32 / 34
32.待ち合わせ
しおりを挟む
夕方に起き出して、身支度を調える。
(ホテルで会食かあ……)
日本庭園が美しいホテルという事は聞いたことがある。今まで、訪れる機会もなかったので、少し気になる。
どうせ、ならば少し早めに出だして、庭園を散策しても良かったかも知れない。
しかし、もう、夕方になってしまったので、それはムリだろう。
ホテルまでは、歩いて二十分くらい。
のんびり歩いて行こうと思う。
(そういえば、駅と反対側は、あんまり行ったことがないや……)
駅からはコンビニか食べ物屋を経由して、自宅へ戻るだけだ。だから、自宅を通り越したところへは、殆ど行ったことがない。
住宅街にある郁のアパートからは、車一台がやっと入れる、狭い路地を大通りへ向かう。大通りから、駅と反対方向へ向かう。
途中に、やけに古めかしい酒屋があった。建物の作りから見ても、おそらく、戦前のものだろう。
郁の地元は、桜町と言って、北関東の小さな田舎だが、戦後に作られた町なので、ここまでの風格のある建物は、見当たらない。
新宿の摩天楼まで、そう遠くないところに、こういう建物がぽつねんと残っていたりするのが面白いが、今まで、郁は、こんなところに、古い酒屋があることなど知らなかった。
酒屋を過ぎると銀杏並木。
そして女子大の塀の横を行く。煉瓦造りの綺麗な塀は、これも立派なものだった。女子大の建物も、年代物らしき、レトロで綺麗な建物が見えた。
郁は、完全に観光気分で歩いて行くと、程なく、ホテルのエントランスへたどり着いた。木々に囲まれたフロントへと向かう。待ち合わせの時間まで、少しある。庭園を散策しても良いが、歩いてきたので、喉が渇いてしまった。
(カフェかなんかあるだろ……)
ホテルのカフェなので、高額になることだけは覚悟して、ホテルへ入る。
ロビーは混雑していた。
結婚式が終わった直後らしく、華やかな盛装をした客達が、あまた入り乱れている。
(結婚、かあ……)
郁も、結婚を考えていた。プロポーズもした。結局、婚約破棄、となり破談になったが―――結婚式には、少し憧れはあった。人生において、『主役』になることが出来るタイミングなど、限られている。
華々しい席で、皆から一心に祝福される場所―――というのに憧れていたのに、実際の郁は、そんなものとはかけ離れた薄暗い所へ向かっていってしまったものだ、とは思う。
人の間を縫ってラウンジへ向かおうとした時、「あれ、二階堂さん?」と声が掛けられた。
振り返ると、見知った顔があった。酒を飲んで酔っているのか、いつもより、顔は赤かった。
「あっ、石川さん。こんにちは」
「二階堂さん、こんな所で珍しいですね」
石川が、笑う。石川―――石川右京は、郁の勤務する会社とやりとりがある会社の、社員だった。
村木精密機械という会社に勤務している若手だったが、この村木精密機械という会社は、郁の出身地、桜町に本拠地を持つ会社でもあったので、なんとなく、親近感がある。
「二階堂さんも、結婚式ですか?」
「いえ。ちょっと、誘われて、会食に」
「こんなところで、会食ですか!? 凄いですね」
ほーっ、と驚いて関心したような声を出す石川に「ドタキャンしたから、代理で参加なんです」と慌てて訂正した。
こういう所に、日常的に出入りしているとは、勘違いされたくない。
「あっ、そうなんですか……僕は、結婚式だったんです。会社の人間ですね。今から、二次会に行くところなんですよ」
「へー……、このあたりだと、二次会の場所って、あんまりないんじゃないですか?」
「そうなんですよ。だから、ホテルのシャトルバスで、池袋に行くことになってます」
「あーブクロなら、いくらでも飲み屋ありますね」
「そうそう。……あっ、二階堂さん、今度、一緒に飲みとかどうですか?」
「えっ?」
石川は、陽気に聞いているが、いつもよりもテンションが高いような気がした。
「……まあ、いい、ですけど?」
(俺とサシで飲んでも、楽しいかなあ……)
などとは思いつつ、郁は、「楽しみです」と、当たり障りなく答えていた。
「よかった~。僕、東京で、あんまり知り合い居ないんですよ……。二階堂さん、話しやすいし……っ」
石川の顔が、急にこわばった。
「あれ、石川さん、どうしたんですか?」
「あ、いや……その……後ろ……」
石川が、しどろもどろに後ろを指さす。振り返ると、そこには、なんとなく、不機嫌そうな顔をした煌也が仁王立ちしていた。
「あっ、煌也」
「に、二階堂さんの、知り合いなんだ……、ふ、ふうん」
「知り合いなんだ……煌也、こちら、村木精密機械の石川さん。仕事の関係で、たまに顔を合わせるんだ」
郁が笑顔で煌也に紹介すると、煌也は、一度目を細めてから、すぐに、華やかな笑みを浮かべた。営業用の作り笑いだった。
「どうも、郁がお世話になっています。……一ノ瀬煌也です」
す、と煌也は手を差し出す。
「あ、どうも……」
差し出された煌也の手を握り返す、石川は、完全に引け腰になっていた。
(ホテルで会食かあ……)
日本庭園が美しいホテルという事は聞いたことがある。今まで、訪れる機会もなかったので、少し気になる。
どうせ、ならば少し早めに出だして、庭園を散策しても良かったかも知れない。
しかし、もう、夕方になってしまったので、それはムリだろう。
ホテルまでは、歩いて二十分くらい。
のんびり歩いて行こうと思う。
(そういえば、駅と反対側は、あんまり行ったことがないや……)
駅からはコンビニか食べ物屋を経由して、自宅へ戻るだけだ。だから、自宅を通り越したところへは、殆ど行ったことがない。
住宅街にある郁のアパートからは、車一台がやっと入れる、狭い路地を大通りへ向かう。大通りから、駅と反対方向へ向かう。
途中に、やけに古めかしい酒屋があった。建物の作りから見ても、おそらく、戦前のものだろう。
郁の地元は、桜町と言って、北関東の小さな田舎だが、戦後に作られた町なので、ここまでの風格のある建物は、見当たらない。
新宿の摩天楼まで、そう遠くないところに、こういう建物がぽつねんと残っていたりするのが面白いが、今まで、郁は、こんなところに、古い酒屋があることなど知らなかった。
酒屋を過ぎると銀杏並木。
そして女子大の塀の横を行く。煉瓦造りの綺麗な塀は、これも立派なものだった。女子大の建物も、年代物らしき、レトロで綺麗な建物が見えた。
郁は、完全に観光気分で歩いて行くと、程なく、ホテルのエントランスへたどり着いた。木々に囲まれたフロントへと向かう。待ち合わせの時間まで、少しある。庭園を散策しても良いが、歩いてきたので、喉が渇いてしまった。
(カフェかなんかあるだろ……)
ホテルのカフェなので、高額になることだけは覚悟して、ホテルへ入る。
ロビーは混雑していた。
結婚式が終わった直後らしく、華やかな盛装をした客達が、あまた入り乱れている。
(結婚、かあ……)
郁も、結婚を考えていた。プロポーズもした。結局、婚約破棄、となり破談になったが―――結婚式には、少し憧れはあった。人生において、『主役』になることが出来るタイミングなど、限られている。
華々しい席で、皆から一心に祝福される場所―――というのに憧れていたのに、実際の郁は、そんなものとはかけ離れた薄暗い所へ向かっていってしまったものだ、とは思う。
人の間を縫ってラウンジへ向かおうとした時、「あれ、二階堂さん?」と声が掛けられた。
振り返ると、見知った顔があった。酒を飲んで酔っているのか、いつもより、顔は赤かった。
「あっ、石川さん。こんにちは」
「二階堂さん、こんな所で珍しいですね」
石川が、笑う。石川―――石川右京は、郁の勤務する会社とやりとりがある会社の、社員だった。
村木精密機械という会社に勤務している若手だったが、この村木精密機械という会社は、郁の出身地、桜町に本拠地を持つ会社でもあったので、なんとなく、親近感がある。
「二階堂さんも、結婚式ですか?」
「いえ。ちょっと、誘われて、会食に」
「こんなところで、会食ですか!? 凄いですね」
ほーっ、と驚いて関心したような声を出す石川に「ドタキャンしたから、代理で参加なんです」と慌てて訂正した。
こういう所に、日常的に出入りしているとは、勘違いされたくない。
「あっ、そうなんですか……僕は、結婚式だったんです。会社の人間ですね。今から、二次会に行くところなんですよ」
「へー……、このあたりだと、二次会の場所って、あんまりないんじゃないですか?」
「そうなんですよ。だから、ホテルのシャトルバスで、池袋に行くことになってます」
「あーブクロなら、いくらでも飲み屋ありますね」
「そうそう。……あっ、二階堂さん、今度、一緒に飲みとかどうですか?」
「えっ?」
石川は、陽気に聞いているが、いつもよりもテンションが高いような気がした。
「……まあ、いい、ですけど?」
(俺とサシで飲んでも、楽しいかなあ……)
などとは思いつつ、郁は、「楽しみです」と、当たり障りなく答えていた。
「よかった~。僕、東京で、あんまり知り合い居ないんですよ……。二階堂さん、話しやすいし……っ」
石川の顔が、急にこわばった。
「あれ、石川さん、どうしたんですか?」
「あ、いや……その……後ろ……」
石川が、しどろもどろに後ろを指さす。振り返ると、そこには、なんとなく、不機嫌そうな顔をした煌也が仁王立ちしていた。
「あっ、煌也」
「に、二階堂さんの、知り合いなんだ……、ふ、ふうん」
「知り合いなんだ……煌也、こちら、村木精密機械の石川さん。仕事の関係で、たまに顔を合わせるんだ」
郁が笑顔で煌也に紹介すると、煌也は、一度目を細めてから、すぐに、華やかな笑みを浮かべた。営業用の作り笑いだった。
「どうも、郁がお世話になっています。……一ノ瀬煌也です」
す、と煌也は手を差し出す。
「あ、どうも……」
差し出された煌也の手を握り返す、石川は、完全に引け腰になっていた。
19
あなたにおすすめの小説
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
溺愛前提のちょっといじわるなタイプの短編集
あかさたな!
BL
全話独立したお話です。
溺愛前提のラブラブ感と
ちょっぴりいじわるをしちゃうスパイスを加えた短編集になっております。
いきなりオトナな内容に入るので、ご注意を!
【片思いしていた相手の数年越しに知った裏の顔】【モテ男に徐々に心を開いていく恋愛初心者】【久しぶりの夜は燃える】【伝説の狼男と恋に落ちる】【ヤンキーを喰う生徒会長】【犬の躾に抜かりがないご主人様】【取引先の年下に屈服するリーマン】【優秀な弟子に可愛がられる師匠】【ケンカの後の夜は甘い】【好きな子を守りたい故に】【マンネリを打ち明けると進み出す】【キスだけじゃあ我慢できない】【マッサージという名目だけど】【尿道攻めというやつ】【ミニスカといえば】【ステージで新人に喰われる】
------------------
【2021/10/29を持って、こちらの短編集を完結致します。
同シリーズの[完結済み・年上が溺愛される短編集]
等もあるので、詳しくはプロフィールをご覧いただけると幸いです。
ありがとうございました。
引き続き応援いただけると幸いです。】
壁乳
リリーブルー
BL
ご来店ありがとうございます。ここは、壁越しに、触れ合える店。
最初は乳首から。指名を繰り返すと、徐々に、エリアが拡大していきます。
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。
じれじれラブコメディー。
4年ぶりに続きを書きました!更新していくのでよろしくお願いします。
(挿絵byリリーブルー)
またのご利用をお待ちしています。
あらき奏多
BL
職場の同僚にすすめられた、とあるマッサージ店。
緊張しつつもゴッドハンドで全身とろとろに癒され、初めての感覚に下半身が誤作動してしまい……?!
・マッサージ師×客
・年下敬語攻め
・男前土木作業員受け
・ノリ軽め
※年齢順イメージ
九重≒達也>坂田(店長)≫四ノ宮
【登場人物】
▼坂田 祐介(さかた ゆうすけ) 攻
・マッサージ店の店長
・爽やかイケメン
・優しくて低めのセクシーボイス
・良識はある人
▼杉村 達也(すぎむら たつや) 受
・土木作業員
・敏感体質
・快楽に流されやすい。すぐ喘ぐ
・性格も見た目も男前
【登場人物(第二弾の人たち)】
▼四ノ宮 葵(しのみや あおい) 攻
・マッサージ店の施術者のひとり。
・店では年齢は下から二番目。経歴は店長の次に長い。敏腕。
・顔と名前だけ中性的。愛想は人並み。
・自覚済隠れS。仕事とプライベートは区別してる。はずだった。
▼九重 柚葉(ここのえ ゆずは) 受
・愛称『ココ』『ココさん』『ココちゃん』
・名前だけ可愛い。性格は可愛くない。見た目も別に可愛くない。
・理性が強め。隠れコミュ障。
・無自覚ドM。乱れるときは乱れる
作品はすべて個人サイト(http://lyze.jp/nyanko03/)からの転載です。
徐々に移動していきたいと思いますが、作品数は個人サイトが一番多いです。
よろしくお願いいたします。
おすすめのマッサージ屋を紹介したら後輩の様子がおかしい件
ひきこ
BL
名ばかり管理職で疲労困憊の山口は、偶然見つけたマッサージ店で、長年諦めていたどうやっても改善しない体調不良が改善した。
せっかくなので後輩を連れて行ったらどうやら様子がおかしくて、もう行くなって言ってくる。
クールだったはずがいつのまにか世話焼いてしまう年下敬語後輩Dom ×
(自分が世話を焼いてるつもりの)脳筋系天然先輩Sub がわちゃわちゃする話。
『加減を知らない初心者Domがグイグイ懐いてくる』と同じ世界で地続きのお話です。
(全く別の話なのでどちらも単体で読んでいただけます)
https://www.alphapolis.co.jp/novel/21582922/922916390
サブタイトルに◆がついているものは後輩視点です。
同人誌版と同じ表紙に差し替えました。
表紙イラスト:浴槽つぼカルビ様(X@shabuuma11 )ありがとうございます!
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる