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1章
鈴木杏奈 2
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高2の夏休み前、もともと喘息持ちで激しい運動ができないため、軽音部でキーボードを担当している真叶が、とある体育の時間の持久走で喘息の発作が出てしまい、授業中に倒れてしまったことがある。意識が不明で緊急搬送されて、その日から数日入院することになった。私は、倒れる光景を調節見た訳では無いけれど、みんなの悲鳴や先生の声とかで気づいて、真叶が運ばれるところを見た。その時はもちろん「え?真叶?」位は思った。けれど私はそれ以外になにか目立った感情がわくことは無かった。
私は一体その時どんな顔をしていただろうか考えるだけで嫌になるほど、表情はなかったと思う。
「大丈夫?」なんて声をかけたりすることもせずに、ただ深く目を閉じて運ばれて消える真叶を目で追うしかできなかった。
私はそのあとで、別の女子達に「やっぱ杏奈ちゃんはクールだよねぇ」なんて言われた。そのときはあまり深く受け取ってはいなかったけれど、いざ真叶が入院するってなって、クラスの話の話題がそれで持ち切りになって。みんなが心配していたけれど、私にはそれが出来なかった。わざわざ声に出して心配することが性にあわないって言うのもそうかもしれないけれど、そうではない感じがした。
そしてそんなことがあった次の日、美術部で飼育していたアゲハ蝶が死んでしまった。たまたまその前の日に真叶が搬送されたこともあって、みんなは「なにか良くないことが起こる」とか「真叶くん大丈夫かな」とかで騒いでいた。けれど、私はこのアゲハ蝶の死に対しても、何も特別感情を抱くことは無かった。その時、また言われた。
「やっぱりクールだね」
「やっぱりこういうことは、クールな鈴木に頼むしかないな」
「クール」この言葉が私は嫌いだった。
クールというのは無愛想の無感情な人のことを言うの?
私はそれは違うと知っている。だから余計に、「クール」なんて言われたら、それはもうたまったものではなかった。
そう。私は友達の危機にさえ動揺することの出来ない無感情な人。
私は、その言葉を快くうけとめることができなかった。
そして、こんな私の無感情は真叶のときに限らず、清明のお葬式の時にさえ現れた。
清明のお葬式でみんなが涙して、悲しんでいたというのに、私は苦い顔もしないで、ただその状況を深く理解することを「頑張っていた」。
最低だと知っている。自分の無感情を受け入れて、優しい言葉をかけてくれた清明の死にさえも、上手く感情を表すことが出来なかった。もう、私はこんな人間なんだと悟った。
真叶も泣いたりしてなくて、呆然としたような顔をしていたけれど、あの顔は、親友の死をちゃんと受け止められていないか、受け止めたくない人が本能でする顔。私は違う。表情を作ること自体を拒否していた。どんな顔をすればいいの?そういうとき、どういう顔をする人のことを「いい人」と呼ぶの。
私はただのロボットのよう。感情のない無機質なロボット。私は……私は……
「杏奈はやっぱりクールなんだな」
その言葉で現実へ引き戻された。
そしてそれは、現実へ引き戻すに留まらないで、私の心の止め金を外してしまった。案外簡単に。
今まで蓋をして、見ないように、見えないようにしてきた私の本当。清明の本当の心が知りたくて探り始めたと言うのに、真っ先に暴かれた私の本性。真叶は、光星は、大輝は気づいていた?私のこんなにも醜い本性に。少なくとも、光星は気づけてはいなかった。
悪気はないとわかって………でも、、私にはどうしてもその言葉だけは流すことが出来ない。
止め金は外れた。バッテンは、剥がれ落ちた。
─カナシメナイ。
「杏奈はやっぱりクールなんだな」
「杏奈ちゃんってクールだよね」
「クールな女子ってほんとカッコイイよね」
「鈴木は本当にクール女子だな」
脳裏をよぎる。嫌。嫌。そんな言葉嫌……!!
「違うわ!!」
気づけば叫んでいた。
頭が良くても、いくら人との付き合い方を理解していても、もうきっとそんなことどうでもいいのよ。もうきっと。そんなこと。
「私はクールなんかじゃないわ!何かが死んだことも悲しめないような最低人間なのよ!!」
「杏奈…」
「真叶が入院した時もそうよ!何も思わなかった。お見舞いにさえ行かなかったわ!それに、今だって清明が死んでも私は何も変わってないじゃない!清明が事故にあった場所に来たって私はこんなんよ!いつになっても私はこういう人間なのよ!!」
光星が小さな声で私を呼んだ気がした。けれど、もう止めることは出来なかった。今までの私の全てを吐き出して、私はもう話すことも無くなった。
「誰の死も悲しめない……もう私は……」
「悪かったよ杏奈。でも、俺は杏奈のこと、そんな風に思ったことはないぜ」
光星は真剣な顔をして私に言った。
「お前が最低な人間とか、無感情とか、思ったことねぇよ」
「どうして…友達ならこういう時、泣くものなんでしょ?」
「違うよ。俺だって泣いてねぇじゃん」
清明と、似たようなことを言う。
「アゲハ蝶の話聞いた。清明おっかしそうに話してたぜ?」
「え?」
「虫1匹死んだ程度で悲しめないからって、無感情なわけねぇじゃん。自分以外の何かが不幸になってからっていちいち悲しむ必要ねぇよ。こういう言い方は変かもしれねぇけど、泣きたい時に泣けばいいってのと一緒でさ、悲しみたい時にちゃんと悲しめたらそれでいいんじゃね?自分の感情をさらけ出したい時に出せば、それでいいんだよ。それに今、悔やんでるじゃん。だから大丈夫」
大丈夫?
なにが大丈夫なのよ。
私はおかしくなって笑ってしまった。
「大丈夫って何よ」
「いや、そういうの溜め込むタイプだろどう見ても」
光星はそう言うが、本当のところそうなのかは怪しい。
それに、言葉ひとつとってもどことなく清明と言っていることは似ていたけれど、それでも良かった。それでも、そういう風に言ってもらえるのはとてもありがたかった。
目の前に広がる景色から視線を落として、清明が踏み外した場所を見る。明らかに踏み外したような跡があった。多分、本当に足を踏み外して落ちてしまったんだと思う。確かに不自然。あの明るい清明からこんなところへ来て仮にも自殺としたとしても、事故だとしても、不自然な点が多い。
光星の言葉を聞いて、同じような言葉をかけてくれた清明を思い出す。清明は、無感情な私をいつも遠くから見ていて、まわりから「クール」と言われて嫌がる私に、冗談でも「無感情なだけだろー?」なんてからかいを入れて、今まで私がこんなふうに取り乱さないようにしてくれていた。
真叶が入院した時も、何も思えなかった私だったけれど、幻滅もせずに清明はそばにいた。もちろん光星も大輝も。けれど、清明がそばにいるのとはわけが違った。
今まで私は、清明のことを好きじゃないとか好きにはならなくてもとかそう言って、感情を誤魔化してきたけれど、違っていた。
人は失って初めて大切なものに気づくとよく誰かが言うけれど、本当にそれはその通りだと思う。だって私は気づいた。
清明が亡くなって数日たって、事故現場へ来て、無感情な私をさらけ出して、光星の言葉で清明を思い出してやっと……。
「あ、そうだ。俺、ここに来る前にちょっと父さんの知り合いにお願いして持ってきたんだけどこれ」
呆然とする私に、光星は小さなジッパー袋に入った緑色のストラップを差し出した。これは、私たち5人で静岡へ言った時にお揃いにしたストラップ。夕日に照らされて、キラキラとそれは光っている。
「捜査も終わったから、もうそれ空けて触っていいって」
光星はそういう。まるで何かを促すように。
私は言われるがままにジッパー袋を開けて、中からそのストラップを取り出す。
夕日に照らされて、光るストラップを見て、はっきりと清明の顔を思い出した。
今まで、もしここに清明がいたらと思う場面が多かった。
そのせいだ。まだ清明がいなくなった自覚がなかった。きっとどこかにいて、かくれんぼをしているんだと、そう空想して。
けれど気づいてしまった。気付かされてしまった。このストラップが単体で存在していること、すぐ目の前には清明が踏み外した靴の跡がある、この会話の中に清明がいないこと、いつもの会話の中に清明がいないことによって、知らしめられてしまった。
もう清明はどこにいない。存在すらしていないんだと。
そう思った瞬間に、心に大きな穴が空いた。
分かっていたことなのに。もう清明が生きていないことは、ずっと知っていて、周りも知っていることなのに、どうして……?
私は、清明がいないと分かって心に穴が空いた瞬間に気づいた。
私は、清明のことが、好きだったんだと。
好きじゃないと言いつつも、目で追っていた。
好きになるまではいかなくてもなんて言いながら、心のどこかで清明を思っていた。美術部のデッサンで清明に声をかけたのもそれが理由だったと気づいた。
私は好きだったのよ。清明が。石川清明のことが好きだったのよ。
そう気づいて、でも居ないことにも気づいて、私は自然と溢れでてくる涙が止まらなかった。ストラップを握りしめて泣き崩れる。光星はその場で黙って私が泣き止むのを待っていた。
と思うと、光星は肩に手を置いて優しく言った。
「ほら、泣けんじゃん。杏奈は、無感情なんかじゃねぇよ」
そう言われ、今まで溜め込んでいた何かが溢れた。はしたないと分かっていても、抑えられるわけもなかった。私は光星に抱きついて、子供のように泣いた。引かれてしまったと思うけれど、もうそれしか出来なかった。
でも、光星は本当に黙って、私が泣き止むのを待ってくれていた。まるで光星も泣いているんじゃないかと勘違いするくらい。
けれどそれと同時に押し寄せたのは、これから知ろうとする清明は、私の知らない石川清明なんだということへの恐怖。いつも明るくてクラスの人気者だったけれど、そんな清明の本当のことを知ろうとしていくのが、少し怖くなってきた。知りたい思いはある。この不自然な死に、私は違和感以外何も感じないし、友達として知る必要はあると思うから。
私は、もう止まらないことを決めた。
こんな私を1番最初に認めたのは清明だったから。
逆に清明の本性も受け入れてあげたい。きっと隠し続けていたんだから。誰にも明かさなかった清明の本性を、ちゃんと受け止めて認めてあげたい。
そう決めて、私は涙を拭った。
ストラップは、ジッパー袋に戻して。
私は一体その時どんな顔をしていただろうか考えるだけで嫌になるほど、表情はなかったと思う。
「大丈夫?」なんて声をかけたりすることもせずに、ただ深く目を閉じて運ばれて消える真叶を目で追うしかできなかった。
私はそのあとで、別の女子達に「やっぱ杏奈ちゃんはクールだよねぇ」なんて言われた。そのときはあまり深く受け取ってはいなかったけれど、いざ真叶が入院するってなって、クラスの話の話題がそれで持ち切りになって。みんなが心配していたけれど、私にはそれが出来なかった。わざわざ声に出して心配することが性にあわないって言うのもそうかもしれないけれど、そうではない感じがした。
そしてそんなことがあった次の日、美術部で飼育していたアゲハ蝶が死んでしまった。たまたまその前の日に真叶が搬送されたこともあって、みんなは「なにか良くないことが起こる」とか「真叶くん大丈夫かな」とかで騒いでいた。けれど、私はこのアゲハ蝶の死に対しても、何も特別感情を抱くことは無かった。その時、また言われた。
「やっぱりクールだね」
「やっぱりこういうことは、クールな鈴木に頼むしかないな」
「クール」この言葉が私は嫌いだった。
クールというのは無愛想の無感情な人のことを言うの?
私はそれは違うと知っている。だから余計に、「クール」なんて言われたら、それはもうたまったものではなかった。
そう。私は友達の危機にさえ動揺することの出来ない無感情な人。
私は、その言葉を快くうけとめることができなかった。
そして、こんな私の無感情は真叶のときに限らず、清明のお葬式の時にさえ現れた。
清明のお葬式でみんなが涙して、悲しんでいたというのに、私は苦い顔もしないで、ただその状況を深く理解することを「頑張っていた」。
最低だと知っている。自分の無感情を受け入れて、優しい言葉をかけてくれた清明の死にさえも、上手く感情を表すことが出来なかった。もう、私はこんな人間なんだと悟った。
真叶も泣いたりしてなくて、呆然としたような顔をしていたけれど、あの顔は、親友の死をちゃんと受け止められていないか、受け止めたくない人が本能でする顔。私は違う。表情を作ること自体を拒否していた。どんな顔をすればいいの?そういうとき、どういう顔をする人のことを「いい人」と呼ぶの。
私はただのロボットのよう。感情のない無機質なロボット。私は……私は……
「杏奈はやっぱりクールなんだな」
その言葉で現実へ引き戻された。
そしてそれは、現実へ引き戻すに留まらないで、私の心の止め金を外してしまった。案外簡単に。
今まで蓋をして、見ないように、見えないようにしてきた私の本当。清明の本当の心が知りたくて探り始めたと言うのに、真っ先に暴かれた私の本性。真叶は、光星は、大輝は気づいていた?私のこんなにも醜い本性に。少なくとも、光星は気づけてはいなかった。
悪気はないとわかって………でも、、私にはどうしてもその言葉だけは流すことが出来ない。
止め金は外れた。バッテンは、剥がれ落ちた。
─カナシメナイ。
「杏奈はやっぱりクールなんだな」
「杏奈ちゃんってクールだよね」
「クールな女子ってほんとカッコイイよね」
「鈴木は本当にクール女子だな」
脳裏をよぎる。嫌。嫌。そんな言葉嫌……!!
「違うわ!!」
気づけば叫んでいた。
頭が良くても、いくら人との付き合い方を理解していても、もうきっとそんなことどうでもいいのよ。もうきっと。そんなこと。
「私はクールなんかじゃないわ!何かが死んだことも悲しめないような最低人間なのよ!!」
「杏奈…」
「真叶が入院した時もそうよ!何も思わなかった。お見舞いにさえ行かなかったわ!それに、今だって清明が死んでも私は何も変わってないじゃない!清明が事故にあった場所に来たって私はこんなんよ!いつになっても私はこういう人間なのよ!!」
光星が小さな声で私を呼んだ気がした。けれど、もう止めることは出来なかった。今までの私の全てを吐き出して、私はもう話すことも無くなった。
「誰の死も悲しめない……もう私は……」
「悪かったよ杏奈。でも、俺は杏奈のこと、そんな風に思ったことはないぜ」
光星は真剣な顔をして私に言った。
「お前が最低な人間とか、無感情とか、思ったことねぇよ」
「どうして…友達ならこういう時、泣くものなんでしょ?」
「違うよ。俺だって泣いてねぇじゃん」
清明と、似たようなことを言う。
「アゲハ蝶の話聞いた。清明おっかしそうに話してたぜ?」
「え?」
「虫1匹死んだ程度で悲しめないからって、無感情なわけねぇじゃん。自分以外の何かが不幸になってからっていちいち悲しむ必要ねぇよ。こういう言い方は変かもしれねぇけど、泣きたい時に泣けばいいってのと一緒でさ、悲しみたい時にちゃんと悲しめたらそれでいいんじゃね?自分の感情をさらけ出したい時に出せば、それでいいんだよ。それに今、悔やんでるじゃん。だから大丈夫」
大丈夫?
なにが大丈夫なのよ。
私はおかしくなって笑ってしまった。
「大丈夫って何よ」
「いや、そういうの溜め込むタイプだろどう見ても」
光星はそう言うが、本当のところそうなのかは怪しい。
それに、言葉ひとつとってもどことなく清明と言っていることは似ていたけれど、それでも良かった。それでも、そういう風に言ってもらえるのはとてもありがたかった。
目の前に広がる景色から視線を落として、清明が踏み外した場所を見る。明らかに踏み外したような跡があった。多分、本当に足を踏み外して落ちてしまったんだと思う。確かに不自然。あの明るい清明からこんなところへ来て仮にも自殺としたとしても、事故だとしても、不自然な点が多い。
光星の言葉を聞いて、同じような言葉をかけてくれた清明を思い出す。清明は、無感情な私をいつも遠くから見ていて、まわりから「クール」と言われて嫌がる私に、冗談でも「無感情なだけだろー?」なんてからかいを入れて、今まで私がこんなふうに取り乱さないようにしてくれていた。
真叶が入院した時も、何も思えなかった私だったけれど、幻滅もせずに清明はそばにいた。もちろん光星も大輝も。けれど、清明がそばにいるのとはわけが違った。
今まで私は、清明のことを好きじゃないとか好きにはならなくてもとかそう言って、感情を誤魔化してきたけれど、違っていた。
人は失って初めて大切なものに気づくとよく誰かが言うけれど、本当にそれはその通りだと思う。だって私は気づいた。
清明が亡くなって数日たって、事故現場へ来て、無感情な私をさらけ出して、光星の言葉で清明を思い出してやっと……。
「あ、そうだ。俺、ここに来る前にちょっと父さんの知り合いにお願いして持ってきたんだけどこれ」
呆然とする私に、光星は小さなジッパー袋に入った緑色のストラップを差し出した。これは、私たち5人で静岡へ言った時にお揃いにしたストラップ。夕日に照らされて、キラキラとそれは光っている。
「捜査も終わったから、もうそれ空けて触っていいって」
光星はそういう。まるで何かを促すように。
私は言われるがままにジッパー袋を開けて、中からそのストラップを取り出す。
夕日に照らされて、光るストラップを見て、はっきりと清明の顔を思い出した。
今まで、もしここに清明がいたらと思う場面が多かった。
そのせいだ。まだ清明がいなくなった自覚がなかった。きっとどこかにいて、かくれんぼをしているんだと、そう空想して。
けれど気づいてしまった。気付かされてしまった。このストラップが単体で存在していること、すぐ目の前には清明が踏み外した靴の跡がある、この会話の中に清明がいないこと、いつもの会話の中に清明がいないことによって、知らしめられてしまった。
もう清明はどこにいない。存在すらしていないんだと。
そう思った瞬間に、心に大きな穴が空いた。
分かっていたことなのに。もう清明が生きていないことは、ずっと知っていて、周りも知っていることなのに、どうして……?
私は、清明がいないと分かって心に穴が空いた瞬間に気づいた。
私は、清明のことが、好きだったんだと。
好きじゃないと言いつつも、目で追っていた。
好きになるまではいかなくてもなんて言いながら、心のどこかで清明を思っていた。美術部のデッサンで清明に声をかけたのもそれが理由だったと気づいた。
私は好きだったのよ。清明が。石川清明のことが好きだったのよ。
そう気づいて、でも居ないことにも気づいて、私は自然と溢れでてくる涙が止まらなかった。ストラップを握りしめて泣き崩れる。光星はその場で黙って私が泣き止むのを待っていた。
と思うと、光星は肩に手を置いて優しく言った。
「ほら、泣けんじゃん。杏奈は、無感情なんかじゃねぇよ」
そう言われ、今まで溜め込んでいた何かが溢れた。はしたないと分かっていても、抑えられるわけもなかった。私は光星に抱きついて、子供のように泣いた。引かれてしまったと思うけれど、もうそれしか出来なかった。
でも、光星は本当に黙って、私が泣き止むのを待ってくれていた。まるで光星も泣いているんじゃないかと勘違いするくらい。
けれどそれと同時に押し寄せたのは、これから知ろうとする清明は、私の知らない石川清明なんだということへの恐怖。いつも明るくてクラスの人気者だったけれど、そんな清明の本当のことを知ろうとしていくのが、少し怖くなってきた。知りたい思いはある。この不自然な死に、私は違和感以外何も感じないし、友達として知る必要はあると思うから。
私は、もう止まらないことを決めた。
こんな私を1番最初に認めたのは清明だったから。
逆に清明の本性も受け入れてあげたい。きっと隠し続けていたんだから。誰にも明かさなかった清明の本性を、ちゃんと受け止めて認めてあげたい。
そう決めて、私は涙を拭った。
ストラップは、ジッパー袋に戻して。
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