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信頼する人々に事情の説明をした後、フィオはフリスを伴い帰宅した。
本当なら、このまま情報収集にでも掛かりたい所だが、フリスが強硬に反対したのだ。
タウン69以来ろくに休んでいないフィオの精神は、疲弊しきっている。
下手に肉体の活力が溢れかえっているだけに動けてしまうのがいけない。
注意力散漫、思考力低下の状態では情報収集のような頭を使う仕事はできないという論理的な説得には、フィオも頷かざるを得なかった。
「……ただいま」
数日ぶりのアパートは、キキョウと共に出かけた時のままであった。
丁寧に畳まれたシャツの収まった簡易クローゼット。
パイプベッドのシーツもきっちりと整えられている。
キキョウの最後の痕跡にフィオは目を潤ませ、嗚咽を漏らしそうになる。
だが、続いて入室した新たなメイデンは、主とは真逆のテンションであった。
「ここがマスターと、わたしの部屋なんですね!
……愛の巣って、素敵な響き……!」
脳天気すぎる言動に感傷から引き戻され、フィオの涙は引っ込んだ。
代わりに苦笑混じりのため息が漏れる。
まあ、悪い子ではないのだ、色々と重たいけれど。
「とりあえず、シャワー浴びるか……」
「はい! お背中、お流しします!」
「いや、いいから」
打てば響くような反応で食いつくフリスに部屋の掃除を頼むと、ボロ布寸前の衣服を脱ぎ捨てシャワールームに入る。
「……キキョウさん」
一人になると、奪われた最愛の人の事が思い起こされる。
常に側に居た彼女の不在が、疲れ果てた心に寒風のように染み込む。
よく尽くしてくれるフリスが居ようとも、この寂しさが埋めれる事はない。
フリスは、キキョウではないのだ。
唇を噛みながらシャワーのノブを捻り、生ぬるい水流を頭から浴びる。
目尻に浮かんだ涙は水滴の中へ溶けていく。
乾いた血と砂塵でごわごわに固まった髪に指を差し入れて揉み解すと、かさぶた混じりの赤茶けた水が足下へと落ちていった。
手足を拭って砂埃を洗い落とせば、少年のつるりとした肌が現れる。
解放骨折の痕すらすでにない太股を見下ろし、フィオは改めて自分の体の変貌を自覚した。
「あんな大怪我が、痕も残らないなんてな……。
いっそ怖いくらいだ。
……どこまで耐えれるのか、調べる必要があるな」
圧倒的回復力を持った所で、不滅の生命体など有り得ない。
生き物である以上、限界は必ず有り、それを越えれば死ぬ。
真の漢となった自分は、他人よりもその限界が大幅に高くなっただけに過ぎないとフィオは考えていた。
その限界がどこにあるか判らない点が悩み所である。
「骨折も内臓の損傷も瞬く間に治った。
背骨もやられてたはずだから、神経も治癒するんだろう。
……頭をやられたらどうなるんだろう」
他人よりも無理が利く体なのは確かだが、どこまで無茶できるのかが不透明な以上、調子に乗るわけにもいかない。
「自分の頭を銃で撃ってみる訳にもいかないしなあ。
それで死んだりしたら、兄貴に会わせる顔がない」
脳へのダメージが回復しない可能性がある以上、超回復力を過信する気にはなれなかった。
「明らかに強力な力ではあるけど、あいつが持っていた力に比べると……」
唇を噛む。
キキョウを正面から打ち倒したヴァトーの能力は未だに不明だ。
少なくとも、フィオは今の自分が正面切ってキキョウと戦っても、勝ち目があるとは思えない。
「真の漢の能力にも当たり外れがあるのかな……」
命を拾えた以上、自分の能力を外れと思いたくはないが、単純な戦闘力という点で劣る事は否めない。
それに、フィオの能力にはデメリットもある。
シャワーの水流が伝い落ちる、少年の腹が大きな音を立てた。
腹の虫どころか、腹の怪獣とでも言うような音にフィオは情けない顔をする。
「燃費は間違いなく悪くなったなぁ。
ソイバーの買い置き、まだ有ったっけ」
フィオはうるさく鳴り始めた腹を撫でながら、シャワーを止めた。
「感度良好、うまく仕掛けれたみたいですね」
フィオのアパートに近い、放棄された雑居ビルの一室で青い髪をポニーテールに結ったメイデン、スゥは自分の仕事の首尾を確認していた。
メイデンにインカムの類は必要ない。
彼女は仕掛けた諜報機器からの情報をリンク通信でダイレクトに受け取ることができる。
満足げに頷くと、さらりとポニーテールの尻尾が揺れた。
スゥはフィオが帰宅しない間にアパートに忍び込み、監視装置を仕掛けていた。
高いスカウトスキルを保有する彼女にとって、ろくなセキュリティもない低ランク砂潜りのねぐらに痕跡も残さずに潜入することなど、造作もない話である。
盗聴器と小型カメラを天井裏に設置。
これらの機器はあえて有線タイプであり、機器から屋外まで延びたケーブルがアパート外に設置された増幅器を介して、スクランブルリンク通信でデータ送信するのだ。
室内に不審な電波を発する機器が有れば、フィオの連れたメイデンにあっさり気づかれてしまうだろう。
一旦屋外に出してしまえば、その危険性は大幅に減少する。
タウン内を飛び交う電波は各種通信波に公共放送から私営のラジオ局まで幅広く、いちいちそんなものに警戒などしていられないのだ。
そこまで配慮したスゥによる、丁寧な仕掛けであった。
本職の戦闘メイデンにも劣らない大型ジェネレーターと、Sフレームながら積載重視の下半身が織りなすグラマラスなシルエットからは想像しにくい、細やかな怪盗ぶりである。
「さて、監視をしつつマスターを待つとしましょうか」
スゥは埃まみれの床に都市迷彩柄のビニールシートを広げると、横座りに腰を下ろして長期戦の構えを取った。
老朽化して取り壊しを待つばかりとなった廃ビルには不法滞在の先住者が数人居たが、スゥはいくらかの硬貨を支払い退去させていた。
渋る者には、にっこり微笑んでボディスーツに刻まれたアーミーの記章を見せる。
流石にアーミー所属のメイデンに食って掛かるほど無謀な者は居らず、ホームレスの皆さんは硬貨を貰って次の寝床を探しに行ったのであった。
戦闘だけでなく、こういった交渉事も卒なくこなせ、高いスカウト能力も合わせ持つスゥは、アーミーの兵士の相棒として申し分のないメイデンであった。
スゥは瞳を閉じ、スクランブルリンク通信で受信する情報に集中する。
彼女のCPU内に室内の映像と音声が投影された。
「……鼻歌、でしょうか? フリスさん、ご機嫌ですね」
タウン内の警備カメラからの映像でフィオと共に帰宅するフリスの姿を確認したスゥは、彼女に対して若干の親近感を抱いていた。
タウン48産ではないフリスの鮮やかなエメラルドグリーンの髪は珍しく、ひどく人目を引きつける。
同じく人目を引く青い髪を持ち、他タウン製パーツをメインに構成されたスゥは、自分のデザインに通じる物を感じているのだ。
ちなみにこの二人、低身長グラマラスボディという設計思想も似ている。
試験機であったフリスと同様、スゥもまた一種の実験機めいた側面を持つ機体であった。
「♪~」
盗聴器越しに聞こえるご機嫌な鼻歌と、物音。
設置されたカメラは角度の問題で部屋の全てをカバーはできないが、主に命じられた片づけをしているようだ。
「ああっ、旦那様のためにお片づけなんて、わたし、すごく新妻って感じ!」
興奮した呟きに、スゥも思わず微笑む。
主の元に嫁いですぐの頃の興奮と空回りを思いだし、親近感が増す。
「でも、あまり片づける所もないですね……。
前任者がよく働いていたという事ですか」
つまらなそうな声。
マザーから直接の情報はなかったものの、ランク5砂潜りフィオの本来のパートナーはキキョウというメイデンであったという情報は、警邏部とオフィスカウンターに問い合わせて入手している。
そこから、フリスの立場を想像する事はたやすい。
「……貴女も二代目のメイデンなんですか」
スゥはヒュリオの最初の相棒ではない。
任務中、ヒュリオを庇って大破しながらも瀕死の主を友軍の元まで運びきり、力尽きて機能停止した先代機。
スゥの中には、その先代メイデンの部品も組み込まれている。
ヒュリオが自分へ向ける眼差しの中に、時折自分以外を見ている気配を感じるのは、スゥにとって寂しい事であった。
フリスもまた、自分と同じ寂しさを感じているのだろう。
監視対象でありながら、スゥの中のフリスへの親近感は決定的なものになった。
「監視だけでなく護衛もですし、いいですよね、ターゲットに好感を抱いても……」
カメラ越しにフリスへ暖かな視線を注ぐ。
ちょっといい話なようにも見えるが、実際は盗撮者に一方的に好意を寄せられているという、ろくでもない状況であった。
盗撮者に一挙手一投足を微笑ましく見守られているなどとは露ほども思っていないフリスは、片づけの終了した部屋を見回した。
一点に視線を定めると、いそいそと歩み寄る。
パイプベッドから枕を抱き上げた。
しげしげと見下ろした後、おもむろに顔を埋める。
「んんんっ♡ マスターの匂いっ!」
嗅覚センサーを全開にして主の残り香を堪能し始めたフリスに、スゥは何ともいえない苦笑を漏らした。
「ま、まぁ、マスターの匂いですから、仕方ないですよね、うん……」
自分に似ていると思ったフリスだが、スゥはあれほど率直なアクションは起こせない。
主へ捧げる愛情では負ける気がなくとも、引っ込み思案気質のスゥならば、枕を手に取り逡巡した挙げ句にそっと元通りに戻した所だろう。
はしたないという端的な感想は、流石にフリスへ失礼であろうとそっと疑似精神の棚に仕舞い込むスゥであった。
スゥの余り意味のない配慮を余所に、映像の中のフリスは鼻息を荒くしながらベッドにダイブした。
警戒する猫のように高々と尻を上げる姿勢でベッドに突っ伏し、お尻をふりふりと振りながら両手に抱えた獲物の臭いを全力で嗅いでいる。
「……流石にちょっと……」
スゥは疑似精神の棚に仕舞い込んだ感想を早々に取り出さねばならないかと悩んだ。
その時、シャワールームの扉が開き腰にタオルを巻いた湯上がりの少年が姿を現した。
「あ」
緑の髪のメイデンがベッドの上で硬直する様子に、スゥはカメラ越しに額を押さえた。
本当なら、このまま情報収集にでも掛かりたい所だが、フリスが強硬に反対したのだ。
タウン69以来ろくに休んでいないフィオの精神は、疲弊しきっている。
下手に肉体の活力が溢れかえっているだけに動けてしまうのがいけない。
注意力散漫、思考力低下の状態では情報収集のような頭を使う仕事はできないという論理的な説得には、フィオも頷かざるを得なかった。
「……ただいま」
数日ぶりのアパートは、キキョウと共に出かけた時のままであった。
丁寧に畳まれたシャツの収まった簡易クローゼット。
パイプベッドのシーツもきっちりと整えられている。
キキョウの最後の痕跡にフィオは目を潤ませ、嗚咽を漏らしそうになる。
だが、続いて入室した新たなメイデンは、主とは真逆のテンションであった。
「ここがマスターと、わたしの部屋なんですね!
……愛の巣って、素敵な響き……!」
脳天気すぎる言動に感傷から引き戻され、フィオの涙は引っ込んだ。
代わりに苦笑混じりのため息が漏れる。
まあ、悪い子ではないのだ、色々と重たいけれど。
「とりあえず、シャワー浴びるか……」
「はい! お背中、お流しします!」
「いや、いいから」
打てば響くような反応で食いつくフリスに部屋の掃除を頼むと、ボロ布寸前の衣服を脱ぎ捨てシャワールームに入る。
「……キキョウさん」
一人になると、奪われた最愛の人の事が思い起こされる。
常に側に居た彼女の不在が、疲れ果てた心に寒風のように染み込む。
よく尽くしてくれるフリスが居ようとも、この寂しさが埋めれる事はない。
フリスは、キキョウではないのだ。
唇を噛みながらシャワーのノブを捻り、生ぬるい水流を頭から浴びる。
目尻に浮かんだ涙は水滴の中へ溶けていく。
乾いた血と砂塵でごわごわに固まった髪に指を差し入れて揉み解すと、かさぶた混じりの赤茶けた水が足下へと落ちていった。
手足を拭って砂埃を洗い落とせば、少年のつるりとした肌が現れる。
解放骨折の痕すらすでにない太股を見下ろし、フィオは改めて自分の体の変貌を自覚した。
「あんな大怪我が、痕も残らないなんてな……。
いっそ怖いくらいだ。
……どこまで耐えれるのか、調べる必要があるな」
圧倒的回復力を持った所で、不滅の生命体など有り得ない。
生き物である以上、限界は必ず有り、それを越えれば死ぬ。
真の漢となった自分は、他人よりもその限界が大幅に高くなっただけに過ぎないとフィオは考えていた。
その限界がどこにあるか判らない点が悩み所である。
「骨折も内臓の損傷も瞬く間に治った。
背骨もやられてたはずだから、神経も治癒するんだろう。
……頭をやられたらどうなるんだろう」
他人よりも無理が利く体なのは確かだが、どこまで無茶できるのかが不透明な以上、調子に乗るわけにもいかない。
「自分の頭を銃で撃ってみる訳にもいかないしなあ。
それで死んだりしたら、兄貴に会わせる顔がない」
脳へのダメージが回復しない可能性がある以上、超回復力を過信する気にはなれなかった。
「明らかに強力な力ではあるけど、あいつが持っていた力に比べると……」
唇を噛む。
キキョウを正面から打ち倒したヴァトーの能力は未だに不明だ。
少なくとも、フィオは今の自分が正面切ってキキョウと戦っても、勝ち目があるとは思えない。
「真の漢の能力にも当たり外れがあるのかな……」
命を拾えた以上、自分の能力を外れと思いたくはないが、単純な戦闘力という点で劣る事は否めない。
それに、フィオの能力にはデメリットもある。
シャワーの水流が伝い落ちる、少年の腹が大きな音を立てた。
腹の虫どころか、腹の怪獣とでも言うような音にフィオは情けない顔をする。
「燃費は間違いなく悪くなったなぁ。
ソイバーの買い置き、まだ有ったっけ」
フィオはうるさく鳴り始めた腹を撫でながら、シャワーを止めた。
「感度良好、うまく仕掛けれたみたいですね」
フィオのアパートに近い、放棄された雑居ビルの一室で青い髪をポニーテールに結ったメイデン、スゥは自分の仕事の首尾を確認していた。
メイデンにインカムの類は必要ない。
彼女は仕掛けた諜報機器からの情報をリンク通信でダイレクトに受け取ることができる。
満足げに頷くと、さらりとポニーテールの尻尾が揺れた。
スゥはフィオが帰宅しない間にアパートに忍び込み、監視装置を仕掛けていた。
高いスカウトスキルを保有する彼女にとって、ろくなセキュリティもない低ランク砂潜りのねぐらに痕跡も残さずに潜入することなど、造作もない話である。
盗聴器と小型カメラを天井裏に設置。
これらの機器はあえて有線タイプであり、機器から屋外まで延びたケーブルがアパート外に設置された増幅器を介して、スクランブルリンク通信でデータ送信するのだ。
室内に不審な電波を発する機器が有れば、フィオの連れたメイデンにあっさり気づかれてしまうだろう。
一旦屋外に出してしまえば、その危険性は大幅に減少する。
タウン内を飛び交う電波は各種通信波に公共放送から私営のラジオ局まで幅広く、いちいちそんなものに警戒などしていられないのだ。
そこまで配慮したスゥによる、丁寧な仕掛けであった。
本職の戦闘メイデンにも劣らない大型ジェネレーターと、Sフレームながら積載重視の下半身が織りなすグラマラスなシルエットからは想像しにくい、細やかな怪盗ぶりである。
「さて、監視をしつつマスターを待つとしましょうか」
スゥは埃まみれの床に都市迷彩柄のビニールシートを広げると、横座りに腰を下ろして長期戦の構えを取った。
老朽化して取り壊しを待つばかりとなった廃ビルには不法滞在の先住者が数人居たが、スゥはいくらかの硬貨を支払い退去させていた。
渋る者には、にっこり微笑んでボディスーツに刻まれたアーミーの記章を見せる。
流石にアーミー所属のメイデンに食って掛かるほど無謀な者は居らず、ホームレスの皆さんは硬貨を貰って次の寝床を探しに行ったのであった。
戦闘だけでなく、こういった交渉事も卒なくこなせ、高いスカウト能力も合わせ持つスゥは、アーミーの兵士の相棒として申し分のないメイデンであった。
スゥは瞳を閉じ、スクランブルリンク通信で受信する情報に集中する。
彼女のCPU内に室内の映像と音声が投影された。
「……鼻歌、でしょうか? フリスさん、ご機嫌ですね」
タウン内の警備カメラからの映像でフィオと共に帰宅するフリスの姿を確認したスゥは、彼女に対して若干の親近感を抱いていた。
タウン48産ではないフリスの鮮やかなエメラルドグリーンの髪は珍しく、ひどく人目を引きつける。
同じく人目を引く青い髪を持ち、他タウン製パーツをメインに構成されたスゥは、自分のデザインに通じる物を感じているのだ。
ちなみにこの二人、低身長グラマラスボディという設計思想も似ている。
試験機であったフリスと同様、スゥもまた一種の実験機めいた側面を持つ機体であった。
「♪~」
盗聴器越しに聞こえるご機嫌な鼻歌と、物音。
設置されたカメラは角度の問題で部屋の全てをカバーはできないが、主に命じられた片づけをしているようだ。
「ああっ、旦那様のためにお片づけなんて、わたし、すごく新妻って感じ!」
興奮した呟きに、スゥも思わず微笑む。
主の元に嫁いですぐの頃の興奮と空回りを思いだし、親近感が増す。
「でも、あまり片づける所もないですね……。
前任者がよく働いていたという事ですか」
つまらなそうな声。
マザーから直接の情報はなかったものの、ランク5砂潜りフィオの本来のパートナーはキキョウというメイデンであったという情報は、警邏部とオフィスカウンターに問い合わせて入手している。
そこから、フリスの立場を想像する事はたやすい。
「……貴女も二代目のメイデンなんですか」
スゥはヒュリオの最初の相棒ではない。
任務中、ヒュリオを庇って大破しながらも瀕死の主を友軍の元まで運びきり、力尽きて機能停止した先代機。
スゥの中には、その先代メイデンの部品も組み込まれている。
ヒュリオが自分へ向ける眼差しの中に、時折自分以外を見ている気配を感じるのは、スゥにとって寂しい事であった。
フリスもまた、自分と同じ寂しさを感じているのだろう。
監視対象でありながら、スゥの中のフリスへの親近感は決定的なものになった。
「監視だけでなく護衛もですし、いいですよね、ターゲットに好感を抱いても……」
カメラ越しにフリスへ暖かな視線を注ぐ。
ちょっといい話なようにも見えるが、実際は盗撮者に一方的に好意を寄せられているという、ろくでもない状況であった。
盗撮者に一挙手一投足を微笑ましく見守られているなどとは露ほども思っていないフリスは、片づけの終了した部屋を見回した。
一点に視線を定めると、いそいそと歩み寄る。
パイプベッドから枕を抱き上げた。
しげしげと見下ろした後、おもむろに顔を埋める。
「んんんっ♡ マスターの匂いっ!」
嗅覚センサーを全開にして主の残り香を堪能し始めたフリスに、スゥは何ともいえない苦笑を漏らした。
「ま、まぁ、マスターの匂いですから、仕方ないですよね、うん……」
自分に似ていると思ったフリスだが、スゥはあれほど率直なアクションは起こせない。
主へ捧げる愛情では負ける気がなくとも、引っ込み思案気質のスゥならば、枕を手に取り逡巡した挙げ句にそっと元通りに戻した所だろう。
はしたないという端的な感想は、流石にフリスへ失礼であろうとそっと疑似精神の棚に仕舞い込むスゥであった。
スゥの余り意味のない配慮を余所に、映像の中のフリスは鼻息を荒くしながらベッドにダイブした。
警戒する猫のように高々と尻を上げる姿勢でベッドに突っ伏し、お尻をふりふりと振りながら両手に抱えた獲物の臭いを全力で嗅いでいる。
「……流石にちょっと……」
スゥは疑似精神の棚に仕舞い込んだ感想を早々に取り出さねばならないかと悩んだ。
その時、シャワールームの扉が開き腰にタオルを巻いた湯上がりの少年が姿を現した。
「あ」
緑の髪のメイデンがベッドの上で硬直する様子に、スゥはカメラ越しに額を押さえた。
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