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プロローグ
彼
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清明のお葬式を終えてから早3日。
僕は、日曜日の午前をただ悶々と部屋で腐るために利用していた。ぼーっとして、課題にも手をつけられない。でもその理由は、清明の死がどうのこうのだけじゃないけど。
僕は、このまま部屋にいるのもあれだと思い、清明が最期に行ったとされる、事故現場の星丘山に行ってみることにした。携帯をポケットに、財布と水を小さなリュックへ入れて家を出て、ロードバイクにまたがる。山付近まではそれで一気に行く。
警察の話では、山の山頂の崖で、清明は崖から滑って落ちた。現場証拠ではそうなってるらしい。でも、それにしては色々とおかしい。
いきなり姿を消したこと。
そもそも山なんかに1人で行ったこと。
事故当時は荷物なんか何も持ってなかったこと。
事故自体に不自然な点はなくても、僕らとの関係には不自然な点が残りすぎる。
僕は、たった1人でこんな山に足を踏み入れた清明のわけが知りたくて、なんとなく山に足を入れてみた。急な山道を歩いて、少し休憩しながら警察の言っていたとおりの地点まで行ってみる。ときどに携帯がバイブレーションしたけど、無視してとりあえず登ってみる。僕はその道中色々と考えた。生前の清明のこと、いきなり消えた理由。
1番引っかかるのは、誰にも言わずに姿を消したこと。
わけも話せないほど、何かあったのだろうか。僕は、そんな清明の相談相手にすらなれなかったのか。それとも本当に適当に思いついたから適当に登ってみて、そのあとで偶然にも足がもつれて崖から落ちたというのなら、もしもそんなかっこ悪い死に方をしてしまったのなら僕は……。
そんなことを考えていると、かなり足が疲れてきた。
そして疲れてきたと同時に山頂が見えてきた。僕は「あと少し」と太ももを叩きながら登りつめて、ついに、青い空と同時に澄み渡る風と見たことないような景色が目に飛び込んだ。
そこは、今まで当たり前に行っていた学校という鎖から解かれて、無機質な街もどこか風情を感じられる。夜景はどんなだろう。
高校生の僕の精一杯の語彙で表せる、今見ている景色の最大限。
普段は見ることの無い景色だから余計、山から見る景色は美しく見えた。
感動したあとで間もなく、「清明がいたら…」そう思ってハッとする。清明は、こんな綺麗な景色が見える場所で死んだ。
清明は、どうしてこんなところまで登り詰めたんだ。ここまで結構疲れるし、バスケ部でもスタミナはそんなでもなかったから、それなりに大変ではあったと思うのに、どうしてここまでわざわざ登って…。
それに、清明は近所じゃそれなりに知られてるから、いなくなる前に目撃証言があったって変じゃない。なのに、むしろそれは皆無。1つとてありもしなかった。多分、深夜とか誰もいない時間帯にここに来たのだろう。でも、悪さをするって言っても馬鹿じゃない。深夜帯にここに来ることがどれだけ危険かなんて、考えなくてもわかる話だ。なのに、清明は誰にも見つかることなくここまで来た。
そして、ようやくたどり着いたこの場所で、崖から落ちて。
僕はその場にしゃがみこんで、気づけば泣いてしまっていた。溢れたそれは明らかに涙だったけど、なんの涙なのかわからなかった。わかっちゃいけない。そうやって誤魔化して、ただ泣いていた。
でもそれと同時に、解明したくなった。
清明がどうしてこんなところまで来て、
誰にも言わずに消えて、
誰にも言わずに死を選んだのか。例えそれが事故であっても、知りたかった。清明が生前思っていたことを。
そしてポケットから携帯を取り出して、僕はいつものグループラインに、唐突にメッセージを送った。
「少し話したいことがある。どこかに集まれないかな?」
すると、速攻で既読がついて、杏奈と光星からだった。
「私は平気よ。駅のところのカフェはどう?」
「俺も大丈夫。そこのカフェでいいか?」
2人とも同じ場所の指定だった。
「うん。ありがとう」
でも、大輝からはかえってこなかった。
山道をおりてカフェに向かいながらいると、大輝から返ってきた。
「遅れて悪い。今そのカフェ近いからすぐ行けるよ」
僕は1度ロードバイクをとめて、メッセージを読んでから、カフェの方へまた漕ぎ始める。
カフェに着くと、すでに杏奈と大輝がいた。
ロードバイクを駐輪場に止めていると、光星が中に入っていった。
僕は鍵をかけてから中に入る。
「皆、いきなりごめんね」
そういうと、光星たちは笑顔で返した。
「いいってことよ!暇人してたし」
「そうね。いい暇つぶしって感じね」
「ちょうど用事終わって暇になったからね」
僕は少し安心してありがとうと返す。
そして僕は、椅子に座って早速本題を切り出す。
「単刀直入に言うんだけど、その」
この期に及んで口ごもってしまった。
「……清明の…さ」
僕がもごもごとしてしまっているのを、3人は黙って待っていてくれた。
「清明のこと、もっと知りたいというか。どうしていきなり消えて、どうしてあの山行って、どうして死んでしまったのか、どうしても気になるんだ。いつも笑ってばかりで、悩みとか弱音とか吐かなかったから、だから、この4人で、清明は本当は何を思ってたのか明らかにしたいって思うんだ」
僕が真剣な顔で、でも俯き気味にいうと、杏奈が口を開いた。
「まぁ、そうね。私もそれはすごく気になってた」
意外だなぁって目で光星が杏奈を見た。杏奈は「何よ」と照れ気味に言う。
「清明には…そぐわない感じだったし、それは気になってたことでもあるよね」
大輝もそう言った。
でも、今度は光星が答えなかった。
「…光星は、どうかな?」
「…俺?俺は……いいと思う、やろうぜ俺らで」
光星は少し迷った様子で答えた。
光星が迷った理由は、見た感じ杏奈も大輝も知らないような感じだった。いや、杏奈は何か知って気な顔をしていた気がする。でもそこを詮索するのは違うと思うから、僕は「ありがとう」と言い、どうするかを話し合った。
清明の身の周りの人達から聞き回る、清明の事故現場へ行く、清明の自宅へ行き、清明の部屋を探る。この3つの割り当ては、聞き回るのは、清明みたく顔の広い大輝、事故現場へ行くのは、体力に自信のある光星と、人付き合いが苦手と言っていたから杏奈。最後のやつは1番親しかった僕が行くことになった。
光星は、やたら清明の事故現場へ行くことを要求してきた。悪いことではないし、別にやましいことがあるわけじゃないだろうけれど、なんだか、少し光星が怪しかった。でも、動揺は誰だってすることだし、清明の死が謎なのは言わずもがな。知りたい思いはきっと人一倍あったんだ。って、僕はそう思うことにして、とりあえず家へ帰ってから寝ることにした。
翌日、僕は普通に学校へ行くことはせず、「風邪で休む」と学校へは連絡して、清明の家へ行くことにした。
清明の家へは、1度だけ行ったことがある。それも、本当に1度だけ。
1度行った清明の家は、綺麗とは言い難いような家で、でも家の中は少し整っていた。でも、親がいる感じはしなかった。
「俺んち、母子家庭で母さん基本的に昼間いねぇんさ。だから好きにしてっていいよ」
清明のセリフが蘇る。
そうだ。清明の親は昼間はいない。
僕は犯罪かもしれないと分かっていても、少し強引な策に出るしかなかった。というのも、お葬式でみた清明のお母さんらしき人は、服は喪服だったけど、ピンヒールは高くて、ピアスはギラギラしていて、お葬式とは思えないほどメイクが濃かった。でも人目見てびっくりするくらい美人だけど、キツそうな人だった。お父さんらしき人はいなかった。いや、いたのかもしれないけど、多分わからなかった。
昼間に清明の親御さんがいないのをいいことに、僕は清明が住んでいたアパートの部屋の前まで行った。一応インターホンはおそうと思って、とりあえず押してみた。
でもやっぱり、予測通り誰も出てくるような気配はなくて、だから僕はドアノブを捻った。
僕は、日曜日の午前をただ悶々と部屋で腐るために利用していた。ぼーっとして、課題にも手をつけられない。でもその理由は、清明の死がどうのこうのだけじゃないけど。
僕は、このまま部屋にいるのもあれだと思い、清明が最期に行ったとされる、事故現場の星丘山に行ってみることにした。携帯をポケットに、財布と水を小さなリュックへ入れて家を出て、ロードバイクにまたがる。山付近まではそれで一気に行く。
警察の話では、山の山頂の崖で、清明は崖から滑って落ちた。現場証拠ではそうなってるらしい。でも、それにしては色々とおかしい。
いきなり姿を消したこと。
そもそも山なんかに1人で行ったこと。
事故当時は荷物なんか何も持ってなかったこと。
事故自体に不自然な点はなくても、僕らとの関係には不自然な点が残りすぎる。
僕は、たった1人でこんな山に足を踏み入れた清明のわけが知りたくて、なんとなく山に足を入れてみた。急な山道を歩いて、少し休憩しながら警察の言っていたとおりの地点まで行ってみる。ときどに携帯がバイブレーションしたけど、無視してとりあえず登ってみる。僕はその道中色々と考えた。生前の清明のこと、いきなり消えた理由。
1番引っかかるのは、誰にも言わずに姿を消したこと。
わけも話せないほど、何かあったのだろうか。僕は、そんな清明の相談相手にすらなれなかったのか。それとも本当に適当に思いついたから適当に登ってみて、そのあとで偶然にも足がもつれて崖から落ちたというのなら、もしもそんなかっこ悪い死に方をしてしまったのなら僕は……。
そんなことを考えていると、かなり足が疲れてきた。
そして疲れてきたと同時に山頂が見えてきた。僕は「あと少し」と太ももを叩きながら登りつめて、ついに、青い空と同時に澄み渡る風と見たことないような景色が目に飛び込んだ。
そこは、今まで当たり前に行っていた学校という鎖から解かれて、無機質な街もどこか風情を感じられる。夜景はどんなだろう。
高校生の僕の精一杯の語彙で表せる、今見ている景色の最大限。
普段は見ることの無い景色だから余計、山から見る景色は美しく見えた。
感動したあとで間もなく、「清明がいたら…」そう思ってハッとする。清明は、こんな綺麗な景色が見える場所で死んだ。
清明は、どうしてこんなところまで登り詰めたんだ。ここまで結構疲れるし、バスケ部でもスタミナはそんなでもなかったから、それなりに大変ではあったと思うのに、どうしてここまでわざわざ登って…。
それに、清明は近所じゃそれなりに知られてるから、いなくなる前に目撃証言があったって変じゃない。なのに、むしろそれは皆無。1つとてありもしなかった。多分、深夜とか誰もいない時間帯にここに来たのだろう。でも、悪さをするって言っても馬鹿じゃない。深夜帯にここに来ることがどれだけ危険かなんて、考えなくてもわかる話だ。なのに、清明は誰にも見つかることなくここまで来た。
そして、ようやくたどり着いたこの場所で、崖から落ちて。
僕はその場にしゃがみこんで、気づけば泣いてしまっていた。溢れたそれは明らかに涙だったけど、なんの涙なのかわからなかった。わかっちゃいけない。そうやって誤魔化して、ただ泣いていた。
でもそれと同時に、解明したくなった。
清明がどうしてこんなところまで来て、
誰にも言わずに消えて、
誰にも言わずに死を選んだのか。例えそれが事故であっても、知りたかった。清明が生前思っていたことを。
そしてポケットから携帯を取り出して、僕はいつものグループラインに、唐突にメッセージを送った。
「少し話したいことがある。どこかに集まれないかな?」
すると、速攻で既読がついて、杏奈と光星からだった。
「私は平気よ。駅のところのカフェはどう?」
「俺も大丈夫。そこのカフェでいいか?」
2人とも同じ場所の指定だった。
「うん。ありがとう」
でも、大輝からはかえってこなかった。
山道をおりてカフェに向かいながらいると、大輝から返ってきた。
「遅れて悪い。今そのカフェ近いからすぐ行けるよ」
僕は1度ロードバイクをとめて、メッセージを読んでから、カフェの方へまた漕ぎ始める。
カフェに着くと、すでに杏奈と大輝がいた。
ロードバイクを駐輪場に止めていると、光星が中に入っていった。
僕は鍵をかけてから中に入る。
「皆、いきなりごめんね」
そういうと、光星たちは笑顔で返した。
「いいってことよ!暇人してたし」
「そうね。いい暇つぶしって感じね」
「ちょうど用事終わって暇になったからね」
僕は少し安心してありがとうと返す。
そして僕は、椅子に座って早速本題を切り出す。
「単刀直入に言うんだけど、その」
この期に及んで口ごもってしまった。
「……清明の…さ」
僕がもごもごとしてしまっているのを、3人は黙って待っていてくれた。
「清明のこと、もっと知りたいというか。どうしていきなり消えて、どうしてあの山行って、どうして死んでしまったのか、どうしても気になるんだ。いつも笑ってばかりで、悩みとか弱音とか吐かなかったから、だから、この4人で、清明は本当は何を思ってたのか明らかにしたいって思うんだ」
僕が真剣な顔で、でも俯き気味にいうと、杏奈が口を開いた。
「まぁ、そうね。私もそれはすごく気になってた」
意外だなぁって目で光星が杏奈を見た。杏奈は「何よ」と照れ気味に言う。
「清明には…そぐわない感じだったし、それは気になってたことでもあるよね」
大輝もそう言った。
でも、今度は光星が答えなかった。
「…光星は、どうかな?」
「…俺?俺は……いいと思う、やろうぜ俺らで」
光星は少し迷った様子で答えた。
光星が迷った理由は、見た感じ杏奈も大輝も知らないような感じだった。いや、杏奈は何か知って気な顔をしていた気がする。でもそこを詮索するのは違うと思うから、僕は「ありがとう」と言い、どうするかを話し合った。
清明の身の周りの人達から聞き回る、清明の事故現場へ行く、清明の自宅へ行き、清明の部屋を探る。この3つの割り当ては、聞き回るのは、清明みたく顔の広い大輝、事故現場へ行くのは、体力に自信のある光星と、人付き合いが苦手と言っていたから杏奈。最後のやつは1番親しかった僕が行くことになった。
光星は、やたら清明の事故現場へ行くことを要求してきた。悪いことではないし、別にやましいことがあるわけじゃないだろうけれど、なんだか、少し光星が怪しかった。でも、動揺は誰だってすることだし、清明の死が謎なのは言わずもがな。知りたい思いはきっと人一倍あったんだ。って、僕はそう思うことにして、とりあえず家へ帰ってから寝ることにした。
翌日、僕は普通に学校へ行くことはせず、「風邪で休む」と学校へは連絡して、清明の家へ行くことにした。
清明の家へは、1度だけ行ったことがある。それも、本当に1度だけ。
1度行った清明の家は、綺麗とは言い難いような家で、でも家の中は少し整っていた。でも、親がいる感じはしなかった。
「俺んち、母子家庭で母さん基本的に昼間いねぇんさ。だから好きにしてっていいよ」
清明のセリフが蘇る。
そうだ。清明の親は昼間はいない。
僕は犯罪かもしれないと分かっていても、少し強引な策に出るしかなかった。というのも、お葬式でみた清明のお母さんらしき人は、服は喪服だったけど、ピンヒールは高くて、ピアスはギラギラしていて、お葬式とは思えないほどメイクが濃かった。でも人目見てびっくりするくらい美人だけど、キツそうな人だった。お父さんらしき人はいなかった。いや、いたのかもしれないけど、多分わからなかった。
昼間に清明の親御さんがいないのをいいことに、僕は清明が住んでいたアパートの部屋の前まで行った。一応インターホンはおそうと思って、とりあえず押してみた。
でもやっぱり、予測通り誰も出てくるような気配はなくて、だから僕はドアノブを捻った。
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