I NEED YOU

リンネ

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エピソード3

姿

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 夕方になり、ようやく学校から玉森が帰ってきた。
 「ただいまー」
 リビングに来て、蒼愛を探そうとした時、目の前で蒼愛はソファーに横になり眠っていた。
 玉森は柔らかい微笑みを浮かべ、蒼愛にタオルケットをかけてあげた。
「懐かしいなぁ前に、友達にもこんなことしてあげたっけ……」
 そう言うと、玉森は何やら引き出しの中から、高校生くらいの時の写真を取り出した。
 「仲良かったのに……」 
 そこには、楽しげに笑う高校生くらいの玉森ともう1人女の子がいた。
 すると、不意に後ろから間抜けな声がした。
 「あれ?帰ってたの?」
 「さっきね。ただいま」
 「おかえりなさい、それは?」
 「これ?高校生の時の、友達と撮った写真」
 そういうと、自慢げに蒼愛に近づき写真を渡した。
 「可愛いじゃん。………っ!!」
 「そんなことないでしょ~」
 蒼愛は写真を見るなり、何かに驚いたのか、手が震えていた。
 「これ……」
 「ん?どうしたん?」
 「いやっ!なんでもない!」
 玉森に話しかけられると、写真からとっさに目をそらした。
 「そう言えば、蒼愛ちゃん今いくつなの?」
 「え?」
 「今年齢ってどのくらいなの?」
 「多分、この写真と同じくらい」
 「へぇ~、初めて見た時から、中学生だと思ってたから意外だなぁ」
 「そう?」
 蒼愛は写真に目をやろうとはしなかった。
 「なんか、似てるね!」
 玉森は写真と蒼愛の顔を見合わせて言った。
 蒼愛はただ顔には出さずとも、怯えるだけだった。
 「私、お風呂行ってくる」
 「うん。上がったら教えてね」
 ソファーから立ち上がり、少し早歩きめで着替えを取りに行き、浴場に逃げるように入った。
 
 シャワーを浴びながら、蒼愛の様子は、驚きを隠せていなかった。
 「こんなすぐバレるのか……」
 蒼愛はふと、目の前の鏡を見た。そして、少し体を横向きにして、自分の右肩少ししたあたりを見た。
 そこには、肌がひび割れたような、ひびの部分は皮膚を抉り、触るとゴツゴツしていそうな見た目だった。
 「……醜い……」
 蒼愛はそれを隠すように抑えてそう言った。
 
 お風呂から上がると、玉森がソファーに座ってテレビを見ていた。
 「あっ、蒼愛ちゃん。コレ見てよ、また悪魔説とかやってる」
 玉森は呆れ顔で見ていた。蒼愛はそれがとても気になり、玉森の横に来てテレビを見た。
 「いや~こんな変な死体、人間なんて有り得ませんよ」
 「それでは他に?」
 「えぇ。例えば……悪魔とか」
 「悪魔!?あの悪魔説を利用すると?」
 テレビには、嘘くさいコメンテーターと、驚きまくっているうるさい司会者がいた。
 「そうなりますねぇ、だっておかしいでしょ?刺したでも撃ったでも殴ったでもない、腹をえぐり内蔵が出てる。こんなの、人間は有り得ません」
 「では悪魔が存在するということですか?」
 「えぇ、それも、人間に化けてね」
 カメラに向けた確信を持ったかのような視線に、蒼愛は苛立ちと焦りの感情が芽生えた。
 「バカバカしいって思わない?悪魔なんていないっての」
 玉森は手に持ったリモコンでコメンテーターを指すような動きをした。
 「蒼愛ちゃん?」
 「今ってこんな説が存在するの?悪魔説って」
 「うん。まぁ最近かな。今って科学の力とか機械とか色々凄いじゃん?まぁそういうので調べた結果が悪魔説とか出てきたんだと思うよ」
 「へぇ~」
 蒼愛は真剣にテレビを見ていた。
 「あ、ご飯用意しなきゃね」
 そう言うと、玉森はソファーから立ち上がり、キッチンの方へ行った。
 蒼愛はキッチンに向かう背を見て、「ごめん」と呟いた。
  
 夕食を食べ終え、玉森はお風呂行った。
 玉森がお風呂に行っている間、蒼愛はバルコニーへ出た。
 バルコニーへ出て、蒼愛はよ風に当たりながら目を瞑った。
 ふと目を開け、ネックレスを顔の前へやった。
 ネックレスは写真が入れられるタイプのもので、蒼愛はネックレスに入れ込んだ写真をじっと見つめていた。
 「もう逃げないから。もう負けない。強くなったんだよ、お父さん、お母さん」
  蒼愛は涙目になりながらそう言った。
  「もう、終わりにする」
 ネックレスを下げ、夜空に浮かぶ月を見た。
 蒼愛はゆっくりと、柔らかい笑顔になった。
 その笑顔は、まるであの写真によく似ていた。
 「蒼愛ちゃん?どうしたの?」
 玉森がタオルで髪の毛を拭きながらバルコニーに来た。
 「夜風にあたりたかったの」
 「そっか。あ、今学校にね、悩みを抱えてる子がいて、自傷行為がやめられない子なの。でもどうしたらいいのかわかんないの」
 「……死んだら終わりだよ。死んでしまったらもう何も残らないの」
 蒼愛は玉森の目を見た。美しく輝く青い瞳で。
 夜風が少し強く吹いた瞬間、蒼愛は微笑んだ。
 「……生きてればいいの。生きてるだけでいいの。あなたが死んだら私は悲しいよ」
 「え?」
 玉森は蒼愛の青い瞳を見ながら吸い込まれるような感じがした。
 「戻ろ?風冷たくなってきたよ」
 「うん……そうだね」
 玉森は、蒼愛から何か異様なものを感じ取ることが出来ないまま、蒼愛の思いを聞くだけだった。
 「今の、私が前に言ったような……あれ?」
 玉森は心中ではそう感じていたが、蒼愛に聞くことはなく、次の日の朝を迎えた。
 その日は、玉森の勤める学校は土曜日のため休みで、蒼愛は欠伸をしながら、玉森の部屋とは反対方向にある部屋から出できた。
 「どう?寝れた?」
 「うん。綺麗だし大丈夫」
 その部屋は、昨日の夜に玉森に「こっちの部屋使っていいよ」と言われて、貸してもらった部屋だった。
 「そう言えばさ、足平気なの?」
 「え?あ、まぁうん。折れてなかったって事じゃない?」
 「そっか。折れてそうに見えたけど……医者行く?」
 「ううん。もう歩けるし平気」
 玉森は朝食を運びながら話していた。
 蒼愛はダイニングテーブルのところへ行き、椅子に座った。
 向かい側に玉森も座った。
 「食べよっか」
 「うん」
 2人は、今日のことについて話した。
 「今日さ、お出かけしない?」
 「うん」
 「服買ってあげるね」
 「やったぁ!」
 2人は楽しげに笑いながら、朝食を食べ終えると、玉森は時計を見てから、洗面所の方へ行き、化粧をしに行った。
 蒼愛はその姿を見てから、玉森のタンスから着れそうな服を見ていた。
 「適当に服選んできてね~」
 洗面所の方から玉森の声が聞こえた。
 蒼愛は黙々と服を選んでいた。
 何度も鏡と睨めっこして、ようやく決まった。
 白のガウチョパンツオールインワンのノースリーブ。ベージュのリボンがついたストローハット。黒のショルダーバッグと、結構整った服装ではあった。
 そして玄関に行くと、靴の入っている棚を見て、黒のリボンがついた高過ぎない高さのヒールサンダルを取り出した。
 「よし!」
 玉森も支度が終わり、ようやく出かけられる状態になった。
 「行こっか」
 玉森がそういうと、蒼愛はさっき出しておいたサンダルを履いた。
 「似合うじゃん、可愛いね」
 玄関を出ようとすると、ふと玉森がそういった。蒼愛は少し照れた様子で笑った。
 
 まずふたりは服屋に行った。
 そこでは蒼愛の好きな服を選ばせ、玉森がそれにアイテムをつけたりしていた。
 2人はまるで親子のように、笑い合いちょっかいを出し合っていた。
 買い物が終わり町中を歩いていると、蒼愛はスーツを着た男の人に「スカウト」をされていた。
 明るい美少女で社交的、できすぎている。まるで人形のようだった。
 
 帰りはスーパーへ寄り、昼食を買った。
 家に帰ってくると、蒼愛は玉森の手伝いをしていた。
 本当に親子のようだった。
 誰がどう見ても本当に親子のようになっていた。
 新しく買った服の中には、2着ほどそれ以外に買った服とはジャンルの違うものがあった。
 買った服の多くは大人っぽい感じだった。しかしその2着は、赤い猫耳パーカーと黒い7分丈カーゴパンツ。大きくジャンルのそれた服だった。
 昼食を食べ終えて、玉森は「ちょっと寝るね」そういって、玉森の部屋に行った。
 蒼愛は見計らっていたとばかりに、静かに外へ出た。
 それから、蒼愛はそのまま歩き出して、なにかをかいに行った。それは、少し不気味にも恐怖にもとれる、仮面だった。
 蒼愛はそれを見て「これで大丈夫だ」と呟き、家に帰ってきた。
 蒼愛は帰ってくるなり、部屋へ行き見えないような場所へ仮面と服を隠した。
 「必ず果たす」
 ネックレスを握りしめ、強くそう思った。
 そして、蒼愛は自室を出ると、玉森が寝ている部屋へ行った。
 蒼愛は玉森のそばに近寄り、玉森の手を握った。そして呟く。
 「君を巻き込んだりしない。君だけは守るから。緋彩」
 そう言うと、蒼愛の手元が青白く光り出した。そして、光がおさまると、蒼愛はその綺麗な青い瞳で玉森を見つめた。
 すると、ドッと蒼愛の体に吐き気が襲ってきた。
 蒼愛はトイレに駆け込み、便器に吐き出した。
 吐き出したものは胃から逆流してきたものでもない、血だった。
 蒼愛は血を大量に吐き出していた。
 「おえぇぇっ!!」
 蒼愛は吐き出し続けて息切れをしていた。
 「罰……かよ……はぁ、はぁ」
 蒼愛は便座に手を置いたまま、体中が震え上がっていた。
 すると急に蒼愛は立ち上がって、洗面所の方へ走って行った。水を大量に出しながら、顔を洗う。顔をびしょびしょにしてから、蒼愛は鏡を見た。
 鏡に映る蒼愛はとても、さっきまでの美少女とは思えなかった。
 顔の左側がひび割れたようになって、ひびの部分から黒いものが見えていた。
 それを見た途端、蒼愛の右目から涙、左目から涙ではない真っ赤に染まった血が流れ落ちた。
 蒼愛はゆっくりと水を止め、濡れた手でひび割れている肌を触った。そのまま、蒼愛は泣き崩れた。
 「……もう……ここには……いられない」
 独り言をボソッと呟き、立ち上がると、もう1度鏡を見た。
 そして、洗面所から出て、トイレを軽く掃除して自室のベッドに横になった。
 蒼愛はそのまま目を瞑った。
 気がつくと、日が暮れていて、キッチンの方からいい香りもしていた。
 蒼愛は起き上がり、ベッドから立った。
 なんとなく蒼愛は猫耳パーカーと黒いカーゴパンツに着替えた。
 そのまま自室を出ると、玉森がいた。
 「蒼愛ちゃんも寝てたんだね」
 「うん。寝ちゃった」
 玉森は鼻歌を歌いながら夕食を用意していた。
 特に服装には何も言わなかった。
 蒼愛はソファーに座り、テレビの電源を入れた。
 テレビをつけると、またニュース番組で悪魔のことが報じられていた。
 見出しには「有名な悪魔祓い、悪魔召喚士に直撃取材!!」とあった。
 テレビモニターに誇らしげに映るにわか悪魔祓い士と悪魔召喚士を、蒼愛は睨みつけるように見つめていた。
 「最近多いよね、そういうの」
 「うん、嘘くさいよ」
 玉森は一通り用意が済むと、蒼愛の隣に座った。
 2人でそのニュースを見ていた。
 すると玉森が急に咳き込んだ。
 「大丈夫?」
 「うん、ごめん……大丈夫、ご飯にしよ?」
 蒼愛と玉森はソファーから立ち上がり、 蒼愛はダイニングテーブルの方へ行った。
 蒼愛は椅子に座ってから右腕あたりを左で握っていた。
 夕食を食べ終えて、リビングには蒼愛1人になっていた。
 理由としては、食べ終えた直後玉森が「ごめん、気持ち悪いから横になってるね……なんかあったら言って」とだけ言い残し、自室に言って寝込んでしまった。
 蒼愛はどうも気になり、玉森の部屋へ行く。
 「どう?」
 「まだ気持ち悪いかな……」
 「大丈夫?」
 「大丈夫だよ……」
 ふと、蒼愛は玉森の表情が記憶と重なった。
 ―「パパ……大丈夫……だから」
 蒼愛の神経という神経を伝って、嫌な予感が体中に電気のように知らせた。
 蒼愛は嫌な予感を感じ取り、急いで玉森の部屋を出て、外へ走り出した。
 外へ出て、まず薬局を目指した。少し走り出すと、急に雨が降り出した。蒼愛は走りながら猫耳のついたフードを被る。
 薬局が目の前に見えた時、そのすぐ隣くらいにある路地裏のところから、どこか聞き覚えのある声と、女性の悲鳴が聞こえた。
 声のする方へ目をやると、そこには幼かったあの頃の記憶と全く被る、少し老けていたがあの顔つき、表情、声。全部があの金髪男性と同じだった。1つ違ったのは主犯格のようなものが20代くらいの黒髪で若い青年になっていた事。
 蒼愛は立ち止まってその光景を見る。
 「おいてめぇ!金はどこやった?あぁ!?」
 「叫べば殺すぞ」
 黒髪の青年は、腕と足を縛られて、アザだらけでボロボロな女性の髪の毛を乱暴に掴み、強く叫んだ。
 その後ろでは腕を組んだ40代くらいの男がいた。きっとそれがあの時の金髪男性だ。
 黒髪の青年は片手にナイフを握り、女性に突きつける。
 「さっさと吐け!!」
 女性は頑なに男性らが求める答えを告げなかった。
 「てめぇいい加減にしろ!!」
 ふと、女性が目をそらし、蒼愛と目があった。
 女性は驚いたあと、助けを求めるような目をしていた。
 「あ?」
 黒髪の青年と腕組みの男性が蒼愛の方を見た。
 2人の男性と蒼愛はバッチリ目があう。
 「なんだてめぇ見てんじゃねぇぞ!!」
 遠い位置で、男性が叫び出す。
 「……お前……」
 腕組みをしていた男性は、組んでいた腕を解き、目を細めて蒼愛の顔を見つめた。
 「親父、知ってんの?」
 「いや……似てるだけか?」
 男性らが話をしている中、蒼愛はそんな2人を鼻で笑った。そして、俯いて近寄っていく。
 「相変わらずですね~犯罪者さん」
 「あ?てめぇ誰だ」
 黒髪の青年はナイフを蒼愛へ向けた。
 「忘れたわけじゃないでしょう?」
 歩きながら、肩にかかった青い髪の毛が揺れてちらつく。
 蒼愛の左顔が徐々にひび割れていく。
 左目の色が青から赤へ変わる。
 「てめぇ死にてぇようだな」
 腕組み男性がいった。
 蒼愛はますます笑うだけだった。
 すると、今度は蒼愛の背から黒い翼が生え始める。
 「なんだそれ、コスプレか?」
 蒼愛は口角が上がったまま、俯いていた顔を上げる。
 その顔は完全に狂気に満ちた顔だった。
 「もう戻れない。もう帰っては来ない。だから奪うの。お前の命を」
 そう言った。途端、黒い大きな翼が開いた。
 黒い羽根が舞い散った。
 赤く染まった瞳は、憎悪に満ちていた。
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