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エピソード3
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夕方になり、ようやく学校から玉森が帰ってきた。
「ただいまー」
リビングに来て、蒼愛を探そうとした時、目の前で蒼愛はソファーに横になり眠っていた。
玉森は柔らかい微笑みを浮かべ、蒼愛にタオルケットをかけてあげた。
「懐かしいなぁ前に、友達にもこんなことしてあげたっけ……」
そう言うと、玉森は何やら引き出しの中から、高校生くらいの時の写真を取り出した。
「仲良かったのに……」
そこには、楽しげに笑う高校生くらいの玉森ともう1人女の子がいた。
すると、不意に後ろから間抜けな声がした。
「あれ?帰ってたの?」
「さっきね。ただいま」
「おかえりなさい、それは?」
「これ?高校生の時の、友達と撮った写真」
そういうと、自慢げに蒼愛に近づき写真を渡した。
「可愛いじゃん。………っ!!」
「そんなことないでしょ~」
蒼愛は写真を見るなり、何かに驚いたのか、手が震えていた。
「これ……」
「ん?どうしたん?」
「いやっ!なんでもない!」
玉森に話しかけられると、写真からとっさに目をそらした。
「そう言えば、蒼愛ちゃん今いくつなの?」
「え?」
「今年齢ってどのくらいなの?」
「多分、この写真と同じくらい」
「へぇ~、初めて見た時から、中学生だと思ってたから意外だなぁ」
「そう?」
蒼愛は写真に目をやろうとはしなかった。
「なんか、似てるね!」
玉森は写真と蒼愛の顔を見合わせて言った。
蒼愛はただ顔には出さずとも、怯えるだけだった。
「私、お風呂行ってくる」
「うん。上がったら教えてね」
ソファーから立ち上がり、少し早歩きめで着替えを取りに行き、浴場に逃げるように入った。
シャワーを浴びながら、蒼愛の様子は、驚きを隠せていなかった。
「こんなすぐバレるのか……」
蒼愛はふと、目の前の鏡を見た。そして、少し体を横向きにして、自分の右肩少ししたあたりを見た。
そこには、肌がひび割れたような、ひびの部分は皮膚を抉り、触るとゴツゴツしていそうな見た目だった。
「……醜い……」
蒼愛はそれを隠すように抑えてそう言った。
お風呂から上がると、玉森がソファーに座ってテレビを見ていた。
「あっ、蒼愛ちゃん。コレ見てよ、また悪魔説とかやってる」
玉森は呆れ顔で見ていた。蒼愛はそれがとても気になり、玉森の横に来てテレビを見た。
「いや~こんな変な死体、人間なんて有り得ませんよ」
「それでは他に?」
「えぇ。例えば……悪魔とか」
「悪魔!?あの悪魔説を利用すると?」
テレビには、嘘くさいコメンテーターと、驚きまくっているうるさい司会者がいた。
「そうなりますねぇ、だっておかしいでしょ?刺したでも撃ったでも殴ったでもない、腹をえぐり内蔵が出てる。こんなの、人間は有り得ません」
「では悪魔が存在するということですか?」
「えぇ、それも、人間に化けてね」
カメラに向けた確信を持ったかのような視線に、蒼愛は苛立ちと焦りの感情が芽生えた。
「バカバカしいって思わない?悪魔なんていないっての」
玉森は手に持ったリモコンでコメンテーターを指すような動きをした。
「蒼愛ちゃん?」
「今ってこんな説が存在するの?悪魔説って」
「うん。まぁ最近かな。今って科学の力とか機械とか色々凄いじゃん?まぁそういうので調べた結果が悪魔説とか出てきたんだと思うよ」
「へぇ~」
蒼愛は真剣にテレビを見ていた。
「あ、ご飯用意しなきゃね」
そう言うと、玉森はソファーから立ち上がり、キッチンの方へ行った。
蒼愛はキッチンに向かう背を見て、「ごめん」と呟いた。
夕食を食べ終え、玉森はお風呂行った。
玉森がお風呂に行っている間、蒼愛はバルコニーへ出た。
バルコニーへ出て、蒼愛はよ風に当たりながら目を瞑った。
ふと目を開け、ネックレスを顔の前へやった。
ネックレスは写真が入れられるタイプのもので、蒼愛はネックレスに入れ込んだ写真をじっと見つめていた。
「もう逃げないから。もう負けない。強くなったんだよ、お父さん、お母さん」
蒼愛は涙目になりながらそう言った。
「もう、終わりにする」
ネックレスを下げ、夜空に浮かぶ月を見た。
蒼愛はゆっくりと、柔らかい笑顔になった。
その笑顔は、まるであの写真によく似ていた。
「蒼愛ちゃん?どうしたの?」
玉森がタオルで髪の毛を拭きながらバルコニーに来た。
「夜風にあたりたかったの」
「そっか。あ、今学校にね、悩みを抱えてる子がいて、自傷行為がやめられない子なの。でもどうしたらいいのかわかんないの」
「……死んだら終わりだよ。死んでしまったらもう何も残らないの」
蒼愛は玉森の目を見た。美しく輝く青い瞳で。
夜風が少し強く吹いた瞬間、蒼愛は微笑んだ。
「……生きてればいいの。生きてるだけでいいの。あなたが死んだら私は悲しいよ」
「え?」
玉森は蒼愛の青い瞳を見ながら吸い込まれるような感じがした。
「戻ろ?風冷たくなってきたよ」
「うん……そうだね」
玉森は、蒼愛から何か異様なものを感じ取ることが出来ないまま、蒼愛の思いを聞くだけだった。
「今の、私が前に言ったような……あれ?」
玉森は心中ではそう感じていたが、蒼愛に聞くことはなく、次の日の朝を迎えた。
その日は、玉森の勤める学校は土曜日のため休みで、蒼愛は欠伸をしながら、玉森の部屋とは反対方向にある部屋から出できた。
「どう?寝れた?」
「うん。綺麗だし大丈夫」
その部屋は、昨日の夜に玉森に「こっちの部屋使っていいよ」と言われて、貸してもらった部屋だった。
「そう言えばさ、足平気なの?」
「え?あ、まぁうん。折れてなかったって事じゃない?」
「そっか。折れてそうに見えたけど……医者行く?」
「ううん。もう歩けるし平気」
玉森は朝食を運びながら話していた。
蒼愛はダイニングテーブルのところへ行き、椅子に座った。
向かい側に玉森も座った。
「食べよっか」
「うん」
2人は、今日のことについて話した。
「今日さ、お出かけしない?」
「うん」
「服買ってあげるね」
「やったぁ!」
2人は楽しげに笑いながら、朝食を食べ終えると、玉森は時計を見てから、洗面所の方へ行き、化粧をしに行った。
蒼愛はその姿を見てから、玉森のタンスから着れそうな服を見ていた。
「適当に服選んできてね~」
洗面所の方から玉森の声が聞こえた。
蒼愛は黙々と服を選んでいた。
何度も鏡と睨めっこして、ようやく決まった。
白のガウチョパンツオールインワンのノースリーブ。ベージュのリボンがついたストローハット。黒のショルダーバッグと、結構整った服装ではあった。
そして玄関に行くと、靴の入っている棚を見て、黒のリボンがついた高過ぎない高さのヒールサンダルを取り出した。
「よし!」
玉森も支度が終わり、ようやく出かけられる状態になった。
「行こっか」
玉森がそういうと、蒼愛はさっき出しておいたサンダルを履いた。
「似合うじゃん、可愛いね」
玄関を出ようとすると、ふと玉森がそういった。蒼愛は少し照れた様子で笑った。
まずふたりは服屋に行った。
そこでは蒼愛の好きな服を選ばせ、玉森がそれにアイテムをつけたりしていた。
2人はまるで親子のように、笑い合いちょっかいを出し合っていた。
買い物が終わり町中を歩いていると、蒼愛はスーツを着た男の人に「スカウト」をされていた。
明るい美少女で社交的、できすぎている。まるで人形のようだった。
帰りはスーパーへ寄り、昼食を買った。
家に帰ってくると、蒼愛は玉森の手伝いをしていた。
本当に親子のようだった。
誰がどう見ても本当に親子のようになっていた。
新しく買った服の中には、2着ほどそれ以外に買った服とはジャンルの違うものがあった。
買った服の多くは大人っぽい感じだった。しかしその2着は、赤い猫耳パーカーと黒い7分丈カーゴパンツ。大きくジャンルのそれた服だった。
昼食を食べ終えて、玉森は「ちょっと寝るね」そういって、玉森の部屋に行った。
蒼愛は見計らっていたとばかりに、静かに外へ出た。
それから、蒼愛はそのまま歩き出して、なにかをかいに行った。それは、少し不気味にも恐怖にもとれる、仮面だった。
蒼愛はそれを見て「これで大丈夫だ」と呟き、家に帰ってきた。
蒼愛は帰ってくるなり、部屋へ行き見えないような場所へ仮面と服を隠した。
「必ず果たす」
ネックレスを握りしめ、強くそう思った。
そして、蒼愛は自室を出ると、玉森が寝ている部屋へ行った。
蒼愛は玉森のそばに近寄り、玉森の手を握った。そして呟く。
「君を巻き込んだりしない。君だけは守るから。緋彩」
そう言うと、蒼愛の手元が青白く光り出した。そして、光がおさまると、蒼愛はその綺麗な青い瞳で玉森を見つめた。
すると、ドッと蒼愛の体に吐き気が襲ってきた。
蒼愛はトイレに駆け込み、便器に吐き出した。
吐き出したものは胃から逆流してきたものでもない、血だった。
蒼愛は血を大量に吐き出していた。
「おえぇぇっ!!」
蒼愛は吐き出し続けて息切れをしていた。
「罰……かよ……はぁ、はぁ」
蒼愛は便座に手を置いたまま、体中が震え上がっていた。
すると急に蒼愛は立ち上がって、洗面所の方へ走って行った。水を大量に出しながら、顔を洗う。顔をびしょびしょにしてから、蒼愛は鏡を見た。
鏡に映る蒼愛はとても、さっきまでの美少女とは思えなかった。
顔の左側がひび割れたようになって、ひびの部分から黒いものが見えていた。
それを見た途端、蒼愛の右目から涙、左目から涙ではない真っ赤に染まった血が流れ落ちた。
蒼愛はゆっくりと水を止め、濡れた手でひび割れている肌を触った。そのまま、蒼愛は泣き崩れた。
「……もう……ここには……いられない」
独り言をボソッと呟き、立ち上がると、もう1度鏡を見た。
そして、洗面所から出て、トイレを軽く掃除して自室のベッドに横になった。
蒼愛はそのまま目を瞑った。
気がつくと、日が暮れていて、キッチンの方からいい香りもしていた。
蒼愛は起き上がり、ベッドから立った。
なんとなく蒼愛は猫耳パーカーと黒いカーゴパンツに着替えた。
そのまま自室を出ると、玉森がいた。
「蒼愛ちゃんも寝てたんだね」
「うん。寝ちゃった」
玉森は鼻歌を歌いながら夕食を用意していた。
特に服装には何も言わなかった。
蒼愛はソファーに座り、テレビの電源を入れた。
テレビをつけると、またニュース番組で悪魔のことが報じられていた。
見出しには「有名な悪魔祓い、悪魔召喚士に直撃取材!!」とあった。
テレビモニターに誇らしげに映るにわか悪魔祓い士と悪魔召喚士を、蒼愛は睨みつけるように見つめていた。
「最近多いよね、そういうの」
「うん、嘘くさいよ」
玉森は一通り用意が済むと、蒼愛の隣に座った。
2人でそのニュースを見ていた。
すると玉森が急に咳き込んだ。
「大丈夫?」
「うん、ごめん……大丈夫、ご飯にしよ?」
蒼愛と玉森はソファーから立ち上がり、 蒼愛はダイニングテーブルの方へ行った。
蒼愛は椅子に座ってから右腕あたりを左で握っていた。
夕食を食べ終えて、リビングには蒼愛1人になっていた。
理由としては、食べ終えた直後玉森が「ごめん、気持ち悪いから横になってるね……なんかあったら言って」とだけ言い残し、自室に言って寝込んでしまった。
蒼愛はどうも気になり、玉森の部屋へ行く。
「どう?」
「まだ気持ち悪いかな……」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ……」
ふと、蒼愛は玉森の表情が記憶と重なった。
―「パパ……大丈夫……だから」
蒼愛の神経という神経を伝って、嫌な予感が体中に電気のように知らせた。
蒼愛は嫌な予感を感じ取り、急いで玉森の部屋を出て、外へ走り出した。
外へ出て、まず薬局を目指した。少し走り出すと、急に雨が降り出した。蒼愛は走りながら猫耳のついたフードを被る。
薬局が目の前に見えた時、そのすぐ隣くらいにある路地裏のところから、どこか聞き覚えのある声と、女性の悲鳴が聞こえた。
声のする方へ目をやると、そこには幼かったあの頃の記憶と全く被る、少し老けていたがあの顔つき、表情、声。全部があの金髪男性と同じだった。1つ違ったのは主犯格のようなものが20代くらいの黒髪で若い青年になっていた事。
蒼愛は立ち止まってその光景を見る。
「おいてめぇ!金はどこやった?あぁ!?」
「叫べば殺すぞ」
黒髪の青年は、腕と足を縛られて、アザだらけでボロボロな女性の髪の毛を乱暴に掴み、強く叫んだ。
その後ろでは腕を組んだ40代くらいの男がいた。きっとそれがあの時の金髪男性だ。
黒髪の青年は片手にナイフを握り、女性に突きつける。
「さっさと吐け!!」
女性は頑なに男性らが求める答えを告げなかった。
「てめぇいい加減にしろ!!」
ふと、女性が目をそらし、蒼愛と目があった。
女性は驚いたあと、助けを求めるような目をしていた。
「あ?」
黒髪の青年と腕組みの男性が蒼愛の方を見た。
2人の男性と蒼愛はバッチリ目があう。
「なんだてめぇ見てんじゃねぇぞ!!」
遠い位置で、男性が叫び出す。
「……お前……」
腕組みをしていた男性は、組んでいた腕を解き、目を細めて蒼愛の顔を見つめた。
「親父、知ってんの?」
「いや……似てるだけか?」
男性らが話をしている中、蒼愛はそんな2人を鼻で笑った。そして、俯いて近寄っていく。
「相変わらずですね~犯罪者さん」
「あ?てめぇ誰だ」
黒髪の青年はナイフを蒼愛へ向けた。
「忘れたわけじゃないでしょう?」
歩きながら、肩にかかった青い髪の毛が揺れてちらつく。
蒼愛の左顔が徐々にひび割れていく。
左目の色が青から赤へ変わる。
「てめぇ死にてぇようだな」
腕組み男性がいった。
蒼愛はますます笑うだけだった。
すると、今度は蒼愛の背から黒い翼が生え始める。
「なんだそれ、コスプレか?」
蒼愛は口角が上がったまま、俯いていた顔を上げる。
その顔は完全に狂気に満ちた顔だった。
「もう戻れない。もう帰っては来ない。だから奪うの。お前の命を」
そう言った。途端、黒い大きな翼が開いた。
黒い羽根が舞い散った。
赤く染まった瞳は、憎悪に満ちていた。
「ただいまー」
リビングに来て、蒼愛を探そうとした時、目の前で蒼愛はソファーに横になり眠っていた。
玉森は柔らかい微笑みを浮かべ、蒼愛にタオルケットをかけてあげた。
「懐かしいなぁ前に、友達にもこんなことしてあげたっけ……」
そう言うと、玉森は何やら引き出しの中から、高校生くらいの時の写真を取り出した。
「仲良かったのに……」
そこには、楽しげに笑う高校生くらいの玉森ともう1人女の子がいた。
すると、不意に後ろから間抜けな声がした。
「あれ?帰ってたの?」
「さっきね。ただいま」
「おかえりなさい、それは?」
「これ?高校生の時の、友達と撮った写真」
そういうと、自慢げに蒼愛に近づき写真を渡した。
「可愛いじゃん。………っ!!」
「そんなことないでしょ~」
蒼愛は写真を見るなり、何かに驚いたのか、手が震えていた。
「これ……」
「ん?どうしたん?」
「いやっ!なんでもない!」
玉森に話しかけられると、写真からとっさに目をそらした。
「そう言えば、蒼愛ちゃん今いくつなの?」
「え?」
「今年齢ってどのくらいなの?」
「多分、この写真と同じくらい」
「へぇ~、初めて見た時から、中学生だと思ってたから意外だなぁ」
「そう?」
蒼愛は写真に目をやろうとはしなかった。
「なんか、似てるね!」
玉森は写真と蒼愛の顔を見合わせて言った。
蒼愛はただ顔には出さずとも、怯えるだけだった。
「私、お風呂行ってくる」
「うん。上がったら教えてね」
ソファーから立ち上がり、少し早歩きめで着替えを取りに行き、浴場に逃げるように入った。
シャワーを浴びながら、蒼愛の様子は、驚きを隠せていなかった。
「こんなすぐバレるのか……」
蒼愛はふと、目の前の鏡を見た。そして、少し体を横向きにして、自分の右肩少ししたあたりを見た。
そこには、肌がひび割れたような、ひびの部分は皮膚を抉り、触るとゴツゴツしていそうな見た目だった。
「……醜い……」
蒼愛はそれを隠すように抑えてそう言った。
お風呂から上がると、玉森がソファーに座ってテレビを見ていた。
「あっ、蒼愛ちゃん。コレ見てよ、また悪魔説とかやってる」
玉森は呆れ顔で見ていた。蒼愛はそれがとても気になり、玉森の横に来てテレビを見た。
「いや~こんな変な死体、人間なんて有り得ませんよ」
「それでは他に?」
「えぇ。例えば……悪魔とか」
「悪魔!?あの悪魔説を利用すると?」
テレビには、嘘くさいコメンテーターと、驚きまくっているうるさい司会者がいた。
「そうなりますねぇ、だっておかしいでしょ?刺したでも撃ったでも殴ったでもない、腹をえぐり内蔵が出てる。こんなの、人間は有り得ません」
「では悪魔が存在するということですか?」
「えぇ、それも、人間に化けてね」
カメラに向けた確信を持ったかのような視線に、蒼愛は苛立ちと焦りの感情が芽生えた。
「バカバカしいって思わない?悪魔なんていないっての」
玉森は手に持ったリモコンでコメンテーターを指すような動きをした。
「蒼愛ちゃん?」
「今ってこんな説が存在するの?悪魔説って」
「うん。まぁ最近かな。今って科学の力とか機械とか色々凄いじゃん?まぁそういうので調べた結果が悪魔説とか出てきたんだと思うよ」
「へぇ~」
蒼愛は真剣にテレビを見ていた。
「あ、ご飯用意しなきゃね」
そう言うと、玉森はソファーから立ち上がり、キッチンの方へ行った。
蒼愛はキッチンに向かう背を見て、「ごめん」と呟いた。
夕食を食べ終え、玉森はお風呂行った。
玉森がお風呂に行っている間、蒼愛はバルコニーへ出た。
バルコニーへ出て、蒼愛はよ風に当たりながら目を瞑った。
ふと目を開け、ネックレスを顔の前へやった。
ネックレスは写真が入れられるタイプのもので、蒼愛はネックレスに入れ込んだ写真をじっと見つめていた。
「もう逃げないから。もう負けない。強くなったんだよ、お父さん、お母さん」
蒼愛は涙目になりながらそう言った。
「もう、終わりにする」
ネックレスを下げ、夜空に浮かぶ月を見た。
蒼愛はゆっくりと、柔らかい笑顔になった。
その笑顔は、まるであの写真によく似ていた。
「蒼愛ちゃん?どうしたの?」
玉森がタオルで髪の毛を拭きながらバルコニーに来た。
「夜風にあたりたかったの」
「そっか。あ、今学校にね、悩みを抱えてる子がいて、自傷行為がやめられない子なの。でもどうしたらいいのかわかんないの」
「……死んだら終わりだよ。死んでしまったらもう何も残らないの」
蒼愛は玉森の目を見た。美しく輝く青い瞳で。
夜風が少し強く吹いた瞬間、蒼愛は微笑んだ。
「……生きてればいいの。生きてるだけでいいの。あなたが死んだら私は悲しいよ」
「え?」
玉森は蒼愛の青い瞳を見ながら吸い込まれるような感じがした。
「戻ろ?風冷たくなってきたよ」
「うん……そうだね」
玉森は、蒼愛から何か異様なものを感じ取ることが出来ないまま、蒼愛の思いを聞くだけだった。
「今の、私が前に言ったような……あれ?」
玉森は心中ではそう感じていたが、蒼愛に聞くことはなく、次の日の朝を迎えた。
その日は、玉森の勤める学校は土曜日のため休みで、蒼愛は欠伸をしながら、玉森の部屋とは反対方向にある部屋から出できた。
「どう?寝れた?」
「うん。綺麗だし大丈夫」
その部屋は、昨日の夜に玉森に「こっちの部屋使っていいよ」と言われて、貸してもらった部屋だった。
「そう言えばさ、足平気なの?」
「え?あ、まぁうん。折れてなかったって事じゃない?」
「そっか。折れてそうに見えたけど……医者行く?」
「ううん。もう歩けるし平気」
玉森は朝食を運びながら話していた。
蒼愛はダイニングテーブルのところへ行き、椅子に座った。
向かい側に玉森も座った。
「食べよっか」
「うん」
2人は、今日のことについて話した。
「今日さ、お出かけしない?」
「うん」
「服買ってあげるね」
「やったぁ!」
2人は楽しげに笑いながら、朝食を食べ終えると、玉森は時計を見てから、洗面所の方へ行き、化粧をしに行った。
蒼愛はその姿を見てから、玉森のタンスから着れそうな服を見ていた。
「適当に服選んできてね~」
洗面所の方から玉森の声が聞こえた。
蒼愛は黙々と服を選んでいた。
何度も鏡と睨めっこして、ようやく決まった。
白のガウチョパンツオールインワンのノースリーブ。ベージュのリボンがついたストローハット。黒のショルダーバッグと、結構整った服装ではあった。
そして玄関に行くと、靴の入っている棚を見て、黒のリボンがついた高過ぎない高さのヒールサンダルを取り出した。
「よし!」
玉森も支度が終わり、ようやく出かけられる状態になった。
「行こっか」
玉森がそういうと、蒼愛はさっき出しておいたサンダルを履いた。
「似合うじゃん、可愛いね」
玄関を出ようとすると、ふと玉森がそういった。蒼愛は少し照れた様子で笑った。
まずふたりは服屋に行った。
そこでは蒼愛の好きな服を選ばせ、玉森がそれにアイテムをつけたりしていた。
2人はまるで親子のように、笑い合いちょっかいを出し合っていた。
買い物が終わり町中を歩いていると、蒼愛はスーツを着た男の人に「スカウト」をされていた。
明るい美少女で社交的、できすぎている。まるで人形のようだった。
帰りはスーパーへ寄り、昼食を買った。
家に帰ってくると、蒼愛は玉森の手伝いをしていた。
本当に親子のようだった。
誰がどう見ても本当に親子のようになっていた。
新しく買った服の中には、2着ほどそれ以外に買った服とはジャンルの違うものがあった。
買った服の多くは大人っぽい感じだった。しかしその2着は、赤い猫耳パーカーと黒い7分丈カーゴパンツ。大きくジャンルのそれた服だった。
昼食を食べ終えて、玉森は「ちょっと寝るね」そういって、玉森の部屋に行った。
蒼愛は見計らっていたとばかりに、静かに外へ出た。
それから、蒼愛はそのまま歩き出して、なにかをかいに行った。それは、少し不気味にも恐怖にもとれる、仮面だった。
蒼愛はそれを見て「これで大丈夫だ」と呟き、家に帰ってきた。
蒼愛は帰ってくるなり、部屋へ行き見えないような場所へ仮面と服を隠した。
「必ず果たす」
ネックレスを握りしめ、強くそう思った。
そして、蒼愛は自室を出ると、玉森が寝ている部屋へ行った。
蒼愛は玉森のそばに近寄り、玉森の手を握った。そして呟く。
「君を巻き込んだりしない。君だけは守るから。緋彩」
そう言うと、蒼愛の手元が青白く光り出した。そして、光がおさまると、蒼愛はその綺麗な青い瞳で玉森を見つめた。
すると、ドッと蒼愛の体に吐き気が襲ってきた。
蒼愛はトイレに駆け込み、便器に吐き出した。
吐き出したものは胃から逆流してきたものでもない、血だった。
蒼愛は血を大量に吐き出していた。
「おえぇぇっ!!」
蒼愛は吐き出し続けて息切れをしていた。
「罰……かよ……はぁ、はぁ」
蒼愛は便座に手を置いたまま、体中が震え上がっていた。
すると急に蒼愛は立ち上がって、洗面所の方へ走って行った。水を大量に出しながら、顔を洗う。顔をびしょびしょにしてから、蒼愛は鏡を見た。
鏡に映る蒼愛はとても、さっきまでの美少女とは思えなかった。
顔の左側がひび割れたようになって、ひびの部分から黒いものが見えていた。
それを見た途端、蒼愛の右目から涙、左目から涙ではない真っ赤に染まった血が流れ落ちた。
蒼愛はゆっくりと水を止め、濡れた手でひび割れている肌を触った。そのまま、蒼愛は泣き崩れた。
「……もう……ここには……いられない」
独り言をボソッと呟き、立ち上がると、もう1度鏡を見た。
そして、洗面所から出て、トイレを軽く掃除して自室のベッドに横になった。
蒼愛はそのまま目を瞑った。
気がつくと、日が暮れていて、キッチンの方からいい香りもしていた。
蒼愛は起き上がり、ベッドから立った。
なんとなく蒼愛は猫耳パーカーと黒いカーゴパンツに着替えた。
そのまま自室を出ると、玉森がいた。
「蒼愛ちゃんも寝てたんだね」
「うん。寝ちゃった」
玉森は鼻歌を歌いながら夕食を用意していた。
特に服装には何も言わなかった。
蒼愛はソファーに座り、テレビの電源を入れた。
テレビをつけると、またニュース番組で悪魔のことが報じられていた。
見出しには「有名な悪魔祓い、悪魔召喚士に直撃取材!!」とあった。
テレビモニターに誇らしげに映るにわか悪魔祓い士と悪魔召喚士を、蒼愛は睨みつけるように見つめていた。
「最近多いよね、そういうの」
「うん、嘘くさいよ」
玉森は一通り用意が済むと、蒼愛の隣に座った。
2人でそのニュースを見ていた。
すると玉森が急に咳き込んだ。
「大丈夫?」
「うん、ごめん……大丈夫、ご飯にしよ?」
蒼愛と玉森はソファーから立ち上がり、 蒼愛はダイニングテーブルの方へ行った。
蒼愛は椅子に座ってから右腕あたりを左で握っていた。
夕食を食べ終えて、リビングには蒼愛1人になっていた。
理由としては、食べ終えた直後玉森が「ごめん、気持ち悪いから横になってるね……なんかあったら言って」とだけ言い残し、自室に言って寝込んでしまった。
蒼愛はどうも気になり、玉森の部屋へ行く。
「どう?」
「まだ気持ち悪いかな……」
「大丈夫?」
「大丈夫だよ……」
ふと、蒼愛は玉森の表情が記憶と重なった。
―「パパ……大丈夫……だから」
蒼愛の神経という神経を伝って、嫌な予感が体中に電気のように知らせた。
蒼愛は嫌な予感を感じ取り、急いで玉森の部屋を出て、外へ走り出した。
外へ出て、まず薬局を目指した。少し走り出すと、急に雨が降り出した。蒼愛は走りながら猫耳のついたフードを被る。
薬局が目の前に見えた時、そのすぐ隣くらいにある路地裏のところから、どこか聞き覚えのある声と、女性の悲鳴が聞こえた。
声のする方へ目をやると、そこには幼かったあの頃の記憶と全く被る、少し老けていたがあの顔つき、表情、声。全部があの金髪男性と同じだった。1つ違ったのは主犯格のようなものが20代くらいの黒髪で若い青年になっていた事。
蒼愛は立ち止まってその光景を見る。
「おいてめぇ!金はどこやった?あぁ!?」
「叫べば殺すぞ」
黒髪の青年は、腕と足を縛られて、アザだらけでボロボロな女性の髪の毛を乱暴に掴み、強く叫んだ。
その後ろでは腕を組んだ40代くらいの男がいた。きっとそれがあの時の金髪男性だ。
黒髪の青年は片手にナイフを握り、女性に突きつける。
「さっさと吐け!!」
女性は頑なに男性らが求める答えを告げなかった。
「てめぇいい加減にしろ!!」
ふと、女性が目をそらし、蒼愛と目があった。
女性は驚いたあと、助けを求めるような目をしていた。
「あ?」
黒髪の青年と腕組みの男性が蒼愛の方を見た。
2人の男性と蒼愛はバッチリ目があう。
「なんだてめぇ見てんじゃねぇぞ!!」
遠い位置で、男性が叫び出す。
「……お前……」
腕組みをしていた男性は、組んでいた腕を解き、目を細めて蒼愛の顔を見つめた。
「親父、知ってんの?」
「いや……似てるだけか?」
男性らが話をしている中、蒼愛はそんな2人を鼻で笑った。そして、俯いて近寄っていく。
「相変わらずですね~犯罪者さん」
「あ?てめぇ誰だ」
黒髪の青年はナイフを蒼愛へ向けた。
「忘れたわけじゃないでしょう?」
歩きながら、肩にかかった青い髪の毛が揺れてちらつく。
蒼愛の左顔が徐々にひび割れていく。
左目の色が青から赤へ変わる。
「てめぇ死にてぇようだな」
腕組み男性がいった。
蒼愛はますます笑うだけだった。
すると、今度は蒼愛の背から黒い翼が生え始める。
「なんだそれ、コスプレか?」
蒼愛は口角が上がったまま、俯いていた顔を上げる。
その顔は完全に狂気に満ちた顔だった。
「もう戻れない。もう帰っては来ない。だから奪うの。お前の命を」
そう言った。途端、黒い大きな翼が開いた。
黒い羽根が舞い散った。
赤く染まった瞳は、憎悪に満ちていた。
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