君と過ごした最後の一年、どの季節でも君の傍にいた

七瀬京

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036.成瀬は、あの子が好きなんでしょ?

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 三年生の三学期となると、一月は出席するが二月は自由登校になる。
 受験組の悠真と青木と中川は、学校で先生に見てもらいながら受験勉強をやって、のこりの僕らは、アルバム作成にいそしんでいた。最終的に、申込数が、五百冊を超えることになり、オンデマンド印刷ではなく、オフセット印刷に挑戦するということになった。
 原稿をつくるのに四苦八苦していると、美術と音楽を兼ねた教師の向谷先生が、手伝ってくれることになった。
 生徒だけでやりたいとは思っていたが、お金を預かっている以上、ちゃんと期日までにアルバム作成をすることのほうが大切だろうということで、おねがいすることになったということだ。
 実際見学させてもらうと、アルバムの紙面を作るのは大変そうだった。
 どうして、専用のアプリを使って、写真を加工して配置していく。
 写真を加工する必要があるからということで、カメラマンの僕も、確認してほしいといわれた。
 先生に加工してもらった写真は、僕が撮ったやぼったい写真とは違って、何を見てもエモい感じがする。これが僕の作品なのか問われると、少々首をひねるものの、僕としては、みんなが良いと言った形に整えるほうが、ありなんじゃないかと思う。
 自分の撮った写真を仮に『作品』だとすると、僕は自分の撮った『作品』にそれほど、興味も思い入れもない。これが、僕がクリエイターではなくて、ただ、なんか写真を撮る役割を押し付けられただけの人ということなのだろう。
 きっと、悠真は違うんだろうな。
 そういえば、悠真は、小説のほうは順調らしい。二作品目の企画も進行中だし、新しい取引先も出来そうだという話だ。いつの間にかね悠真と会話するとき、悠真は小説の仕事の話ばかりになっていた。もちろん、僕も、その……一部の人しか垣間見ることができよないような、特別な世界を垣間見させてもらうことはうれしいし、信用もされていると思うんだけど、会話をしていても、わからないこともあるし、それをいちいち聞くのも面倒だろうと思って、なんとなくスルーしてしまう。そうすると、悠真と会話したあと、なんとなく、疲れているような感じになった。
 ともかく、進学先も決まり、自由登校になった僕が、やることと言ったらアルバムづくりくらいなので、毎日登校して、アルバムづくりをやっているという状況だった。
 結城は専門学校。池田は就職。藤本は、専門学校ということだった。
 教室は、ここぞとばかり暖房を入れてもらって、僕らはぬくぬくと作業しているが、外を見やると、雪催いの分厚くて灰色の空が広がっている。
「なーんか、雪降りそうだね」
「そうだね」
「僕らは、早めに帰っちゃおうか。明日も雪が降ったら来ないっていうことで」
 僕が提案すると「さんせーい」と結城、池田、藤本が賛成してくれた。だいたい、みんなサボる方向には意見は簡単にまとまるものだ。
「じゃ、先生に言ってこようよ」
「そうだね」
 僕が立ち上がると、「あっ、私も職員室に行く!」と藤本が小走りに駆け寄ってきた。結城からの視線が痛い。結城は、藤本が好きなんだなと、今更気づく。どうせなら、付き合っちゃえばいいのに、と勝手なことを思っていたら、藤本が口を開いた。
「夏の、焚火の時、みんなで恋バナしようって言ってて、結局できなかったね」
「結城がノリノリだったような……」
「その結城君がいざとなったら『えっと、でも』とか言い出してさぁ」
 察してやれよ、藤本。と僕は藤本を内心なじってみたが、一応顔には出していないつもりだ。
「……藤本さんは、やりたかったの? 恋バナ」
「そうだなあ、ちょっとやりたかったかも。ほら、私たち、ずっと一緒だし、できるだけ波風立てずに生きてきたでしょ?」
 波風立てずにという言葉は果たして適切かどうかはわからないけど、確かに、そういう傾向はあると思う。
 だから、僕らの中で、カップルみたいなのは成立しなかった。そして、前も感じていたけれど、カップルが成立したら、きっとこの平和でのどかで、いかにも純良で純朴な、高校生活というのは終わっていただろう。
「でもさー……、高校のラストの一か月くらい、恋人とか欲しくない?」
「気持ちはわからないでもないけど……僕は無理かなあ……」
「なんで」
 と藤本は立ち止った。僕も、少し距離を話して立ち止る。藤本は、真顔で僕を見ていた。心の中を全部見透かされてしまうそうなまなざしだった。僕は、ちょっと、怖くなって、視線を外してしまう。
「東京行ったまま帰って来ないよ。……成瀬は忘れてるかもしれないけど、あの子、家庭環境悪いでしょ? 成瀬は、あの子が好きなんでしょ?」
 僕は、ドキッとしたというか――ぎゅっと無造作に心臓を握りつぶされたような感じがした。息が詰まって、声も出せない。
 藤本は、何を言ったのか。
 呑み込むまで、時間がかかった。
(えっ……ちょっと、待って……、あの子って……悠真のことだよな?)
 だとしたら、僕が悠真を好きなことを、藤本は知っているということなのか。
 そして、悠真の家庭環境が悪い、とはどういうことだろう。
 僕は混乱して、何も考えられなくなってしまった。
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