誰の、他のだれでもなくあなたと永遠を。

七瀬京

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45.汚らわしい愛人

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 乳枷ルエリティラを身につけるようになったことも、少しすれば慣れてしまった。

 アルトゥールに隷従するというのも、悪くはなかった。

 そして、アルトゥールの命によって、ルシェールは、皇城内に住むことになり、同時に、皇太子宮にも私室を賜ることになった。

 目に見える形での『寵愛』のようなものを、あたえるものではないと―――思ったルシェールだったが、現在のルシェールの社交界での立場は、『皇太子の愛人』だった。

 部屋を賜るのも致し方ないことだろう。

 そして、毎日、食事を取り、城内の散策に付き合い、執務の手伝いをし、閨での奉仕をする。

 そのことで、ルシェールを悪く言うものも現れたが、もはや、どうでも良かった。

「……ルシェール」

 夕食の席で、アルトゥールはルシェールに声を掛けた。

「なんでしょう、アルトゥール様」

「明後日の、夜会だが……あなたの衣装は、私が用意したよ」

 夜会―――皇太子の生誕を祝うための、夜会だった。

 すべての貴族、諸国からの賓客が集まる、特別な夜会になるはずだ。

「畏まりました。……セトレクト侯爵令嬢をエスコートなさるのですか?」

 この席で、アルトゥールの『妃』としてセトレクト侯爵令嬢・マルレーネが紹介される手はずになっている。通常であれば、マルレーネをエスコートするはずだ。

「いや、マルレーネは出席しない。……俺がエスコートするのは、あなただ」

 ルシェールは、一瞬、動きが止まった。アルトゥールにとって大切な夜会で、エスコートされるということの重要さを、ルシェールは知悉している。

「アルトゥール様、それは嬉しく思いますが……、将来の皇后陛下を軽んずることは……」

「マルレーネが、そういう立場の娘だと表明するためだ。……あなたより、彼女を優先することはない。その方向で、セトレクト侯爵家とも話が付いている」

 つまり―――マルレーネの外聞の悪い話は不問にする代わりに、皇后の礼をもって遇することはないという表明だ。

 ルシェールも、当事者の一人であるから、そのために使われるのは構わないが――……。

「アルトゥール様」

「なんだ」

「今はよろしゅうございます。……ですが、将来、ご令嬢が御子を上げられました折には、礼節を持って、ご令嬢を遇されますよう……」

 この国には、側室制度はない。

 ルシェールのように『愛人』を持つことはあるが、愛人の子供は、正式な子供として認められない。

「……私が、玉座に座り、皇太子となる男児を産んだら、考える」

「ありがとうございます」





 別邸から帰ったあと、ルシェールは、レジーナと会話する機会を持った。

 賭の件は、ルシェールが負けたと、申し出た。

 計画のすべては、アルトゥールの知ることになった。そして、

「あなたも、賭に、負けたよ」

 とルシェールは静かに告げた。

 レジーナのすべての企みは、アルトゥールの知るところになった。

「それで、あなたは、あの男に隷従することになったのね。ああ、汚らわしい」

 レジーナの言葉には、少々、傷ついた。

 汚らわしい愛人。それは――この国の多くの人の言葉だろう。

 そしておそらく、アルトゥールも、そう思っているのだ。





「ルシェール?」

 アルトゥールに声を掛けられて、ルシェールは我に返った。

「ああ、済みません、アルトゥール様」

「……どうかしたか?」

「いえ、妻のことを考えました。……これ以上、ご令嬢に悪さをすることは出来ないとは思いますが」

「そのあたりは、気を遣っている。俺も、自分の子ではない子供を、皇太子に据える訳にはいかないからね。タレスも、知らないだろうが……セトレクト侯爵家には何人か、俺の手のものを入れている」

 アルトゥールが、口許を歪めて笑った。

 今まで、アルトゥールが見せなかった表情だった。乳枷ルエリティラが、俄に熱を帯びて、刺激をして、締め付けてくる。

「……っ……っ」

 ルシェールの肩が、びくっと跳ねた。

「あなたのやり方を、いろいろと真似てみた。あなたも、あちこちに人をいれているようだから」

「さようで、ございますか……」

 酷いくらい、乳首を締め上げられて、ルシェールは耐えられなくなって、突っ伏して、額を食卓に付けて快楽に身もだえている。

「……ルシェール」

 愉しそうな、アルトゥールの声をルシェールは聞いた。

「夜会でも、あなたは、それを付けたままですからね。……俺が、望んだときに、あなたを弄ぶことが出来るのですよ。解っていますね?」

 それは、夜会でもされることがある―――いや、ロイストゥヒ大公・ルシェールが、性的な隷従を見せていると言うことを、周知させるために、そうするという、表明だった。

「……承知致しました……」

 ルシェールは、夜会で、衆目の前で痴態を晒すことを想像して、達してしまった。

 アルトゥールの、勝ち誇ったような満足げな笑みが、酷く遠かった。


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