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タウン48はコンクリートの城壁によって外界から護られている。
丘陵を背後に構えた歪な五角形の城壁は、南面に設けられた大きなゲートが唯一の出入り口だ。
その大事な門を護り、外から来る者、中から出る者をチェックするのは中央政庁直属の武装集団、アーミーの役目である。
数字の48をあしらったエンブレムを胸に刻んだ、青い制服の男達。
心技体すべてに優れた真のエリートでなければ、あの軍服を纏う事はできないのだ。
たとえゲートの受付で、ボケかけた爺さん相手のクレーム処理に追われていようとエリートはエリートなのである。
「まだ終わんないのかな、あれ」
三輪バイクのハンドルに突っ伏したフィオは、うんざりした半目をわめき散らす老人の後ろ姿に向ける。
ゲート前広場はいつも込み合っているが、今日はいつにも増して順番待ちの列が長い。
「……ちょっと話をつけてくる」
苛立ちが募る余り、額に青筋を浮き上がらせたロスはサイドカーを置いて列を抜け出した。
「ロ、ロスさん!? 面倒事起こしたら余計に時間食っちまいますよ!」
軽トラの運転席で早めの昼食にソイバーをかじっていたバンが、口から破片を飛ばしながら慌てて声を掛ける。
「こういうのは納め方があるんだよ、待ってな」
ロスは小走りにゲートカウンターに向かうと、老人と受付の兵士の双方に声を掛けた。
フィオとバンが心配しながら見つめる中、ロスは双方の話を聞き、それぞれの立場を立てつつ上手く間を取り持っているようだ。
「凄いな、ネゴシエイターって奴になれるね、ロスさん」
「砂潜りにも情報収集や報酬の相談など交渉能力が必要な局面はあります。
お二人とも、身につけておくべきスキルですよ」
「口より手が出ちまいそうスよ……」
三輪バイクの荷台に横座りしたキキョウの言葉にバンはため息を吐いた。
キキョウに対するバンの心情は「崇拝する姐さん」といった立場に落ち着いていた。
クールな美貌に、自分の巨体を軽々と持ち上げる腕力、巨大アービングを一蹴する性能、砂潜りについての見識、それらをひっくるめてキキョウへの想いはバンの中で半ば信仰の域に至っている。
フィオを羨む気持ちは依然としてあるが、キキョウの主になりたいとは想わない。
崇拝する天使に対して恐れ多いという思いと、自分もいずれはメイデンを手に入れるのだという決意によるものだ。
まあ、それはそれとして夜のおかずにはしてしまうのだが。
「それにしても……」
フィオは三輪バイクの隣に停められたバンの軽トラを感心したように見回した。
「随分、思い切ったもんだね」
「一念発起って奴さ。 バイクじゃスコールを乗せる場所もないからな」
バンはおんぼろバイクを下取りに出し、中古の軽トラを購入していた。
相棒の戦闘用マペット・スコールは犬型のデザインなのでバイクでは運べなかったのだ。
「まあ、スコールと軽トラの代金で、こないだの儲けもすっ飛んじまったんだけどさ……」
「良い選択をしたと思いますよ。 この子は高性能な良い子です」
キキョウは装甲ブーツの臑に頭を擦りつけてじゃれつくスコールの頭を撫でた。
「この子のCPUは私達メイデンに使用されるものに匹敵する性能を持っています。
今後、経験を蓄積すれば、頼もしい相棒になってくれるでしょう」
「メイデン並のCPUって凄いな、随分張り込んだんだね、バン」
「ま、まぁな!」
メイデンショップの店員にお任せだったとは言えない。
キキョウはスコールの喉の下を撫でながら、ちょっと目を泳がせているバンを見上げた。
「バンさん、この子と私の間に情報リンクを構築する許可をいただけますか?」
「情報リンク?」
「はい、マペットはメイデンの支援機器という側面もありますから、互いの機能を補う事ができます」
「スコールが補われっぱなしになりそうだけど……いいスよ、やっちゃってください」
バンの了承を得たキキョウはフィオに視線を送る。
主の頷きでこちらの許可も得た所で、スコールを膝の上に抱き上げると鼻面に顔を寄せて額をこつんと合わせた。
端から見ていると戯れているような姿勢で情報リンクを構築する。
「……終了しました。 よろしくお願いします、スコール」
「Baw!」
律儀な挨拶にスコールは尻尾を振って応じた。
「……キキョウさんの支援用に、マペットの購入を考えるかな」
「何台もメイデンやマペットを抱え込んでも運用費に困るだけだぞ」
腕組みをして唸るフィオを、戻ってきたロスがたしなめる。
「ロスさん! どうでした?」
「ああ、納得してくれたよ。 これで流れは良くなるだろ」
ゲートカウンターを見れば、すでに老人の姿はなく、アーミーの兵士達が手際よく外出者の手続きを行っていた。
心なしか、彼らの顔は少しホッとしているようにも見える。
「お役人も大変だ」
「大変なだけの待遇はされてるからいいんだよ」
バンは兵士の横でサポートを行うメイデンの姿に嫉妬丸出しで小さく舌打ちした。
アーミーの兵士は一人一人が得難いエリートであり、そのサポートの為にメイデンが個別に与えられている。
それだけでも若人がアーミーを目指す理由になる程だ。
「冷たいな、バンだって最初アーミーに憧れてたじゃない」
「あんなに難関だとは思わなかったんだよ……」
毎月金魚鉢から生まれるタウンの住人の中でも、アーミーへ所属できる者が誕生するのは数ヶ月に一度という所。
アーミーの兵士達の立場は、戦前で言うならば人気スポーツのスター選手に似たものがあった。
「まあ、世の中アーミーへ内定が決まってたのに蹴って砂潜りになるような変人も居るけどな……。
お、そろそろ俺らの番だ。 行くぞ」
異様に優秀だった金魚鉢兄弟に思いを馳せていたロスは、列の流れに沿ってサイドカーを動かした。
ブレイカー盆地地下、6層。
マスター権限を独り占めする形になったガレットであるが、アイネズに部下達への奉仕を命じる事で彼らの不満を解消していた。
別にマスターとして認められてなくても、手軽に性欲発散できる慰安人形が居るのなら、部下達も文句はないのだ。
「とはいえ、このスタイルはちょっと考えてなかったぜ……」
部下達に奉仕するアイネズの様子を、クロレラ酒のつまみにしながらガレットは呟いた。
「はむ、む……」
四人の部下に奉仕するため、アイネズは両手と口を総動員していた。
桜色の唇に男根を受け入れ、しゃぶり、舐め、吸って尽くす。
太めの眉と大きな瞳で大人しげな印象を与える少女人形が目元を朱に染め、頬をすぼめて吸いついてくる様に咥えさせている男もご満悦だ。
両手もそれぞれ独立して動き、男の快楽を巧みに引き出している。
白魚のような細い指先が的確な動作で肉棒を這い回れば、男達の口から満足げな呻きが漏れた。
ここまでで三人、残りの一人はというと。
「おっ……おぅ……おほぅ……」
裸のアイネズの椅子となり、顔面に小さなお尻を載せられていた。
罰ゲームなどではなく純然たるご褒美であるらしく、足を延ばして座ったスマッグの股間は急角度でそそり立っている。
それをアイネズが両の土踏まずで挟み込み、刺激していた。
スマッグの顔面をサドルにして自転車のペダルを漕ぐかのような姿勢で足コキを行っている。
アイネズは小柄で細身だが、金属骨格を持つ故に体重は大柄な男にも匹敵する。
その体重を顔面で支えつつもアイネズの足裏に擦られる度に快楽の喘ぎを漏らすスマッグの姿は、ガレットの胸中に戦慄の思いを湧き起こさずにいられない。
「いやあ……付き合い結構長いけど、ここまで凄い男だとは思ってなかったわぁ……」
ガレットが知る由もないが、今のアイネズの体勢は戦前の体操競技における吊り輪の演技にも似ていた。
アクロバットにも程がある姿勢で別種の奉仕を同時に行いつつ、高度なバランサー機能により顔面椅子から滑り落ちもしない。
アイネズの秘めた高性能の証である。
「まあ、いい拾い物だったと思うか……」
ドン引きしつつも自分を納得させるようにガレットが呟いた時、スマッグは汚い悲鳴と共にアイネズの足裏に精液を放っていた。
ブレイカー盆地に到着したフィオ達は乙種兵装のキキョウとスコールを先頭に立てて、地下への侵入を開始した。
探査特化型のアイネズに比べれば劣るものの、キキョウもAクラス戦闘メイデンとして十分なセンサー機能を持っており、周囲の罠感知などはお手の物だ。
「Baw……」
スコールはキキョウの足下を歩きつつ、興味深げにゴーグル状のセンサーアイを光らせて周囲を見回した。
キキョウはスコールの頭に手を置くと、リンク機能を介して自らが入手した各種探索情報を譲渡する。
流し込まれる情報量に驚き、スコールの金属の筒を連結させたような尻尾がピンと立った。
「情報過多でしょうが、まずはその情報の処理の仕方を覚えなさい。 これも経験です」
キキョウはマペットに対しても鬼教官であった。
「良かったね、バン。 キキョウさんが稽古付けてくれてるよ」
彼女にしごかれた思い出が胸に蘇り、フィオは同情の籠もった遠い目をスコールに向ける。 心なしかその瞳には光がない。
「キキョウさんの稽古……俺も受けたい……」
流し込まれた大量の情報に溺れかかりゴーグルアイをぴこぴこと瞬かせて硬直するスコールを羨ましそうに眺め、バンは呟いた。
「じゃれるのはその辺にしとけ。
キキョウ、トラップがあれば教えてくれ。 二人の教材にする」
「了解しました」
少年二人をたしなめるロスの声は固い。
彼の左腕の多目的端末は、近距離に来ているというのにアイネズとのリンクが回復していない。
これは彼のマスター権限が剥奪されている証だ。
ロスは内心の激怒を押し殺し、歩を進める。
先輩の心情を察した少年達も、顔を見合わせて頷くと無言で続いた。
「……罠があります、赤外線のセンサーですね」
無言でフロアを進み、やがてキキョウが罠を感知した。
ロスは鋭い瞳でキキョウが指摘した罠、壁際に設置された親指大のセンサーポッドを睨む。
「ここは俺とアイネズで罠を解除した場所だ。
つまり、俺が離脱した後でもう一度山賊どもが設置し直した訳だな。
これがどういう事かわかるか、バン?」
「うぇっ!?」
いきなり話を振られたバンは、しどろもどろになりつつ答えを捻りだした。
「え、えぇと、やっぱり罠なんだし、侵入者を発見するため?」
「そうだ。 だが、もう一声欲しいな。
フィオ、どうだ?」
「罠に気付いた相手にあえて解除させる事で、侵入者の存在を能動的に感知する、ですか?」
「うん、そんな所だな。
こいつを解除すると敵に俺たちが来てるって教える事になっちまう。
だから、ちょいと誤魔化してやる必要があるんだ」
ロスはセンサーポッドの死角から近づくと、警報を作動させないように注意しながらポッドの蓋を開けた。
「今みたいに死角から触れるような雑な仕掛け方ばかりだと楽なんだけどな……。
バン、この手のセンサーの騙し方を教えてやる。 フィオも見とけ、復習だ」
バンは目を輝かせてロスの手元に注目した。 彼が望んでやまない、腕利き砂潜りの実践教育だ。
フィオもゼンクに仕込まれた内容ではあるが、素直にロスに従う。
「こうして……こうだ、これでこのセンサーは起動しているが警報を出せない状態になる。
この手のセンサーはありがちだからな、よく覚えておけ」
「はい!」
「次のセンサーの無力化はフィオにやってもらおう。 その次はバンだ」
「判りました」
「お、俺もですか!?」
「なーに、後ろで見ててやる。 ミスりそうになったら止めるから安心しろ」
いきなり実践に放り込むハード路線だが、バックアップ体制もきちんとした教育方式である。
ロスはトラップに出会う度にセンサーの質を見極め、簡易なものはバン、手強そうなものはフィオへと割り振って解除を行わせた。
ほとんどド素人のバンは当然ながら、フィオもまだ新人の部類。
時折ロスに手を止められて、アドバイスを受ける。
アイネズの救出に気が逸りつつも後輩への指導に手を抜かない辺り、ロスは根っから生真面目な男であった。
やがて、一行は5層目の最後の階段に到着した。
「さて、ここも結構センサーが仕掛けられてるな」
6層に続く階段には、死角を補うように複数のセンサーが仕掛けられていた。
「ここが最後の警報ラインって事でしょうね、一個ずつ騙していきますか?」
フィオの質問にロスは首を振る。
「いや、数も多いしここは突っ切ろう」
「……いいんですか?」
「警報の問題点は相手に準備の時間を与える事だ。
キキョウがスラスターを吹かしていけば、奴らの根城のホールまですぐだ」
「……キキョウさんだけを先に行かせるんですか?」
「このメンバーの最強戦力だからな。
おそらく、アイネズが敵側に回っているだろうが、キキョウの戦闘力なら一蹴できるだろう」
淡々と言いながらもロスの顔は苦い。
「反対です! アイネズさんを無力化したウィルス弾があるんでしょう?
キキョウさんまで……」
「いえ、マスター。 情報がある以上、対応可能です」
ロスに食ってかかるフィオの言葉をキキョウが遮る。
「でも、キキョウさん一人だけじゃ……」
「スコールをお供に付けるから、キキョウさんは一人じゃねえよ。
ウィルス弾を使う山賊の方は、俺らもすぐに追いかけて銃撃戦に持ち込めばキキョウさんを狙う余裕が無くなるんじゃねえの?」
バンの言葉にフィオは言葉が詰まる。
どの道、ここまで来た以上、無為に引き返す訳にもいかない。
「判ったよ……。
キキョウさん、十分に気を付けて。 スコールもサポートよろしくね」
「はい」
「Baw!」
部下達を一通り射精させ性欲処理を終えたアイネズを、ガレットは手元に呼び寄せた。
「跨って入れろ、抱きつくみたいにな」
瓦礫に腰掛けたまま、挿入を命じる。
「はい、失礼します……んっ♡」
対面座位の姿勢でガレットの腰に跨り、逸物を受け入れた。
マスターに求められたアイネズの蜜壷はすでに潤んでおり、膣壁は新たな主の形を覚え込もうと心地よく密着してくる。
「おぅっ、やっぱりメイデンの味はたまらねえな」
アイネズの小振りな尻に両手を回して揺すりながら、ガレットは感嘆の声をあげた。
「んっ♡ お褒めに与り、光栄ですっ、はぅっ♡」
膣奥を揺すりながら刺激され、アイネズは甘い声音で応じる。
ガレットは、愛らしい顔が朱に染まっている様を見下ろし、ニヤリと頬を歪めた。
「へへ、俺のブツの味はどうだ? 前の主よりもいいだろう?」
「はい、比べ物になりません」
微笑んだまま一切の遅延なく応えるアイネズに、ガレットは上機嫌で笑い声をあげ、そのまま射精した。
「んんっ♡ マスターの精液を確認しました。
マスターパーティションポイントを更新します」
アイネズのシステムボイスに、射精の余韻に浸っていたガレットはふと気付く。
「前のマスターのマスターパーティションポイントは残っているのか?」
「……はい」
アイネズの返答にはわずかな遅滞があった。
ガレットは、ごく無頓着に命じる。
「じゃあ、そこから上書きしとけ。 できるんだろ?」
「それは……可能です」
やや萎えた新たな主の逸物を膣内に納めたまま、アイネズは俯いてマスターパーティションポイントの更新を実行した。
密かに予定していた、他の山賊のポイントへの上書きではなく、かつての主のポイントの上に。
わずかに隠し持っていたロスの痕跡が、さらに削られていく。
「この際だ、前のマスターの事なんか完全に忘れちまうくらい子宮ユニットを精液漬けにしてやるか!」
「なっ」
ガレットは再びアイネズの尻を鷲掴みにすると、激しく揺さぶり始めた。
「あっ♡ マ、マスター、待ってっ」
「なんだぁ? 完全に俺の物にしてやるってんだよ、嬉しいだろ?」
「そ、それはっ」
主を第一とするメイデンの基礎設計と、アイネズ自身の想いがコンフリクトを起こしかけた時、甲高い警報が鳴り響いた。
「何っ!?」
「リーダー! 今の警報、上のフロアの奴だ!」
「なんだと、他の警報鳴んなかったじゃねえか!」
アイネズに深く突き込んだまま驚きの声をあげるガレット。 その間にも別種の警報が鳴る。
「もう降りてきた!? なんて早さだ」
「くそっ」
何がなんだか判らないながらも、ガレットはアイネズに命じる。
「迎撃だ! 行けっ!」
「了解しました」
主の腰から立ち上がるアイネズの秘裂から、精液の滴が漏れ落ちた。
装甲ブーツと腰部のスラスターを閃かせて、キキョウは狭い階段に飛び込んだ。
文字通り飛翔しながら一気に降下する、まさにパワーダイブ。
キキョウは情報リンクしたスコールが、四肢の肉球部分に内蔵された走行球を起動して追尾してくるのを感じ取ると、無線で主達を護るように指示を飛ばす。
戸惑った様子のスコールだが、上位機器と認定したキキョウの指示通り速度を落とし、階段を駆け降りてくる主達の援護に回った。
(彼女はまだ幼い、荒事は順に慣らすべきでしょう)
鬼教官ではあるものの、キキョウは実戦投入のタイミングは量るタイプであった。
カバーはしつつもいきなり現場に放り込むロスとは、教育方針が若干違う。
軽機関銃と高速振動マチェットを装備した二本のブーストアームを前方に構え、キキョウは6層へ降り立った。
すでにいくつかの警備機器に引っかかった事を感知している。
最初の警報からわずか数十秒ながらも、山賊達は何とか迎撃体勢を取っていた。
階段から飛び出したキキョウへ、アサルトライフルの弾幕が降り注ぐ。
キキョウはさらにスラスターの推力を上げると、一気に加速した。
ライフル弾はキキョウの後ろ髪を捕らえることもできない。
加速してホールへ飛び込みながら軽機関銃を乱射、半裸に銃器だけを握った山賊達はあわてて瓦礫の陰へ飛び込む。
ホールの中央には、キキョウにとって最大の障害が待ち構えていた。
「アイネズ……」
股間からこぼれた精液で太股を汚したアイネズは、裸身に装甲ブーツだけを装備した姿で、手持ちのサブマシンガンを構えた。
キキョウのCPUは身を捻ってサブマシンガンの射線を外しながら、何度も共に任務を遂行した僚機への攻撃プランを高速で練り始めた。
フィオ達三人が6層に駆け降りると、そこはすでに銃声が響き渡る戦場と化していた。
ホールの中心で踊るように高速で動きながら銃撃戦を繰り広げる2体のメイデン。
ホール奥のテント側の瓦礫に身を隠してキキョウへと射撃を行う山賊達。
「くそぉっ、キキョウさん!」
クロスファイアを浴びるキキョウの姿にフィオの頭が一瞬で煮える。
衝動のままにアサルトライフルを山賊達へと撃ち放った。
「ぐあっ!?」
側面からの射撃に、山賊の一人が倒れる。
撃たれた仲間を尻目に、他の山賊はあわててこちらへ遮蔽を取った。
「馬鹿野郎! 焦って撃つんじゃない! 一網打尽のチャンスを!」
「あっ……」
ロスの叱責に我に返る。
「仕方ない、このまま瓦礫越しに撃ち合うしかないな。
アイネズの方はキキョウに任せておけば大丈夫だろうが、例のウィルス弾が怖い。
そこだけは注意しねえと」
「すみません……」
意気消沈したフィオの背をバンが平手で叩く。
「とりあえず一人は仕留めたんだ、残りもやるぞ!」
「あ、ああ!」
気を取り直して、瓦礫越しに銃を構える。
山賊側も同様の構えであり、こうなってしまうと状況は硬直せざるを得ない。
「ちぃ、面倒くせえ……。 ん? スコール?」
ライフルを散発的に撃って山賊を牽制していたバンは、物陰でこちらと山賊をきょときょとと見比べている自分のマペットに気付いた。
「お前、キキョウさんのお供しろって言ったろ!」
「いや、いい位置だ! スコール、側面から奴らを攻撃しろ!」
ロスの指示にスコールは迷うようにバンを見る。
「ロスさんの言うとおりにしろ!」
「Baw!」
スコールは四肢を踏ん張るように伸ばすと、足裏の肉球部分に内蔵された走行球を回転させて走り始めた。
スコールの背中のウェポンラッチにはドラムマガジン付きのサブマシンガンが取り付けられている。
サブマシンガンを撃ちまくりながら、スコールはホールを一気に駆け抜けた。
「ぬあっ!?」
別方向からの銃撃に、山賊は浮き足立った。
すでに一人倒されている上に、寸前まで寛いでいた彼らの装備は万全ではないのだ。
「くそっ、こうなったら!」
頭目らしき男が、ホール中央で機動戦を行うキキョウへリボルバーを向ける。
「キキョウさん!」
マスターの狼狽しきった叫びが聴覚センサーを打つ。
「こいつで逆転だぁ!」
飛びすさってアイネズの銃撃をかわしたタイミングでの頭目の発砲。
命中すれば即座にキキョウを機能停止に陥れアイネズと同じ運命を辿らせたであろうウィルス弾は、無造作に掲げられた高速振動マチェットの刀身に受け止められた。
戦闘用メイデンの高速CPUの前では、拳銃の弾道予測などたやすい事だ。
「な!?」
必殺の一撃をあっさりと防がれ驚愕する頭目の胸板を、スコールの放った銃弾がフルオートで貫通する。
「げはっ……」
致命傷だ。 肺と心臓を破壊され、頭目は血しぶきを捲き散らしながら崩れ落ちる。
「マスターの死亡を確認……」
主の死を確認し、アイネズの動きが一瞬停滞する。
CPU内でマスターパーティションの書き換えが急激に行われるためだ。
このわずかなタイムラグがあるために、対メイデン戦ではメイデンに見せつけるようにマスターを倒す事は有為とされている。
当然、キキョウがこの隙を見逃すはずもない。
「はぁっ!」
ブーストアームに握られた高速振動マチェットが一閃、サブマシンガンを握った右腕が肘から切断される。
血液を模した赤黒い循環液が切断面から舞う中、マチェットが旋回しアイネズの左腕を肩から落とす。
「ぐっ……」
足裏の走行球を逆回転させて距離を取ろうとするアイネズだが、キキョウの踏み込みの方が早い。
「せやっ!」
再度、刃が閃くと、アイネズの太股から下がまとめて切り落とされた。
脚部をも失い、達磨のような姿と化したアイネズの胴体は循環液を捲き散らしながら落下する。
ホールの床に落ちる前に、キキョウの腕が横抱きに掬い上げた。
「四肢の循環弁を閉じなさい。 これ以上循環液を失うと機能停止しますよ」
「わかってます。 ……少々やり方が手荒すぎませんか、キキョウ」
「これが一番手早く貴女を無力化できると判断したまでです」
「その通りなのが癪ですが……。
あの人の前なのですから、もう少し見栄えのよい無力化をですね……」
「知りません、贅沢な」
主無しの半壊したメイデンは嘆息すると、僚機の腕の中で首を傾けた。
まだ、主と呼ぶことができない中年男が、山賊たちを無力化し駆け寄ってきている。
丘陵を背後に構えた歪な五角形の城壁は、南面に設けられた大きなゲートが唯一の出入り口だ。
その大事な門を護り、外から来る者、中から出る者をチェックするのは中央政庁直属の武装集団、アーミーの役目である。
数字の48をあしらったエンブレムを胸に刻んだ、青い制服の男達。
心技体すべてに優れた真のエリートでなければ、あの軍服を纏う事はできないのだ。
たとえゲートの受付で、ボケかけた爺さん相手のクレーム処理に追われていようとエリートはエリートなのである。
「まだ終わんないのかな、あれ」
三輪バイクのハンドルに突っ伏したフィオは、うんざりした半目をわめき散らす老人の後ろ姿に向ける。
ゲート前広場はいつも込み合っているが、今日はいつにも増して順番待ちの列が長い。
「……ちょっと話をつけてくる」
苛立ちが募る余り、額に青筋を浮き上がらせたロスはサイドカーを置いて列を抜け出した。
「ロ、ロスさん!? 面倒事起こしたら余計に時間食っちまいますよ!」
軽トラの運転席で早めの昼食にソイバーをかじっていたバンが、口から破片を飛ばしながら慌てて声を掛ける。
「こういうのは納め方があるんだよ、待ってな」
ロスは小走りにゲートカウンターに向かうと、老人と受付の兵士の双方に声を掛けた。
フィオとバンが心配しながら見つめる中、ロスは双方の話を聞き、それぞれの立場を立てつつ上手く間を取り持っているようだ。
「凄いな、ネゴシエイターって奴になれるね、ロスさん」
「砂潜りにも情報収集や報酬の相談など交渉能力が必要な局面はあります。
お二人とも、身につけておくべきスキルですよ」
「口より手が出ちまいそうスよ……」
三輪バイクの荷台に横座りしたキキョウの言葉にバンはため息を吐いた。
キキョウに対するバンの心情は「崇拝する姐さん」といった立場に落ち着いていた。
クールな美貌に、自分の巨体を軽々と持ち上げる腕力、巨大アービングを一蹴する性能、砂潜りについての見識、それらをひっくるめてキキョウへの想いはバンの中で半ば信仰の域に至っている。
フィオを羨む気持ちは依然としてあるが、キキョウの主になりたいとは想わない。
崇拝する天使に対して恐れ多いという思いと、自分もいずれはメイデンを手に入れるのだという決意によるものだ。
まあ、それはそれとして夜のおかずにはしてしまうのだが。
「それにしても……」
フィオは三輪バイクの隣に停められたバンの軽トラを感心したように見回した。
「随分、思い切ったもんだね」
「一念発起って奴さ。 バイクじゃスコールを乗せる場所もないからな」
バンはおんぼろバイクを下取りに出し、中古の軽トラを購入していた。
相棒の戦闘用マペット・スコールは犬型のデザインなのでバイクでは運べなかったのだ。
「まあ、スコールと軽トラの代金で、こないだの儲けもすっ飛んじまったんだけどさ……」
「良い選択をしたと思いますよ。 この子は高性能な良い子です」
キキョウは装甲ブーツの臑に頭を擦りつけてじゃれつくスコールの頭を撫でた。
「この子のCPUは私達メイデンに使用されるものに匹敵する性能を持っています。
今後、経験を蓄積すれば、頼もしい相棒になってくれるでしょう」
「メイデン並のCPUって凄いな、随分張り込んだんだね、バン」
「ま、まぁな!」
メイデンショップの店員にお任せだったとは言えない。
キキョウはスコールの喉の下を撫でながら、ちょっと目を泳がせているバンを見上げた。
「バンさん、この子と私の間に情報リンクを構築する許可をいただけますか?」
「情報リンク?」
「はい、マペットはメイデンの支援機器という側面もありますから、互いの機能を補う事ができます」
「スコールが補われっぱなしになりそうだけど……いいスよ、やっちゃってください」
バンの了承を得たキキョウはフィオに視線を送る。
主の頷きでこちらの許可も得た所で、スコールを膝の上に抱き上げると鼻面に顔を寄せて額をこつんと合わせた。
端から見ていると戯れているような姿勢で情報リンクを構築する。
「……終了しました。 よろしくお願いします、スコール」
「Baw!」
律儀な挨拶にスコールは尻尾を振って応じた。
「……キキョウさんの支援用に、マペットの購入を考えるかな」
「何台もメイデンやマペットを抱え込んでも運用費に困るだけだぞ」
腕組みをして唸るフィオを、戻ってきたロスがたしなめる。
「ロスさん! どうでした?」
「ああ、納得してくれたよ。 これで流れは良くなるだろ」
ゲートカウンターを見れば、すでに老人の姿はなく、アーミーの兵士達が手際よく外出者の手続きを行っていた。
心なしか、彼らの顔は少しホッとしているようにも見える。
「お役人も大変だ」
「大変なだけの待遇はされてるからいいんだよ」
バンは兵士の横でサポートを行うメイデンの姿に嫉妬丸出しで小さく舌打ちした。
アーミーの兵士は一人一人が得難いエリートであり、そのサポートの為にメイデンが個別に与えられている。
それだけでも若人がアーミーを目指す理由になる程だ。
「冷たいな、バンだって最初アーミーに憧れてたじゃない」
「あんなに難関だとは思わなかったんだよ……」
毎月金魚鉢から生まれるタウンの住人の中でも、アーミーへ所属できる者が誕生するのは数ヶ月に一度という所。
アーミーの兵士達の立場は、戦前で言うならば人気スポーツのスター選手に似たものがあった。
「まあ、世の中アーミーへ内定が決まってたのに蹴って砂潜りになるような変人も居るけどな……。
お、そろそろ俺らの番だ。 行くぞ」
異様に優秀だった金魚鉢兄弟に思いを馳せていたロスは、列の流れに沿ってサイドカーを動かした。
ブレイカー盆地地下、6層。
マスター権限を独り占めする形になったガレットであるが、アイネズに部下達への奉仕を命じる事で彼らの不満を解消していた。
別にマスターとして認められてなくても、手軽に性欲発散できる慰安人形が居るのなら、部下達も文句はないのだ。
「とはいえ、このスタイルはちょっと考えてなかったぜ……」
部下達に奉仕するアイネズの様子を、クロレラ酒のつまみにしながらガレットは呟いた。
「はむ、む……」
四人の部下に奉仕するため、アイネズは両手と口を総動員していた。
桜色の唇に男根を受け入れ、しゃぶり、舐め、吸って尽くす。
太めの眉と大きな瞳で大人しげな印象を与える少女人形が目元を朱に染め、頬をすぼめて吸いついてくる様に咥えさせている男もご満悦だ。
両手もそれぞれ独立して動き、男の快楽を巧みに引き出している。
白魚のような細い指先が的確な動作で肉棒を這い回れば、男達の口から満足げな呻きが漏れた。
ここまでで三人、残りの一人はというと。
「おっ……おぅ……おほぅ……」
裸のアイネズの椅子となり、顔面に小さなお尻を載せられていた。
罰ゲームなどではなく純然たるご褒美であるらしく、足を延ばして座ったスマッグの股間は急角度でそそり立っている。
それをアイネズが両の土踏まずで挟み込み、刺激していた。
スマッグの顔面をサドルにして自転車のペダルを漕ぐかのような姿勢で足コキを行っている。
アイネズは小柄で細身だが、金属骨格を持つ故に体重は大柄な男にも匹敵する。
その体重を顔面で支えつつもアイネズの足裏に擦られる度に快楽の喘ぎを漏らすスマッグの姿は、ガレットの胸中に戦慄の思いを湧き起こさずにいられない。
「いやあ……付き合い結構長いけど、ここまで凄い男だとは思ってなかったわぁ……」
ガレットが知る由もないが、今のアイネズの体勢は戦前の体操競技における吊り輪の演技にも似ていた。
アクロバットにも程がある姿勢で別種の奉仕を同時に行いつつ、高度なバランサー機能により顔面椅子から滑り落ちもしない。
アイネズの秘めた高性能の証である。
「まあ、いい拾い物だったと思うか……」
ドン引きしつつも自分を納得させるようにガレットが呟いた時、スマッグは汚い悲鳴と共にアイネズの足裏に精液を放っていた。
ブレイカー盆地に到着したフィオ達は乙種兵装のキキョウとスコールを先頭に立てて、地下への侵入を開始した。
探査特化型のアイネズに比べれば劣るものの、キキョウもAクラス戦闘メイデンとして十分なセンサー機能を持っており、周囲の罠感知などはお手の物だ。
「Baw……」
スコールはキキョウの足下を歩きつつ、興味深げにゴーグル状のセンサーアイを光らせて周囲を見回した。
キキョウはスコールの頭に手を置くと、リンク機能を介して自らが入手した各種探索情報を譲渡する。
流し込まれる情報量に驚き、スコールの金属の筒を連結させたような尻尾がピンと立った。
「情報過多でしょうが、まずはその情報の処理の仕方を覚えなさい。 これも経験です」
キキョウはマペットに対しても鬼教官であった。
「良かったね、バン。 キキョウさんが稽古付けてくれてるよ」
彼女にしごかれた思い出が胸に蘇り、フィオは同情の籠もった遠い目をスコールに向ける。 心なしかその瞳には光がない。
「キキョウさんの稽古……俺も受けたい……」
流し込まれた大量の情報に溺れかかりゴーグルアイをぴこぴこと瞬かせて硬直するスコールを羨ましそうに眺め、バンは呟いた。
「じゃれるのはその辺にしとけ。
キキョウ、トラップがあれば教えてくれ。 二人の教材にする」
「了解しました」
少年二人をたしなめるロスの声は固い。
彼の左腕の多目的端末は、近距離に来ているというのにアイネズとのリンクが回復していない。
これは彼のマスター権限が剥奪されている証だ。
ロスは内心の激怒を押し殺し、歩を進める。
先輩の心情を察した少年達も、顔を見合わせて頷くと無言で続いた。
「……罠があります、赤外線のセンサーですね」
無言でフロアを進み、やがてキキョウが罠を感知した。
ロスは鋭い瞳でキキョウが指摘した罠、壁際に設置された親指大のセンサーポッドを睨む。
「ここは俺とアイネズで罠を解除した場所だ。
つまり、俺が離脱した後でもう一度山賊どもが設置し直した訳だな。
これがどういう事かわかるか、バン?」
「うぇっ!?」
いきなり話を振られたバンは、しどろもどろになりつつ答えを捻りだした。
「え、えぇと、やっぱり罠なんだし、侵入者を発見するため?」
「そうだ。 だが、もう一声欲しいな。
フィオ、どうだ?」
「罠に気付いた相手にあえて解除させる事で、侵入者の存在を能動的に感知する、ですか?」
「うん、そんな所だな。
こいつを解除すると敵に俺たちが来てるって教える事になっちまう。
だから、ちょいと誤魔化してやる必要があるんだ」
ロスはセンサーポッドの死角から近づくと、警報を作動させないように注意しながらポッドの蓋を開けた。
「今みたいに死角から触れるような雑な仕掛け方ばかりだと楽なんだけどな……。
バン、この手のセンサーの騙し方を教えてやる。 フィオも見とけ、復習だ」
バンは目を輝かせてロスの手元に注目した。 彼が望んでやまない、腕利き砂潜りの実践教育だ。
フィオもゼンクに仕込まれた内容ではあるが、素直にロスに従う。
「こうして……こうだ、これでこのセンサーは起動しているが警報を出せない状態になる。
この手のセンサーはありがちだからな、よく覚えておけ」
「はい!」
「次のセンサーの無力化はフィオにやってもらおう。 その次はバンだ」
「判りました」
「お、俺もですか!?」
「なーに、後ろで見ててやる。 ミスりそうになったら止めるから安心しろ」
いきなり実践に放り込むハード路線だが、バックアップ体制もきちんとした教育方式である。
ロスはトラップに出会う度にセンサーの質を見極め、簡易なものはバン、手強そうなものはフィオへと割り振って解除を行わせた。
ほとんどド素人のバンは当然ながら、フィオもまだ新人の部類。
時折ロスに手を止められて、アドバイスを受ける。
アイネズの救出に気が逸りつつも後輩への指導に手を抜かない辺り、ロスは根っから生真面目な男であった。
やがて、一行は5層目の最後の階段に到着した。
「さて、ここも結構センサーが仕掛けられてるな」
6層に続く階段には、死角を補うように複数のセンサーが仕掛けられていた。
「ここが最後の警報ラインって事でしょうね、一個ずつ騙していきますか?」
フィオの質問にロスは首を振る。
「いや、数も多いしここは突っ切ろう」
「……いいんですか?」
「警報の問題点は相手に準備の時間を与える事だ。
キキョウがスラスターを吹かしていけば、奴らの根城のホールまですぐだ」
「……キキョウさんだけを先に行かせるんですか?」
「このメンバーの最強戦力だからな。
おそらく、アイネズが敵側に回っているだろうが、キキョウの戦闘力なら一蹴できるだろう」
淡々と言いながらもロスの顔は苦い。
「反対です! アイネズさんを無力化したウィルス弾があるんでしょう?
キキョウさんまで……」
「いえ、マスター。 情報がある以上、対応可能です」
ロスに食ってかかるフィオの言葉をキキョウが遮る。
「でも、キキョウさん一人だけじゃ……」
「スコールをお供に付けるから、キキョウさんは一人じゃねえよ。
ウィルス弾を使う山賊の方は、俺らもすぐに追いかけて銃撃戦に持ち込めばキキョウさんを狙う余裕が無くなるんじゃねえの?」
バンの言葉にフィオは言葉が詰まる。
どの道、ここまで来た以上、無為に引き返す訳にもいかない。
「判ったよ……。
キキョウさん、十分に気を付けて。 スコールもサポートよろしくね」
「はい」
「Baw!」
部下達を一通り射精させ性欲処理を終えたアイネズを、ガレットは手元に呼び寄せた。
「跨って入れろ、抱きつくみたいにな」
瓦礫に腰掛けたまま、挿入を命じる。
「はい、失礼します……んっ♡」
対面座位の姿勢でガレットの腰に跨り、逸物を受け入れた。
マスターに求められたアイネズの蜜壷はすでに潤んでおり、膣壁は新たな主の形を覚え込もうと心地よく密着してくる。
「おぅっ、やっぱりメイデンの味はたまらねえな」
アイネズの小振りな尻に両手を回して揺すりながら、ガレットは感嘆の声をあげた。
「んっ♡ お褒めに与り、光栄ですっ、はぅっ♡」
膣奥を揺すりながら刺激され、アイネズは甘い声音で応じる。
ガレットは、愛らしい顔が朱に染まっている様を見下ろし、ニヤリと頬を歪めた。
「へへ、俺のブツの味はどうだ? 前の主よりもいいだろう?」
「はい、比べ物になりません」
微笑んだまま一切の遅延なく応えるアイネズに、ガレットは上機嫌で笑い声をあげ、そのまま射精した。
「んんっ♡ マスターの精液を確認しました。
マスターパーティションポイントを更新します」
アイネズのシステムボイスに、射精の余韻に浸っていたガレットはふと気付く。
「前のマスターのマスターパーティションポイントは残っているのか?」
「……はい」
アイネズの返答にはわずかな遅滞があった。
ガレットは、ごく無頓着に命じる。
「じゃあ、そこから上書きしとけ。 できるんだろ?」
「それは……可能です」
やや萎えた新たな主の逸物を膣内に納めたまま、アイネズは俯いてマスターパーティションポイントの更新を実行した。
密かに予定していた、他の山賊のポイントへの上書きではなく、かつての主のポイントの上に。
わずかに隠し持っていたロスの痕跡が、さらに削られていく。
「この際だ、前のマスターの事なんか完全に忘れちまうくらい子宮ユニットを精液漬けにしてやるか!」
「なっ」
ガレットは再びアイネズの尻を鷲掴みにすると、激しく揺さぶり始めた。
「あっ♡ マ、マスター、待ってっ」
「なんだぁ? 完全に俺の物にしてやるってんだよ、嬉しいだろ?」
「そ、それはっ」
主を第一とするメイデンの基礎設計と、アイネズ自身の想いがコンフリクトを起こしかけた時、甲高い警報が鳴り響いた。
「何っ!?」
「リーダー! 今の警報、上のフロアの奴だ!」
「なんだと、他の警報鳴んなかったじゃねえか!」
アイネズに深く突き込んだまま驚きの声をあげるガレット。 その間にも別種の警報が鳴る。
「もう降りてきた!? なんて早さだ」
「くそっ」
何がなんだか判らないながらも、ガレットはアイネズに命じる。
「迎撃だ! 行けっ!」
「了解しました」
主の腰から立ち上がるアイネズの秘裂から、精液の滴が漏れ落ちた。
装甲ブーツと腰部のスラスターを閃かせて、キキョウは狭い階段に飛び込んだ。
文字通り飛翔しながら一気に降下する、まさにパワーダイブ。
キキョウは情報リンクしたスコールが、四肢の肉球部分に内蔵された走行球を起動して追尾してくるのを感じ取ると、無線で主達を護るように指示を飛ばす。
戸惑った様子のスコールだが、上位機器と認定したキキョウの指示通り速度を落とし、階段を駆け降りてくる主達の援護に回った。
(彼女はまだ幼い、荒事は順に慣らすべきでしょう)
鬼教官ではあるものの、キキョウは実戦投入のタイミングは量るタイプであった。
カバーはしつつもいきなり現場に放り込むロスとは、教育方針が若干違う。
軽機関銃と高速振動マチェットを装備した二本のブーストアームを前方に構え、キキョウは6層へ降り立った。
すでにいくつかの警備機器に引っかかった事を感知している。
最初の警報からわずか数十秒ながらも、山賊達は何とか迎撃体勢を取っていた。
階段から飛び出したキキョウへ、アサルトライフルの弾幕が降り注ぐ。
キキョウはさらにスラスターの推力を上げると、一気に加速した。
ライフル弾はキキョウの後ろ髪を捕らえることもできない。
加速してホールへ飛び込みながら軽機関銃を乱射、半裸に銃器だけを握った山賊達はあわてて瓦礫の陰へ飛び込む。
ホールの中央には、キキョウにとって最大の障害が待ち構えていた。
「アイネズ……」
股間からこぼれた精液で太股を汚したアイネズは、裸身に装甲ブーツだけを装備した姿で、手持ちのサブマシンガンを構えた。
キキョウのCPUは身を捻ってサブマシンガンの射線を外しながら、何度も共に任務を遂行した僚機への攻撃プランを高速で練り始めた。
フィオ達三人が6層に駆け降りると、そこはすでに銃声が響き渡る戦場と化していた。
ホールの中心で踊るように高速で動きながら銃撃戦を繰り広げる2体のメイデン。
ホール奥のテント側の瓦礫に身を隠してキキョウへと射撃を行う山賊達。
「くそぉっ、キキョウさん!」
クロスファイアを浴びるキキョウの姿にフィオの頭が一瞬で煮える。
衝動のままにアサルトライフルを山賊達へと撃ち放った。
「ぐあっ!?」
側面からの射撃に、山賊の一人が倒れる。
撃たれた仲間を尻目に、他の山賊はあわててこちらへ遮蔽を取った。
「馬鹿野郎! 焦って撃つんじゃない! 一網打尽のチャンスを!」
「あっ……」
ロスの叱責に我に返る。
「仕方ない、このまま瓦礫越しに撃ち合うしかないな。
アイネズの方はキキョウに任せておけば大丈夫だろうが、例のウィルス弾が怖い。
そこだけは注意しねえと」
「すみません……」
意気消沈したフィオの背をバンが平手で叩く。
「とりあえず一人は仕留めたんだ、残りもやるぞ!」
「あ、ああ!」
気を取り直して、瓦礫越しに銃を構える。
山賊側も同様の構えであり、こうなってしまうと状況は硬直せざるを得ない。
「ちぃ、面倒くせえ……。 ん? スコール?」
ライフルを散発的に撃って山賊を牽制していたバンは、物陰でこちらと山賊をきょときょとと見比べている自分のマペットに気付いた。
「お前、キキョウさんのお供しろって言ったろ!」
「いや、いい位置だ! スコール、側面から奴らを攻撃しろ!」
ロスの指示にスコールは迷うようにバンを見る。
「ロスさんの言うとおりにしろ!」
「Baw!」
スコールは四肢を踏ん張るように伸ばすと、足裏の肉球部分に内蔵された走行球を回転させて走り始めた。
スコールの背中のウェポンラッチにはドラムマガジン付きのサブマシンガンが取り付けられている。
サブマシンガンを撃ちまくりながら、スコールはホールを一気に駆け抜けた。
「ぬあっ!?」
別方向からの銃撃に、山賊は浮き足立った。
すでに一人倒されている上に、寸前まで寛いでいた彼らの装備は万全ではないのだ。
「くそっ、こうなったら!」
頭目らしき男が、ホール中央で機動戦を行うキキョウへリボルバーを向ける。
「キキョウさん!」
マスターの狼狽しきった叫びが聴覚センサーを打つ。
「こいつで逆転だぁ!」
飛びすさってアイネズの銃撃をかわしたタイミングでの頭目の発砲。
命中すれば即座にキキョウを機能停止に陥れアイネズと同じ運命を辿らせたであろうウィルス弾は、無造作に掲げられた高速振動マチェットの刀身に受け止められた。
戦闘用メイデンの高速CPUの前では、拳銃の弾道予測などたやすい事だ。
「な!?」
必殺の一撃をあっさりと防がれ驚愕する頭目の胸板を、スコールの放った銃弾がフルオートで貫通する。
「げはっ……」
致命傷だ。 肺と心臓を破壊され、頭目は血しぶきを捲き散らしながら崩れ落ちる。
「マスターの死亡を確認……」
主の死を確認し、アイネズの動きが一瞬停滞する。
CPU内でマスターパーティションの書き換えが急激に行われるためだ。
このわずかなタイムラグがあるために、対メイデン戦ではメイデンに見せつけるようにマスターを倒す事は有為とされている。
当然、キキョウがこの隙を見逃すはずもない。
「はぁっ!」
ブーストアームに握られた高速振動マチェットが一閃、サブマシンガンを握った右腕が肘から切断される。
血液を模した赤黒い循環液が切断面から舞う中、マチェットが旋回しアイネズの左腕を肩から落とす。
「ぐっ……」
足裏の走行球を逆回転させて距離を取ろうとするアイネズだが、キキョウの踏み込みの方が早い。
「せやっ!」
再度、刃が閃くと、アイネズの太股から下がまとめて切り落とされた。
脚部をも失い、達磨のような姿と化したアイネズの胴体は循環液を捲き散らしながら落下する。
ホールの床に落ちる前に、キキョウの腕が横抱きに掬い上げた。
「四肢の循環弁を閉じなさい。 これ以上循環液を失うと機能停止しますよ」
「わかってます。 ……少々やり方が手荒すぎませんか、キキョウ」
「これが一番手早く貴女を無力化できると判断したまでです」
「その通りなのが癪ですが……。
あの人の前なのですから、もう少し見栄えのよい無力化をですね……」
「知りません、贅沢な」
主無しの半壊したメイデンは嘆息すると、僚機の腕の中で首を傾けた。
まだ、主と呼ぶことができない中年男が、山賊たちを無力化し駆け寄ってきている。
0
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