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 金魚鉢バースプラントを出てまだ三年と考えるなら、フィオのアパートはなかなか悪くない住まいである。

 中央政庁ガバメントまでは三輪バイクトライクで10分以上掛かるし、プレハブ構造のちゃちな建物はエアコンがあっても暑さ寒さに極端に弱い。
 備え付けの水タンクの容量も少な目で、水業者への注文を細目に行う必要がある。
 それでも、一通りの機能がそろったワンルームは、駆け出し砂潜りにとって相応な根城であった。

 キキョウさえ居なければ。

「またこんなに散らかして……」

 ワンルームの床に脱ぎ散らかされた衣類を拾い集めるキキョウの姿は、フィオの目から見ても似つかわしくない。
 こんなしみったれた部屋には過ぎた存在なのだ、Aクラスメイデンというものは。

 それゆえに、興奮する。

「……」

 掃き溜めに舞い降りたフィオの、フィオだけの守護天使。 それを今から思うが様に蹂躙する。
 前かがみになって衣類を集める、キキョウの尻にフィオの鼻息を荒くなった。
 レオタード状のボディスーツは肉感的な尻の丸みも、その割れ目すらも隠しはしない。

 もう、限界だ。

「キ、キキョウさん!」

「あっ」

 心の野獣の急かすままに猛然と襲いかかる。
 キキョウのセンサーの精度とAクラス戦闘メイデンの反応速度なら余裕で回避可能なフィオの襲撃はあっさりと成功し、むっちりとした尻肉に両手の指が食い込んだ。

 メイデンは主を拒絶したりなどしない。
 鷲掴みにした尻に顔を押しつけられ、荒々しい鼻息をボディスーツ越しに尻穴に感じても、キキョウは凛々しい眉を下げるだけで受け入れる。 

「キキョウさん! キキョウさん!」

 名を呼びながら、量感あふれる尻の感触を顔全体で味わい、伸びやかな太股を撫でさすり、必死になって尻穴の匂いを嗅ぐ。
 メイデンに排泄機能はなく、その尻穴はモデルである女を模したものに過ぎない。

 出すものはないが、受け入れる事はできる。 メイデンの尻穴は、快楽のために存在する穴と化していた。 
 排泄をしないキキョウの尻に悪臭などはない。
 そこを嗅ぐのはむしろキキョウの羞恥心を煽るためである。

 興奮に猛り立ったフィオの中の獣が、彼の守護天使を、兄貴分より受け継いだパートナーを、存分に恥ずかしがらせ貶めたいと駆り立てているのだ。

 しかし。

「マスター、そんなに焦らずとも私は逃げたりしませんよ」

 フィオの心中を知ってか知らずか、キキョウはあやすようにささやくと、自ら両手で尻肉を広げてみせた。

「さあ、どうぞ。お好きなように」

 左右に割り裂かれた尻肉の間の蕾は、ボディスーツの布地でかろうじて隠されているのみ。

「こ、この!」

 恥ずかしがる所か、自ら痴態を見せつけてくるキキョウに、フィオは荒々しい唸りをあげながらボディスーツをめくる。
 清楚に窄まった尻穴が露わになるや、フィオはがむしゃらに人差し指を突き立てた。

「んぅっ♡ 今日は、そちらでなさいますか?」

 根本まで指をねじ込まれながら、キキョウは恥ずかしがる素振りなど見せない。 そこにあるのは主への包み込むような献身だ。
 キキョウの献身に偽りはない。

 だがそれは、弟を護り支える、姉のような献身。 フィオにはそう受け取れてならなかった。
 元は兄貴分の伴侶であり、未熟な自分の面倒を見てくれていたキキョウだ。
 
 その頃から扱いがさして変わってないのではないかと勘ぐってしまうのだ。
 ひとりの男として彼女と対等にありたい。 フィオは強く思った。

「い、いや、するのはこっちだよ」

 ズボンを脱ぎ捨て、痛いほどに張りつめた肉棒を露わにした秘唇に当てる。
 己が男である証明をキキョウの中に刻むべく、大きな尻を抱えて背後から突き込んだ。

「はぅっ♡」

 キキョウの口から甘い声があがり、フィオの腰に言いしれぬ快感が走る。
 温かな膣壁の感触というよりも、フィオを受け入れたキキョウの声自体に反応したかの如く、フィオは精を放っていた。

「あ、し、しま……」

 まさか突っ込んだだけで出してしまうとは、自分でも思っていない。
 思わず狼狽した声をあげるフィオを、キキョウは肩越しに振り返る。
 そこには彼の行動全てを許すような、慈母の微笑みがあった。

「マスター、どうぞなさりたいように」

 違う、そうではない。
 このままでは自分はキキョウの「許し」の中だ。

「くぅっ、キキョウさん!」

 細腰を両手で捕まえ、腰を叩きつける。

「んぅっ♡」

「したいように! するよっ、キキョウさん!」

「はいっ、どうぞ、マスター!」

 激しく突かれ、豊かな胸を揺らしながら応えるキキョウ。

 尻を抱えて背後から貫く後背位は、フィオの好きな体位だ。
 この姿勢であれば常に自分を護り包むキキョウを、組み伏せ、自分の物にしているという実感が湧くのだ。

 たとえ錯覚であったとしても。



 フィオの陰茎を受け入れたキキョウの秘所はすっかり蕩けている。
 熱く潤んだ秘肉でもてなすのは、主へ従順に奉仕するメイデンの機能の一環であり、フィオが手慣れているからではない。

 そもそも、金魚鉢バースプラントから出て3年のフィオは大昔の分類で言うならば、せいぜいローティーンといった所だ。
 技巧や手管を身につけるにはまだまだ経験不足。

 キキョウはハイティーンの年齢設定で製造されており、フィオが如何に気負おうとも、傍目には無理な背伸びにしか見えないのは当然であった。

「くっ、うぅっ」

 フィオは肉棒に密着し、甘く締めあげてくるキキョウの膣肉の感触に悲鳴のような呻きを漏らす。
 一度放ってぬかるみを増しているとは思えないほどの吸いつきは、陰茎の形を膣壁で覚え込もうとしているかのようだ。
 完全にフィオ専用にカスタマイズされていると言わんばかりに、気持ちのよいところを的確に刺激してくる。

 すでに一度射精している以上、二度も三度も同じこと。 ついでに今夜は二度や三度で終わるつもりなどない。
 だが、不本意な状態で初弾を放ってしまったのだ、せめて二発目は満足いく形で決めたい。

 フィオは唇を噛みしめながら、少しでも快感から意識を反らそうとキキョウを見下ろした。

 戦闘服のまま四つん這いになり、高く尻を上げたキキョウ。
 腰の細さと、そこから続くボリューミィな尻の落差を強調する姿勢だ。

 そして尻を覆うボディスーツの股間部のみをさらけだし、そのわずかな隙間からフィオの肉棒を突き込まれている。
 戦うための装束である戦闘服のままの行為はフィオの胸に倒錯的な思いをもたらす。
 まるで戦場で破れ、敵に蹂躙されているかのようだ。

「うっ、うぉぉっ!」

 焦燥と興奮がないまぜになった奇妙な激情に突き動かされるまま、フィオは深々と腰を叩き込んだ。

「はぅっ♡」

 衝撃にわずかに仰け反るキキョウ。 その子宮ウテルスユニットに怒濤の勢いで精液が送り込まれる。

「くっ、うぅぅっ!」

 キキョウの尻に限界まで密着し、奥深くまで突き込んでの二度目の射精。
 若さ溢れる少年の精巣は二発目とは思えない量の精液を作りだし、パートナーの胎内へと注ぎ込んでいく。

「んぅ……♡ 子宮ウテルスユニットへの精液注入を確認、マスターパーティションポイントの更新を行いますか?」

 キキョウの口から平坦なシステム確認音声が流れる。

「いいや……現状のままで」

「了解しました、マスター・フィオのマスターパーティションポイントを95%のままと設定いたします。 ……ありがとうございます」

 形式ばった堅い声音の後、キキョウは朱に染まった顔を主に向けて微笑んだ。

 本来、マスターパーティションポイントの更新は自動で行われ、更新の確認を求めることはない。
 これはフィオの指示によるものだ。
 自動更新により、キキョウの中にあるゼンクの痕跡を上書きしてしまわないために。

 キキョウに対して憧れと愛情を抱くものの、フィオは未熟な自分はまだまだ彼女に釣りあわないと自覚している。
 いつの日か、一流の砂潜りに成長したと誇れた時、その時が来るまで、あえて彼女の中に兄貴分の痕跡を残すのだ。
 分不相応なパートナーを得てしまった事に対する、フィオなりの戒めであった。

 しかし、自分で決めた事ではあるが、キキョウが前マスターへの思いの片鱗を見せる事に、モヤモヤするものを感じてもいる。

(我ながら、身勝手だな……)

 フィオは小さく首を振ると、再び腰を動かし始める。
 まだたったの二発しか放っていない。
 フィオの主砲はキキョウの中で仰角を高く保ったまま。 すでに次発装填済みだ。

 だが、キキョウは主を制止した。

「マスター、続きはお布団でいたしましょう」

「えー」

「このままですと、服が汚れてしまいますし」

 四つん這いのまま、首をひねってこちらを見上げながら諭すキキョウ。

「うーん……」

 ゆっくりと腰を使いながら、唸りをあげるフィオ。
 二度も放ったからか、温かいキキョウの膣穴は締め付けよりも柔らかさが勝り、ぬるま湯に浸かるような抜けがたい心地よさがある。 

「マスター」

 渋るフィオに、キキョウは少し眉を上げた。
 その顔には弱い。 昔、ゼンクのパートナーだった頃に色々と「指導」された記憶がよぎるのだ。
 フィオの初期トレーニングを担当した際の彼女は、一言であらわすならば鬼教官であった。

「わ、わかったよ……」

 こくこくと頷くフィオの股間で、逸物がちょっとしおれていた。



「では、改めまして、よろしくお願い致します」

 服を脱ぎ去り、白い肢体を露わにしたキキョウは、ベッドの上に正座すると丁寧に一礼した。

「こ、こちらこそ……」

 同じく全裸になったフィオも正座の姿勢でぎこちなく返礼する。

「いつも思うんだけどさ、どうしてベッドの時はこういう挨拶するの?」

「睦みあいは男女の間における、いわば真剣勝負。 どうして礼を失することができましょう」

 キキョウは礼を重んじる。

 過去の大戦で失われたものは数多いが、その中でも礼やマナーといった、形の残らないものの被害は著しい。
 そもそも、荒れ果てた今の世の中では礼儀に気を回せるほど余裕のある者は少ない。
 だからこそ、そこに価値を見いだしているのだ。

「礼とは失われた文化の真髄。それを自ら体現する事は、一流の砂潜りの在り方のひとつだと考えます」

「は、はい……」

 背筋を伸ばした綺麗な姿勢で、大真面目に語られてはフィオも頷くしかない。
 かなり偏った考え方ではあるが、そもそもキキョウの元のマスターであるゼンク自身がそういう志向を持った男だった。

「僕としては、もうすこし気楽にいちゃついたりしたいんだけどな……」

「お片づけの最中、気楽に押し倒すくらいに、ですか?」

 あ、少し怒ってる。
 正座したフィオの股間の逸物がさらに萎れていく。
 
 メイデンはマスターの意向に逆らったりはしない。 しかし、個体ごとに個性や好みはある。
 礼や規律といったものを好むキキョウにとって、獣欲に任せた先ほどのセックスはお気に召さなかったようだ。

「な、なさりたいようにって言ったじゃん……」

「先ほどのマスターは交合の事以外頭にない状態のようでしたので、ひとまずは落ち着かせることが最優先と判断したまでです」

「う、うぅ……」

 フィオは正座したまま身をすくめる。 股間の主砲も戦闘状態を解除し、カバーに覆われてしまっている。

「……お説教はここまでにしましょう。もう少し弁えて身を律してくださいね、マスター」

「はぁい……」

「よろしい」

 キキョウは厳めしい「教官」の顔で頷くと、すっと上体を傾けた。

「えっ」

 フィオが対応できない速度と自然さで、正座したフィオの股間に顔を近づける。

「こんなに小さくしてしまって……お説教が過ぎましたか?」

 笑みを含んだ口調で囁き、キキョウは萎えたフィオのペニスを口に含んだ。

「うぅっ!」

 元々小柄な上、フィオの逸物は体格相応の代物だ。
 それが縮こまった状態とあっては、キキョウの口の中に根本まで納まってしまう。
 キキョウは上目遣いで主を見上げながら、口の中で技巧を凝らした。

 頬をすぼめるように緩く吸引して刺激を送れば、若い陰茎はたちまち堅くなる。
 勃起しきる前に仮性包茎のその亀頭に舌を這わせ、包皮が剥ける手助けをする。

「うぁぁっ!?」

 皮で護られた敏感な箇所に熱い口腔粘膜が直接押しつけられ、フィオは仰け反って快楽の悲鳴を上げた。
 もう正座など保ってられない。 膝は崩れ、大きく足を開いてしまっている。

 一方のキキョウもまた正座のままではない。
 主の股間に顔を埋めつつ、尻を高く上げた四つん這い。
 つい先ほど、フィオに貫かれた時とよく似た姿勢だが攻守が違う。

 先のキキョウは野獣フィオに貪られる獲物であり、今のキキョウは主の肉棒を貪る雌の獣なのだ。

 ゆるく尻を振りながら、目を細めて口内の主の分身をしゃぶり、吸い、奉仕する。
 先の挿入と射精でペニスにまとわりついていたフィオの精液とキキョウの愛液――正確には愛液を模した潤滑液――は、柔らかな舌で舐め取られている。

 キキョウの舌先は、包皮で隠されていた亀頭を拭い、若い新陳代謝の産物である恥垢をわずかに感じ取った。
 三日前、メンテナンスに入る直前の口腔奉仕の際に除去していたものである。

「んはぁ……♡ マスター、シャワーの時にきちんと洗いませんでしたね?」

 主の逸物から口を離し、股の間から見上げて睨む。
 紳士たる者、身綺麗に。 フィオが「マスターの弟分の少年」であった頃から指導している事だ。

「キ、キキョウさんに、綺麗にして貰いたかったから……」

 フィオの照れたような言葉に、キキョウは一瞬きょとんと動きを止める。

「……趣味嗜好ということですか、了解しました」

 若干呆れたような口調で言いつつ、再度陰茎に顔を近づける。
 お説教で縮こまった陰茎は、元教官殿による丹念な奉仕で仰角一杯にそそり立っている。
 
 へそを打ちそうなペニスをゆっくりと舐め上げ、亀頭のエラとシャフトの段差を舌先で穿るようになぞる。

「う、うわっ」

 会陰から尻まで電撃のような快感が走り抜け、フィオは情けない声を上げる。
 玉袋をやわやわと揉みつつ、舌先で丹念に攻められては最早限界は近い。

「キ、キキョウさん! 出る! もう出るから!」

 言外に、もう口でのご奉仕はいいからと言ったつもりであった。
 しかし、彼の忠実なメイデンはせっぱ詰まった主の言葉に、あーんと大きく口を開けると発射寸前の主砲を咥え込んだ。

「じゅるっ♡ ちゅぅぅっ♡」

「ちょっ、キキョウさーん!?」

 下品な音すら立てる、強烈なバキュームフェラにフィオの主砲はあっさりと暴発した。

「んっ! んっ、んくっ、んっ……♡」

「うぁぁ……」

 どくどくと口内に放たれる熱い精液を、キキョウは目を細めて呑み下していく。 
 出している方はといえば、本日三発目がまたも意図した発射でない事への情けない嘆きの呻きをあげつつ、尿道の残り汁まで吸い上げられた。

「ふう……健康状態良好ですね、マスター」

「僕は、キキョウさんのあそこに出したかったんだけどね……」

「あら、それでは……」

 キキョウは唇の端に飛び散った精の残滓を舌先で舐めとると、ぺたりとシーツに腰を下ろした。
 両足をM字に広げ、己の股間に指先を伸ばす。

「どうぞ、ご賞味くださいな」

 秘裂を白魚のような指先が割り開き、薄紅の内部がさらけ出される様に、フィオの主砲はたちまち次発装填した。
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