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「な、なんだ? タワーが走ってる……?」
目測でおよそ15mほどの高さを持つそれは、まさしく砂を蹴立てて走る塔のように見えた。
後方へやや湾曲した、いびつな刃のような塔。
そんな物がブルドーザーのような音を立てて迫ってくる様は異様な圧迫感と同時に、強い非現実感を持っていた。
バン同様、周囲の砂潜り達が呆然と見守る中「塔」は直進し、進行方向に停められていた車両に向けて、文字通り牙を剥いた。
「塔」の直前、けたてられる砂飛沫の中から、「塔」の姿を隠すほどに巨大な板が跳ね上がったのだ。
「なっ!?」
いや、板ではない。 上顎だ。
楕円を切り取ったようなその内側には、高い周波数の回転音と共に駆動するチェーンソーがびっしりと植え付けられていた。
それこそ巨大な怪物の口中の如く。
巨大な顎が進路上のジープに雪崩掛かるかの如く覆い被さると、鉄を引き裂き蹂躙する無惨な破砕音が響きわたった。
「お、俺の車ぁっ!?」
「言ってる場合かよっ! 撃てっ! 撃てぇっ!」
明確な被害を目の当たりにし、正気づいた砂潜り達は手持ちの武器を顎付きの塔へと乱射する。
「うおぉぉっ!」
バンもまた、釣られるようにアサルトライフルをフルオートでぶっ放した。
塔の表面に着弾の火花が走る。
だが、効果が現れるよりも先に弾が尽きた。
フルオートで撃てば30連発のマガジンなどあっと言う間に使い果たしてしまうのだ。
「よ、予備! 予備マグ……!」
タクティカルベストのポケットから引っ張りだした予備弾倉は、焦りのあまり手の中から滑り落ちてしまう。
「く、糞っ、何やってんだ、俺っ!」
罵声をあげながら弾倉を拾い上げる。
不意に、日陰が差した。
「……?」
見上げると、回転する無数の「牙」が見えた。
「な、あ……」
気づけば周囲に砂潜り達の姿はない。 皆、必死になって距離を取っている。
そもそも仲間でも何でもない、居合わせただけの他人に警告してやる余裕など誰しも持ち合わせていないのだ。
「うあっ、あぁぁぁっ!」
バンは意味をなさない恐慌の叫びをあげながらライフルを頭上の影へ向ける。
弾倉を交換していないライフルはトリガーを引いても火を吹かない。
それでも、バンは両目を見開き、絶叫しながらトリガーを引き続けた。
一瞬後に自分をミンチに変える、上顎が落ちてくる様をせめて目に焼き付け――。
「がっ!?」
唐突な衝撃と共に視界が激しくぶれた。 巨大な影が消え去り、青い空が目に映る。
今やバンを押し潰さんとする影はなく、代わりにバイクで疾走するような風を全身に感じた。
「な、なん……」
「口を開かないように。 舌を噛みます」
鈴を鳴らすような声に見上げれば、紫水晶の瞳が煌めく精緻な美貌があった。
「フィオのメイデン……!?」
スラスターを吹かせて飛び込み、危機一髪のバンをお姫様抱っこの姿勢で拾い上げたのは、まさしくフィオのメイデン、キキョウであった。
キキョウの豊かな胸の中には、Mフレームに積載可能なジェネレーターの内、最も大型のものが仕込まれている。
大型ジェネレーターの膨大な出力が腰に二発、足に各二発の計六発装備されたスラスターに流れ込む。
スラスターの推力に任せ、要救助者を抱えたままキキョウは宙へ舞い上がった。
「データにはない型ですが、装甲機生体の一種のようですね」
基本的に群体を旨とする装甲機生体ではあるが、強力な個体を少数生産する種も存在する。
この場に現れた「塔」も、量より質のプログラムを刻まれているのだろう。
上から見下ろせば、「塔」は巨体の背中に生えた背鰭であると確認できる。
最終戦争前の海洋に生息したという鮫を思わせるフォルムだ。
「さしずめ、アーマーシャークとでも言った所でしょうか」
アーマーシャークは砂煙を盛大にあげながら直進を続けている。
狙いは蜘蛛型の装甲機生体の生産施設のようだ。
余所のアービングがため込んだ資材を食い荒そうという魂胆であろう。
問題は、このままではスパイダーアービングと交戦中だった砂潜り達がまとめて食われかねないという点だ。
主からの指示は人命救助。
態度の悪い連中だが、このまま鮫の餌にするわけにも行かない。
キキョウはスラスターの推力でホバリングしたまま、右のマルチブーストアームに装備した軽機関銃を発砲する。
上からの射撃を受け、アーマーシャークの動きが止まる。
巨体の進行の余波として発生していた砂煙が収まり、アーマーシャークの胴体から飛び出した、鰐めいた四本の足が露出する。
「……アーマークロコダイルと呼ぶべきでしたか」
「どっちでもいいよ……」
お姫様抱っこで抱えられたままのバンが呆れたように呟く。
不意にキキョウはスラスターを鋭く吹かし、身を翻した。
「おわっ!?」
急激なGにバンの体が滑り、キキョウの胸に顔が一瞬埋まる。
主以外がデリケートな部分に触るという事態にキキョウは即座にバンの体を掴み直すと、再び強制お姫様抱っこ状態へと移行する。
それでもバンの頬にはボディスーツごしの感触が残った。
(や、やわらかかった……!)
しかし、感動している余裕などはない。
キキョウはバンを抱えたまま連続でスラスターを吹かして回避機動を行っているのだ。
「のわぁぁっ!?」
三半規管の限界を試すかのような振り回されっぷりに、バンは悲鳴をあげる。
踊るような回避と共に、軽機関銃が絶え間ない銃火を放つ。
キキョウを脅威とみなしたか、「塔」すなわちアーマーシャークの背鰭部分が轟音と共に対空砲火を撃ち放っていた。
キキョウのセンサーとカメラアイは迫る銃弾の正体がリベットであると確認する。
背鰭の前方に六つ張り付いたフジツボを思わせる形状の砲台、そこから圧搾空気を用いてリベットを飛ばしていた。 大がかりなエアガンだ。
仕組みは単純だが、威力はおそらくマグナム弾にも匹敵するレベルで、決して馬鹿にできない。
キキョウ自身はいざ知らず、抱えた要救助者に当たればひとたまりもあるまい。
「分が悪いですね」
「お、俺を抱えてるから……?」
「それもありますが、単純に火力が足りません」
現在の主武器である軽機関銃の口径は7.62㎜。多くのアサルトライフルと変わらない。
コアユニットからベルト給弾されているため絶え間ない銃撃が可能ではあるものの、厚い装甲に覆われたアーマーシャーク相手には豆鉄砲も同然だ。
左のマルチブーストアームに装備したグレネードランチャーも軽車両以上を相手にするには辛い物がある。
「上位武装の使用許可が必要です」
飛来するリベットの弾幕を旋回しながらかわしつつ、キキョウは主へと通信を送った。
「こっちだ! あの砂丘の向こうまで走れっ!」
混乱の極みにあるほど、明確な指示の声はよく通る。
アーマーシャークの威容に逃げ出した砂潜り達の脳味噌に、フィオの怒鳴り声はすんなりと染み込んだ。
フィオの指示した砂丘、アーマーシャークの進路から直角に離れた場所へと、我先に駆け出していく。
フィオはトラブル対応要員として全力を尽くしていた。
任務は、不測の事態から参加者を一人でも生存させる事。
キキョウに乱入してきたデカブツの相手をさせつつ、フィオ本人は避難誘導に当たるというプランだ。
だが、砂潜りという生業は良くも悪くも独立独歩。 我が強い人間が非常に多い職種だ。
フィオの言葉など無視して、別方向へ走る者も居た。
「お、おい! 何してんの! 踏み潰されるよ!」
ぎょっとして叫ぶフィオ。
「うるせえ! 俺の車が潰されそうなんだよ!」
「車と命、どっちが大事なんだよ!」
「手前が車を弁償してくれるってのかよ!」
フィオは顔をしかめた。
この手合いは話が通じない。 小銭を拾おうとしてデストラップへ飛び込むタイプだ。
「じゃあ、勝手に死んじまえ!」
吐き捨てたフィオの左手首で多目的端末がシグナル音を発する。
彼のメイデンからの通信だ。
「キキョウさん! 何かあったの!?」
端末と連動したイヤホンマイクで通話を受ける。
「マスター、現在の装備では火力が足りません。 このままでは足止めも不可能です。
甲種装備の使用を申請いたします」
「むう、持ってきてて良かったとは思うけど……。 どうしても必要? 今の武器じゃダメ?」
フィオが渋る理由は単純にランニングコストだ。
キキョウの完全武装形態である甲種戦闘装備は装備武装の兼ね合いから、湯水のように高価な弾薬を消費してしまいかねない。
「勝算は余りありませんが高速振動マチェットを用いて突貫し、内部からの破壊を狙う手もあります。
実行しますか?」
「やめて、キキョウさんの珠のお肌に傷がついちゃう。 判ったよ、甲種戦闘装備の使用を許可する」
「了解しました。 装備換装の間、30秒程お時間を下さい」
「判った、グレネードランチャーの弾は残ってる? 有るならそれで時間を稼ぐよ」
「残弾は3発です。フライパスする際に投下します。それと、要救助者も一名救出しておりますので、そこで降ろします」
「え」
フィオが聞き直す間に、ジェットの轟音が響いた。
スラスターの噴射炎をなびかせて、キキョウが低空を飛行してくる。
すれ違いざまに、マルチブーストアームに接続していたグレネードランチャーを投下、同時に抱えていた荷物をポイッと放り出す。
「おわぁぁぁっ!?」
荷物はごろごろと激しく前転しながら落下の勢いを殺し、砂丘に埋まるようにして停止した。 ぐったりと大の字になる。
フィオは投下されたグレネードランチャーを拾いあげ砂を払いとばすと、放り出された要救助者へ顔を向けた。
「バン? 要救助者って君かい」
「……助けてもらってなんだけどよぉ、この扱いはどうかと思うぜ……」
激しい回転で三半規管が酔っぱらったバンは、大の字になったまま荒い息と共に苦情を漏らした。
「キキョウさんに抱っこされてたんだから文句言わない」
リボルバー状のグレネードランチャーの弾倉を展開し残弾を確認、キキョウの言葉通り3発しかない。
「……まあ、一種の役得だったかもな、柔らかかったし」
「触ったのか!」
ジャキン!と音を立てて弾倉を戻したフィオは血相を変えてランチャーを構えた。 砲口を向けられ、バンは大の字のまま慌てる。
「ふ、不可抗力だ! それ向ける相手が違うだろう!」
「ちっ……」
改めてグレネードランチャーを構える。
飛び去るキキョウに誘われたか、アーマーシャークの巨体はもう目の前だ。
目測でおよそ15mほどの高さを持つそれは、まさしく砂を蹴立てて走る塔のように見えた。
後方へやや湾曲した、いびつな刃のような塔。
そんな物がブルドーザーのような音を立てて迫ってくる様は異様な圧迫感と同時に、強い非現実感を持っていた。
バン同様、周囲の砂潜り達が呆然と見守る中「塔」は直進し、進行方向に停められていた車両に向けて、文字通り牙を剥いた。
「塔」の直前、けたてられる砂飛沫の中から、「塔」の姿を隠すほどに巨大な板が跳ね上がったのだ。
「なっ!?」
いや、板ではない。 上顎だ。
楕円を切り取ったようなその内側には、高い周波数の回転音と共に駆動するチェーンソーがびっしりと植え付けられていた。
それこそ巨大な怪物の口中の如く。
巨大な顎が進路上のジープに雪崩掛かるかの如く覆い被さると、鉄を引き裂き蹂躙する無惨な破砕音が響きわたった。
「お、俺の車ぁっ!?」
「言ってる場合かよっ! 撃てっ! 撃てぇっ!」
明確な被害を目の当たりにし、正気づいた砂潜り達は手持ちの武器を顎付きの塔へと乱射する。
「うおぉぉっ!」
バンもまた、釣られるようにアサルトライフルをフルオートでぶっ放した。
塔の表面に着弾の火花が走る。
だが、効果が現れるよりも先に弾が尽きた。
フルオートで撃てば30連発のマガジンなどあっと言う間に使い果たしてしまうのだ。
「よ、予備! 予備マグ……!」
タクティカルベストのポケットから引っ張りだした予備弾倉は、焦りのあまり手の中から滑り落ちてしまう。
「く、糞っ、何やってんだ、俺っ!」
罵声をあげながら弾倉を拾い上げる。
不意に、日陰が差した。
「……?」
見上げると、回転する無数の「牙」が見えた。
「な、あ……」
気づけば周囲に砂潜り達の姿はない。 皆、必死になって距離を取っている。
そもそも仲間でも何でもない、居合わせただけの他人に警告してやる余裕など誰しも持ち合わせていないのだ。
「うあっ、あぁぁぁっ!」
バンは意味をなさない恐慌の叫びをあげながらライフルを頭上の影へ向ける。
弾倉を交換していないライフルはトリガーを引いても火を吹かない。
それでも、バンは両目を見開き、絶叫しながらトリガーを引き続けた。
一瞬後に自分をミンチに変える、上顎が落ちてくる様をせめて目に焼き付け――。
「がっ!?」
唐突な衝撃と共に視界が激しくぶれた。 巨大な影が消え去り、青い空が目に映る。
今やバンを押し潰さんとする影はなく、代わりにバイクで疾走するような風を全身に感じた。
「な、なん……」
「口を開かないように。 舌を噛みます」
鈴を鳴らすような声に見上げれば、紫水晶の瞳が煌めく精緻な美貌があった。
「フィオのメイデン……!?」
スラスターを吹かせて飛び込み、危機一髪のバンをお姫様抱っこの姿勢で拾い上げたのは、まさしくフィオのメイデン、キキョウであった。
キキョウの豊かな胸の中には、Mフレームに積載可能なジェネレーターの内、最も大型のものが仕込まれている。
大型ジェネレーターの膨大な出力が腰に二発、足に各二発の計六発装備されたスラスターに流れ込む。
スラスターの推力に任せ、要救助者を抱えたままキキョウは宙へ舞い上がった。
「データにはない型ですが、装甲機生体の一種のようですね」
基本的に群体を旨とする装甲機生体ではあるが、強力な個体を少数生産する種も存在する。
この場に現れた「塔」も、量より質のプログラムを刻まれているのだろう。
上から見下ろせば、「塔」は巨体の背中に生えた背鰭であると確認できる。
最終戦争前の海洋に生息したという鮫を思わせるフォルムだ。
「さしずめ、アーマーシャークとでも言った所でしょうか」
アーマーシャークは砂煙を盛大にあげながら直進を続けている。
狙いは蜘蛛型の装甲機生体の生産施設のようだ。
余所のアービングがため込んだ資材を食い荒そうという魂胆であろう。
問題は、このままではスパイダーアービングと交戦中だった砂潜り達がまとめて食われかねないという点だ。
主からの指示は人命救助。
態度の悪い連中だが、このまま鮫の餌にするわけにも行かない。
キキョウはスラスターの推力でホバリングしたまま、右のマルチブーストアームに装備した軽機関銃を発砲する。
上からの射撃を受け、アーマーシャークの動きが止まる。
巨体の進行の余波として発生していた砂煙が収まり、アーマーシャークの胴体から飛び出した、鰐めいた四本の足が露出する。
「……アーマークロコダイルと呼ぶべきでしたか」
「どっちでもいいよ……」
お姫様抱っこで抱えられたままのバンが呆れたように呟く。
不意にキキョウはスラスターを鋭く吹かし、身を翻した。
「おわっ!?」
急激なGにバンの体が滑り、キキョウの胸に顔が一瞬埋まる。
主以外がデリケートな部分に触るという事態にキキョウは即座にバンの体を掴み直すと、再び強制お姫様抱っこ状態へと移行する。
それでもバンの頬にはボディスーツごしの感触が残った。
(や、やわらかかった……!)
しかし、感動している余裕などはない。
キキョウはバンを抱えたまま連続でスラスターを吹かして回避機動を行っているのだ。
「のわぁぁっ!?」
三半規管の限界を試すかのような振り回されっぷりに、バンは悲鳴をあげる。
踊るような回避と共に、軽機関銃が絶え間ない銃火を放つ。
キキョウを脅威とみなしたか、「塔」すなわちアーマーシャークの背鰭部分が轟音と共に対空砲火を撃ち放っていた。
キキョウのセンサーとカメラアイは迫る銃弾の正体がリベットであると確認する。
背鰭の前方に六つ張り付いたフジツボを思わせる形状の砲台、そこから圧搾空気を用いてリベットを飛ばしていた。 大がかりなエアガンだ。
仕組みは単純だが、威力はおそらくマグナム弾にも匹敵するレベルで、決して馬鹿にできない。
キキョウ自身はいざ知らず、抱えた要救助者に当たればひとたまりもあるまい。
「分が悪いですね」
「お、俺を抱えてるから……?」
「それもありますが、単純に火力が足りません」
現在の主武器である軽機関銃の口径は7.62㎜。多くのアサルトライフルと変わらない。
コアユニットからベルト給弾されているため絶え間ない銃撃が可能ではあるものの、厚い装甲に覆われたアーマーシャーク相手には豆鉄砲も同然だ。
左のマルチブーストアームに装備したグレネードランチャーも軽車両以上を相手にするには辛い物がある。
「上位武装の使用許可が必要です」
飛来するリベットの弾幕を旋回しながらかわしつつ、キキョウは主へと通信を送った。
「こっちだ! あの砂丘の向こうまで走れっ!」
混乱の極みにあるほど、明確な指示の声はよく通る。
アーマーシャークの威容に逃げ出した砂潜り達の脳味噌に、フィオの怒鳴り声はすんなりと染み込んだ。
フィオの指示した砂丘、アーマーシャークの進路から直角に離れた場所へと、我先に駆け出していく。
フィオはトラブル対応要員として全力を尽くしていた。
任務は、不測の事態から参加者を一人でも生存させる事。
キキョウに乱入してきたデカブツの相手をさせつつ、フィオ本人は避難誘導に当たるというプランだ。
だが、砂潜りという生業は良くも悪くも独立独歩。 我が強い人間が非常に多い職種だ。
フィオの言葉など無視して、別方向へ走る者も居た。
「お、おい! 何してんの! 踏み潰されるよ!」
ぎょっとして叫ぶフィオ。
「うるせえ! 俺の車が潰されそうなんだよ!」
「車と命、どっちが大事なんだよ!」
「手前が車を弁償してくれるってのかよ!」
フィオは顔をしかめた。
この手合いは話が通じない。 小銭を拾おうとしてデストラップへ飛び込むタイプだ。
「じゃあ、勝手に死んじまえ!」
吐き捨てたフィオの左手首で多目的端末がシグナル音を発する。
彼のメイデンからの通信だ。
「キキョウさん! 何かあったの!?」
端末と連動したイヤホンマイクで通話を受ける。
「マスター、現在の装備では火力が足りません。 このままでは足止めも不可能です。
甲種装備の使用を申請いたします」
「むう、持ってきてて良かったとは思うけど……。 どうしても必要? 今の武器じゃダメ?」
フィオが渋る理由は単純にランニングコストだ。
キキョウの完全武装形態である甲種戦闘装備は装備武装の兼ね合いから、湯水のように高価な弾薬を消費してしまいかねない。
「勝算は余りありませんが高速振動マチェットを用いて突貫し、内部からの破壊を狙う手もあります。
実行しますか?」
「やめて、キキョウさんの珠のお肌に傷がついちゃう。 判ったよ、甲種戦闘装備の使用を許可する」
「了解しました。 装備換装の間、30秒程お時間を下さい」
「判った、グレネードランチャーの弾は残ってる? 有るならそれで時間を稼ぐよ」
「残弾は3発です。フライパスする際に投下します。それと、要救助者も一名救出しておりますので、そこで降ろします」
「え」
フィオが聞き直す間に、ジェットの轟音が響いた。
スラスターの噴射炎をなびかせて、キキョウが低空を飛行してくる。
すれ違いざまに、マルチブーストアームに接続していたグレネードランチャーを投下、同時に抱えていた荷物をポイッと放り出す。
「おわぁぁぁっ!?」
荷物はごろごろと激しく前転しながら落下の勢いを殺し、砂丘に埋まるようにして停止した。 ぐったりと大の字になる。
フィオは投下されたグレネードランチャーを拾いあげ砂を払いとばすと、放り出された要救助者へ顔を向けた。
「バン? 要救助者って君かい」
「……助けてもらってなんだけどよぉ、この扱いはどうかと思うぜ……」
激しい回転で三半規管が酔っぱらったバンは、大の字になったまま荒い息と共に苦情を漏らした。
「キキョウさんに抱っこされてたんだから文句言わない」
リボルバー状のグレネードランチャーの弾倉を展開し残弾を確認、キキョウの言葉通り3発しかない。
「……まあ、一種の役得だったかもな、柔らかかったし」
「触ったのか!」
ジャキン!と音を立てて弾倉を戻したフィオは血相を変えてランチャーを構えた。 砲口を向けられ、バンは大の字のまま慌てる。
「ふ、不可抗力だ! それ向ける相手が違うだろう!」
「ちっ……」
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