46 / 51
45.汚らわしい愛人
しおりを挟む乳枷を身につけるようになったことも、少しすれば慣れてしまった。
アルトゥールに隷従するというのも、悪くはなかった。
そして、アルトゥールの命によって、ルシェールは、皇城内に住むことになり、同時に、皇太子宮にも私室を賜ることになった。
目に見える形での『寵愛』のようなものを、あたえるものではないと―――思ったルシェールだったが、現在のルシェールの社交界での立場は、『皇太子の愛人』だった。
部屋を賜るのも致し方ないことだろう。
そして、毎日、食事を取り、城内の散策に付き合い、執務の手伝いをし、閨での奉仕をする。
そのことで、ルシェールを悪く言うものも現れたが、もはや、どうでも良かった。
「……ルシェール」
夕食の席で、アルトゥールはルシェールに声を掛けた。
「なんでしょう、アルトゥール様」
「明後日の、夜会だが……あなたの衣装は、私が用意したよ」
夜会―――皇太子の生誕を祝うための、夜会だった。
すべての貴族、諸国からの賓客が集まる、特別な夜会になるはずだ。
「畏まりました。……セトレクト侯爵令嬢をエスコートなさるのですか?」
この席で、アルトゥールの『妃』としてセトレクト侯爵令嬢・マルレーネが紹介される手はずになっている。通常であれば、マルレーネをエスコートするはずだ。
「いや、マルレーネは出席しない。……俺がエスコートするのは、あなただ」
ルシェールは、一瞬、動きが止まった。アルトゥールにとって大切な夜会で、エスコートされるということの重要さを、ルシェールは知悉している。
「アルトゥール様、それは嬉しく思いますが……、将来の皇后陛下を軽んずることは……」
「マルレーネが、そういう立場の娘だと表明するためだ。……あなたより、彼女を優先することはない。その方向で、セトレクト侯爵家とも話が付いている」
つまり―――マルレーネの外聞の悪い話は不問にする代わりに、皇后の礼をもって遇することはないという表明だ。
ルシェールも、当事者の一人であるから、そのために使われるのは構わないが――……。
「アルトゥール様」
「なんだ」
「今はよろしゅうございます。……ですが、将来、ご令嬢が御子を上げられました折には、礼節を持って、ご令嬢を遇されますよう……」
この国には、側室制度はない。
ルシェールのように『愛人』を持つことはあるが、愛人の子供は、正式な子供として認められない。
「……私が、玉座に座り、皇太子となる男児を産んだら、考える」
「ありがとうございます」
別邸から帰ったあと、ルシェールは、レジーナと会話する機会を持った。
賭の件は、ルシェールが負けたと、申し出た。
計画のすべては、アルトゥールの知ることになった。そして、
「あなたも、賭に、負けたよ」
とルシェールは静かに告げた。
レジーナのすべての企みは、アルトゥールの知るところになった。
「それで、あなたは、あの男に隷従することになったのね。ああ、汚らわしい」
レジーナの言葉には、少々、傷ついた。
汚らわしい愛人。それは――この国の多くの人の言葉だろう。
そしておそらく、アルトゥールも、そう思っているのだ。
「ルシェール?」
アルトゥールに声を掛けられて、ルシェールは我に返った。
「ああ、済みません、アルトゥール様」
「……どうかしたか?」
「いえ、妻のことを考えました。……これ以上、ご令嬢に悪さをすることは出来ないとは思いますが」
「そのあたりは、気を遣っている。俺も、自分の子ではない子供を、皇太子に据える訳にはいかないからね。タレスも、知らないだろうが……セトレクト侯爵家には何人か、俺の手のものを入れている」
アルトゥールが、口許を歪めて笑った。
今まで、アルトゥールが見せなかった表情だった。乳枷が、俄に熱を帯びて、刺激をして、締め付けてくる。
「……っ……っ」
ルシェールの肩が、びくっと跳ねた。
「あなたのやり方を、いろいろと真似てみた。あなたも、あちこちに人をいれているようだから」
「さようで、ございますか……」
酷いくらい、乳首を締め上げられて、ルシェールは耐えられなくなって、突っ伏して、額を食卓に付けて快楽に身もだえている。
「……ルシェール」
愉しそうな、アルトゥールの声をルシェールは聞いた。
「夜会でも、あなたは、それを付けたままですからね。……俺が、望んだときに、あなたを弄ぶことが出来るのですよ。解っていますね?」
それは、夜会でもされることがある―――いや、ロイストゥヒ大公・ルシェールが、性的な隷従を見せていると言うことを、周知させるために、そうするという、表明だった。
「……承知致しました……」
ルシェールは、夜会で、衆目の前で痴態を晒すことを想像して、達してしまった。
アルトゥールの、勝ち誇ったような満足げな笑みが、酷く遠かった。
0
あなたにおすすめの小説
復讐の鎖に繋がれた魔王は、光に囚われる。
篠雨
BL
予言の魔王として闇に閉ざされた屋敷に隔離されていたノアール。孤独な日々の中、彼は唯一の光であった少年セレを、手元に鎖で繋ぎ留めていた。
3年後、鎖を解かれ王城に連れ去られたセレは、光の勇者としてノアールの前に戻ってきた。それは、ノアールの罪を裁く、滅却の剣。
ノアールが死を受け入れる中、勇者セレが選んだのは、王城の命令に背き、彼を殺さずに再び鎖で繋ぎ直すという、最も歪んだ復讐だった。
「お前は俺の獲物だ。誰にも殺させないし、絶対に離してなんかやらない」
孤独と憎悪に囚われた勇者は、魔王を「復讐の道具」として秘密裏に支配下に置く。しかし、制御不能な力を持つ勇者を恐れた王城は、ついに二人を排除するための罠を仕掛ける。
歪んだ愛憎と贖罪が絡み合う、光と闇の立場が逆転した物語――彼らの運命は、どこへ向かうのか。
愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない
了承
BL
卒業パーティー。
皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。
青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。
皇子が目を向けた、その瞬間——。
「この瞬間だと思った。」
すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。
IFストーリーあり
誤字あれば報告お願いします!
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
神様は僕に笑ってくれない
一片澪
BL
――高宮 恭一は手料理が食べられない。
それは、幸せだった頃の記憶と直結するからだ。
過去のトラウマから地元を切り捨て、一人で暮らしていた恭一はある日体調を崩し道端でしゃがみ込んだ所を喫茶店のオーナー李壱に助けられる。
その事をきっかけに二人は知り合い、李壱の持つ独特の空気感に恭一はゆっくりと自覚無く惹かれ優しく癒されていく。
初期愛情度は見せていないだけで攻め→→→(←?)受けです。
※元外資系エリート現喫茶店オーナーの口調だけオネェ攻め×過去のトラウマから手料理が食べられなくなったちょっと卑屈な受けの恋から愛になるお話。
※最初だけシリアスぶっていますが必ずハッピーエンドになります。
※基本的に穏やかな流れでゆっくりと進む平和なお話です。
経理部の美人チーフは、イケメン新人営業に口説かれています――「凛さん、俺だけに甘くないですか?」年下の猛攻にツンデレ先輩が陥落寸前!
中岡 始
BL
社内一の“整いすぎた男”、阿波座凛(あわざりん)は経理部のチーフ。
無表情・無駄のない所作・隙のない資料――
完璧主義で知られる凛に、誰もが一歩距離を置いている。
けれど、新卒営業の谷町光だけは違った。
イケメン・人懐こい・書類はギリギリ不備、でも笑顔は無敵。
毎日のように経費精算の修正を理由に現れる彼は、
凛にだけ距離感がおかしい――そしてやたら甘い。
「また会えて嬉しいです。…書類ミスった甲斐ありました」
戸惑う凛をよそに、光の“攻略”は着実に進行中。
けれど凛は、自分だけに見せる光の視線に、
どこか“計算”を感じ始めていて……?
狙って懐くイケメン新人営業×こじらせツンデレ美人経理チーフ
業務上のやりとりから始まる、じわじわ甘くてときどき切ない“再計算不能”なオフィスラブ!
塔の上のカミーユ~幽囚の王子は亜人の国で愛される~【本編完結】
蕾白
BL
国境近くにあるその白い石の塔には一人の美しい姫君が幽閉されている。
けれど、幽閉されていたのはある事情から王女として育てられたカミーユ王子だった。彼は父王の罪によって十三年間を塔の中で過ごしてきた。
そんな彼の前に一人の男、冒険者のアレクが現れる。
自分の世界を変えてくれるアレクにカミーユは心惹かれていくけれど、彼の不安定な立場を危うくする事態が近づいてきていた……というお話になります。
2024/4/22 完結しました。ありがとうございました。
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる