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姫の実力?! その4
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不穏な気配は一切姿を見せることはない。気配を感じるなんてことが出来ないミッツとしては、気のせいだろうと一蹴したい気持ちもある。
それでも、気配は変わらず一定の距離を保っていると言われれば、意識して周囲を探るくらいはしないと気が気ではない。
すると、確かに感じるものがある。
ぞわりとした悪寒。
「(これは、殺気というものなんだろうか……)」
意識してしまえば、それはそうとしか言えない。
ふつふつと額に脂汗が浮かび、周囲の温度が下がる。
「先輩、大丈夫ですか?」
声をかけられたミッツは、自分で認識していた以上の異変を引き起こしていたことに気づく。
「大丈夫です。大きく息を吸ってください。……もっとです。これ以上吸えなくなるくらい沢山」
声が出せず、こくこくと首肯して了解を示す。
緊張のためか、恐怖のためか、ミッツは呼吸を忘れたように止めていた。
マリルに介助してもらうことによってようやく出来たが、内臓全てが締め付けられる感覚に囚われて、ともすればまた呼吸は止まってしまいそうになる。
「誰かに助けを求める訳にはいかないか?」
警察機関に相当する門の衛兵をはじめとした騎士団。主に街の見回りをしている住民と冒険者で組織された自警団。内容にもよるが冒険者同士のトラブルを解決してくれる冒険者組合。
とにかくなんでも良かった。
どこでも良いから、助けてくれないかと縋る。
だが無情にも、マリルは首を横に振った。
「勘でしかありませんが、これだけの殺気……到底逃してくれるとは思えません。迂闊なことをすれば途端に襲われるということも覚悟しなければ……」
無性に頼りになるマリルが逆に恨めしい。
何故ならば、マリルの言うことが間違っていないとミッツに思わせるから。
――逃げ場なし。
そんな事実を知ったからといって、ミッツにはどうしようもない。
ただ不安が増すだけ。
戻ることも、逸れることも出来ず、真っ直ぐ中央通りを南下する。
人混みに紛れても、ミッツを絡め取るような気配は付きまとう。
重い足取りだが、確実に前に進む。
そして、前に進んでいるのだから、そこに到着するのは自然の流れ。
南門。
それを見た時、ミッツは救われたような気がした。
なにせ、門には衛兵が詰めている。
「一言も口を聞かず通り抜けることを勧めるでヤンス」
ぞわり。
その声を聞こえた時、つま先から頭の天辺まで虫が這うような不快さが走った。
ミッツとマリルの後ろに、いつの間にやら何時ぞやの3人組の一人――ミッツの記憶では、卑屈そうに見える猫背の小柄、大きな鼻が特徴の探索者。そいつがいると知らしめるように、声がかけられた。
「おっと、隣も見ない方が良いでヤンス。前だけを向いて歩く。簡単なことでヤンスよ」
どう聞いても小物臭がする喋り方だが、逆に怖さを掻き立てる。
落ち着いていて聞き取りやすいリズムに気負いはなく、口にはしていないしそんな気配も感じさせないが、脅しを含んでいることが伝わる。
それは小物臭さとは対極のもの。
ミッツとマリルは言いなりになるしか無かった。
門を出て、少し行ったところで襲われる。
「(ここでゲームオーバーか)」
現実逃避も含まれているが、そんな覚悟もしていた。
「そのまま真っ直ぐダンジョンへと向かうでヤンス」
だが、そんな覚悟を朝笑うかのような探索者――メルキーノの言葉。
『いったい何故?』口には出せないが、ミッツだけでなくマリルも疑問に思う。
八つ当たりで簡単に殺すのではなく、長く痛めつけるためにダンジョンに連れて行こうとしているなんて2人の発想の埒外。
「あの、どこでも良いのですか?」
「そうでヤンスね。逝きたい場所があるなら、聞いてやるでヤンス」
駄目元で聞いたミッツの問いに、思わぬ返しがあった。
喋るだけで何かされるかもしれない恐怖を拭って問いかけた甲斐があったというもの。
これ幸いと、目的地を告げる。
「それでは、【黒髪姫の薔薇のお城】でお願いします」
「どこかで聞いたことあるダンジョンでヤンスな……」
「先日、私たちがペンダントを見つけて欲しいと依頼したクエストのダンジョンなのですが……」「あー、あそこでヤンスか。分かったでヤンス。だったらそこにしてやるでヤンス」
想像通りであったのだが、これでほぼ自分の後ろにいるのがあの3人……いや、捕まったのを足せば4人組の内の探索者で間違い無いと、ミッツは確信する。
「(そうなると、マリルが囲んでいると言ったのは残りのメンバーか。てことは、金目的の脅しが目的ということか)」
前に脅しに来た神官服の男は失敗して捕まった。だから、クエストの成功報酬すら手に入れられなかった。その損失を埋めたいと思っているとあたりを付ける。
だが、それは間違い。先述した通り、こいつらの目的は八つ当たり。
そんな勘違いは、ミッツに僅かな落ち着きを取り戻させた。
それは態度に現れる。マリルだけでなく、後ろのメルキーノにもすぐに分かるほど。
マリルは、先輩が何か考えているのであれば任せようと思い。
メルキーノは、何を考えているかは分からないが何を考えていたとしても、抵抗してくれるのならそれに越したことはないと思う。
肝心のミッツはというと、思いっきり取らぬ狸の皮算用をしていた。
「(強い冒険者が3人。LVは確認していないが、間違いなく高い。ということは、どうにかして返り討ちに出来れば、もしかすると大量のダンジョンエナジーの獲得ということも!)」
集客活動は思うようにいかず結果を出せなかっただけに、この不幸な出来事がとても幸運に思えてしまう。
だがその浮かれた考えも、そう長くは保たない。
逃げないように転送先をメルキーノに確認され、【黒髪姫の薔薇のお城】前に転送した。
もう死地は目の前。
ミッツ、マリルに僅かに遅れてメルキーノ。更に少し後から5人の男たちが転送されて来た。
減ったメンバーはしっかりと補充されているらしい。
ミッツの思惑と6人の輩の思惑が交差したまま、8人は【黒髪姫の薔薇のお城】に足を踏み入れる。
それでも、気配は変わらず一定の距離を保っていると言われれば、意識して周囲を探るくらいはしないと気が気ではない。
すると、確かに感じるものがある。
ぞわりとした悪寒。
「(これは、殺気というものなんだろうか……)」
意識してしまえば、それはそうとしか言えない。
ふつふつと額に脂汗が浮かび、周囲の温度が下がる。
「先輩、大丈夫ですか?」
声をかけられたミッツは、自分で認識していた以上の異変を引き起こしていたことに気づく。
「大丈夫です。大きく息を吸ってください。……もっとです。これ以上吸えなくなるくらい沢山」
声が出せず、こくこくと首肯して了解を示す。
緊張のためか、恐怖のためか、ミッツは呼吸を忘れたように止めていた。
マリルに介助してもらうことによってようやく出来たが、内臓全てが締め付けられる感覚に囚われて、ともすればまた呼吸は止まってしまいそうになる。
「誰かに助けを求める訳にはいかないか?」
警察機関に相当する門の衛兵をはじめとした騎士団。主に街の見回りをしている住民と冒険者で組織された自警団。内容にもよるが冒険者同士のトラブルを解決してくれる冒険者組合。
とにかくなんでも良かった。
どこでも良いから、助けてくれないかと縋る。
だが無情にも、マリルは首を横に振った。
「勘でしかありませんが、これだけの殺気……到底逃してくれるとは思えません。迂闊なことをすれば途端に襲われるということも覚悟しなければ……」
無性に頼りになるマリルが逆に恨めしい。
何故ならば、マリルの言うことが間違っていないとミッツに思わせるから。
――逃げ場なし。
そんな事実を知ったからといって、ミッツにはどうしようもない。
ただ不安が増すだけ。
戻ることも、逸れることも出来ず、真っ直ぐ中央通りを南下する。
人混みに紛れても、ミッツを絡め取るような気配は付きまとう。
重い足取りだが、確実に前に進む。
そして、前に進んでいるのだから、そこに到着するのは自然の流れ。
南門。
それを見た時、ミッツは救われたような気がした。
なにせ、門には衛兵が詰めている。
「一言も口を聞かず通り抜けることを勧めるでヤンス」
ぞわり。
その声を聞こえた時、つま先から頭の天辺まで虫が這うような不快さが走った。
ミッツとマリルの後ろに、いつの間にやら何時ぞやの3人組の一人――ミッツの記憶では、卑屈そうに見える猫背の小柄、大きな鼻が特徴の探索者。そいつがいると知らしめるように、声がかけられた。
「おっと、隣も見ない方が良いでヤンス。前だけを向いて歩く。簡単なことでヤンスよ」
どう聞いても小物臭がする喋り方だが、逆に怖さを掻き立てる。
落ち着いていて聞き取りやすいリズムに気負いはなく、口にはしていないしそんな気配も感じさせないが、脅しを含んでいることが伝わる。
それは小物臭さとは対極のもの。
ミッツとマリルは言いなりになるしか無かった。
門を出て、少し行ったところで襲われる。
「(ここでゲームオーバーか)」
現実逃避も含まれているが、そんな覚悟もしていた。
「そのまま真っ直ぐダンジョンへと向かうでヤンス」
だが、そんな覚悟を朝笑うかのような探索者――メルキーノの言葉。
『いったい何故?』口には出せないが、ミッツだけでなくマリルも疑問に思う。
八つ当たりで簡単に殺すのではなく、長く痛めつけるためにダンジョンに連れて行こうとしているなんて2人の発想の埒外。
「あの、どこでも良いのですか?」
「そうでヤンスね。逝きたい場所があるなら、聞いてやるでヤンス」
駄目元で聞いたミッツの問いに、思わぬ返しがあった。
喋るだけで何かされるかもしれない恐怖を拭って問いかけた甲斐があったというもの。
これ幸いと、目的地を告げる。
「それでは、【黒髪姫の薔薇のお城】でお願いします」
「どこかで聞いたことあるダンジョンでヤンスな……」
「先日、私たちがペンダントを見つけて欲しいと依頼したクエストのダンジョンなのですが……」「あー、あそこでヤンスか。分かったでヤンス。だったらそこにしてやるでヤンス」
想像通りであったのだが、これでほぼ自分の後ろにいるのがあの3人……いや、捕まったのを足せば4人組の内の探索者で間違い無いと、ミッツは確信する。
「(そうなると、マリルが囲んでいると言ったのは残りのメンバーか。てことは、金目的の脅しが目的ということか)」
前に脅しに来た神官服の男は失敗して捕まった。だから、クエストの成功報酬すら手に入れられなかった。その損失を埋めたいと思っているとあたりを付ける。
だが、それは間違い。先述した通り、こいつらの目的は八つ当たり。
そんな勘違いは、ミッツに僅かな落ち着きを取り戻させた。
それは態度に現れる。マリルだけでなく、後ろのメルキーノにもすぐに分かるほど。
マリルは、先輩が何か考えているのであれば任せようと思い。
メルキーノは、何を考えているかは分からないが何を考えていたとしても、抵抗してくれるのならそれに越したことはないと思う。
肝心のミッツはというと、思いっきり取らぬ狸の皮算用をしていた。
「(強い冒険者が3人。LVは確認していないが、間違いなく高い。ということは、どうにかして返り討ちに出来れば、もしかすると大量のダンジョンエナジーの獲得ということも!)」
集客活動は思うようにいかず結果を出せなかっただけに、この不幸な出来事がとても幸運に思えてしまう。
だがその浮かれた考えも、そう長くは保たない。
逃げないように転送先をメルキーノに確認され、【黒髪姫の薔薇のお城】前に転送した。
もう死地は目の前。
ミッツ、マリルに僅かに遅れてメルキーノ。更に少し後から5人の男たちが転送されて来た。
減ったメンバーはしっかりと補充されているらしい。
ミッツの思惑と6人の輩の思惑が交差したまま、8人は【黒髪姫の薔薇のお城】に足を踏み入れる。
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