心臓を握りつぶされたような感じがした。息が詰まって、声も出せない。
藤本は、何を言ったのか。
呑み込むまで、時間がかかった。
(えっ……ちょっと、待って……、あの子って……悠真のことだよな?)
だとしたら、僕が悠真を好きなことを、藤本は知っているということなのか。
そして、悠真の家庭環境が悪い、とはどういうことだろう。
僕は混乱して、何も考えられなくなってしまった。
0
あなたにおすすめの小説
僕は何度でも君に恋をする
すずなりたま
BL
由緒正しき老舗ホテル冷泉リゾートの御曹司・冷泉更(れいぜいさら)はある日突然、父に我が冷泉リゾートが倒産したと聞かされた。
窮地の父と更を助けてくれたのは、古くから付き合いのある万里小路(までのこうじ)家だった。
しかし助けるにあたり、更を万里小路家の三男の嫁に欲しいという条件を出され、更は一人で万里小路邸に赴くが……。
初恋の君と再会し、再び愛を紡ぐほのぼのラブコメディ。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
王太子殿下に触れた夜、月影のように想いは沈む
木風
BL
王太子殿下と共に過ごした、学園の日々。
その笑顔が眩しくて、遠くて、手を伸ばせば届くようで届かなかった。
燃えるような恋ではない。ただ、触れずに見つめ続けた冬の夜。
眠りに沈む殿下の唇が、誰かの名を呼ぶ。
それが妹の名だと知っても、離れられなかった。
「殿下が幸せなら、それでいい」
そう言い聞かせながらも、胸の奥で何かが静かに壊れていく。
赦されぬ恋を抱いたまま、彼は月影のように想いを沈めた。
※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。
表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。
※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。
©︎月影 / 木風 雪乃
林檎を並べても、
ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。
二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。
ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。
彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。
綴った言葉の先で、キミとのこれからを。
小湊ゆうも
BL
進路選択を前にして、離れることになる前に自分の気持ちをこっそり伝えようと、大真(はるま)は幼馴染の慧司(けいし)の靴箱に匿名で手紙を入れた。自分からだと知られなくて良い、この気持ちにひとつ区切りを付けられればと思っていたのに、慧司は大真と離れる気はなさそうで思わぬ提案をしてくる。その一方で、手紙の贈り主を探し始め、慧司の言動に大真は振り回されてーー……。 手紙をテーマにしたお話です。3組のお話を全6話で書きました!
表紙絵:小湊ゆうも
【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について
kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって……
※ムーンライトノベルズでも投稿しています
先輩のことが好きなのに、
未希かずは(Miki)
BL
生徒会長・鷹取要(たかとりかなめ)に憧れる上川陽汰(かみかわはるた)。密かに募る想いが通じて無事、恋人に。二人だけの秘密の恋は甘くて幸せ。だけど、少しずつ要との距離が開いていく。
何で? 先輩は僕のこと嫌いになったの?
切なさと純粋さが交錯する、青春の恋物語。
《美形✕平凡》のすれ違いの恋になります。
要(高3)生徒会長。スパダリだけど……。
陽汰(高2)書記。泣き虫だけど一生懸命。
夏目秋良(高2)副会長。陽汰の幼馴染。
5/30日に少しだけ順番を変えたりしました。内容は変わっていませんが、読み途中の方にはご迷惑をおかけしました。
諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】
カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。
逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。
幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。
友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。
まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。
恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。
ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。
だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。
煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。
レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生
両片思いBL
《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作
※商業化予定なし(出版権は作者に帰属)
この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる